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19話 贈り物習慣の変化
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「ユツィこれを」
「ああ、ありがとう」
酔っぱらった勢いで同じベッドに寝た日から、何故かヴォックスは人のいる前で贈り物をするようになった。花は結局別棟に飾るわけだから、逐一戻らなければならない。そう思うと二人でいる時に渡した方が効率がいいのに、それを指摘しても断られた。譲る気もなさそうだ。
それ以外は特段態度は変わらない。貰うと嬉しそうに目を細める。
「副団長、今日はなにを貰ったんですか?」
「あ、ああ。いつもの花と……」
贈り物に変化が出てきた。
「……え、研磨剤」
「丁度切らしてたからありがたいですね」
「え? えー?」
花に加えて一つ増え、花瓶でない日は実用的な物が添えられるようになった。ある時、手入れの何かをきらしただのやれ何が足りないだの、私がぼそりと放った独り言を覚えていたのか贈り物として加えてくるようになる。騎士として必要なら経費で落とせるのに、わざわざ贈り物とすることに疑問はあった。けど、受け取ると満足そうなので何も言えないでいる。
「色気なさすぎじゃ?!」
「でも便利ですし、必要なものですし」
いつぞや王女殿下に言われたことと同じことを言われる。今回は私にではなくヴォックスに対しての言葉だけど。
私としてはとても嬉しい贈り物なのに、周囲は微妙な顔をしている。
「いいんですかそれで?!」
何故周囲が騒がしくなるのか分からないが、構わないことだし以前王女殿下に言われた私自身をフォローする面も兼ねてヴォックスを擁護した。
「私の欲しいものを覚えて、こうしてくれるのだから充分でしょう」
「……あ、さいで」
「ええ……研磨剤で惚気あるとは思いませんでした……」
「惚気?」
またまた~と周囲がにやにやし始める。この手の話は女性の方が好きかと思ったがそうでもないらしい。というよりも刺激が少ないから些細なことでも面白いといったところだろうか。
「団長って、すごく副団長のこと好きですもんね」
「名前で呼ぶのですら許さないし近づくのも嫌がるし」
「男の嫉妬格好悪いって話したら、あからさまに落ち込んでましたしね」
「それに副団長だって満更でもないでしょう?」
話を振られ一瞬どきりとするも、努めて冷静に返した。
「私と彼の婚約は政治的に利用価値があったから」
途端ブーイングだ。政治的要因があったと新聞記事にもなったし、周囲も理解しているはずなのに。
やはりヴォックス、周囲からの支持が厚い。故に彼の幸せを願う騎士が多いのだろう。素晴らしい事だ。
「団長のこと好きでしょう?」
だからと言って私に話を振るのもどうなのだろう。ここは昼下がりの貴婦人の集う茶会かという突っ込みが入った。
「人として尊敬しています」
「そういう返事は期待してませんよ」
「……彼は私の故郷も家族も奪った人ですね?」
その言葉にうぐっと周囲が言葉につまる。ずるいことを指摘してると思うがこれしか言い訳がなかった。
「私が側付きをしていたレースノワレ王国第一王女も失いました」
「……」
「この話はやめましょう。辛気臭い」
「……副団長! 割りきった関係ならわざわざ贈り物なんてしませんよ!」
「そうです、団長そんな器用じゃないです!」
「政治がどうこうなら、こんなことしないでしょう!」
「ええ」
私の笑顔の反応に、そうじゃないと周囲が各々に、がくりと肩を落としていた。仕方ないだろう。
割りきれないのは私、子供な自分を笑った。
周囲の方がよほど理解がある。その中には当然レースノワレ王国の騎士もいた。同じ元王国民でも彼らはもう前を向いている。私だけ、取り残されて進んでいない。
「副団長に伝わってない……」
「貰った後あんなに嬉しそうにしてるくせに……」
周囲の小言は無視だ。
私自身がよく分かっている。割り切れていないこと。嬉しい気持ちと許せない気持ちがないまぜになって当たり障りな距離感をとろうとしている。
大人げないのは私で、ヴォックスはあくまで寄り添ってくれている。
「私のことは置いといて、鍛練を始めましょう」
「えー」
「あれ、今日は帝都に行かないんですか?」
「当面は行かないけれど」
帝都見回りは遠征前に体制を再編成し、安定をはかれたのでなしとなった。今となっては少し淋しい。
帝国民は王国民に対して同情的でもあり排他的でもあったが、見回りが終わる頃には王国民である私と話をしてくれる国民もいた。
「次の遠征には城守り以外の騎士全てが出る。入念に準備をしないと」
いい返事が周囲から聞こえる。切り替えの早さは素晴らしいな。
「ああ、ありがとう」
酔っぱらった勢いで同じベッドに寝た日から、何故かヴォックスは人のいる前で贈り物をするようになった。花は結局別棟に飾るわけだから、逐一戻らなければならない。そう思うと二人でいる時に渡した方が効率がいいのに、それを指摘しても断られた。譲る気もなさそうだ。
それ以外は特段態度は変わらない。貰うと嬉しそうに目を細める。
「副団長、今日はなにを貰ったんですか?」
「あ、ああ。いつもの花と……」
贈り物に変化が出てきた。
「……え、研磨剤」
「丁度切らしてたからありがたいですね」
「え? えー?」
花に加えて一つ増え、花瓶でない日は実用的な物が添えられるようになった。ある時、手入れの何かをきらしただのやれ何が足りないだの、私がぼそりと放った独り言を覚えていたのか贈り物として加えてくるようになる。騎士として必要なら経費で落とせるのに、わざわざ贈り物とすることに疑問はあった。けど、受け取ると満足そうなので何も言えないでいる。
「色気なさすぎじゃ?!」
「でも便利ですし、必要なものですし」
いつぞや王女殿下に言われたことと同じことを言われる。今回は私にではなくヴォックスに対しての言葉だけど。
私としてはとても嬉しい贈り物なのに、周囲は微妙な顔をしている。
「いいんですかそれで?!」
何故周囲が騒がしくなるのか分からないが、構わないことだし以前王女殿下に言われた私自身をフォローする面も兼ねてヴォックスを擁護した。
「私の欲しいものを覚えて、こうしてくれるのだから充分でしょう」
「……あ、さいで」
「ええ……研磨剤で惚気あるとは思いませんでした……」
「惚気?」
またまた~と周囲がにやにやし始める。この手の話は女性の方が好きかと思ったがそうでもないらしい。というよりも刺激が少ないから些細なことでも面白いといったところだろうか。
「団長って、すごく副団長のこと好きですもんね」
「名前で呼ぶのですら許さないし近づくのも嫌がるし」
「男の嫉妬格好悪いって話したら、あからさまに落ち込んでましたしね」
「それに副団長だって満更でもないでしょう?」
話を振られ一瞬どきりとするも、努めて冷静に返した。
「私と彼の婚約は政治的に利用価値があったから」
途端ブーイングだ。政治的要因があったと新聞記事にもなったし、周囲も理解しているはずなのに。
やはりヴォックス、周囲からの支持が厚い。故に彼の幸せを願う騎士が多いのだろう。素晴らしい事だ。
「団長のこと好きでしょう?」
だからと言って私に話を振るのもどうなのだろう。ここは昼下がりの貴婦人の集う茶会かという突っ込みが入った。
「人として尊敬しています」
「そういう返事は期待してませんよ」
「……彼は私の故郷も家族も奪った人ですね?」
その言葉にうぐっと周囲が言葉につまる。ずるいことを指摘してると思うがこれしか言い訳がなかった。
「私が側付きをしていたレースノワレ王国第一王女も失いました」
「……」
「この話はやめましょう。辛気臭い」
「……副団長! 割りきった関係ならわざわざ贈り物なんてしませんよ!」
「そうです、団長そんな器用じゃないです!」
「政治がどうこうなら、こんなことしないでしょう!」
「ええ」
私の笑顔の反応に、そうじゃないと周囲が各々に、がくりと肩を落としていた。仕方ないだろう。
割りきれないのは私、子供な自分を笑った。
周囲の方がよほど理解がある。その中には当然レースノワレ王国の騎士もいた。同じ元王国民でも彼らはもう前を向いている。私だけ、取り残されて進んでいない。
「副団長に伝わってない……」
「貰った後あんなに嬉しそうにしてるくせに……」
周囲の小言は無視だ。
私自身がよく分かっている。割り切れていないこと。嬉しい気持ちと許せない気持ちがないまぜになって当たり障りな距離感をとろうとしている。
大人げないのは私で、ヴォックスはあくまで寄り添ってくれている。
「私のことは置いといて、鍛練を始めましょう」
「えー」
「あれ、今日は帝都に行かないんですか?」
「当面は行かないけれど」
帝都見回りは遠征前に体制を再編成し、安定をはかれたのでなしとなった。今となっては少し淋しい。
帝国民は王国民に対して同情的でもあり排他的でもあったが、見回りが終わる頃には王国民である私と話をしてくれる国民もいた。
「次の遠征には城守り以外の騎士全てが出る。入念に準備をしないと」
いい返事が周囲から聞こえる。切り替えの早さは素晴らしいな。
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