81 / 198
王国陰謀編
国際博覧会と恋の行方~真剣勝負~
しおりを挟む
それから二週間ほどかけて、私は魔法武道の鍛錬に励んだ。
近衛隊の隊長は優秀な指導者であり、戦術面で知恵を授けてくれた。
近衛兵たちとも試合を通して、不思議なことに連帯感が生まれつつあった。
「クラキ殿、今の魔法はどう使うのですか?」
「先ほどの炎魔法もう一度見せてください」
「クラキ殿、当日は行けませんが、応援していますね」
私は彼らの向上心と矜持、そして真心に触れ胸がいっぱいになった。
「クラキ殿、もし顧問魔術師の職をお辞めになったら、ぜひ近衛隊にいらしてください」
練習最後の日、隊長は笑って私を励ましてくれた。
いよいよ模範演技当日となった。
この魔法武道会は王やライアン、アッシャーたち王族たちも観覧に来るらしい。
私は入場する前に、やっとエヴァンと話すことができた。
久しぶりに見るエヴァンは更に鍛えられ、精悍な表情になっていた。
「お久しぶり、エヴァン。元気だった?」
「オレは変わらない……悪いが集中しているんだ。黙っていてくれないか?」
「わかった。それじゃあ、一つだけ……もし、私が勝ったら一つだけ私の願いを聞いてくれない?」
いいだろう。代わりにオレが勝ったら、もう関わるな。お前には学生時代負けた……うっ」
エヴァンが額に手を当てる。
私は記憶が戻りかけた副作用だとわかり、痛ましい目でエヴァンを見る。
「大丈夫、エヴァン?」
「平気だ。何でこんな時に、また……!」
エヴァンは痛みを堪えつつ、冷たい瞳で私を見据えた。
「そんな軽装でオレをまだ見下しているなら大間違いだ。学生時代のオレとはもう違う」
「分かってる。全力で戦うよ」
「この試合必ずオレが勝つ」
そこでファンファーレが鳴った。
二人は満員の競技場へと入場していった。
広いコロシアムのような砂の競技場に歓声が響く。
「それでは聖フローレンス王国国際博覧会におきまして、これより開催されます魔法武道大会の模範演技としてお二方に登場して頂きました。一人目は王立軍期待のホープ、エヴァン・ガルシア魔法特務士官!」
エヴァンが大太刀を掲げると、歓声が上がった。
どこかで指笛を吹いている者もいる。
「二人目は驚きです。二年前、王国を救った異邦人、聖女マヤ・クラキ!」
更に歓声が大きくなる。私はいつもの瑠璃色のローブに胸当てを付けただけの軽装だった。
それに金属のメイスを右手に握りしめる。すでに汗でじっとりと濡れている。
「両者構え!開始!」
エヴァンは大太刀を振り上げ、地面に突き立てる。
地割れが私に向かって走ってくる。
地の魔法の大魔法だ。私は急いで回避行動をとる。
それを見越していたように水の弾丸が私へ飛んでくる。
風の魔法で水の弾の方向を無理矢理変える。
私は競技場内を走り回る。
その時、エヴァンの最初の一撃である隆起した地割れに足を取られ、一瞬顔をしかめる。
しかし、準備は整った。土の壁を出現させ、水の弾を消す。
次の瞬間エヴァンの大太刀によってまるで砂上の楼閣のようにあっさりと土壁が破られる。
だが、そこに私はいない。更に土壁が存在している。それもあっさり破られるが、時間は稼げた。
私は羊皮紙に血を垂らし、呪文を唱え終わっていた。
「何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん!」
魔法陣が真っ赤に輝くと、炎の鬣をもつ白馬に騎乗した燃える髪を持つ精霊が現れた。
競技場から突然現れた美しい精霊の姿に感嘆の声が上がる。
「お久しぶりです、フランマ」
「久しいの、異世界の旅人よ。今日はまた騒がしいところに呼ばれたものよ」
「フランマ、どうか私に炎と風の守護を」
「良かろう。汝の望むがままに」
私の背中に炎の翼が宿る。観客たちが空中に浮かぶ私を見て驚く。
最後の土壁が破られた時、私はエヴァンの頭上に飛び、メイスを振り下ろした。
エヴァンはその一撃を受けて、後ろに少し下がる。
「フランマ、メイスに炎を!」
「ご随意に」
フランマが扇をふわりと動かす。私のメイスに赤々とした炎が灯る。
エヴァンも負けじと呪文を唱え、剣に氷を纏わせる。二人の力は拮抗していた。
メイスの炎が映り込んだエヴァンの緑の瞳が闘争心で燃えている。
観客たちの興奮が伝わってくる。私はエヴァンに囁きかける。
「エヴァン、約束したよね?『どんなものからも守ってくれる』って」
「……昔のことをいちいち持ち出すなッ!」
エヴァンは眉をひそめ、力任せに私を突き放した。私は後方に飛び退ける。
エヴァンは痛みから息が荒くなる。エヴァンのいつものクールな表情が苛立ちと怒気が満ちる。
「オレはここでお前を倒す。倒して、オレは強くなる!」
私は真っすぐにエヴァンを見つめる。
(エヴァンも苦しんでいる……)
今は私の存在も私との思い出もエヴァンを苦しめることにしかならない。
メイスと剣が交錯しながら、私はエヴァンから目が離せない。
(私のわがままであっても、エヴァンに元に戻ってほしい……!)
そのためにはここで負けられない。
「猛き炎よ、風と共に舞い上がれ!」
メイスの炎が大きくなり、私はエヴァンへとメイスを向けた。
風によって炎が更に勢いを増し、炎がエヴァンを取り囲む。
エヴァンは水魔法を使って、炎を消しにかかる。
消えた瞬間、私はエヴァンへとメイスを全力でメイスを打ち下ろした。
エヴァンが大太刀でそれをうけとめると金属がぶつかり合う硬くて嫌な音が鳴った。
「そこまでッ!」
時間切れだった。私はエヴァンに一礼して、フランマに礼を述べた。
「ありがとうございました、フランマ」
「良い。面白きものが見れた。達者でな、異世界の旅人よ」
フランマが消えていくと観客たちからも名残惜しそうな声がそこかしこに聞こえた。
私は落胆しながら、メイスを杖代わりに競技場を後にした。
(勝てなかったから、賭けは無効よね……)
その時、エヴァンが声をかけてきた。
「おい、クラキ。お前の願いとはなんだ?」
「え?」
「願いはなんだと聞いている」
「だって、私、エヴァンに勝てなかったよ」
「お前はオレに勝った……見ろ、この剣を」
掲げられたエヴァンの大太刀にはヒビが入っていた。
「その上、お前、足を捻っていただろう」
「あっ……気付いていたの?」
「それで後半は空中戦しか挑んでこなかった。
試合とはいえ、女に怪我をさせるのは騎士道にもとる。願いはなんだ?」
「あの……それじゃあ、一日、私と一緒に過ごしてくれる?」
「わかった。明後日は一日休暇だが、予定はどうだ?」
「私も空いてるわ」
「それじゃあ、明後日。迎えに行く」
そう言い残してエヴァンは去っていった。
近衛隊の隊長は優秀な指導者であり、戦術面で知恵を授けてくれた。
近衛兵たちとも試合を通して、不思議なことに連帯感が生まれつつあった。
「クラキ殿、今の魔法はどう使うのですか?」
「先ほどの炎魔法もう一度見せてください」
「クラキ殿、当日は行けませんが、応援していますね」
私は彼らの向上心と矜持、そして真心に触れ胸がいっぱいになった。
「クラキ殿、もし顧問魔術師の職をお辞めになったら、ぜひ近衛隊にいらしてください」
練習最後の日、隊長は笑って私を励ましてくれた。
いよいよ模範演技当日となった。
この魔法武道会は王やライアン、アッシャーたち王族たちも観覧に来るらしい。
私は入場する前に、やっとエヴァンと話すことができた。
久しぶりに見るエヴァンは更に鍛えられ、精悍な表情になっていた。
「お久しぶり、エヴァン。元気だった?」
「オレは変わらない……悪いが集中しているんだ。黙っていてくれないか?」
「わかった。それじゃあ、一つだけ……もし、私が勝ったら一つだけ私の願いを聞いてくれない?」
いいだろう。代わりにオレが勝ったら、もう関わるな。お前には学生時代負けた……うっ」
エヴァンが額に手を当てる。
私は記憶が戻りかけた副作用だとわかり、痛ましい目でエヴァンを見る。
「大丈夫、エヴァン?」
「平気だ。何でこんな時に、また……!」
エヴァンは痛みを堪えつつ、冷たい瞳で私を見据えた。
「そんな軽装でオレをまだ見下しているなら大間違いだ。学生時代のオレとはもう違う」
「分かってる。全力で戦うよ」
「この試合必ずオレが勝つ」
そこでファンファーレが鳴った。
二人は満員の競技場へと入場していった。
広いコロシアムのような砂の競技場に歓声が響く。
「それでは聖フローレンス王国国際博覧会におきまして、これより開催されます魔法武道大会の模範演技としてお二方に登場して頂きました。一人目は王立軍期待のホープ、エヴァン・ガルシア魔法特務士官!」
エヴァンが大太刀を掲げると、歓声が上がった。
どこかで指笛を吹いている者もいる。
「二人目は驚きです。二年前、王国を救った異邦人、聖女マヤ・クラキ!」
更に歓声が大きくなる。私はいつもの瑠璃色のローブに胸当てを付けただけの軽装だった。
それに金属のメイスを右手に握りしめる。すでに汗でじっとりと濡れている。
「両者構え!開始!」
エヴァンは大太刀を振り上げ、地面に突き立てる。
地割れが私に向かって走ってくる。
地の魔法の大魔法だ。私は急いで回避行動をとる。
それを見越していたように水の弾丸が私へ飛んでくる。
風の魔法で水の弾の方向を無理矢理変える。
私は競技場内を走り回る。
その時、エヴァンの最初の一撃である隆起した地割れに足を取られ、一瞬顔をしかめる。
しかし、準備は整った。土の壁を出現させ、水の弾を消す。
次の瞬間エヴァンの大太刀によってまるで砂上の楼閣のようにあっさりと土壁が破られる。
だが、そこに私はいない。更に土壁が存在している。それもあっさり破られるが、時間は稼げた。
私は羊皮紙に血を垂らし、呪文を唱え終わっていた。
「何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん!」
魔法陣が真っ赤に輝くと、炎の鬣をもつ白馬に騎乗した燃える髪を持つ精霊が現れた。
競技場から突然現れた美しい精霊の姿に感嘆の声が上がる。
「お久しぶりです、フランマ」
「久しいの、異世界の旅人よ。今日はまた騒がしいところに呼ばれたものよ」
「フランマ、どうか私に炎と風の守護を」
「良かろう。汝の望むがままに」
私の背中に炎の翼が宿る。観客たちが空中に浮かぶ私を見て驚く。
最後の土壁が破られた時、私はエヴァンの頭上に飛び、メイスを振り下ろした。
エヴァンはその一撃を受けて、後ろに少し下がる。
「フランマ、メイスに炎を!」
「ご随意に」
フランマが扇をふわりと動かす。私のメイスに赤々とした炎が灯る。
エヴァンも負けじと呪文を唱え、剣に氷を纏わせる。二人の力は拮抗していた。
メイスの炎が映り込んだエヴァンの緑の瞳が闘争心で燃えている。
観客たちの興奮が伝わってくる。私はエヴァンに囁きかける。
「エヴァン、約束したよね?『どんなものからも守ってくれる』って」
「……昔のことをいちいち持ち出すなッ!」
エヴァンは眉をひそめ、力任せに私を突き放した。私は後方に飛び退ける。
エヴァンは痛みから息が荒くなる。エヴァンのいつものクールな表情が苛立ちと怒気が満ちる。
「オレはここでお前を倒す。倒して、オレは強くなる!」
私は真っすぐにエヴァンを見つめる。
(エヴァンも苦しんでいる……)
今は私の存在も私との思い出もエヴァンを苦しめることにしかならない。
メイスと剣が交錯しながら、私はエヴァンから目が離せない。
(私のわがままであっても、エヴァンに元に戻ってほしい……!)
そのためにはここで負けられない。
「猛き炎よ、風と共に舞い上がれ!」
メイスの炎が大きくなり、私はエヴァンへとメイスを向けた。
風によって炎が更に勢いを増し、炎がエヴァンを取り囲む。
エヴァンは水魔法を使って、炎を消しにかかる。
消えた瞬間、私はエヴァンへとメイスを全力でメイスを打ち下ろした。
エヴァンが大太刀でそれをうけとめると金属がぶつかり合う硬くて嫌な音が鳴った。
「そこまでッ!」
時間切れだった。私はエヴァンに一礼して、フランマに礼を述べた。
「ありがとうございました、フランマ」
「良い。面白きものが見れた。達者でな、異世界の旅人よ」
フランマが消えていくと観客たちからも名残惜しそうな声がそこかしこに聞こえた。
私は落胆しながら、メイスを杖代わりに競技場を後にした。
(勝てなかったから、賭けは無効よね……)
その時、エヴァンが声をかけてきた。
「おい、クラキ。お前の願いとはなんだ?」
「え?」
「願いはなんだと聞いている」
「だって、私、エヴァンに勝てなかったよ」
「お前はオレに勝った……見ろ、この剣を」
掲げられたエヴァンの大太刀にはヒビが入っていた。
「その上、お前、足を捻っていただろう」
「あっ……気付いていたの?」
「それで後半は空中戦しか挑んでこなかった。
試合とはいえ、女に怪我をさせるのは騎士道にもとる。願いはなんだ?」
「あの……それじゃあ、一日、私と一緒に過ごしてくれる?」
「わかった。明後日は一日休暇だが、予定はどうだ?」
「私も空いてるわ」
「それじゃあ、明後日。迎えに行く」
そう言い残してエヴァンは去っていった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる