愛を語るは甘過ぎる

ヲサラ

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8.宿屋街1

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 早朝、リオリヤから目指す街の名を聞かされた騎士たちの士気は、この遠征一の高ぶりを見せた。
 例の如く反逆者たちは行く手を阻んで来たが、襲ってきた側が怖じ気付く程の気迫で圧倒し、そのまま休息なく馬で駆け抜けた。
 リオリヤは、街に着くのは日が変わる頃と予想していた。しかし、早く街を楽しみたいと、その熱い一心で日が暮れた頃には街に着いていた。
 シフォン隊は人気を避けて街の裏側から入り、少し寂れた宿にそそくさと荷を下ろすと、騎士たちは血気盛んに夜の街へと消えていった。

 騎士の体力は底なしなのか?どれだけ元気が有り余っているんだ……!

 正直ここまでの勢いは予想を上回るもので、普段馬に乗る訓練をしていないリオリヤが一番疲れ果てていた。

 ……軽く飲んだら早く休みたい。

 リオリヤがげっそりとしていると、隣にいるユーイが拳を強く握り締め、ふるふると肩を震わせている事に気づいた。

「な、何だここはー!?」
 
 街の様子に驚いたユーイは声をあげる。
 辿り着いた『ルジェラ』という街はとても大きな街で、目的地のルーヴァの森のすぐ側にある。そして深い森を抜けた来た者たちが、必ずと言ってその身を休ませる宿屋街だった。
 なのでリオリヤは平然とその問いに答えた。

「何って、宿屋街じゃないか」
 
「や、宿屋街なのかもしれないが、こんなっ、ま、まるで……」

 ユーイは顔を真っ赤にさせて口籠る。
 そう、ここは普通の宿屋街ではなかった。
 どこからか香る、甘い匂いが漂い街を包み込む。建物はどれもまるで貴族の屋敷のような豪華さがあり、しかし屋敷の屋敷のような上品さは感じられない。
 そう思わせるのは、桃色や薔薇色などの妖しげな光が、街全体をちかちかと照らしているからだ。
 
 いや、ユーイが見てるのはあっちだ。

 見ているのは建物ではなく大通りの方。そこにいるのは妙齢な美女たちだ。ユーイはその美女たちに見惚れ……ているのではなく、その格好が気になっていた。
 誰もが身に纏う服の露出が高く、白い柔肌を惜しげもなく露わにさせて、大事な部分を隠してはいるが、際どい丈の者が殆どだ。
 中には薄っすらと服が透けている者までいた。
 美しさから女かと思えば男だったりもし、魔族は外見と年齢が合わない事が多いので、もしかすると見た目は幼いので少年かと思えば青年だったりもする。
 体の一部が獣の獣人もいれば、魔力が全く感じられない人間も混ざっている。
 は甘い色香で鼻の下を伸ばした男を誘い、そして屋敷の中へと消えていく──。

「あ、あんな破廉恥な姿を他の者の目に晒すなんてっ」

 ユーイは自分がしている訳ではないのに、羞恥に塗れた顔して、辺りを直視できずに俯いていた。

「残念だったなユーイ。僕たちが泊まるのが至って平凡な宿で」

「残念なものかっ!」
 
 思わず顔を上げるユーイだったが、艶やかな娼妓たちが目に入り、反射的にぎゅっと瞼を強く閉じると、また俯いてしまった。

「ユーイあっちを見てみろ」

 眉間に皺を寄せたユーイは薄く片目を開くと、リオリヤが指差す方向を見て瞠る。
 そこにいたのは、この街にいる娼妓たちの中でも一際美しい娼妓だった。
 他の娼妓とは違い、一切露出はなく、白く清純そうな長い服──一見、聖職者のローブのようなものを着ているが、それが逆にこの場で浮いている。
 しかし服はぴっちりとしていて、豊満な臀部のラインが判然と現れ、お陰で下腹部の膨らみから性別が分かった。
 リオリヤがその美人を指差した理由は耳の特徴にある。耳がとても長く、先端が尖っている。その特徴といえば……。

「なるほど、あれがエルフか。確かに綺麗だな」

 少年時代はその種族を抱いてみたいと探させた事があった。しかし決して見つかることはなく、その内に興味が逸れしまった。
 あんなにも欲しくて堪らなかったものがそこにいる。そう思うとつい口元が緩んでいた。
 希少なエルフの存在に男たちが群がっており、金をチラつかせている。まるで競りのような光景だ。
 エルフは汚れを知らない無垢な笑みを浮かべているが、その目は自分に見合う男を選んでいるようだった。
 ふぅん……と鼻を鳴らした時、外套がくんっと引かれた。

「……エルフなら、ここにもいるだろう……」

 それは見上げるような仕草で、しかし恥ずかしさから目は逸らしている。
 ユーイはエルフの血が流れているといってもエルフを感じさせるような特徴的な外見は特になく、本人も自分がエルフだと明言した事はなかった。
 なので思いがけない言葉とその仕草に、「そう、だな」と、リオリヤの返しは珍しくぎこちないものになっていた。

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