好きならば好きなれど好きという事なかれ

ヲサラ

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褒美

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「……主、私に罰を」

 シノツキは高揚感に頰を薄らと染めて、ちらちらと視線を送る。罰を受けるにしてはどこか強請るような、熱を孕んだ目をしていた。



 初めて罰を受けてから、さらに三度、その歪な罰を与えてもらった。
 面前で自慰をする度に、体の興奮が増して行き、何という体たらくに『罰』というだけで言葉で体は疼いて、この時間が待ち遠しくなっていた。
 羞恥は快感だと覚えてしまって、主に、あの赤い目に見られたくて堪らない。そんな体になってしまった。
 これまで剣の道に生き、欲とは縁のない日々を生きてきたシノツキは、あれ以来、欲をひたすら求める卑しい男に成り下がっていた。
 この惨めさを自覚するも、それを自分で制御する事が出来なくなっていた──。

 ある日、爵位を奪われた男がその腹いせに魔王の情夫を拐おうとした。
 幸いにも未遂で終わったものの、愛する人に手を出された魔王は酷くお怒りで、一族諸共根絶やしにしろと命を下した。
 そこまで魔王が怒るのは珍しいのようだ。

「いつもは優しいナハト兄上があんなにも怒り狂ったのは初めてだった。射た者を凍えさせる冷たい眼と、床へと叩きつけるような強い魔力はゾクゾクした」

 キユラが恍惚とした表情を初めて見せたので、どろどろとしたものが胸の淵から込み上げ、尊顔を拝見した事のない魔王に妬いていた。
 そんな嫉妬心があったからもある。屋敷を殲滅した時点ではまだ五分も経っておらず、これでは罰が受けられないと、シノツキはあろうこと事か、最後にわざと標的を泳がせた。
 広い屋敷の中で追いかけごっことお遊びを興じて、時が来ると剣を抜いた。
 そしてキユラの元に戻って来た頃には命じられた時間よりも三秒過ぎていて、緩んでしまいそうになった口元を引き締めながら、主に罰を求めた。



 時間も遅いからと、滅んだばかりの一族の屋敷で一夜を過ごす事になった。
 シノツキは血の匂いが蔓延する赤い廊下を歩いて主人の寝室へと向かう。
 こびり付いた血を落とすのに時間がかかってしまった。長い脚をいつもよりも早く動かして、部屋に辿り着いてノックをしようとしたら、ドアの向こうから名を呼ばれた。
 返事をして部屋の中に入ると、大きな天蓋ベッドが置いてあり、淡桃色の、向こうが透けて見える薄紗を垂れ下げている。なんて悪趣味だと思いながらも、その向こうにキユラの姿が見えて変に胸が疼いた。
 部屋の中には甘ったるい匂いが蔓延していて、微かな煙たさも感じる。元をたどると、窓の近くに置かれたテーブルの上で香が焚かれていた。
 キユラが香なんて珍しい。彼女に使える従者のクライヴが、屋敷に染みついた血の匂いを和らげようと焚いたのだろうか。
 胸が苦しくて、はぁ、と息を吐くと、思っていたよりも溢れた吐息は熱かった。

「シノツキ、服を脱いでベッドの上に乗って」

「……はい」

 全てを脱ぎ捨てるこの時間が一番緊張した。
 胸が喧しく高鳴って、自らの手で一枚一枚脱いでいく恥ずかしさと、昂るあまり手が震えてうまく脱げないもどかしさ。剣を初めて握ったあの時よりも、今の方が至難に思えた。

 いつもよりも体が熱い気がする。
 
 呼吸がひどく乱れていた。
 最後に下肢を剥き出しにすると、寝室という場所が惑わせるのか、既にそこは熱く滾っていた。
 何もしていないのに溌剌となっている淫根が情けなくて隠そうとするが、薄紗の向こうからこちらを見つめる赤い目に気づいて手を引く。赤い目がこれを見ているのだと思うと体がゾクゾクと震えて小さく声が漏れた。
 薄紗をくぐりベッドの上に乗ると、思った以上に柔らかさがあり、付いた手が沈む。少し歩きにくさを感じながら、四つ足で主の下へと向かう姿はまるで犬だ。
 
「主……」

 鳴き声のように飼い主を呼ぶと、キユラは「何だか犬みたいだな」と笑い、クッションが幾つも並んだヘッドボードの方を指差した。
 そこへ行けと言う事だと察すると、命じられるがまま向かい、振り返ると肩を強く押されて後ろへと倒れ込む。クッションはとてもふかふかで、シノツキの鍛えられた体を優しく受け止めた。

「あ、あの主……」

 自分よりも小さな少女を見上げ、困惑しながらもドキドキとしていると、両手を頭の上へと上げられる。そしてそれぞれの手で反対の肘を掴む体勢にされていた。毛が一本も生えていない、綺麗な脇を剥き出しにしたこの体勢は、何処か卑猥さを感じてしまう。
 恥ずかしくて、下がようとする腕をキユラが止めた。

「手はそこから動かすなよ」

 罰を受ける間はこの体勢でいろと言うことか。ならば手を動かさずしてどう己を慰めろというのか。

 そんな事を疑問に思っていると、キユラはクッションの後ろに手を伸ばしてゴソゴソと探した。そこで何かを見つけて取り出したのは、濃いピンク色をしたボトルだ。ハートマークまで描かれていて、見るからに妖しい。

「この部屋にあったんだ。これ、一体なんだか知っているか?」

 ぐいっと目の前にボトルを押し付けられて目を逸らす。

「っ……し、知りません」

「本当に?」

 疑うようにボトルを揺らせば、中でちゃぽちゃぽと液体が揺れる音がした。
 シノツキは知らない訳ではなかった。実際使った事もあり、経験は少なくとも無知ではなく、疎くとも人並みに知識はある。
 恐らくはローションが入っているのだろう。しかしローションにも色んな種類があるようで、どんなローションが入っているかまではボトルを見た所で分からない。
 なので知らないと言うのは嘘ではなかった。

「なら何が入っているか確かめてみよう。お前の体で」

 まるで今から何かの実験をするようにワクワクとした笑顔で蓋を開けると、シノツキの胸の上からそれを大雑把に垂れ流した。
 中身はピンク色をした、半透明な液体だった。
 垂らした時に勢い余って頰にまで飛んで、伝い落ちると口端の隙間から入り込み、口内にシロップのような甘さが広がった。
 ボトルから落ちて来る時は水のようにさらさらとしていたが、体温に触れた瞬間、液体がドロドロととろみの強いものに変わった。例えるならば深い森に棲息するスライムに近い。
 肌の上を何かがじわじわと這いずり下りていくような感覚がして、胸の飾りが擦れて「んんっ」と声をあげていた。
 引き締まった腹筋を撫でるようにゆっくりと這い、臍の窪みに液を少し残しつつ、茂みを濡らして男根へとまとわりついた。
 とろみは張り付いて、その箇所はじわじわとあたたかさを感じたかと思えば──突然それはきた。

「あっ、あつぃ、はぁ、んっ」

 体が燃えるように熱い。堪らず荒々しく息を吐く。
 体の興奮に反応して胸の飾りはぷっくりと立ち上がり、ローションの雫が掠める度に甘い痺れを感じた。
 特に臍の辺り、内側が火がついたように男根は煮え滾り、浮き出た血管がどくどくと脈を打つ。
 
「うーん、あれは媚薬だったか」

 ハハっとキユラは笑う。所詮は他人事と素っ気なさだ。
 シノツキは、キユラの様子にボトルの中身を知っていて使ったのだと悟った。さらにはそのローションがどんなモノであるのかも。
 そして強い好奇心からどんなものか実際に使ってみたくなった。
 彼女の言葉を思い出してみると、「確かめてみよう」とだけ言って、これをどんなものだか知っているとも知らないとも言っていなかった。

 ……この抗えない体の逆上せは媚薬の所為。

 そう認識すると、ぞわぞわと体が騒いだ。

「ぁ……イき、た……ぁ、ある、じ……んぁ、たす、けっ……ひっ」

 吐精を強く促してくるのに、とろみが尖端の穴に絡みついて、それが栓になってしまっていた。どうにかしたくて細い腰をいやらしくくねらせる。
 手は腕を痛々しいほどに強く握り締めているだけで、しかしそれでも主の命に従い動かそうとはしない。主の命は絶対。手を解き放つなんて選択は浮かばなかった。

「仕方がないな」

 そう言うキユラの手には、極薄の、手にぴったりと合った手袋がつけられていた。素材はどこか避妊具にも似ている。
 これもこの部屋で見つけたものなのか、自分には媚薬が皮膚から染み込まないようにと付ける辺りはちゃっかりとしている。いやしかし、あまりにも準備が良すぎた。
 やはり知っていたのだ、と確信を詰めた所で何の意味も持たない。
 キユラはシーツを引っ張ると、シノツキの反り返る昂根を雑に拭き始めた。

「ぃっ……」

 ビリビリと電気が走り、体ががたがたと震え上がる。
 濡れてもいないシーツの硬さはただでさえ過敏となっているそこに痛みを与えた。
 けれど媚薬の所為か、それすら強い刺激に変わって、逃げようとしても、体が痺れて言う事がきかない。
 キユラはシノツキがのをいい事に、昂根の周りをシーツで包み込むと小さな手で掴んで扱き始めた。同時にもう反対の手の指で、尖端にシーツを被せてぐりぐりと指で摩った。

「ぁ゛っ──」

 これまで以上の快感に、シノツキの喉が仰け反った。

「ぃ、あ、ぃや、それ、あ゛」

「ほら、ちゃんと拭い取らないと」

 キユラは手を止めてはくれない。拭うとは言ったが、シノツキを確実に責め立ててくる。

「ひっ、ぁ、や、さきっぽ、だめっ」
「だがしっかりと拭かないと出せないだろ?」

 だめと言っているのに、鈴口を入念に拭き始めてしまった。
 シーツの上から鈴口の周りをぐるぐると指が回り、気まぐれに爪を立てられる。それは強烈な刺衝で、カッと熱くなった目を見開く。
 キユラは嫌がる様子すら楽しんでいるのか、しかし目が涙で霞んで彼女の表情は見えない。
 しまいには尖端を、シーツを左右に引いて摩り上げてきて、これまで以上の電気が脳天へと駆け上がる。チカチカと目の前が点滅し、脚が硬く力んで腰が上がる──。

「あぁあ゛っ」

 男根から白い熱が噴き上がった。キユラに拭われて、シノツキは漸く望みを叶えられ瞬間だった。

 あぁ、とうとう主の手でイカされてしまった……。

 主に、それも少女によって達した事はどこか甘美な背徳感を感じさせた。さらには屈服感のような惨めさが余韻をより心地良くさせてた。
 はぁはぁと息を荒くさせて涙を溜めた瞳でそれを見て、目を張った──今吐精したと言うのに、そこは全く萎える事なく、今も天を仰いでいた。

「持続性がすごいな。媚薬はこう言うものなのか?」

 興味津々に聞いてくるが、シノツキもそんなものを使ったことは無い。それに張り詰めたものが辛くて、そんなに事を考えている余裕なかった。

「シノツキ、辛いか?」

 その問いにこくこくと頷く事しか出来ない。

「ならちゃんと罰になったな」
 
 良かったとキユラが笑うとシノツキの脚を大きく広げさせた。
 視線は下を向いていて、窪みだと分かると、そんな穢れた場所が主の目に晒されて恥ずかしさに閉じようとするが、少女からは信じられない力の強さに押さえ込まれて少しも動かせない。

「お前わざとあれを逃して遊んでいただろう?私の命を無視して」

 シノツキの肩が小さく揺れた。

「あいつと追いかけっこは面白かったか?」

 バレていたのだ主に。
 体がこんなにも燃えるように熱いのに、恐怖から凍えるような寒さを感じて、恐る恐る見上げれば目の前で赤い目が笑っていた。
 罰は時間を守れなかったからではなかった。
 己の欲のままにわざと標的を泳がせた──自分の命よりも優先して。
 その事が罰だったのだ。

「も、申し訳、ぁ、ござ……あぁ、ぅ」

 こんな時でも収まる事のないそこを、細い指で上からつーっ……と撫でられて、つい声が漏れてしまう。

「もうしないと誓えるか?」

「はぃ、しませっ……ぅんっ」

 今度は子種の元から刺激を感じて、ぶるりと体を震わせる。翫ぶ動きはまるでボールを与えられた子供のようで。
 謝罪をしなければいけないのに、与えられる快感に酔いしれて、悶える事しか出来ない。

「じゃあ、信じてやる」

 キユラは手が離してそのまま窓の方へと向けた。何をするのかと思えば、力を込めて、魔力の圧を放った。
 すると窓のガラスは全て粉々に砕け割れ、通しの良くなった窓から夜陰の風が入り込み、淡桃の薄紗をそよそよと揺らす。
 部屋の空気の流れが変わった。ずっと感じていた甘い匂いが薄れていた。
 キユラはというと、「これの所為で力が使いにくい」と手袋を触りながら不快そうに眉を顰めてていた。
 確かにいつものキユラであれば、特に力を込めなくとも魔力を軽く当てただけで壁に大穴を開けていた。
 冷たい空気が肌に触れて、少しだけ熱が弱くなった気もするが、そう錯覚するだけで、未だ男根は熱く滾ったままだ。
 キユラは近くに転がっていたピンクのボトルを手に取り、残りを全てシノツキのそれへとだぼだぼと流し落とすと、空になったボトルを床に投げ捨てた。

「な、何を」

 また快感が強まってしまうっ……と焦ったが、その熱い波は襲って来なかった。

「それ、辛いだろう?私だから出来る方法で楽にしてやるぞ」

「っ……」

 窪みの中に何かが潜り込んできた。
 その細い形からキユラの指なのだとすぐに分かった時には根元まで入り込んでいた。

「そんなところっ……ぁっ」

 指はローションのとろみで難なく入り込んで、内壁に触れ、びくりと腰が震える。
 やがて指を増やして挿抜を始めてしまい、咥える口が擦れ度に腰が揺れ、解れを確認するように拡げられて、まだ快感には鈍いが、恥ずかしさでおかしな気分になっていた。

 何でそんな所を……。

 そこが使える事を知らないシノツキは困惑しながらも、意識は高揚感に飲まれようとしていた。
 ふと、そこから冷たい何かが流れ込んできた。
 冷たいそれはむくむくと膨れあがり、シノツキの中をいっぱいにすると奥へと押し開いていく。
 擦れる内壁に溶け込んで身体中に巡り、それが何だか漸く理解する。魔力だ。魔王に次いで強く濃いキユラの魔力がシノツキの全てを侵食していた。

「……お、きぃ……」

 莫大な魔力にうっとりと口に出し、そこをきゅうきゅうと締め付けていた。
 
「ぁあ、そこ、はっ」

「ここ?」

 そこを掠めると一際強い快感を感じ、体が痺れた。
 キユラは狙いを定めてぐりぐりと押してくる。

 だめだ、そこに、濃い魔力を流し込まれたらっ……わたしはっ……。

 そして、ぐぐっ、と強い魔力を流れ込んできて──。
 
「っ〰〰〰〰〰〰」

 シノツキは声を上げることも出来なかった。
 体をがたがたと震盪させながら、キユラの魔力に屈するように勢いよく精を放っていた。
 吐きだした男根は満足したようにだらりと垂れ下がり、どうしようもなかった熱は完全とは言えないが引いていた。

 ……なんて魔力をお持ちなのだ。

 我が主は強さだけでもなく、魔力までも桁外れで素晴らしい。
 キユラの濃い魔力の存在は、指が抜かれてもそこにあるかよのような錯覚を起こして、無意識にひくつかせいた。

「ずっと言いつけを守って腕を動かさなかったのは偉いな。これは褒美だ」

 恍惚としている中、許しを得て腕を解かれたと思えば、唇に柔らかいものが触れて、その直後口内に何かが潜り込んきた。そして舌をなぞられた瞬間、ぞわりと肩が震え上がった。
 口付けられているのだと理解した時には舌すらも翻弄されていて、息苦しさと快感が押し寄せてくる。

 口付けとはこんなにも激甚としていて、悦楽を得られるものだったのかっ。

 シノツキは自分の中での口づけの認識を塗り替えながら、息を切らして乞うように自らも舌を絡める。しかし舌を抜かれてしまい、最後は唇の輪郭を舐めると離れていってしまった。

「次からはちゃんと命を守れたら褒美をやろう」

 キユラは無邪気に笑う。
 褒美。それは何て甘美な言葉なのだろうか、とシノツキの心は擽られていた。
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