愛を語るは甘過ぎる

ヲサラ

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14.浴場1

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 シフォン隊はルーヴァの森からルジェラの街へと戻ってきた。

「……あ、後はお前に任せたぞ!」

 ユーイは目深く被ったフードからは真っ赤な頬を覗かせて、片耳を気にしていじいじと触れながらそう言い残すと、一人そそくさと宿へと向かって行った。

 全く、そんなに慌てていると外套が捲れて見えてしまうぞ。

 リオリヤはニヤリと口端を上げる。
 ユーイは外套の下の一糸まとわぬ姿からくる羞恥と、それが部下たちにバレてしまうかもしれないという緊張感から、馬に乗ってる間ずっと体を硬くし、そして小さく縮こまっていた。
 目の前がユーイが少し呼吸を早くして、そんな風に羞じらっているものだから、リオリヤは時折優しく話しかけていた──わざと耳に口を寄せて。
 その度に小さく「ひゃっ」と可愛げのある声を漏らして、キッと潤んだ瞳で見上げてきた。
 しかし後ろを見上げ振り返ると、リオリヤの位置から、外套の首元の合間から覗く白く細い首筋が見えて、結構な眺めであった。

 こんな愉しい事があるか。

 馬で駆け抜けている間のユーイをからかってやっていた時の事を思い返して、笑みを深める。
 状況が状況だからかユーイは声を上げて抵抗する事はなく、馬から落ちるぞと理由を作って細腰を抱いても嫌がる事はなかった……むしろ本当に落馬すると思って怖かったのか、その腕をそっと掴んでいた。
 ユーイを見送るとリオリヤは緩んだ口元を引き締め、馬を置きに行っていた騎士たちを振り返った。
 そして口を開く……。

「え?」

 その言葉に騎士たちはあ然とした顔で聞き返してきた。なのでリオリヤはやれやれともう一度その言葉を告げる。

「各々自由行動、朝まで解散」

「良いんですか?だってまだ日も暮れもいないのに」

 他の騎士たちはざわざわと戸惑う中、目をキラキラとさせた騎士が言葉を返した。
 その騎士は、何時ぞやの酒場で馬鹿子息の事を話してくれた二人組の片割れで、確か名前をグオンと言った。

「あぁ。恐らく帰りは反逆者たち襲って来ないだろうが、フェボルドまでの道のりは遠い。それに折角あのルジェラに来たんだ、今のうちに愉しんでおけ」

 その言葉を聞いた騎士たちは口元を緩ませて、仲間たちとひそひそと何処へ聞くかを話し始めた。

「なぁアルト昨日見つけた、あの変わってる宿に行ってみようぜ……お前気になってたじゃねぇか」

 先ほど尋ねてきたグオンは街に出る前から心躍らせて、アルトと名の片割れの耳元で囁いている。その光景はリオリヤに目には『お誘い』に見えた。
 アルトは冷めた表情で面倒くさそうにグオンの顔を押しやりながらため息を吐く。

「気になってきたのはお前だろ。スケベな顔をして」

「どっちでも良いじゃねぇか」

 グオンは素っ気ない態度にへこたれる事なく、その腰を抱いて顔をニヤニヤとさせ、アルトはもう一度ため息を吐きながらもどこか表情は満更でもない様子だ。
 仲の良さは以前酒場で見た時とは明らかに違っており、二人だけの甘い雰囲気を作って公然といちゃついていた。

 あいつらこの任務の間に親密になっていたのか。よく他の騎士たちは変化に気づかないな。

 他の騎士たちは皆余程の鈍感か、それとも端から二人はそういうものだと勘違いしていたのか。
 リオリヤは興味なさげにも二人をまた見た。
 グオンは首筋に顔を寄せ軽く吸うと、アルトは悩ましげに眉を寄せた後、気丈を装いその頭をぺちんと叩いた。
 そして、二人は体を密着させたまま盛り場の方へと消えていった。

 全く、仮にも任務中に色事に走るとは情けないものだな。それも人前で……。

 そう思いながら、ふと過去の自分の行動を思い出し、暫く間を空けた後、若いって事か、と結論付けた。
 二人に気を取られている間に他の騎士たちはいなくなっていた。

 みんな元気だな……。

 それに引き換えリオリヤは元気とはいえない表情で、くるりと踵を返すと宿の中へと入っていった。
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