最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

水面の都~聖杯~

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 大使館の人たちに助けてもらって、眠ったルークを連れてサン・クリスチーヌ教会へとやって来た。

正午十二時ピッタリに自治長が時計台の鐘の鳴る中、聖杯を持ってやってきた。

シスターも同伴している。

聖杯は水晶で出来てるとは思えないほど、グラスは透き通り繊細な彫刻が施されていた。

グラスと持ち手、底の縁を金細工があしらわれている。



「さあ、用意しましたよ。貴女の用意は出来ていますか?」

「はい、魔法陣は書き終わりました。あとは召喚するだけです。皆さん、下がっていてください」



私は思いっきり手のひらにナイフで切りつけた。僅かに痛みで眉をひそめる。ぽたりぽたりと魔法陣の上に血が零れ落ちる。



「何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん」



魔法陣が輝き、教会の中心に泉が現れた。

その上には女性型の精霊が漂っている。

澄んだ川を写したような薄い緑色のドレスにそれよりほんの少し濃い色をした髪を編んで一つにまとめている。



「召喚に応じていただきありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「そう畏まらなくてもいいわ、可愛い召喚者さん。とっても素敵な魔力だったから久しぶりに来てしまったの。わたくしはセラフィーナ。それでご要望は?」



私は自治長の持つ聖杯を指さした。



「あの聖杯に純粋な水属性の魔力を持った霊水をお分けしてほしいのです」

「あら、素敵な聖杯ね。きちんとした力がこもっているわ。でもたったそれだけ?」



セラフィーナは不思議そうに首を傾げた。

セラフィーナが身動きをする度、水球がふわふわと動き回る。



「そこで眠っている青年を目覚めさせるために必要なんです」



セラフィーナは教会の机に横たえられたルークの姿を見ると、頬に手を当てて悩みだした。

それからぽんと両手を打った。

その途端水球が弾けて細かい水滴になって広がった。



「ああ、この子、アスターファの子ね。通りで顔も匂いも似ていると思った。それだったら、わたくし、少しおまけしなくてわ。ねえ、ここに井戸はあるかしら?」



私は自治長に視線を向けると、シスターが小さな声で答えた。



「中庭に小さな井戸がございます」



そうとセラフィーナは言うと、周りを漂っている水球を手で包み込んだ。

手を開くと一個の透明ガラス玉が現れた。



「これを井戸に投げ入れなさい。この玉がある限り、井戸の水は決して枯れることは無く、汚れることも無いわ」



年老いたシスターは恐れ多いという表情でセラフィーナに近づき、そっとその玉を受け取った。



「それじゃあ、本題ね。清廉なる水よ、湧き、湛え、溢れよ」



セラフィーナが自治長の持つ聖杯に手を翳すと水が溢れてきた。



「飲ませてごらんなさい」



私は聖杯を受け取るとルークの元にそっと跪いた。

リアンがルークの上半身を起こしてくれた。

私は慎重に聖杯を口に運んだ。

すると意識の無いはずのルークが水を自然と嚥下した。

ゆっくりと聖杯を傾けて、飲ませていく。

聖杯が空になった時、ルークの瞼がわずかに動いた。



「ルークさん!起きて下さい!」

私の声に呼応するようにルークは海色の瞳を開いた。

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