楽園異能力者

那月いくら

文字の大きさ
上 下
11 / 28
2章 能力者だけの街

10話

しおりを挟む
「あなたが、新入生の鹿島琉乃愛さんかしら?」
「…は、はい!」唐突に話しかけられて、声を上手く出せていなかった。
 「そう…。私は、高等部3年、紫紀宮雫しきみやしずく。このサークルの部長をしているわ。よろしく。」彼女は、無関心な顔をして言っていたけど、どこか、クールに見えるところがあった。

 「琉、琉乃愛、今の人知ってるか?」樺音は、彼女と話していた私を見ておどおどしていたのだ。
 「知らないけど。」名前は、いまさっき聞いたから、分かる。でも、樺音がびびっているということは、何かあるに違いない。
 「か、彼女…紫紀宮さんは、この学園のセイスティアなんだ。」
 「セイスティア?」そういえば、理事長もセイ…何とかには、目をつけられるなと言っていたような。
 「セイスティアは、いわゆる、生徒会なんだ。でも、普通の生徒会とは、違って、規律に少しでも従わない者を断罪する集まりなんだ。しかも、セイスティアに入っている人は、全員、ランクが2S以上。だから、皆、彼女らを避けたり、逆に媚びを売ったりするんだよ。」これじゃあ、樺音達がびびるのも無理もない。
 
 樺音らの話によると、この学園には、生徒が学園を統治する生徒会長が居る。その生徒会長になるには、ランクが3Sでないとなれないらしい。もちろん、生徒会長が存在するなら、生徒会も存在する。でも、この学園では、生徒会ではなく、生徒会セイスティアと呼ばれている。セイスティアになるにしても、ランクが2S以上ないとなれない。なので、学園を統治しているのは、全員で、10人となる。

 「ふーん。セイスティア…ね。あんまり関わりたくないな。」琉乃愛は、目をつけられるタイプではなさそうだが、めんどくさいことには、関わりたくないタイプなのだ。

  
ー 帰宅後 ー

 「おねーちゃんたち、おかえり」狩魔が学園から帰ってきた私達を出迎えてくれたのだ。私は、ふと思ったことを樺音に言ってしまった。
 「そういえばこの子ってどんなステラを持ってるの?」
 「狩魔は、幻覚を作り出すことが出来る"幻覚イリュージョン"のステラだよ。」樺音が言い終わると同時に、私の周りをぐるぐる回るユニコーンが現れたのだ。私は、驚いていたが、すぐに誰の仕業かわかったのだ。
 「狩魔くん、ユニコーンありがとね。私、ユニコーン大好きだから、嬉しいよ。」琉乃愛は、狩魔の頭を撫でた。狩魔も琉乃愛の言葉が嬉しかったのか、最大限の笑顔を私に見せてくれた。

  20 : 30
 夕食を済ませた私は、いつも通り、部屋で服を用意し、寮の大浴場に向かう。
 寮の大浴場は、楽園の外の銭湯と比べ物にならないくらい広いのだ。他にも、毎日、温泉の種類が変わったりする。
 琉乃愛は、それを楽しみに、鼻歌を歌いながら行くと、ちょうど、奏音と鉢合わせしたのだ。
 「琉乃愛、一緒に入るか?」琉乃愛は、コクリと頷いた。
 彼女らは、お互い話すことがなく気まずい状況だった。
 「お前って、歌上手いんだな…」奏音は、気まずさを無くすために、自分から話しかけた。
 「ありがとうございます…。」琉乃愛は、締めくくるような言葉を返したので、また、彼女らは、沈黙が続いたのだ。

 「ねーちゃん、それじゃあ、ダメだよ。」2人は、突然声が入ったので、びっくりし、声の方を向くと、うすピンク色の髪をくくりあげた女の子が入ってきた。
 「だ、誰…?それに、今、ねーちゃんって…」琉乃愛は、混乱していたが、奏音は、ため息をついていた。
 「えっと、私の妹の…南零音みなみれのんだ。てか、零音、もうお風呂入ったんじゃなかったの?」
 「私、お風呂入ったなんて一言も言ってないけど」奏音は、零音の言動全てに呆れていた。
  「改めて、自己紹介しまーす。私は、中等部3年、南奏音の妹、零音です。ランクは、D、ねーちゃんとおなじ、1度見たものは忘れることが出来ない"瞬間記憶メモリー"のステラです。」

「そうだ、さっきのダメって何がダメなんですか?」琉乃愛は、気になって2人の間に割って入った。
 「ねーちゃんが、話切り出しても、話続かなかったのよね?」琉乃愛は、言われたことが当たっていて、思わず、奏音の前で頷いてしまったのだ。奏音は、琉乃愛の返事に傷ついて少し、よろめいたが、すぐに正気に戻った。
 「ねーちゃんがこの子と仲良くなりたいなら、まず、相手の事を知る必要がある。かと言って、密着するのはダメ。だから、相手に質問をするんだよ。相手を知るために。そうしたら、いつの間にか仲良くなるから。」奏音は、子犬のような感じで、零音の言うことを黙って聞いていた。
 (こんなに必死になって仲良くしてくれようとしてくれるんだから、私も努力しないと)琉乃愛は、今日から、奏音と仲良くなる努力をしようと、心に決める。

 
「先輩方、お先失礼します。」私は、2人にお辞儀をして、大浴場を出たのだった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Xa 〜イクサ〜

霜月麗華
ファンタジー
 この茨城の土地には、超能力者なる者が住む大きな街がある。その街では毎日事件が起きていた。強盗に、殺人、テロレベルの事件。犯罪超能力者を抑えるには、超能力者同士でぶつけ合うしかない。

幻贖のランプ 〜抗進する者たち〜

@panope
ファンタジー
共生する動物と共に生きるために体に宿る力。 同族はそれを"幻贖の力"と呼ぶ。 そんな力を持ちながらも、異能を宿さない者たちから身を隠し、生きてきた者たちがいた。 彼らは少数の仲間と共に、ひっそりと時を刻んできた。 幼い頃に両親を失った18歳の少女、パニー。 ある日、彼女は異能を持たない者たちが暮らす外の世界へ踏み出すことを決意する。 亡くなったとされる両親の生存を信じ、大好きな故郷の発展を願う。 ただひたむきに"幸せ"を追い求める彼女。 そんな、パニーの”幸せの叶え方”とは――。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...