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王国陰謀編
国際博覧会と恋の行方~ほろ酔い気分~
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数十分後、デヴィンの様子がおかしくなった。
明らかに頬が上気しているし、目がとろんとしている。
(あ、これ、完全に酔ってる)
そう察知した私はデヴィンからグラスを受け取った。
「いかがされました?」
「少々、風に当たってまいりますわ。講評までには戻ります」
私はデヴィンを抱えて、私はテラスへと出てベンチに座らせる。
さり気なくアイコンタクトでボーイを呼ぶ。
「悪いけれど、冷たいお水を用意してもらえる?」
「かしこまりました」
デヴィンはもう泥酔状態で座っているのもやっとだった。
苦しそうだったのでボタンを一つ外した。すると鎖骨の下あたりに紫色の蝶の羽が見えた。
(これって……)
「せーんーぱーい」
デヴィンが急に私の肩にもたれかかってきた。
「どうしたの、デヴィン?」
「どうしたじゃないですよー、というより先輩は何で平気なんですかー?」
「私あっちの世界でもザルだったの。今の酔ったデヴィンはとても可愛いよ」
「……可愛いって男に言う言葉じゃないですよ。イラつくんですよ、そういうところ」
デヴィンが私の肩を抱引き寄せて抱きしめる。
「先輩ってホントに鈍感で馬鹿真面目でお人好しでお節介で色気が無くてそのくせ無防備で、こっちの思い通りに全然ならなくって……先輩みたいな面倒な人他にいません」
デヴィンが耳元でか細い声で呟く。私も囁くように尋ねた。
「ねぇ、デヴィン。私のことやっぱり嫌い?」
「……わからないです。けど、なんか気に障るんです。先輩が僕を無視しても、先輩が他の誰かといても。先輩の笑顔を見ると胸がざわつくんです……自分でも気持ちのコントロールできません」
デヴィンが私を強く抱きしめる。私はその背中を優しく撫でる。
「デヴィン……」
(魔法で心を縛られるというのはきっと辛いだろう)
人の心を勝手に弄ぶ権利はどこにもない。
私はデヴィンのやり切れない気持ちの一端を聞いてそう思った。
ふっと肩に体重がかかった。腕の中でデヴィンが気を失っていた。
私はデヴィンを横たわらせ、膝の上に頭を乗せた。
腕を取って脈をとる。どうやら生きているようだ。
丁度初夏の風がほろ酔いの頬に気持ちが良い。
私は膝の上のデヴィンの銀髪を指で梳いた。
さらさらとした細い銀細工の様なその髪を撫でるのは心地よかった。
(大きくなったなぁ、デヴィン)
最初にあったころは身長も同じくらいだった。
歳よりも幼く見えるその容貌で上級生から人気を博していた。
そんなデヴィンと出会ってからもう五年になる。
男の子の成長は早い。その時、ふわりと紫色の蝶が私の耳元を掠めて飛んでいった。
デヴィンが少しうめき声をあげ、その意識が戻る。
「あれ……マヤさん?僕どうして?」
「少し酔っていたから風に当たっていたの。気持ち良いでしょ?」
「そうですね……って、何してるんですか?!」
「何って膝枕」
「そういう問題じゃなくて!女性として慎みとか!」
「急に起き上がらない方が良いよ」
起き上がろうとしたデヴィンがくらりとしてまた倒れこむ。
「ゆっくり起き上がって、そこに水があるからそれを飲んで」
デヴィンは頭を押さえながら、ゆっくり身を起こす。それから水を飲み干した。
(あれ?)
デヴィンの鎖骨の下にあった紫色の蝶の刺青が無い。私はデヴィンの胸倉をつかんで引き寄せる。
「ちょっと、マヤさん!一体何するんですか?!」
「デヴィン、もしかして元に戻ったの?」
「元に戻ったって僕はいつもと変わりませんよ」
私は好感度を確認してみるとデヴィンの胸には真っ赤なハートが浮かんでいた。
「良かったー!デヴィン!」
私は喜びからデヴィンに抱きついた。
デヴィンは狼狽して顔を真っ赤にして、二人はベンチに倒れこんだ。
私は自分にかけられた『元の世界に強制帰還させられる呪い』とその解除条件、そしてデヴィンを含め四人にも魔法がかけられていたことを説明した。デヴィンも顎に細い指をあて考え込む。
「そういえば、あの舞踏会から急にマヤさんに対して興味がわかなくなったり、思い出そうとすると頭が痛くなったりしました。あれは全て魔法のせいだったんですね……マヤさんになんてことを。許せません」
「そうだったのね……辛い思いをさせてごめんなさい」
「マヤさんのせいじゃありませんよ。必ず、呪いを解きましょう。僕も呪いを解くのに協力します」
「ありがとう、デヴィン」
二人の間を風が通り抜ける。
その清廉な風が今まで私の心にあったわだかまりを吹き飛ばしてくれるようだった。
「良い風だね。もう五月になるんだわ」
「……そうですね。まずはいよいよ始まるんですね、国際博覧会」
「まだ実感がないけれど。
展示品の収集についてはハートウィック家には多大なご協力頂きありがとうございました」
私はぺこりと頭を下げた。
「そんな。国の発展に寄与するのは国民として当然の義務です」
デヴィンはつんと澄ましながらも口元には微笑みが浮かんでいる。その頬はまだ赤い。
「ねぇ、デヴィン。この国際博覧会絶対成功させようね。今日のこと、私ずっと忘れないから」
「何を言ってるんですか?まるでもうすぐいなくなっちゃうみたいな……呪いを解除してずっとここにいてください」
「残りの七か月。私、とにかく最善を尽くそうって決めたの。ただの決意表明だよ」
私はまっすぐ街を見ながらそう答えた。
デヴィンの呪いが解けたことで私の心に希望が芽生えた。
これからどんなことがあろうと、私はこの国にできる限りのものを残していこう。
明らかに頬が上気しているし、目がとろんとしている。
(あ、これ、完全に酔ってる)
そう察知した私はデヴィンからグラスを受け取った。
「いかがされました?」
「少々、風に当たってまいりますわ。講評までには戻ります」
私はデヴィンを抱えて、私はテラスへと出てベンチに座らせる。
さり気なくアイコンタクトでボーイを呼ぶ。
「悪いけれど、冷たいお水を用意してもらえる?」
「かしこまりました」
デヴィンはもう泥酔状態で座っているのもやっとだった。
苦しそうだったのでボタンを一つ外した。すると鎖骨の下あたりに紫色の蝶の羽が見えた。
(これって……)
「せーんーぱーい」
デヴィンが急に私の肩にもたれかかってきた。
「どうしたの、デヴィン?」
「どうしたじゃないですよー、というより先輩は何で平気なんですかー?」
「私あっちの世界でもザルだったの。今の酔ったデヴィンはとても可愛いよ」
「……可愛いって男に言う言葉じゃないですよ。イラつくんですよ、そういうところ」
デヴィンが私の肩を抱引き寄せて抱きしめる。
「先輩ってホントに鈍感で馬鹿真面目でお人好しでお節介で色気が無くてそのくせ無防備で、こっちの思い通りに全然ならなくって……先輩みたいな面倒な人他にいません」
デヴィンが耳元でか細い声で呟く。私も囁くように尋ねた。
「ねぇ、デヴィン。私のことやっぱり嫌い?」
「……わからないです。けど、なんか気に障るんです。先輩が僕を無視しても、先輩が他の誰かといても。先輩の笑顔を見ると胸がざわつくんです……自分でも気持ちのコントロールできません」
デヴィンが私を強く抱きしめる。私はその背中を優しく撫でる。
「デヴィン……」
(魔法で心を縛られるというのはきっと辛いだろう)
人の心を勝手に弄ぶ権利はどこにもない。
私はデヴィンのやり切れない気持ちの一端を聞いてそう思った。
ふっと肩に体重がかかった。腕の中でデヴィンが気を失っていた。
私はデヴィンを横たわらせ、膝の上に頭を乗せた。
腕を取って脈をとる。どうやら生きているようだ。
丁度初夏の風がほろ酔いの頬に気持ちが良い。
私は膝の上のデヴィンの銀髪を指で梳いた。
さらさらとした細い銀細工の様なその髪を撫でるのは心地よかった。
(大きくなったなぁ、デヴィン)
最初にあったころは身長も同じくらいだった。
歳よりも幼く見えるその容貌で上級生から人気を博していた。
そんなデヴィンと出会ってからもう五年になる。
男の子の成長は早い。その時、ふわりと紫色の蝶が私の耳元を掠めて飛んでいった。
デヴィンが少しうめき声をあげ、その意識が戻る。
「あれ……マヤさん?僕どうして?」
「少し酔っていたから風に当たっていたの。気持ち良いでしょ?」
「そうですね……って、何してるんですか?!」
「何って膝枕」
「そういう問題じゃなくて!女性として慎みとか!」
「急に起き上がらない方が良いよ」
起き上がろうとしたデヴィンがくらりとしてまた倒れこむ。
「ゆっくり起き上がって、そこに水があるからそれを飲んで」
デヴィンは頭を押さえながら、ゆっくり身を起こす。それから水を飲み干した。
(あれ?)
デヴィンの鎖骨の下にあった紫色の蝶の刺青が無い。私はデヴィンの胸倉をつかんで引き寄せる。
「ちょっと、マヤさん!一体何するんですか?!」
「デヴィン、もしかして元に戻ったの?」
「元に戻ったって僕はいつもと変わりませんよ」
私は好感度を確認してみるとデヴィンの胸には真っ赤なハートが浮かんでいた。
「良かったー!デヴィン!」
私は喜びからデヴィンに抱きついた。
デヴィンは狼狽して顔を真っ赤にして、二人はベンチに倒れこんだ。
私は自分にかけられた『元の世界に強制帰還させられる呪い』とその解除条件、そしてデヴィンを含め四人にも魔法がかけられていたことを説明した。デヴィンも顎に細い指をあて考え込む。
「そういえば、あの舞踏会から急にマヤさんに対して興味がわかなくなったり、思い出そうとすると頭が痛くなったりしました。あれは全て魔法のせいだったんですね……マヤさんになんてことを。許せません」
「そうだったのね……辛い思いをさせてごめんなさい」
「マヤさんのせいじゃありませんよ。必ず、呪いを解きましょう。僕も呪いを解くのに協力します」
「ありがとう、デヴィン」
二人の間を風が通り抜ける。
その清廉な風が今まで私の心にあったわだかまりを吹き飛ばしてくれるようだった。
「良い風だね。もう五月になるんだわ」
「……そうですね。まずはいよいよ始まるんですね、国際博覧会」
「まだ実感がないけれど。
展示品の収集についてはハートウィック家には多大なご協力頂きありがとうございました」
私はぺこりと頭を下げた。
「そんな。国の発展に寄与するのは国民として当然の義務です」
デヴィンはつんと澄ましながらも口元には微笑みが浮かんでいる。その頬はまだ赤い。
「ねぇ、デヴィン。この国際博覧会絶対成功させようね。今日のこと、私ずっと忘れないから」
「何を言ってるんですか?まるでもうすぐいなくなっちゃうみたいな……呪いを解除してずっとここにいてください」
「残りの七か月。私、とにかく最善を尽くそうって決めたの。ただの決意表明だよ」
私はまっすぐ街を見ながらそう答えた。
デヴィンの呪いが解けたことで私の心に希望が芽生えた。
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