楽園異能力者

那月いくら

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3章 実技授業

16話

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 『おい…もう少し自分を信じた方がいいぞ…でないとこの先痛い目見るぞ……。』琉乃愛の頭をかすめていたのは、彼の言葉だった。
 私は、気になり、樺音に聞いてみる。
 「ね…樺音、この前戦った、久我咲君のこと教えてくれない?」
 「うん…いいけど………、あんまり、いい人、だとは言えないよ?」
 「彼の名前は、久我咲龍桜くがさきりお。中等部唯一のランク2Sで、セイスティアだ。空間を自由自在に操る"空間スペース"のステラ。実力もあり、ステラが強すぎることから、攻撃サークルに所属。彼の性格からみるに、あまりいい噂は、聞いたことがないよ。」樺音が人の悪いところを話すのは、初めてだった。
 「へー………久我咲…龍桜ね。ありがと!樺音!」私は、Patを開き、彼の事をもう少し調べた。
 「ーー!!」私は、驚きの真実に動揺して、Patを手から滑り落としてしまった。
 彼の性格があんなになった理由も、全て記載されていたからだ。

 彼は、4歳にして、ステラで町全体を異空間に消し去った。当時は、意図的に行ったものだろうと思われていたが、彼の年齢を考えると、ステラのコントロール不能で起きた事件として片付けられたらしい。そのこともあって、彼は長いことステラに苦しめられていた。だから、誰にでも、心を開かない性格になってしまったのだ。
 
 この話は、彼のほんの一部に過ぎなかった。

 そうとは、知らない琉乃愛だったが、龍桜の気持ちには、少し、共感出来た。



     ※        ※           ※

 「琉乃愛ー今日、実技試験あるよー」私に泣きついてきたのは、蘭と迅だった。2人いるせいか、声が騒ぎ並にうるさいのだ。
 「ちょっと待って、実技試験って何?」2人は、キョトンとした顔をしていた。
 「ほら、先生がこの前言ってたじゃん。実技試験ってのは、実技授業で行ったことを活かすテストのことだよ。要するに、先生の用意した問題に合格するだけだって。毎月行われるらしいよ。」私は、と聞いた途端、不安を感じていた。琉乃愛は、今でも、ステラのコントロールを練習しているが、コントロールに成功した日は、数えきれるほどしかない。ましてや、先生の用意する問題に合格するなど到底できないと思う。
 「私、1人で練習してくる!」琉乃愛は、鞄を手に更衣室に向かった。動きやすい服装になるためだ。確か鞄には、訓練服と別に、もう1つ、学園仕様の体操服があったと思う。
 私は、体操服を着てみた。
 理事長の用意してくれていた体操服は、サイズがぴったりだった。

 琉乃愛は、更衣を済ませると、すぐさま、部屋を出た。体育館には、誰もいなくて、ステラ練習ロボットだけ置いてあった。
 ステラ練習ロボットとは、自分の実力に乗じて対戦をしてくれるロボット。自己修復がついているから壊れることはない。いわば、サンドバッグのような物だ。

 私は、早速、ステラをロボットにぶつけてみるが、どれも、人が殴ったような痕跡しか残らない。次に、ロボットの腕の関節目掛けて、ステラを使ってみた。すると、あの時と違って、ロボットの腕がとれた。少し上手くいって舞い上がりながら、次の攻撃を仕掛けた。

 その時だった。

 「え?ステラがでない……」私は、驚き、周りを見渡していると、体育館の入口に、龍桜がたっていたのだ。
 「俺と少し、対戦してみないか?」彼の顔は、ずっと真顔の状態だった。
 「いいよ……練習がてらやってあげる。」少し、上から目線だったが、彼は、気にしていないようだ。


 「本気でかかってきてよ……!」私は、自分の最大限を出し切ろうとしていた。今日が、試験なのに。そこまで考える余裕すらなかったからだ。

 彼は、私のステラを軽々と異空間に消し去り、空間を行ったり来たりして、攻撃してきた。攻撃の方法を見ていたが、彼は、ありえないことまで可能にしている。 空間の裂け目を利用し、カッターナイフのように扱っていたのだ。私は、その攻撃をステラで圧縮するので精一杯だったためか、背中に蹴りを入れられる隙を与えてしまった。
 「かはっ……!」 強い衝撃で、一瞬気を失いかけて、体がよろめいたが、何故か、彼が受け止めてくれた。

 「勝負………ありだな………。聞いたぜ、お前がここに来た理由。あのまま、子供を助けになんか行かなければ、ここに来ることにだってならなかったのにな…。まぁ、俺みたいにならないといいけど…。」彼は、それだけ言い残して、体育館を出ていった。同時に、私も、気を失ってしまったのだ。
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