最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
上 下
143 / 198
大陸放浪編

旅の道程~馬鹿騒ぎ~

しおりを挟む
 それから更に二か月陸路での旅は続いた。

宿を取れるときは宿に泊まり、無いときは適当なところで野宿をした。

ルークはあれ以来、軸に関して何も言わなかったし、私も聞かなかった。

そんなほんの少し含みを持たせた関係のまま、三か国目となる国に入国した。

馬を引きながら入ると、国はお祭り騒ぎだった。



「あー。そうだ、ハーベスト祭の季節じゃねぇか。この時期にこの国に寄るんじゃなかった」

「そういえば、ハーベスト祭の時期ですね。でも、なんでこの国はだめなんですか?」



それはなぁとルークが言おうとした時、目の前をパレードがやって来た。



「わぁ、すごいです。この国の民族衣装ですかね? レースのエプロンに、あのボンボンの付いた帽子可愛いですね!楽器持って演奏してる!」

「これだよ……本当に能天気だよな、あんた」



ルークがため息をついていると、横から恰幅の良い男性が出てきた。



「いよぅ! 旅人さんかい?まだ、宿が決まってないならうちに泊まりな! 急がないとあっという間に満室になっちまうよ!荷物早く置いて祭りに参加しなきゃ勿体無いぜ」

「ですって、ルークさん。行きましょう」

「あいよ」



二人で宿を取ろうとすると、かなりの値段を要求された。

ルークはこれに猛然と抗議し、値段交渉が始まった。

私はフローレンス語でルークを宥めた。



「ルークさん、まだ路銀あるわけですし。お祭りの時って値段が上がるものでしょう?」

「黙っててくれ、これはおれの主義の問題なんだ!」



白熱した言い争いに飽きた私は街に出かけた。

パレードを眺めていると、ほくほく顔のルークがかつらを被って近づいて来た。



「いやー、なんとか正規価格の二割増しで手を打って来たぜ」

「最初は二倍だったのをそこまで引き下げたんですね……」

「なんだ、不満か? あんたが好きだと思ってこいつを貰ってきたのに」



ルークはポケットから二枚の板を取り出した。



「これは?」

「この国の収穫祭ではエールを飲む。飲んで飲んで飲みまくる。これはそのフリーパスだ。こうなったら仕方ねぇ、痛飲してやろうぜ」



ルークは意気揚々と私の手を取り、歩き出した。

ルークに連れられてきたのは教会前の広場だった。

だがその広場にはテントが建てられ、テーブルとイスに埋め尽くされていた。

ルークは屋台からソーセージと細長い生地を捻じった形の焼き菓子、鳥の丸焼きを調達してきた。

エールが並々と注がれたグラスを持ち、私とルークは乾杯した。



「美味しい! なにこれ!?」

「そうだよな。あんたなら喜ぶと思った」

「ありがとうございます、ルークさん。最初は無神経で金にがめついぐうたら騎士だと思ってたけど、こんな素敵なことができるんですね!」

「あんた……随分前から思ってたけど、性格明らかに変わったな。救国の聖女だなんて名前返上した方が良いんじゃないか?」

「私から救国の聖女だなんて恥ずかしい名前名乗ったことないです。青嵐の騎士だって大概だと思いますけど」

「おれだって『青嵐の騎士です』なんて言った事は一度だってない!周りの奴が良いこと思いついたぁみたいな感じでいつの間にか定着してたんだ。どこの国にも国籍がないのに、何が騎士だって言うんだ」



そう言いあうと私たちはどちらからかわからず、笑い出した。



「ルークさんはずっと旅をしてるんですよね?それはどうしてですか?」

「しがらみが出来るとめんどくさいから。誰かに命令されるのが嫌いでね。どんな偉いヤツにも指図されたくない」

「その割には人助けばっかりしてるじゃないですか」

「目の前で困ってるやつがいたらとりあえず助けるだろ。財布拾ってやるのと変わらねぇよ」

「海賊制圧したり、嵐を消すのはちょっとスケールが違うような……」

「海賊の時にはあんたも随分大暴れしてたじゃねぇか。かなりの手練れだったぜ」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてない。むしろ貶してる。女としてどうなんだ?」

「女でも戦わなければならない時があるんです。ルークさんみたいに古い考えをお持ちの方にはわからないと思いますけど」

「本当にあんたみたいな女見たことねぇ。下着姿で海に飛び込んだ時は驚いた」

「どうせ女として見られてないなら、したいようにしようかと思って」

「女として見て欲しかった?」

「最初に会った紳士的な青嵐の騎士様だったら考えたかもしれませんね……でも、今のルークさんの方が落ち着きます」

「こんないい男を前にときめいたりしないのか?」

「あはは、ルークさんって本当に自己評価高いですよね。それとも笑わせようとしています?」

「おれの自信をここまで崩したのはあんたが初めてだよ」



私たちは馬鹿話をしながらそのまま夜まで飲み続けた。

ルークが崩れ落ちたところで場はお開きとなった。

私はルークを抱えて、ごった返す街の中を歩いて宿まで帰った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ
ファンタジー
 中年男の真田蓮司と自称一万年に一人の美少女スーパーアイドル、リィーナはVRMMORPGで遊んでいると突然のブラックアウトに見舞われる。  蓮司の視界が戻り薄暗い闇の中で自分の体が水面に浮いているような状況。水面から天に向かい真っ直ぐに登る無数の光球の輝きに目を奪われ、また、揺籠に揺られているような心地良さを感じていると目の前に選択肢が現れる。 [未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか? ちなみに今なら豪華特典プレゼント!]  と、文字が並び、下にはYES/NOの選択肢があった。  ゲームの新しいイベントと思い迷わずYESを選択した蓮司。  ちよっとお人好しの中年男とウザかわいい少女が織りなす異世界スローライフ?が今、幕を上げる‼︎    

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...