愛を語るは甘過ぎる

ヲサラ

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15.浴場2※

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 リオリヤは少しだけ部屋で仮睡をしたその後、宿の浴場へと来ていた。
 湯気で曇ったガラスドアを開けると屋外に繋がっており、そこは──、

「へぇ、露天風呂か。洒落た宿だ」

 表情には喜色が浮かび、声もどこか弾んでいた。
 この宿は廃れているもののきっと元は立派な宿だったのだろう。外観の割に内観はちゃんと整備されており、歓楽街ばかりに目が向けられているが、この宿もかなりの上等の宿と言えよう。
 嬉しい事に浴場には誰もいない。騎士たちは皆出かけ、他に客もおらぬようで、今この宿にいるのはリオリヤとユーイ、あとは宿の主人ぐらい。つまりこの露天風呂はリオリヤの貸し切り状態だ。
 リオリヤは広い湯船の中に身を沈め、ホっと息を吐く。大きな浴室なんてとても久しぶりで、露天風呂は初めてだった。
 寝ている間に日は沈み、濡れた肌にひんやりとした夜風を感じつつも、湯の温度は少し熱めで、浸かっている内に気分も良くなってきた。
 
 ここをカルアに教えてやろうか。いや、あいつは歓楽街に入り浸るな。

 昔から風情よりも色欲なカルアには呆れるものだ。リオリヤは人のことを言える立場ではないが、風情を好む方だった。
 はぁ、と心地よく息を吐いた時、浴場のドアが開いた。

「ここにいたのか。街の方に行ってしまったかと思った」

 何処か安心したかのような声が聞こえ、億劫に振り返ると、ユーイが立っていた。
 珍しく白群の髪を緩く上げており、体の前だけをタオルで隠す姿は艶かしさがある。リオリヤは男湯に入ってきてはいけない人が入って来てしまったのかと驚かされた。
 ユーイはゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 普段は気に留めていなかったが、その静々とした歩き方はまるで色気を感じた。

「ここに来る途中、宿の主人から浴場を勧められたんだ。確かに良い露天風呂だ」

 そう言って、湯船の縁に肘を置くリオリヤの真横にまで来ると、片膝を付いて、指先を湯に入れて熱さを確認する。

「少し熱いな」

 白い手を揺らすと、ちゃぷちゃぷと音を立てて波紋を描く。
 リオリヤが目線を横へと向けると、タオルの端から薄桃の円な粒をちらりと覗かせ、剥き出しのふくよかな尻たぶが見えた。そこはタオルで見えないので、この体で男だなんて思えない。
 いつかの野営で騎士たちが、副団長はついているのか、と品の無い議論をしていたぐらいだ。

 男ながらにそそる体だな。直に見ると尚更だ。

 一度は見ているが、あの時の切羽詰まった状況とは違う。
 リオリヤは平然と装いその姿をまじまじと見つめていると、ユーイがタオルを取り、だらりと垂れた疑惑のソレを晒した。
 やはり薄くも茂みを生やして付いているのが違和感で、けれどそのアンバランスが卑猥さを醸し出していた。
 ユーイはこんなにも邪な目で見つめられているなんて露程も疑わず、白い足をそっと湯船につけて「んっ……」と、婀娜っぽく感じるような声を漏らした。

 ……こいつはいちいち艶めかしいな。

 リオリヤは平然としているが、自分の鼓動が少し速くなっているのを自覚する。
 ユーイはゆっくりと湯の中に入ると、森であんな事があった後だというのに、この広い湯船で何故かリオリヤの側で腰を下ろした。

「私は露天風呂が初めてだが、リオリヤは?」

「僕も初めてだ」

「なら一緒、だな」

  クスクスとユーイが嬉しそうに笑い、前へと伸ばした、濡れた白い腕を反対の手で撫でる。
 鍛錬で鍛えられている筈の腕には筋肉がついていない。騎士の男にしては些か細さを感じさせた。

「誰かと共に入るのも初めてなんだが、こういうのも良いな」

「鍛錬の後とか、騎士の連中と兵舎の浴場に一緒に入ったりしないのか?」

「何故か私は一緒に入る事を団長に禁止されているんだ」

 その理由が分からないようでユーイは顔を俯かせた。
 リオリヤは面倒だから口には出さないが、そりゃそうだろう、と思った。これはリオリヤでなくとも「あぁ……」と頷いている。
 ただでさえ美しい顔を持つ副団長様がその魅惑の体を晒し、裸の飢えた男たちの中に入ったら、男たちの情欲を煽り……悪い末路しか想像できず、憐れみの目をしゅんとするユーイへと向けていた。
 じっと見つめていると、火照って赤らんだ肌と、濡れた後れ毛が纏わりつく白いうなじが見えて、無意識にごくりと喉を鳴らしていた。
 ふと、ユーイがちらちらとこちらを見ているのに気付く。視線の先を追うと──揺らぐ透明な水面の下にリオリヤの雄がある。

「お前、結構好き者だな」

 リオリヤは呆れた表情を浮かべ、前から思っていたが、と心の中で付け足す。

「ち、違う!それじゃない!腕だ腕!」

 ユーイは真っ赤な顔と否定してリオリヤの腕を指さした。
 リオリヤは特に鍛えている訳ではなかったが、逞しい体つきをしていた。流石に筋肉隆々とまではいかないが、ユーイと並ぶと、まるで麗しい令嬢とそれを守る騎士のよう。

「……私はどんなに鍛えてもそんな風にはならない」

 決して細すぎる訳でもないが、騎士としては軟弱な体を気にしてか、ユーイは羨ましげにリオリヤの体を見つめている。
 リオリヤは口にこそしないが、自分の体には強い自信を持っていた。それは体つきだけではなく、そこも。
 なので羨望の眼差しを向けられては満更でもない。
 
「触ってみるか?」

「……いいのか?」

 意外にも、という反応を見せられて、上機嫌で尋ねたリオリヤだったが少々呆気に取られた。
 そんなリオリヤに気づかず、ユーイは好奇の目を向ける腕に手を伸ばした。
 筋肉質の腕を優しく掴んでにぎにぎと感触を確かめて、浮き出る血管を指の腹でそっとなぞる。
 その指の仕草はリオリヤの背筋をぞくぞくせた。

「……逞しいな」
 
 ぽつりと呟く表情はどこかうっとりとしているようにも見えた。そして手が離れたかと思うと、今度は胸元に触れきて、これにはリオリヤも驚いた。
 白く長い指はすっ……と胸の間を通り、湯の中の腹筋の割れ目をなぞる。そして溝──臍部に辿り着くとハッと我に返って慌てて手を離した。

「わ、わ、わ、わ、悪いっ!」

  耳まで真っ赤にした顔があまりにも面白くて、ニヤリと口角を上げる。

「スケベ」

 囁くような声でからかうと、ユーイは両手を頬に当てて口をぱくぱくとさせた。

「ユーイがそんなにも積極的だとは思わなかった。その下も触ってみるか?」

「けっ、結構だ!」

 ユーイはふいっと体ごとそっぽを向いてしまった。
 それでからかいを止められる程リオリヤの性格は良くなく、意地の悪い笑みを浮かべて滑らかな背中にぴたりと肌をつける。

「ほら、遠慮するなよ」

「ッ!?ば、馬鹿、近い!」

  慌てて距離を取ろうとするが、両方の腕を掴んで引き寄せ、離れる事を許さない。

「リ、リオリヤ、だめだ」

「何が駄目なんだ?」

「そんなっ、くっつかれたら……」

 ユーイはやけに切羽詰まった様子で、それが面白いと思いつつも妙に思い、湯の中のそれが目に入った。揺らぐ水面の下ではソレが上を向いていた。

「……ユーイ、これぐらいで反応したのか?」

「うぅっ──お前の所為だっ!」

 男に引っ付かれて勃つなんて思わないだろ。

 数時間前、初めて勃起を経験した雄は未だ正常ではなく、少しの興奮で反応してしまったのかもしれない。そう考えると理に合っている……気がするとは思えないが、無理やり辻褄を合わせた。
 気まずさを感じながらユーイを見ると、強い羞恥心と、きっとどうすれば良いのか分からず、今にも泣いてしまいそうだった。

 お前の所為と言われてしまえば、確かに僕の所為だ。なら今回は仕方がない。それにどうせ、出来ないと言うんだユーイは。

 リオリヤは嘲笑いながら細腰を引き寄せて、自分の膝の間にユーイを座らせる。そして愚直を手で包み込んだ。

「なっ、何してっ!?」

「僕の所為なんだろ?だから楽にしてやろうかと。それとも自分で出来るのか?」

「……………………できない」

  ほら、と可笑しくて笑みが溢れた。
  湯の中で、手のひらを沿わせて擦っていくと次第に膨らみを増していく。
 声が聞こえないと思えば、ユーイは必死に口元を手で覆っていた。

「……邪魔だなぁ」

 不快げ眉を寄せるとその手を掴む。

「っ、リオリヤッ」

「こういう時は声を抑えない方が良いんだ」
 
 お前だっていつか抱く女が口を塞いでいたらこうするさ。

 そんな事を思いながら雁首を弄ると、腰がびくりと震え、一際大きな声を上げた。

「ん、ぁ、はっ」

 浴場と言えど室内でないので声が反響する訳ではなく、そういえばここは外なのだと思い出す。
 それを教えてやればユーイはどんな反応を示すか気になったが、また声を抑えられては興が冷める……と考えていると、今になって自分の矛盾に気づいた。
 これまて男に対してそんな目を向けた事など一度たりともなかった。どんなに見目麗しかろうと男ならばさらさら興味はなく、昔からはっきりと言い切ってきたのをカルアが証言できる程だ。

 ……なんで僕はこいつのを握ってるんだ?

 握り締めたそれさえ見えなければ、ユーイは極上の女だ。だが手の中にあるのは雄以外の何物でもない。

 ……体が熱くて頭がふらつく。

 湯で逆上せてしまっているのか、目は微かに霞んでいて、頭がぼんやりとしている。道理で体が熱いわけだ。
 今の自分は逆上せているのだと納得していると、目の前の白いうなじに美味しそうに見えて、本能的に噛みついていた。

「いッ……」

 細い肩が揺れる。
 口を離せば薄っすらと赤く滲んでいて、優しく舌を這わせて舐め取ると強く吸う。

「ん、なに、してっ」

 「さぁ?何してるんだろな」

 後で魔術で消してやるさ、と呟きながら肩にも赤い跡を刻んでいく。
 同時に鈴口を親指でぐりぐりと押せば、ユーイは甘く鳴くしか出来なくなった。

「ぁ、あ、やっ、そこっ」

「いや?気持ち良いって事だろ?」

 囁きながら耳輪をふにふにと甘噛みする。

「ん、きもち、イイ、からっ、やっ」

 あまりにも正直なユーイの様子に、きっと頭が逆上せているのだと都合の良い解釈をする。

 そういえば、任務が終わったらすると言っていたな。

 空いている方の手で顎を掴みこちらを向かせると熱い吐息を漏らす唇を塞いだ。

「ふぅ……」
 
 深く口付け、その合間にユーイを見ると蕩けたろうような目をしていて、与えられる快感に身を委ねていた。

「はぁ、ぁ、で、そぅ」

「ユーイ、イくならちゃんとイくって言えよ?」

 リオリヤの言葉にユーイはこくこくと首を振る。
 その従順な態度に気分を良くすると、手の中のものを責め上げた──。

「ぃ、イくっ、イくッ〰〰〰〰」

 その言葉の意味を知らない筈だが、繰り返しながらリオリヤの手の中で精を解き放っていた。
 茫然とするユーイだったが、焦点の合わない白群の目がゆっくりと閉じ、リオリオの胸に身を預けた。
 顔を覗き込むと、はぁはぁと荒く呼吸をしているが、苦しげに眉を寄せて、気を失っているようだった。ようは逆上せて気絶してしまったのだ。

「やばい……やりすぎてしまった」

 ユーイの辛そうな様子に、リオリヤは漸く正気に戻り額に手を当てた。
 とりあえず体を抱き上げて湯船から出る。ユーイの体は軽く、抱え上げるのは造作もない。
 ただ困った事があるとすれば、元気になってしまったソレで、人一人を抱えながら溌剌とさせている光景は何とも情けない。

「……最後にこの街を味わってくるか」

 リオリヤもまた逆上せから頭がくらくらとして、気怠げに服を着替えた後、ユーイにも服を着せる。そして外套で欲を隠し、ユーイを部屋へと運ぶ中、運悪く宿の主人に鉢合わせしまった。
 赤くなった頬、息が上がる小さな唇。薄っすらと汗が滲む額と、首筋に張り付いた髪。悩ましげな表情で意識を失うユーイは飢えた獣を呼び起こすのに充分で、興奮気味に息を荒くさせてユーイを見つめる主人に、一人宿を置いていくのも出来なくなった。

「……絶対に目を覚ますなよ」

 ベッドで眠るユーイに念を押すと、リオリヤは背を向けて腰をつける。そしてゆっくりと己の欲へと手を伸ばす──。

 折角のルジェラに来ているというのに、その最後の日はリオリヤにとって、人生で最も虚しくな情けない夜となった。
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