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その年はいつになく暑くて様々な予測値が出ていた。
うだるような暑さというのはこの年のことだったのだろう。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
日本と言う島国の領海には小さな島が多くある。その内の1つ、太平洋の南の海上に私はいる。
私の住まいで私の職場。
200年前に無人の島になり、100年前に海上保安という名目で施設が建った。
それが今の施設の前身。
最近施設も新しくなり、最新機器も導入されたここは、海洋・地質調査と生物調査を主とした研究施設。
緩やかに衰退していく人類が改めて生存・繁栄していくための手掛かりを探す場所。
「ミカ、おはよう」
「おはよう、ミカ」
「お早う」
多くの国の人間がこの施設に集まり研究に携わっている。
私の専門は海洋生物、皆それぞれ専門は違っていて、時にはチームを組んだりするし、個人研究を主とする時もある。
ここの研究は世界的に認められ、各国から支援されて動いている。
もちろんそれなりの結果も出している。
「ミカ」
前方から見慣れた同期がやって来る。
学生時代からの腐れ縁だ。
「おはよう、ミカ」
「お早う」
「今日も好きだよ」
「そう」
彼はアーサー。
イギリス人の騎士の称号を持つ貴重な人材だ。
大学の頃からの腐れ縁で、何故か私は彼に気に入られてるよう。
毎日懲りもせずやって来ては一言余計。
見た目が凄くいいらしくモテるらしいのだけど、私にはいまいち多くの女性のその意見に納得がいかない。
見た目だけでモテるとは?
整っていることは認めるし、女性の好む清潔感もあるのだろう。
けれど私達は人類。動物たちと違って他より秀でた見た目で選ぶのはいかがなものかと思っている。
彼は軽薄だ。
文化や人種の違いは一切関係なく、彼の本質が軽い。
フットワークが軽いということは研究にもいかされる点はあるだろうけど、私個人として仲良くするかと問われるとそれは遠慮するかなと思っている……それでも学生時代から付き合いがあるのだから本当に腐れ縁だなと思う。
私は静かに時間を過ごしたい。
なにより、私はあいてる時間があれば研究に没頭したい。
恋愛がどうとかで考える時間もそれに費やす時間も全て研究へ。
それぐらい私は研究が好きだ。
「ねぇ、今週末デートしようよ」
「遠慮するわ」
そもそも古い歴史の中で言われる“イギリス人は紳士である”はどこへいってしまったのか。
その話題を出せば、イギリスの血がメインだけど、ヨーロッパの色々な国の血が入ってるからとか的を得ない回答が返ってきた過去がある。
そう、西暦2300年の今、人類の人口はピークをとうに超えて緩やかに減少している。
絶滅した人種も多く、自然とハーフやクオーターが増加傾向にあるのもよくあることだ。
むしろ混血でないことの方が異例だろう。
私のように。
私は日本人の血筋。
父も母も、それ以前の祖先も全て日本人だ。
血統を守らねばならないような身分ではなかったが、どういうご縁か今は珍しい人種として私が存在している。
「そうそう、明日早朝5時からスコールくるよ」
「…この時期には珍しいわね。台風ではないの?」
「熱低ではあるけど台風じゃないね。300年前は割と多かったんだけどね…ここ100年ぐらいでは珍しいかな」
「…仕方ないわね…明日の外調査は控えるわ」
「あぁ、その方がいいね」
「えぇ、それじゃ」
早々に別れようと、角を通って曲がろうとすると彼の手がそれを阻む。
彼に視線を向けると面白そうに眼を細めた。
「……アーサー、通れないんだけど」
「してみたかったんだよね」
「何が?」
次にぐっと私に近づき距離を詰めてくる。
手は壁についたまま。
「君の国で流行っていたいうから」
「何が?」
「カベドンってやつ」
「……」
大きく溜息をついた。
それはおおよそ300年前に流行った文化で、しかも現実でやるものではなかった。
サブカルチャーの中でも割と表立って話題になったものだと記録で知っているけど、今この時代この場所でやる必要はないはず。
遮る彼の腕に手をかけ、壁から話す。
こういう時の彼の引きの良さは好ましい。
しつこいだけでは困るもの。
「…アーサー…貴方、今歴史の研究してないでしょ」
「そうだね」
悪びれもせず笑顔で応える。
彼は1つのことを突き詰めると言うよりは、多角的にオールジャンル研究するタイプだから、その中に歴史が入ってもおかしくはないけど。
彼の場合、関係のないバラバラのものが結果として彼のメイン研究の答えに行き着くのだから本当にそういう面では凄いし敵わないと思ってる。
私は1つのことしか見てられないもの。
「チームのメンツが貴方が来なくて困ってるって昨日言われたばかりなのよ。もう行って」
「OK。じゃぁ、次はランチで」
「はいはい」
そう言いつつもかならずランチを共にするわけではない。
学生の時から軽口叩いて適当な約束を取り付けるわけで。
まぁ国文化の差かもしれないので大して気にはしていない。
私だって研究がいい具合に進めば昼抜きなんてこともあるわけだし。
「ミカ!」
あぁ、次かと思って振り向けば、御馴染みの腐れ縁がもう1人やってきた。
うだるような暑さというのはこの年のことだったのだろう。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
日本と言う島国の領海には小さな島が多くある。その内の1つ、太平洋の南の海上に私はいる。
私の住まいで私の職場。
200年前に無人の島になり、100年前に海上保安という名目で施設が建った。
それが今の施設の前身。
最近施設も新しくなり、最新機器も導入されたここは、海洋・地質調査と生物調査を主とした研究施設。
緩やかに衰退していく人類が改めて生存・繁栄していくための手掛かりを探す場所。
「ミカ、おはよう」
「おはよう、ミカ」
「お早う」
多くの国の人間がこの施設に集まり研究に携わっている。
私の専門は海洋生物、皆それぞれ専門は違っていて、時にはチームを組んだりするし、個人研究を主とする時もある。
ここの研究は世界的に認められ、各国から支援されて動いている。
もちろんそれなりの結果も出している。
「ミカ」
前方から見慣れた同期がやって来る。
学生時代からの腐れ縁だ。
「おはよう、ミカ」
「お早う」
「今日も好きだよ」
「そう」
彼はアーサー。
イギリス人の騎士の称号を持つ貴重な人材だ。
大学の頃からの腐れ縁で、何故か私は彼に気に入られてるよう。
毎日懲りもせずやって来ては一言余計。
見た目が凄くいいらしくモテるらしいのだけど、私にはいまいち多くの女性のその意見に納得がいかない。
見た目だけでモテるとは?
整っていることは認めるし、女性の好む清潔感もあるのだろう。
けれど私達は人類。動物たちと違って他より秀でた見た目で選ぶのはいかがなものかと思っている。
彼は軽薄だ。
文化や人種の違いは一切関係なく、彼の本質が軽い。
フットワークが軽いということは研究にもいかされる点はあるだろうけど、私個人として仲良くするかと問われるとそれは遠慮するかなと思っている……それでも学生時代から付き合いがあるのだから本当に腐れ縁だなと思う。
私は静かに時間を過ごしたい。
なにより、私はあいてる時間があれば研究に没頭したい。
恋愛がどうとかで考える時間もそれに費やす時間も全て研究へ。
それぐらい私は研究が好きだ。
「ねぇ、今週末デートしようよ」
「遠慮するわ」
そもそも古い歴史の中で言われる“イギリス人は紳士である”はどこへいってしまったのか。
その話題を出せば、イギリスの血がメインだけど、ヨーロッパの色々な国の血が入ってるからとか的を得ない回答が返ってきた過去がある。
そう、西暦2300年の今、人類の人口はピークをとうに超えて緩やかに減少している。
絶滅した人種も多く、自然とハーフやクオーターが増加傾向にあるのもよくあることだ。
むしろ混血でないことの方が異例だろう。
私のように。
私は日本人の血筋。
父も母も、それ以前の祖先も全て日本人だ。
血統を守らねばならないような身分ではなかったが、どういうご縁か今は珍しい人種として私が存在している。
「そうそう、明日早朝5時からスコールくるよ」
「…この時期には珍しいわね。台風ではないの?」
「熱低ではあるけど台風じゃないね。300年前は割と多かったんだけどね…ここ100年ぐらいでは珍しいかな」
「…仕方ないわね…明日の外調査は控えるわ」
「あぁ、その方がいいね」
「えぇ、それじゃ」
早々に別れようと、角を通って曲がろうとすると彼の手がそれを阻む。
彼に視線を向けると面白そうに眼を細めた。
「……アーサー、通れないんだけど」
「してみたかったんだよね」
「何が?」
次にぐっと私に近づき距離を詰めてくる。
手は壁についたまま。
「君の国で流行っていたいうから」
「何が?」
「カベドンってやつ」
「……」
大きく溜息をついた。
それはおおよそ300年前に流行った文化で、しかも現実でやるものではなかった。
サブカルチャーの中でも割と表立って話題になったものだと記録で知っているけど、今この時代この場所でやる必要はないはず。
遮る彼の腕に手をかけ、壁から話す。
こういう時の彼の引きの良さは好ましい。
しつこいだけでは困るもの。
「…アーサー…貴方、今歴史の研究してないでしょ」
「そうだね」
悪びれもせず笑顔で応える。
彼は1つのことを突き詰めると言うよりは、多角的にオールジャンル研究するタイプだから、その中に歴史が入ってもおかしくはないけど。
彼の場合、関係のないバラバラのものが結果として彼のメイン研究の答えに行き着くのだから本当にそういう面では凄いし敵わないと思ってる。
私は1つのことしか見てられないもの。
「チームのメンツが貴方が来なくて困ってるって昨日言われたばかりなのよ。もう行って」
「OK。じゃぁ、次はランチで」
「はいはい」
そう言いつつもかならずランチを共にするわけではない。
学生の時から軽口叩いて適当な約束を取り付けるわけで。
まぁ国文化の差かもしれないので大して気にはしていない。
私だって研究がいい具合に進めば昼抜きなんてこともあるわけだし。
「ミカ!」
あぁ、次かと思って振り向けば、御馴染みの腐れ縁がもう1人やってきた。
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