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4話
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「少佐殿、お身体の具合はいかがでしょう?」
嬉しそうにここに来るようになってしまった。
なんてことだ、意外と諦めない。いや、それでこそ軍に所属してるだけあるのかもしれない。強い精神を持つことは軍には必須だ。
「……身体の心配はもういい」
会う度に応えるのも億劫になり、うっかり口にする。
それでも彼はいいように捉えるのか、はいとはっきりとしたいい返事をする。
このやや手に負えない感はミランに似ているな。すべてこの言葉で片付けるのは気が引けるが血筋かと、つい思ってしまう。
「……それで弟たちが、……」
彼がきても大したことはしない。
軍のことを少し、大方は彼の兄弟のことや街の事など、当たり障りないことを話していく。
幸い、あの時ミランからもらった茶葉が役に立っているから、茶をだすことに困らない。
最も茶葉は建前で本来はその中の物に用があっただけなのだが。
「ふむ。少尉、少し体術に付き合ってくれるかな?」
「は、はい!ですが」
よろしいのでしょうかと青年。
身体を心配してのことだろうが、気にせず外にださせて強引に始める。
あの日は簡単にひっくり返ったが、今はそうもいかない。
フェイントも効かない、合気を使ってもそう簡単に流れてくれない。
「うむ、まだ全快には遠いか……」
「……じ、充分、かと」
彼の息切れと汗の具合を見ても私自身の力はまだ及ばない。
まあ奴らと対峙して戦うわけではないから正直この五分の力でも問題ない気もするが。
そろそろ動こうか。
「また伺います」
「あぁ」
君も懲りないな、と言っても、もちろんですと返ってくる。
不思議な青年だ。
現役時代もああいう、ミランの言葉を借りるならファンみたいなのはいたが。
実際自分が指揮する部隊も似たようなものだったか。私は快活でない方だが周りにはよく社交が得意な面々がいたかな。ただ純粋に慕ってもらえることは軍で生き抜く為の源だった。
今になってわかるとはなんとも滑稽だ。感謝の言葉も残さないまま退役するとは。
「……さて」
少尉が帰り、私は身支度をして丘を下った。
街へ入れば、彼が話してたように変わりはないようだ。
街の奥まった路地へ入る。居住区でも繁華街でもない人通りの少ない場所。
「やめてよ!」
おや、珍しい。
道の先に可愛いらしい少女1人と取り囲む大人……3人、40代後半から50代男性、人攫いか暴行目的か、犯罪指数はだいぶ減らしたんだがな。やはりそう簡単に0にはならないか。
道を塞ぐ彼らに迫る。
直前になってやっと気づいたようで、なんだと声を荒げて掴みかかろうとしてきたので、ひっくり返してやった。受け身をとれなかったのかその場で意識を離す。
「私はこの先に用があるんだが」
と言って道を素直に開けてくれるような連中ではなかった。残念だが、これもよく経験している。
聞き取りづらい罵声を飛ばして突っ込んで来るので、先程少尉にかけた組み手をまま再現する。
やはり素人、あっさりフェイントにかかるし、合気もかければうまく流され壁に突き当たる。
「なるほど、そこまで衰えてはいないな」
さすがミランが言う大型ルーキーか、才に溢れているようだ。
最もエキスパートである軍所属の我々とそのへんの素人を比べるのも失礼なことではあるな。
「う、わ、」
可憐な少女は道に座り込みながら驚いた様子で私を見上げる。急な話だ驚くだろう。
「このあたりはまだ治安が悪い。大通りを歩くといい」
指差す先は明るい大通りだ。人目がある分安全だろう。
そう彼女に伝え、私は道を進んだ。
道を曲がりさらに奥へ進むと小さな小屋がある。
一応店舗だ。明らかに儲けない立地だが。
「おぉ、街を歩けるようになったか」
「あぁ」
店に入れば、見慣れた顔が迎えてくれる。
ミランと私と店主とで同い年、入隊していれば同期になるはずだった男。
店主は入隊せず、こんな場所で茶葉を売っている。大の茶好きの選ぶ茶葉はどれも格段に新鮮で美味しいし、あまり市場で見ない諸外国の茶葉も置いてある。
最も、その茶を純粋に求めてる客は数えるほどだろう。
「いつものをもらおうか」
「あぁ、用意してある」
カウンターに置かれる小筒。缶入りの茶葉、この中身に私は用がある。
「今日は話しても大丈夫のようだから言うが、奴らにまだ動きはなさそうだぞ」
「そうか」
「件の内容も追加分が入ってるぞ」
相変わらず仕事が早い。
そう、この茶葉の中には小型のデータ保存機器が入っている。
ここの店主は一部の軍の者とつながりのある情報屋だ。
最も奴らは利用することは一切ないし、嗅ぎ付けられてないのかそれらしい者の訪問もない。
私の家より警備や安全性は高いから店主が問題ないと言う時は何を話してもいい時だ。
「助かるよ」
「後、追加分だな」
もう一缶出てくる。
「君もなかなか酔狂な事になっているな」
「……そうだな、ミランが笑うぐらいだからな」
「ルーカスには俺も何度か会ったことがあるぞ」
「そうか」
「こいつですら守ろうとするあたり、君もなかなか優しいな」
「そうでもないさ」
なにせ私は復讐をしようとしてる人間なんだから。
嬉しそうにここに来るようになってしまった。
なんてことだ、意外と諦めない。いや、それでこそ軍に所属してるだけあるのかもしれない。強い精神を持つことは軍には必須だ。
「……身体の心配はもういい」
会う度に応えるのも億劫になり、うっかり口にする。
それでも彼はいいように捉えるのか、はいとはっきりとしたいい返事をする。
このやや手に負えない感はミランに似ているな。すべてこの言葉で片付けるのは気が引けるが血筋かと、つい思ってしまう。
「……それで弟たちが、……」
彼がきても大したことはしない。
軍のことを少し、大方は彼の兄弟のことや街の事など、当たり障りないことを話していく。
幸い、あの時ミランからもらった茶葉が役に立っているから、茶をだすことに困らない。
最も茶葉は建前で本来はその中の物に用があっただけなのだが。
「ふむ。少尉、少し体術に付き合ってくれるかな?」
「は、はい!ですが」
よろしいのでしょうかと青年。
身体を心配してのことだろうが、気にせず外にださせて強引に始める。
あの日は簡単にひっくり返ったが、今はそうもいかない。
フェイントも効かない、合気を使ってもそう簡単に流れてくれない。
「うむ、まだ全快には遠いか……」
「……じ、充分、かと」
彼の息切れと汗の具合を見ても私自身の力はまだ及ばない。
まあ奴らと対峙して戦うわけではないから正直この五分の力でも問題ない気もするが。
そろそろ動こうか。
「また伺います」
「あぁ」
君も懲りないな、と言っても、もちろんですと返ってくる。
不思議な青年だ。
現役時代もああいう、ミランの言葉を借りるならファンみたいなのはいたが。
実際自分が指揮する部隊も似たようなものだったか。私は快活でない方だが周りにはよく社交が得意な面々がいたかな。ただ純粋に慕ってもらえることは軍で生き抜く為の源だった。
今になってわかるとはなんとも滑稽だ。感謝の言葉も残さないまま退役するとは。
「……さて」
少尉が帰り、私は身支度をして丘を下った。
街へ入れば、彼が話してたように変わりはないようだ。
街の奥まった路地へ入る。居住区でも繁華街でもない人通りの少ない場所。
「やめてよ!」
おや、珍しい。
道の先に可愛いらしい少女1人と取り囲む大人……3人、40代後半から50代男性、人攫いか暴行目的か、犯罪指数はだいぶ減らしたんだがな。やはりそう簡単に0にはならないか。
道を塞ぐ彼らに迫る。
直前になってやっと気づいたようで、なんだと声を荒げて掴みかかろうとしてきたので、ひっくり返してやった。受け身をとれなかったのかその場で意識を離す。
「私はこの先に用があるんだが」
と言って道を素直に開けてくれるような連中ではなかった。残念だが、これもよく経験している。
聞き取りづらい罵声を飛ばして突っ込んで来るので、先程少尉にかけた組み手をまま再現する。
やはり素人、あっさりフェイントにかかるし、合気もかければうまく流され壁に突き当たる。
「なるほど、そこまで衰えてはいないな」
さすがミランが言う大型ルーキーか、才に溢れているようだ。
最もエキスパートである軍所属の我々とそのへんの素人を比べるのも失礼なことではあるな。
「う、わ、」
可憐な少女は道に座り込みながら驚いた様子で私を見上げる。急な話だ驚くだろう。
「このあたりはまだ治安が悪い。大通りを歩くといい」
指差す先は明るい大通りだ。人目がある分安全だろう。
そう彼女に伝え、私は道を進んだ。
道を曲がりさらに奥へ進むと小さな小屋がある。
一応店舗だ。明らかに儲けない立地だが。
「おぉ、街を歩けるようになったか」
「あぁ」
店に入れば、見慣れた顔が迎えてくれる。
ミランと私と店主とで同い年、入隊していれば同期になるはずだった男。
店主は入隊せず、こんな場所で茶葉を売っている。大の茶好きの選ぶ茶葉はどれも格段に新鮮で美味しいし、あまり市場で見ない諸外国の茶葉も置いてある。
最も、その茶を純粋に求めてる客は数えるほどだろう。
「いつものをもらおうか」
「あぁ、用意してある」
カウンターに置かれる小筒。缶入りの茶葉、この中身に私は用がある。
「今日は話しても大丈夫のようだから言うが、奴らにまだ動きはなさそうだぞ」
「そうか」
「件の内容も追加分が入ってるぞ」
相変わらず仕事が早い。
そう、この茶葉の中には小型のデータ保存機器が入っている。
ここの店主は一部の軍の者とつながりのある情報屋だ。
最も奴らは利用することは一切ないし、嗅ぎ付けられてないのかそれらしい者の訪問もない。
私の家より警備や安全性は高いから店主が問題ないと言う時は何を話してもいい時だ。
「助かるよ」
「後、追加分だな」
もう一缶出てくる。
「君もなかなか酔狂な事になっているな」
「……そうだな、ミランが笑うぐらいだからな」
「ルーカスには俺も何度か会ったことがあるぞ」
「そうか」
「こいつですら守ろうとするあたり、君もなかなか優しいな」
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なにせ私は復讐をしようとしてる人間なんだから。
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