最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

北の大国~王子の心~

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「ライアン様、決闘ってどういうことですか?」



私は慌ててライアンの客室を訪ねた。



「先ほどルーク殿に申し込みました。俺が勝ったら旅に同行させて頂きます」

「どうして、そこまでして? 妖精の森でどんな危険があるか分からないのですよ。貴方はフローレンス王国にとって大切な、かけがえのない存在です。決闘を取りやめてください」



するとライアンは私を壁際に追い詰め、強い力で私の横の壁を殴りつけた。碧眼が私の視線を捉えて離さない。



「貴方はいつもそうだ。俺のことを大切だと言いながら、俺のことを遠ざける。貴方が二年前のあのパーティーで身を挺して守ってくれなければ俺は父上を殺した罪で死んでいたでしょう。俺は一度でも魔法によってでも貴方を裏切った自分が許せなかった。でも俺は貴方が思うような清廉潔白な人間じゃない。機会があれば人の弱みにも平気でつけこむし、相手を試す言葉を使い、笑顔を装いながらも内心辛辣な言葉を吐く。人間を自分の役に立つか立たないかで分別して生きてきた。その中で唯一、ただ一人真実手に入れたいと思ったのは貴方だけだ。王国にとって俺という人間が必要なら、俺にとって貴方は命よりも大切な人だ」



ライアンは激しい口調で言葉を吐きだし続けた。

何年も言葉を封じられていたようにとめどなく、その言葉は傷口から流れる血のように痛々しかった。



「……知っていましたよ。ライアン様が時々冷たい視線を他人に送ることを。私にとって不都合な人間がいるといつの間にか消えてしまうし、あれはライアン様の差し金でしょう? それに私にはライアン様の笑顔が嘘か本当かくらい区別がつきます。王族という立場であれば清濁併せ吞むこともあるでしょう。毒を吐かずにどうしていられましょう?」



ライアンは力が抜けたように私の額に額を合わせた。

ライアンの額は燃えるように熱い。



「心配なのです。貴方が消えてしまいそうで……お願いです。俺も連れて行ってください」

「私の心は決まっています」



私はそっとライアンの頬を両手で包んだ。

滑らかな頬にも熱がこもっている。



「出発は明日です。眠り病の蔓延を一刻も早く食い止めなければ。それでは良い夜を」

「……良い夜を」



私は後ろ手でドアを閉めた。

あと少し長くこの部屋にいたら、ライアンに縋りついて泣いてしまっただろう。

私は目元をこすって自室へと向かった。
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