敵で好敵手の想い人に褒賞で婚約させられた私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝】

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28話 戦いの最中の口付け

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「さすが武器を不法取引してるだけあるな」
「扱い慣れているし、戦い慣れてもいる」

 蛮族包囲網、最初の戦い。相手は蛮族と武器等の取引をしている別の組織だ。
 ここの種族は元々小さな集落だった。蛮族との武器の取引で利益を得て発展している。武器の質は良く、妙に戦い慣れをしていた。恐らく、武器取引と引き換えに武力を得たのだろう。すなわち、この中には蛮族の一部もいるといっていい。
 こちらの和平交渉に乗らなかったのだから、帝国に落とされない自負もあるのだろう。

「団長自ら出て指揮をあげても、か……」

 私もヴォックスも今、前衛にでている。挟み撃ちされないよう騎士を配置したのもあり、前線の数は普段より少ないが、ここまで手こずるとは考えてなかった。

「地形上、馬は使えない。先に行こうとしても、あちらの弓や罠のせいで進みが遅いからな」
「……なら団長殿、一つ許しを得たいことが」
「どうした?」
「私が飛び込んで道を開きましょう」

 また君はと少し呆れた顔をする。
 こんな木の陰に隠れて立ち往生しているのも勿体無いし、考えを張り巡らせるのもできるが性に合わない。手っ取り早く斬り込んで勢いで相手陣形を崩したかった。

「今一番有効な手だと思いますが?」
「……」
「団長か私の実力なら弓や罠を掻い潜って辿り着けます。けど、団長は残っていた方がいいでしょう?」

 渋々といった様子だった。
 駄目だと言っても出ていくと分かっているのだろう。神妙な顔をしたまま無言になってしまった。
 その姿に苦笑する。心配してくれるのはありがたいがお互い騎士をする身で、かつては本気で剣を交えた相手だ。いつ命を落とすかもしれないのは充分理解している。

「すぐに続いてくれればいいし、私のすぐ後ろに数人連れていこう。合図は笛の音で」
「……ユツィ」

 名前で呼ぶ。
 本気で殺しあったあの時も気持ちが苦しかったなと、ふと思い出してしまった。
 木の陰に私とヴォックスだけ。
 周囲とは距離もあり、敵側からの攻撃で意識はそちらに集中している。
 魔が差したと言えば、そうなのかもしれない。

「ユ、ツィ?」

 どこから見ても死角になるだろう形でヴォックスの頬に唇を寄せた。頬というよりも米神に近いか。
 いつになく目を開いたヴォックスを見て笑ってしまう。

「いってくる」

 正直油断させて飛び出す作戦でもあったけど、この口付けには充分自身の気持ちが含まれていた。公私混同しているのは私の方だと自分自身に笑う。

「副団長!」

 ヴォックスに精鋭がつくように私にも三人直属の部下がいる。後方に大きく声をかければ、難しい戦場にも関わらず走り出てきた。私の後ろで安全を確保しながら進むよう伝え駆け出す。
 当然矢の集中砲火を浴びるが全て剣で切り落とし、罠は見えれば斬った上で潜り抜けた。ヴォックスたちが続きやすいようにしないとだ。

「久しぶりかな?」

 ひりついたこの感じ。ヴォックスと相対した以来だろうか。場違いなのに笑いしか出てこない。

「ふ、副団長!」

 焦る声に前を見据えたまま進む速さを少し落とす。ついてこれなかっただろうかと思ったら、駆け込む複数の騎士の足音が聞こえた。

「副、団長っ、だ、だ」
「落ち着いて。はっきり話して」
「団長が全軍率いて後方から来てます!」
「はああ?!」

 早すぎる。
 笛の音すら出していないし、相手陣形を崩す以前に辿り着いていない。こちらが負傷したわけでもないのに何故?
 矢を防ぎながら後ろを向く。
 本当に全軍率いて来ていた。

「ええ……ああもう! 少しでも進みます!」
「はい!」

 しかしすぐに追い付かれる。しかも何故かヴォックスだけが飛び出してきて、私の横に並んだ。

「団長、何故?!」

 互いに並んで矢を躱す。
 何か作戦を変更せざるを得ないことが起きたのだろうか。挟み撃ちにされないようしていたから蛮族が現れようが援軍がこようが対応できるはずだ。

「……だ」
「え?」

 ヴォックスが加わる事で馬力があがったせいか、進みが良くなった。
 罠や矢、騎士達の声に搔き消されて聞こえなかった言葉をもう一度願うと眉間に皺を寄せたヴォックスが唸った。

「さっきのはなんだ?!」
「え?!」
「何故口付けした?!」
「え?!」

 そ、そこ?!
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