退役して復讐しようとしたら告白を受けた

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10話

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 少女は程なくして去っていった。
 もらったいつもの茶葉の中の情報を確認し、言葉を失う。
 少女との時間に一時の安らぎを感じている場合ではなかった。
 店主がいつもの日時以外で情報をよこす時は急を要する時だ、何故忘れていたのか。
「奴ら……」
 端的に言うなら、今度行われるミラン主導の遠征は遠征先に知られてしまっている。
 情報を流したのは奴らだ。
 元々遠征先のインフラの整備がメイン、今後のこちらの物資確保を目的とした大規模戦闘に至らないものだが、今や遠征先は物資等渡す気もなく、行けば侵略者として見てくるだろう。
 そちらでも国民の士気が敵という認識で高まってしまっている。
 奴らここも扇動してるようだ。

 戦闘になる恐れがある。
 そもそも遠征先とは和平を結んでいる。そう戦闘になるはずがない。ミランがそこに至るまでどれだけの時間を要したと思っているのか。
 私達が止むを得ず戦闘をする時は決まって奴らが関わっている。
 無血で和平を結ぼう等と奴らは考えてないからだ。
 腹立たしい。やはり奴らを野放しにしておくわけにはいかない。
 このままではまた犠牲者が内部で出てしまう。
 本当、こと内部における情報戦において奴らの動きが早いから困る。
 そういったことに長けている者がいるわけではないが、最低限動くことが出来るのは長く軍に所属していることもあるだろう。

 情報が国の繁栄、戦争において有利にあたると気づき、先人達は情報に関する技術の革新を成し得た。
 その為、情報による攪乱や扇動も多くなった。
 地域毎に小さな蜂起が起こるのも、市民に広く情報や通信の技術が発達したからだ。
 それが今回こんなことになろうとは。
 空軍ではまだ新しい機体は出来ていない。場所は内陸だから海軍の出番もない。となるとやはり陸軍しか動かざるを得ないか。
 店主からの情報にはミランとのやり取り、私への個人的なメッセージも入っていた。
 直接送ってこないあたりは用心深い。いや今私への監視が強化されてる可能性があるという事か。奴らめ逐一鬱陶しい。

「……作戦」
 学生時代の暗号だった。この暗号を使って、ふざけてよく作戦を考えていたな。
 ミランは先見の明があったからか、通信や情報機器の発達も予測していた。その上で起きる情報操作による争いの激化も視野に入れていた。
 あぁ、あの時散々ぱら言い争って生まれた作戦をさらに昇華してきたか。
 私の心配なんて必要もない。彼は非常に優秀だ。
 これなら大丈夫だろう。
 だが、長引けば長引くだけ不利になる。
 遠征を取りやめることは不可能。いくらミランでも中止を決定する権限はない。
「早く偉くなるんだったな」
 私もミランも早く偉くなりたかった。
 戦争ばかり起こそうとする奴ら。力だけで捻じ伏せて奪い取って大きくなろうと考える奴らを早く一掃したかった。
 戦争が起きれば市民が飢える。巻き込まれて死んでいく者も少なくない……父のように。
 学生時代、平和な世の中を見てみたくないか?とミランに言われたことがある。
 全ての国と和平を結ぶ。
 その上で、連携してお互いを豊かにする。
 勝つことだけを教えている士官学校の内容とは真逆のことを言ってきた。
 多くは世迷いごとだと笑うだろう。
 はっきりとそう言うミランが羨ましくて、私は彼の言葉に賛同した。
 私が元々入隊を目指したのも似たようなものだ。
 私は軍を解体したかった。
 争いをなくすにはそれが手っ取り早いと思ったからだ。
 思えば短絡的な考えだが、その先を考えているミランにも出会えたのは運が良かったと言わざるを得ない。

「……」
 呼び出しの音が鳴る。
 ノアの定期巡回の時間になっていたことに気付かなかった。
 ノアは部屋に入るなり眉根を寄せた。
「よう、少佐……どうした? 浮かない顔だな」
「次の遠征についてな」
「あぁ」
 やはり知っていたか。情報はミランからだろう。
 話によると研修医のノアはこちらに残ることが決まっている。
 遠征に出るのは3から5軍の兵達だ。
 ミランの直轄だけ丸ごと行かせるのか。
「大佐、相当忙しくなってるぜ。奴らが動く可能性も視野に入れてたから、まぁある程度は防げてるが」
「あちらもやり手だからな。どう掻い潜ってきたかは後で分析するにしても、遠征先との争いは避けないと」
「そりゃあな。大佐の作戦は知られてないのが幸いだ」
 私もノアも確信している。
 ミランの読みは正しく、そして成功する未来があることを。
 それなのに心が浮かないのは何故なのか。

「あぁ、兄貴も大体聞いてるみたいだぜ」
「少尉もか?」
「俺と同じぐらいじゃないか? あくまで断片的に。作戦の内容は少佐の方が詳しいだろう」
「そうだね」
 あの若者が内容と作戦を聞いて、冷静さを保てるだろうか。
 少尉になったからには小隊を率いてるわけだし、年の割に冷静ではある。戦場も初めてではないが。
「……少佐がそんな顔してたら兄貴が気に病むぞ」
「そんなに酷い顔をしているのか?」
 私の返しはノアにとって意外だったらしい。
 驚いた顔をして、困ったように笑う。
「少佐、変わったな」
「……どういうことだ?」
「んー、そうさな。情緒豊かになった感じか」
「ヒステリーなぞ起こしていない」
「はは! そうじゃねえって!」
 笑われた。そういうことではないようだ。
 ノアは少佐には愛が必要だと言ってくる。どういうことか聞いても、そこははぐらかされ、あまつさえ自分で考えろと言う。
 益々分からない。笑われた挙句、愛が必要とは。
「まぁ、おいおいわかるさ」
「そうか」
 本当に分からなかった時は教えてもらおう。
 そう返せばノアはさらに笑った。
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