119 / 198
大陸放浪編
美しい島国~宴会~
しおりを挟む
「おーい、そこのお前だ。おれの荷物、ちゃんと守ってたか?」
ルークは残党を思うがままに叩きのめした後、意気揚々と騎士団員に声をかけた。
「は、はい!青嵐の騎士たるルーク様のお荷物を守るという任務を与えて下さり、光栄です」
「いやいや、助かったぜ。さて、お嬢ちゃん、さっさと加護を解除して次の目的地に……」
「ルーク様!」
ルークの言葉を遮るように、一人の男が大声で呼びかけてきた。
「いえ、人違いですが?」
「何のご冗談を!ワタシはイスラ共和国の首相であるネジャトと申します。この度は我が国を防衛して下さり、まことにありがとうございました。感謝の宴の用意がしてあります。どうか、今夜は我が国にご逗留下さい!」
「えー、ネジャト様のお気持ちは大変ありがたいのですが、何分旅の途中でございまして」
「そう、仰らずに!極上の酒も料理もたんと用意しております!武勇伝も是非にお聞かせください。我が国たっての美女も同席させましょう」
「酒に、美女ですか?行きましょう、首相!」
ルークはいきなり首相の手を取り、いそいそと馬車に乗り込んだ。
「それは良かった! さぁさぁ! そちらのお二方も。ルーク様とともに一隻の船をたった三人で制圧してしまったのですから、さぞ腕が立つのでしょう」
私とデヴィンは顔を見合わせて、それから馬車に乗った。
先ほどまでの戦いが嘘のように、官邸では宴の支度が整っていた。
「ささ、奥へどうぞ!」
ルークは足取りも軽く、テーブルに着いた。それを見て私とデヴィンも着席することにした。
「本当にこの度はルーク様を始め皆様にご助力頂きありがとうございました」
「あの海賊はアルガード首長国の私掠船だそうですね。言葉もアルベド語でしたし」
「さすが、ルーク様。ご慧眼です。度々、アルガード首長国はこちらの港を狙っておりまして・・・・・・我が騎士団も警戒を怠っていなかったのですが、不徳の致す限りです。それではイモージェン神に祈りを」
そう言いながら首相は隣に控えていた女にワインを注ぐように促した。黒髪に彫りが深く、瞳が深いグリーンの美女である。ルークは嬉しそうに盃を差し出した。
「いやぁ、このような美女に歓待して頂けるとは!何しろ最近目にしていたのはむさくるしい男と色気のない上に気が利かないゴリラの様な女だったので、目の保養になりますな!」
ビシリと私の手の中でグラスが割れた。
「申し訳ありません。グラスにヒビが入っていたようです。替えてくださいますか?」
私の険悪な雰囲気を敏感に感じ取ったメイドがすぐにお手拭きとグラスを持って来た。私はすぐに注がれた酒を一気に呷った。
「マ、マヤさん? 大丈夫ですか?」
「平気よ、デヴィン。イスラ共和国のワインはとても美味しいわ。でもどうして、ここでワイン造りを勉強しているの?」
デヴィンに尋ねると嬉しそうに目を細めた。
「ここイスラ共和国はワインの発祥の地なんです。温暖な気候で土壌も良く良いブドウが栽培できるので、ワインも高品質なんです」
「その通りです。よくご存じで」
首相が満足そうに大きく頷いた。
「ささ、料理もご賞味下され。ここではチーズ料理が名産でして。野菜も今朝取れた新鮮な物です。船旅では生野菜は頂けませんからな」
彩り豊かな料理が続々とテーブルに並べられてきた。メッゼという野菜と魚介類が含まれる前菜を食しているとデヴィンが話しかけてきた。
「マヤさん、聖フローレンス王国は変わりありませんか?」
「ええ。でも例の眠り病が少しずつ蔓延しているらしいの……デヴィンの周りでは大丈夫?」
「そうですね……確か島の中にある理髪店の店主が眠ったままだと聞きました。西大陸全体に広がっているんですね。でも、あのアドラメレクとの戦いのお陰でこうしてマヤさんと再会できて嬉しいです」
デヴィンが衒いのない言葉で私を安心させた。
「私も嬉しいわ。デヴィンを見た時、誰かと思っちゃった。あちらにいた頃とは大違い」
「ハートウィック家の力が及ばない所で、自分自身の力だけでお金を稼いでみようと思ったんです。最初は失敗ばっかりで、僕より年下の作り手に教えてもらって……剪定に収穫、醸造どの過程も全く未経験で去年は大変な一年でした」
「そうだったの。手紙にはそんなこと書いてなかったからびっくりしちゃった。なんだか一回り大きくなったみたい」
「筋肉もつきましたからね。イスラの人は良く働いて、良く食べるんです。つられて僕まで食べる量が増えてしまいました。でも、ほら、ね?」
デヴィンの筋張った腕には筋肉が盛り上がっていた。
「本当。あの華奢で可愛かったデヴィン君はもういないんだなぁ」
私が冗談めかして言うとデヴィンが憤慨した。
「一体いつの話をしてるんですか。初めて会ったのなんて十六の頃ですよ。いつまでも子ども扱いするんだから」
「ごめん、ごめん。すごくカッコ良くなったね。さぁ、もう一杯どうぞ」
「そ、そういうこと、サラッと言うのも止めてください!」
私たちはイスラ料理に舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせた。その様子をちらりとルークが見たような気がしたが、彼は彼で酌をしてくれる美女や首相と主に話をしていた。
「イスラの女性は美女揃いですな! 料理も酒も実に美味い。この地を狙うアルガード首長国の気持ちもわかります」
「ええ、イスラ共和国は小さいながらも、温暖な気候と肥沃な大地があります。さらに北側の国々との国交もあるお陰で貿易でも潤っています。アルガード首長国はここを足掛かりに北側に攻め込みたいのでしょう」
「然り。しかし、イスラ騎士団たちもなかなかの手練れでいらっしゃる。指導者が有能なのでしょうな」
「はっはっは、かの英雄青嵐の騎士にそう称賛を受けるのは悪い気がしませんな。ほら、ルーク様の盃が空いているぞ」
白いドレスを纏った美女が微笑みながら酒を注いだ。既に相好が崩れたルークはその酒を美味そうに飲み干した。横には三つも酒瓶が転がっていた。
ルークは残党を思うがままに叩きのめした後、意気揚々と騎士団員に声をかけた。
「は、はい!青嵐の騎士たるルーク様のお荷物を守るという任務を与えて下さり、光栄です」
「いやいや、助かったぜ。さて、お嬢ちゃん、さっさと加護を解除して次の目的地に……」
「ルーク様!」
ルークの言葉を遮るように、一人の男が大声で呼びかけてきた。
「いえ、人違いですが?」
「何のご冗談を!ワタシはイスラ共和国の首相であるネジャトと申します。この度は我が国を防衛して下さり、まことにありがとうございました。感謝の宴の用意がしてあります。どうか、今夜は我が国にご逗留下さい!」
「えー、ネジャト様のお気持ちは大変ありがたいのですが、何分旅の途中でございまして」
「そう、仰らずに!極上の酒も料理もたんと用意しております!武勇伝も是非にお聞かせください。我が国たっての美女も同席させましょう」
「酒に、美女ですか?行きましょう、首相!」
ルークはいきなり首相の手を取り、いそいそと馬車に乗り込んだ。
「それは良かった! さぁさぁ! そちらのお二方も。ルーク様とともに一隻の船をたった三人で制圧してしまったのですから、さぞ腕が立つのでしょう」
私とデヴィンは顔を見合わせて、それから馬車に乗った。
先ほどまでの戦いが嘘のように、官邸では宴の支度が整っていた。
「ささ、奥へどうぞ!」
ルークは足取りも軽く、テーブルに着いた。それを見て私とデヴィンも着席することにした。
「本当にこの度はルーク様を始め皆様にご助力頂きありがとうございました」
「あの海賊はアルガード首長国の私掠船だそうですね。言葉もアルベド語でしたし」
「さすが、ルーク様。ご慧眼です。度々、アルガード首長国はこちらの港を狙っておりまして・・・・・・我が騎士団も警戒を怠っていなかったのですが、不徳の致す限りです。それではイモージェン神に祈りを」
そう言いながら首相は隣に控えていた女にワインを注ぐように促した。黒髪に彫りが深く、瞳が深いグリーンの美女である。ルークは嬉しそうに盃を差し出した。
「いやぁ、このような美女に歓待して頂けるとは!何しろ最近目にしていたのはむさくるしい男と色気のない上に気が利かないゴリラの様な女だったので、目の保養になりますな!」
ビシリと私の手の中でグラスが割れた。
「申し訳ありません。グラスにヒビが入っていたようです。替えてくださいますか?」
私の険悪な雰囲気を敏感に感じ取ったメイドがすぐにお手拭きとグラスを持って来た。私はすぐに注がれた酒を一気に呷った。
「マ、マヤさん? 大丈夫ですか?」
「平気よ、デヴィン。イスラ共和国のワインはとても美味しいわ。でもどうして、ここでワイン造りを勉強しているの?」
デヴィンに尋ねると嬉しそうに目を細めた。
「ここイスラ共和国はワインの発祥の地なんです。温暖な気候で土壌も良く良いブドウが栽培できるので、ワインも高品質なんです」
「その通りです。よくご存じで」
首相が満足そうに大きく頷いた。
「ささ、料理もご賞味下され。ここではチーズ料理が名産でして。野菜も今朝取れた新鮮な物です。船旅では生野菜は頂けませんからな」
彩り豊かな料理が続々とテーブルに並べられてきた。メッゼという野菜と魚介類が含まれる前菜を食しているとデヴィンが話しかけてきた。
「マヤさん、聖フローレンス王国は変わりありませんか?」
「ええ。でも例の眠り病が少しずつ蔓延しているらしいの……デヴィンの周りでは大丈夫?」
「そうですね……確か島の中にある理髪店の店主が眠ったままだと聞きました。西大陸全体に広がっているんですね。でも、あのアドラメレクとの戦いのお陰でこうしてマヤさんと再会できて嬉しいです」
デヴィンが衒いのない言葉で私を安心させた。
「私も嬉しいわ。デヴィンを見た時、誰かと思っちゃった。あちらにいた頃とは大違い」
「ハートウィック家の力が及ばない所で、自分自身の力だけでお金を稼いでみようと思ったんです。最初は失敗ばっかりで、僕より年下の作り手に教えてもらって……剪定に収穫、醸造どの過程も全く未経験で去年は大変な一年でした」
「そうだったの。手紙にはそんなこと書いてなかったからびっくりしちゃった。なんだか一回り大きくなったみたい」
「筋肉もつきましたからね。イスラの人は良く働いて、良く食べるんです。つられて僕まで食べる量が増えてしまいました。でも、ほら、ね?」
デヴィンの筋張った腕には筋肉が盛り上がっていた。
「本当。あの華奢で可愛かったデヴィン君はもういないんだなぁ」
私が冗談めかして言うとデヴィンが憤慨した。
「一体いつの話をしてるんですか。初めて会ったのなんて十六の頃ですよ。いつまでも子ども扱いするんだから」
「ごめん、ごめん。すごくカッコ良くなったね。さぁ、もう一杯どうぞ」
「そ、そういうこと、サラッと言うのも止めてください!」
私たちはイスラ料理に舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせた。その様子をちらりとルークが見たような気がしたが、彼は彼で酌をしてくれる美女や首相と主に話をしていた。
「イスラの女性は美女揃いですな! 料理も酒も実に美味い。この地を狙うアルガード首長国の気持ちもわかります」
「ええ、イスラ共和国は小さいながらも、温暖な気候と肥沃な大地があります。さらに北側の国々との国交もあるお陰で貿易でも潤っています。アルガード首長国はここを足掛かりに北側に攻め込みたいのでしょう」
「然り。しかし、イスラ騎士団たちもなかなかの手練れでいらっしゃる。指導者が有能なのでしょうな」
「はっはっは、かの英雄青嵐の騎士にそう称賛を受けるのは悪い気がしませんな。ほら、ルーク様の盃が空いているぞ」
白いドレスを纏った美女が微笑みながら酒を注いだ。既に相好が崩れたルークはその酒を美味そうに飲み干した。横には三つも酒瓶が転がっていた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる