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5話
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そもそも青年のことを調べてもらったのは、私自身の身の安全のためだ。幸い、店主やミランの親戚だったこともあり、人物としては問題なさそうだし、奴らの接触もない。
後は日々の情報をもらればいいし、私に関わったことで危機が訪れたら最低限尽くすつもりだ。
それは亡くなった彼女の代替でしていることなのかもしれない。そうだとしても、最低限の義理は尽くそう。
「君のことが好きなんだろう?」
「それはどこから仕入れた……」
「ミランが言っていた」
「あいつは」
お喋り好きめ。
「いい男だと思うぞ?」
「君もか……」
「ん?」
「ミランも似たようなことを言っていた」
光がどうとか。ようはあの年若い青年と私がどうにかなればいいと思っているのだろう。
「ほう、珍しく意見が一致したな」
「残念ながら、君達が期待するようなことはない」
「そうか」
反応があっさりしてるところはミランよりマシか。
「それに私と彼は8つも離れているぞ」
そうだ、年齢が随分と離れている。しかも私はこのご時世で言うなら旬を過ぎた女性だ。結婚適齢期は過ぎている。最もそういったことは気にしない性質だし、結婚願望というものもない。正直、退役後は復讐抜きにすれば余生を静かに過ごすつもりでいた。金銭については全く問題がないし、浪費もそこまでするわけでもないと自負している。
「それは当人同士がどう思うかさ」
それに君はそういったことを気にしないだろう。と店主。
やはりバレている。どう言い訳しても無駄か。
「おっと」
店主が目配せで店の外を指し示す。
振り返ると先程の少女が店の中を覗いていた。
「付いて来てしまったか」
「君のファンがまた増えたのか?」
「そうでもないさ」
言って、店の扉を開ける。
先程の少女が隠れる場所がなく狼狽しながら立ち尽くしている。
「ほら、入りなさい」
「あ、はい!」
店に入って恥ずかしがり、目を泳がせる少女に店にある唯一のテーブルを案内する。現役時代はここで店主と茶をよく飲んでいたものだったな。口頭でのみ情報を必要としていたとき、口の動きは全く別で話したり、暗号交じりに会話したり。
仕事のことばかりだったから、ここでなんてことなくお茶を頂くなんてことは初めてかもしれない。
「紅茶は飲めるかな?」
「はい!」
彼女を迎え入れることを分かっていた店主は手早く準備してすぐに紅茶が出てきた。
情報云々抜きにしてもここの紅茶は逸品だ。
「…おいしい」
「ふふ、だろうな」
素直の反応に綻ぶ。薄く私が笑ったのを見て次に驚く。やはり素直な子だな。
「あの、さっきはありがとうございました!」
「私はただ道を通りたかっただけさ」
大したことはしていない、と言うと、店主がこいつは照れてるだけだと余計なことを言う。
軽く睨んでおけば、店主は何も見えてないとばかりに作業を続ける。神経図太い奴め。
その内容が面白かったのか、目の前の少女が小さく笑った。
丁寧な言葉遣いは不要だと少女に言うと嬉しそうにする。やはり彼女の年で敬語を使い分けるのは大変なのか。
「ねぇ、お姉さんすごく強いんだね!」
「ありがとう、人並み以上には強いだろうね」
少女は実に楽しそうだった。私と会話して楽しそうな人間はそういない。これでも付き合いのある人間に限りがある。俗に言う狭く深くという人柄なのだろう。
そういう意味では社交性のある少女のような人物は助かる。話を盛り上げてくれる、うまい具合に聞いてもくれる。若いながら将来性のある子だ。
紅茶を2杯頂いて、店を出ることにした。最後に店主に用意させてた茶葉を少女に渡す。
「え?」
「今日飲んだものと同じ茶葉だ」
ここのは逸品だからねと言って渡す。彼女は感動したのか私の思う以上に喜んでいた。どこかあの子とかぶる。
兄が喜ぶと言って茶葉を掲げる。どうやら兄弟が多い様だ。その内の1番上の兄が最近紅茶を嗜んでいるという。
店を後にして大通りまで少女を見送る。
同じことは起きないだろうが念のためだ。
「では私はここで失礼しよう」
大通り、人も多い場所で少女と別れる。
「お姉さん、どこに住んでるの?」
「あぁ、ここから北に進んだ所にある丘の上の家だよ」
「え!」
あの大きな?と驚いている。しかもそこに1人で住んでいるが、それは言わないでおいておく。
「……あの、今度、遊びに行っても、いい?」
どうやら相当好かれているらしい。その純粋な眼差しに戸惑う。私には復讐があるわけで。あぁうん可愛いらしいな。ミランがお前は可愛いものに弱いよなと呑気に言っていたのを今更思い出す。
「……かまわないよ」
「わ、ありがとう!」
彼女はそう言って駆けていった。最近妙に出会いが多いものだ。後、やたら好かれているな、不思議なことに。
まぁそもそもが少女なりの社交辞令だろう。実際来るとなれば両親も反対するに違いない。あちらからすれば、出会いが治安の悪い裏路地で、身元不明の大人だ。あまり気にしないでおこう。
後は日々の情報をもらればいいし、私に関わったことで危機が訪れたら最低限尽くすつもりだ。
それは亡くなった彼女の代替でしていることなのかもしれない。そうだとしても、最低限の義理は尽くそう。
「君のことが好きなんだろう?」
「それはどこから仕入れた……」
「ミランが言っていた」
「あいつは」
お喋り好きめ。
「いい男だと思うぞ?」
「君もか……」
「ん?」
「ミランも似たようなことを言っていた」
光がどうとか。ようはあの年若い青年と私がどうにかなればいいと思っているのだろう。
「ほう、珍しく意見が一致したな」
「残念ながら、君達が期待するようなことはない」
「そうか」
反応があっさりしてるところはミランよりマシか。
「それに私と彼は8つも離れているぞ」
そうだ、年齢が随分と離れている。しかも私はこのご時世で言うなら旬を過ぎた女性だ。結婚適齢期は過ぎている。最もそういったことは気にしない性質だし、結婚願望というものもない。正直、退役後は復讐抜きにすれば余生を静かに過ごすつもりでいた。金銭については全く問題がないし、浪費もそこまでするわけでもないと自負している。
「それは当人同士がどう思うかさ」
それに君はそういったことを気にしないだろう。と店主。
やはりバレている。どう言い訳しても無駄か。
「おっと」
店主が目配せで店の外を指し示す。
振り返ると先程の少女が店の中を覗いていた。
「付いて来てしまったか」
「君のファンがまた増えたのか?」
「そうでもないさ」
言って、店の扉を開ける。
先程の少女が隠れる場所がなく狼狽しながら立ち尽くしている。
「ほら、入りなさい」
「あ、はい!」
店に入って恥ずかしがり、目を泳がせる少女に店にある唯一のテーブルを案内する。現役時代はここで店主と茶をよく飲んでいたものだったな。口頭でのみ情報を必要としていたとき、口の動きは全く別で話したり、暗号交じりに会話したり。
仕事のことばかりだったから、ここでなんてことなくお茶を頂くなんてことは初めてかもしれない。
「紅茶は飲めるかな?」
「はい!」
彼女を迎え入れることを分かっていた店主は手早く準備してすぐに紅茶が出てきた。
情報云々抜きにしてもここの紅茶は逸品だ。
「…おいしい」
「ふふ、だろうな」
素直の反応に綻ぶ。薄く私が笑ったのを見て次に驚く。やはり素直な子だな。
「あの、さっきはありがとうございました!」
「私はただ道を通りたかっただけさ」
大したことはしていない、と言うと、店主がこいつは照れてるだけだと余計なことを言う。
軽く睨んでおけば、店主は何も見えてないとばかりに作業を続ける。神経図太い奴め。
その内容が面白かったのか、目の前の少女が小さく笑った。
丁寧な言葉遣いは不要だと少女に言うと嬉しそうにする。やはり彼女の年で敬語を使い分けるのは大変なのか。
「ねぇ、お姉さんすごく強いんだね!」
「ありがとう、人並み以上には強いだろうね」
少女は実に楽しそうだった。私と会話して楽しそうな人間はそういない。これでも付き合いのある人間に限りがある。俗に言う狭く深くという人柄なのだろう。
そういう意味では社交性のある少女のような人物は助かる。話を盛り上げてくれる、うまい具合に聞いてもくれる。若いながら将来性のある子だ。
紅茶を2杯頂いて、店を出ることにした。最後に店主に用意させてた茶葉を少女に渡す。
「え?」
「今日飲んだものと同じ茶葉だ」
ここのは逸品だからねと言って渡す。彼女は感動したのか私の思う以上に喜んでいた。どこかあの子とかぶる。
兄が喜ぶと言って茶葉を掲げる。どうやら兄弟が多い様だ。その内の1番上の兄が最近紅茶を嗜んでいるという。
店を後にして大通りまで少女を見送る。
同じことは起きないだろうが念のためだ。
「では私はここで失礼しよう」
大通り、人も多い場所で少女と別れる。
「お姉さん、どこに住んでるの?」
「あぁ、ここから北に進んだ所にある丘の上の家だよ」
「え!」
あの大きな?と驚いている。しかもそこに1人で住んでいるが、それは言わないでおいておく。
「……あの、今度、遊びに行っても、いい?」
どうやら相当好かれているらしい。その純粋な眼差しに戸惑う。私には復讐があるわけで。あぁうん可愛いらしいな。ミランがお前は可愛いものに弱いよなと呑気に言っていたのを今更思い出す。
「……かまわないよ」
「わ、ありがとう!」
彼女はそう言って駆けていった。最近妙に出会いが多いものだ。後、やたら好かれているな、不思議なことに。
まぁそもそもが少女なりの社交辞令だろう。実際来るとなれば両親も反対するに違いない。あちらからすれば、出会いが治安の悪い裏路地で、身元不明の大人だ。あまり気にしないでおこう。
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