退役して復讐しようとしたら告白を受けた

文字の大きさ
上 下
5 / 21

5話

しおりを挟む
 そもそも青年のことを調べてもらったのは、私自身の身の安全のためだ。幸い、店主やミランの親戚だったこともあり、人物としては問題なさそうだし、奴らの接触もない。
 後は日々の情報をもらればいいし、私に関わったことで危機が訪れたら最低限尽くすつもりだ。
 それは亡くなった彼女の代替でしていることなのかもしれない。そうだとしても、最低限の義理は尽くそう。
「君のことが好きなんだろう?」
「それはどこから仕入れた……」
「ミランが言っていた」
「あいつは」
 お喋り好きめ。
「いい男だと思うぞ?」
「君もか……」
「ん?」
「ミランも似たようなことを言っていた」
 光がどうとか。ようはあの年若い青年と私がどうにかなればいいと思っているのだろう。
「ほう、珍しく意見が一致したな」
「残念ながら、君達が期待するようなことはない」
「そうか」
 反応があっさりしてるところはミランよりマシか。
「それに私と彼は8つも離れているぞ」
 そうだ、年齢が随分と離れている。しかも私はこのご時世で言うなら旬を過ぎた女性だ。結婚適齢期は過ぎている。最もそういったことは気にしない性質だし、結婚願望というものもない。正直、退役後は復讐抜きにすれば余生を静かに過ごすつもりでいた。金銭については全く問題がないし、浪費もそこまでするわけでもないと自負している。
「それは当人同士がどう思うかさ」
 それに君はそういったことを気にしないだろう。と店主。
 やはりバレている。どう言い訳しても無駄か。
「おっと」
 店主が目配せで店の外を指し示す。
 振り返ると先程の少女が店の中を覗いていた。
「付いて来てしまったか」
「君のファンがまた増えたのか?」
「そうでもないさ」
 言って、店の扉を開ける。
 先程の少女が隠れる場所がなく狼狽しながら立ち尽くしている。
「ほら、入りなさい」
「あ、はい!」
 店に入って恥ずかしがり、目を泳がせる少女に店にある唯一のテーブルを案内する。現役時代はここで店主と茶をよく飲んでいたものだったな。口頭でのみ情報を必要としていたとき、口の動きは全く別で話したり、暗号交じりに会話したり。
 仕事のことばかりだったから、ここでなんてことなくお茶を頂くなんてことは初めてかもしれない。
「紅茶は飲めるかな?」
「はい!」
 彼女を迎え入れることを分かっていた店主は手早く準備してすぐに紅茶が出てきた。
 情報云々抜きにしてもここの紅茶は逸品だ。
「…おいしい」
「ふふ、だろうな」
 素直の反応に綻ぶ。薄く私が笑ったのを見て次に驚く。やはり素直な子だな。
「あの、さっきはありがとうございました!」
「私はただ道を通りたかっただけさ」
 大したことはしていない、と言うと、店主がこいつは照れてるだけだと余計なことを言う。
 軽く睨んでおけば、店主は何も見えてないとばかりに作業を続ける。神経図太い奴め。
 その内容が面白かったのか、目の前の少女が小さく笑った。
 丁寧な言葉遣いは不要だと少女に言うと嬉しそうにする。やはり彼女の年で敬語を使い分けるのは大変なのか。
「ねぇ、お姉さんすごく強いんだね!」
「ありがとう、人並み以上には強いだろうね」
 少女は実に楽しそうだった。私と会話して楽しそうな人間はそういない。これでも付き合いのある人間に限りがある。俗に言う狭く深くという人柄なのだろう。
 そういう意味では社交性のある少女のような人物は助かる。話を盛り上げてくれる、うまい具合に聞いてもくれる。若いながら将来性のある子だ。
 紅茶を2杯頂いて、店を出ることにした。最後に店主に用意させてた茶葉を少女に渡す。
「え?」
「今日飲んだものと同じ茶葉だ」
 ここのは逸品だからねと言って渡す。彼女は感動したのか私の思う以上に喜んでいた。どこかあの子とかぶる。
 兄が喜ぶと言って茶葉を掲げる。どうやら兄弟が多い様だ。その内の1番上の兄が最近紅茶を嗜んでいるという。
 店を後にして大通りまで少女を見送る。
 同じことは起きないだろうが念のためだ。
「では私はここで失礼しよう」
 大通り、人も多い場所で少女と別れる。
「お姉さん、どこに住んでるの?」
「あぁ、ここから北に進んだ所にある丘の上の家だよ」
「え!」
 あの大きな?と驚いている。しかもそこに1人で住んでいるが、それは言わないでおいておく。
「……あの、今度、遊びに行っても、いい?」
 どうやら相当好かれているらしい。その純粋な眼差しに戸惑う。私には復讐があるわけで。あぁうん可愛いらしいな。ミランがお前は可愛いものに弱いよなと呑気に言っていたのを今更思い出す。
「……かまわないよ」
「わ、ありがとう!」
 彼女はそう言って駆けていった。最近妙に出会いが多いものだ。後、やたら好かれているな、不思議なことに。
 まぁそもそもが少女なりの社交辞令だろう。実際来るとなれば両親も反対するに違いない。あちらからすれば、出会いが治安の悪い裏路地で、身元不明の大人だ。あまり気にしないでおこう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

命の質屋

たかつき
恋愛
【命の質屋】という超能力を手に入れた男。  思いがけず特殊な力を手に入れた男。  あるきっかけから新たなビジネスを始め、巨万の富を得ることになる。  同時期に親友の彼女からの紹介により出会った女性とも良好な関係を築いていくのだが……まさかの事態に。  男は難しい選択を迫られる事になる。  物のように命を扱った男に待ち受けていた運命とは?  タイトル以上にほのぼの作品だと思っています。  ジャンルは青春×恋愛×ファンタジーです。  ◇◆◇◆◇  お読み頂きありがとうございます!  ストックの無い状態から始めますので、一話あたり約千文字くらいでの連載にしようと思っています。  少しでも気になる、面白いと思って頂けましたら、リアクションをください! 励みになります!  どうぞ宜しくお願い致します!  

Bright Dawn

泉野ジュール
恋愛
吹きつける雪の中、ネル・マクファーレンは馬車に揺られ、悲しみに沈んでいた。 4年前に視力を失って以来、どんな男性も彼女と結婚しようとは思わなくなったのだ。そして今、性悪の従兄・ロチェスターに引き取られ、無理な結婚をするようほのめかされている。もう二度と、ネルの世界に光が差すことはないのだと諦めかけていた……突然現れた『彼』に、助けられるまで。 【『Lord of My Heart 〜呪われ伯爵は可愛い幼妻を素直に愛せない〜』のスピンオフです。小説家になろうにも掲載しています】

仲良く政略結婚いたしましょう!

スズキアカネ
恋愛
養女として子爵令嬢になったレイアに宛がわれた婚約者は生粋の貴族子息様だった。 彼が婿入りする形で、成り立つこの政略結婚。 きっと親の命令で婚約させられたのね、私もかわいそうだけど、この方もかわいそう! うまく行くように色々と提案してみたけど、彼に冷たく突き放される。 どうしてなの!? 貴族の不倫は文化だし、私は愛人歓迎派なのにオリバー様はそれらを全て突っぱねる。 私たちの政略結婚は一体どうなるの!? ◇◆◇ 「冷たい彼に溺愛されたい5題」台詞でお題形式短編・全5話。 お題配布サイト「確かに恋だった」様よりお借りしています。 DO NOT REPOST.

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...