最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

美しい島国~宴会~

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「おーい、そこのお前だ。おれの荷物、ちゃんと守ってたか?」



ルークは残党を思うがままに叩きのめした後、意気揚々と騎士団員に声をかけた。



「は、はい!青嵐の騎士たるルーク様のお荷物を守るという任務を与えて下さり、光栄です」

「いやいや、助かったぜ。さて、お嬢ちゃん、さっさと加護を解除して次の目的地に……」

「ルーク様!」



ルークの言葉を遮るように、一人の男が大声で呼びかけてきた。



「いえ、人違いですが?」

「何のご冗談を!ワタシはイスラ共和国の首相であるネジャトと申します。この度は我が国を防衛して下さり、まことにありがとうございました。感謝の宴の用意がしてあります。どうか、今夜は我が国にご逗留下さい!」

「えー、ネジャト様のお気持ちは大変ありがたいのですが、何分旅の途中でございまして」

「そう、仰らずに!極上の酒も料理もたんと用意しております!武勇伝も是非にお聞かせください。我が国たっての美女も同席させましょう」

「酒に、美女ですか?行きましょう、首相!」



ルークはいきなり首相の手を取り、いそいそと馬車に乗り込んだ。



「それは良かった! さぁさぁ! そちらのお二方も。ルーク様とともに一隻の船をたった三人で制圧してしまったのですから、さぞ腕が立つのでしょう」



私とデヴィンは顔を見合わせて、それから馬車に乗った。



 先ほどまでの戦いが嘘のように、官邸では宴の支度が整っていた。



「ささ、奥へどうぞ!」



ルークは足取りも軽く、テーブルに着いた。それを見て私とデヴィンも着席することにした。



「本当にこの度はルーク様を始め皆様にご助力頂きありがとうございました」

「あの海賊はアルガード首長国の私掠船だそうですね。言葉もアルベド語でしたし」

「さすが、ルーク様。ご慧眼です。度々、アルガード首長国はこちらの港を狙っておりまして・・・・・・我が騎士団も警戒を怠っていなかったのですが、不徳の致す限りです。それではイモージェン神に祈りを」



そう言いながら首相は隣に控えていた女にワインを注ぐように促した。黒髪に彫りが深く、瞳が深いグリーンの美女である。ルークは嬉しそうに盃を差し出した。



「いやぁ、このような美女に歓待して頂けるとは!何しろ最近目にしていたのはむさくるしい男と色気のない上に気が利かないゴリラの様な女だったので、目の保養になりますな!」



ビシリと私の手の中でグラスが割れた。



「申し訳ありません。グラスにヒビが入っていたようです。替えてくださいますか?」



私の険悪な雰囲気を敏感に感じ取ったメイドがすぐにお手拭きとグラスを持って来た。私はすぐに注がれた酒を一気に呷った。



「マ、マヤさん? 大丈夫ですか?」

「平気よ、デヴィン。イスラ共和国のワインはとても美味しいわ。でもどうして、ここでワイン造りを勉強しているの?」

デヴィンに尋ねると嬉しそうに目を細めた。

「ここイスラ共和国はワインの発祥の地なんです。温暖な気候で土壌も良く良いブドウが栽培できるので、ワインも高品質なんです」

「その通りです。よくご存じで」



首相が満足そうに大きく頷いた。



「ささ、料理もご賞味下され。ここではチーズ料理が名産でして。野菜も今朝取れた新鮮な物です。船旅では生野菜は頂けませんからな」



彩り豊かな料理が続々とテーブルに並べられてきた。メッゼという野菜と魚介類が含まれる前菜を食しているとデヴィンが話しかけてきた。



「マヤさん、聖フローレンス王国は変わりありませんか?」

「ええ。でも例の眠り病が少しずつ蔓延しているらしいの……デヴィンの周りでは大丈夫?」

「そうですね……確か島の中にある理髪店の店主が眠ったままだと聞きました。西大陸全体に広がっているんですね。でも、あのアドラメレクとの戦いのお陰でこうしてマヤさんと再会できて嬉しいです」



デヴィンが衒いのない言葉で私を安心させた。



「私も嬉しいわ。デヴィンを見た時、誰かと思っちゃった。あちらにいた頃とは大違い」

「ハートウィック家の力が及ばない所で、自分自身の力だけでお金を稼いでみようと思ったんです。最初は失敗ばっかりで、僕より年下の作り手に教えてもらって……剪定に収穫、醸造どの過程も全く未経験で去年は大変な一年でした」

「そうだったの。手紙にはそんなこと書いてなかったからびっくりしちゃった。なんだか一回り大きくなったみたい」

「筋肉もつきましたからね。イスラの人は良く働いて、良く食べるんです。つられて僕まで食べる量が増えてしまいました。でも、ほら、ね?」



デヴィンの筋張った腕には筋肉が盛り上がっていた。



「本当。あの華奢で可愛かったデヴィン君はもういないんだなぁ」



私が冗談めかして言うとデヴィンが憤慨した。



「一体いつの話をしてるんですか。初めて会ったのなんて十六の頃ですよ。いつまでも子ども扱いするんだから」

「ごめん、ごめん。すごくカッコ良くなったね。さぁ、もう一杯どうぞ」

「そ、そういうこと、サラッと言うのも止めてください!」



私たちはイスラ料理に舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせた。その様子をちらりとルークが見たような気がしたが、彼は彼で酌をしてくれる美女や首相と主に話をしていた。



「イスラの女性は美女揃いですな! 料理も酒も実に美味い。この地を狙うアルガード首長国の気持ちもわかります」

「ええ、イスラ共和国は小さいながらも、温暖な気候と肥沃な大地があります。さらに北側の国々との国交もあるお陰で貿易でも潤っています。アルガード首長国はここを足掛かりに北側に攻め込みたいのでしょう」

「然り。しかし、イスラ騎士団たちもなかなかの手練れでいらっしゃる。指導者が有能なのでしょうな」

「はっはっは、かの英雄青嵐の騎士にそう称賛を受けるのは悪い気がしませんな。ほら、ルーク様の盃が空いているぞ」



白いドレスを纏った美女が微笑みながら酒を注いだ。既に相好が崩れたルークはその酒を美味そうに飲み干した。横には三つも酒瓶が転がっていた。

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