旦那様を救えるのは私だけ!

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49話 ラスボス登場

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「まさか」
「そのまさかだな」

 かかる声に起きてる者達の視線が集まる。
 観客席、先頭に位置する席には王陛下ふまえ、名立たる長が座している。その一つの席にいた声の主がゆっくり立ち上がった。その姿に旦那様が、眉根を寄せ訝しんだ様子で声をかけた。

「魔術師長?」
「……まさか」
「クラシオン?」
「失念していました。旦那様、魔術師長の名前が」
「え、また名前?」

 魔術師長が私達と向かい合うところまでやってくる。そうだ、魔術師長の名前。
 他の四人程、はっきり分かりやすく存在しているわけではない。けど、よくよく考えれば彼しかいないのだわ。
 魔術師長がゆったりとした声音で敢えて名乗りを上げた。

「私の名は、ドゥランテラノッチェ・クラロスクーロ・エンボスカーダ」
「な、なんということでしょう」
「え? クラシオン、まさかとは思うが……」
「彼がオスクロです!」
「ああ、そうなるのか。この流れだものな……」

 ドゥランテラノッチェ・クラロスクーロ・エンボスカーダ魔術師長。
 durantelanoche claroscuro emboscada、その名の中にオスクロがしっかり入っている。挙句、ノッチェまで。

「まさか最終形態に至っているとは」
「え? 最終形態?」

 スプレ、スプリミと通して存在するオスクロは、スプリミクライマックス編にて最終形態に至る。私達戦士は、最終戦でその姿に戦慄を覚えたものだったわ。

「それが真の姿なのですね」
「ノッチェオスクラとは私の事」
「魔術師長、ノリが良すぎる」

 伯爵とは違った笑みを浮かべて立つオスクロは、スプレを通り越してスプリミで見た最終形態、ノッチェオスクラに変貌していたなんて。やはり私の目覚めが遅すぎたのだわ。今まで油断していたのもあるだろう。スプレ基準でしか考えていなかった私の視野が狭かった。
 でも、今は後悔している場合ではないわね。

「オスクロ、貴方の目的はこの国を意のままにすることですね」
「あ、この流れ、まさか……」

 元々、オスクロは魔法の才に恵まれていた。旦那様と変わらない年齢で、魔術師長に上り詰め、どの隣国の魔法使いも敵わないと謳われている。それこそ伝説と呼ばれるぐらいの力の持ち主。
 旦那様も若くして騎士団長に至った稀有なタイプだけど、オスクロも同じ。やはりこの国はあるべくして存在しているのね。自然と集まってくる才ある者達は、十中八九スプレ、スプリミの世界だからこそ。
 そんな相対したオスクロが私の言葉に同調した。

「良く分かっているな」
「やはり」

 旦那様が複雑そうな顔をしている。いやまあ自供が一番楽だけど、と僅かに聞こえる程の囁きを発していた。
 旦那様が再度、オスクロに今までのこと、アルコとフレチャ、大宰相サンドグリアルやフォーレ伯爵の事を確認すれば、オスクロはどこか満足そうにすんなりと頷き、自分がしたことだと認めた。
 旦那様の戸惑いは増したけど、そこは騎士として毅然と対応している。今回は旦那様にこれ以上説明しなくても大丈夫そうでよかった。

「ここで投降をして頂けるのですか?」
「するわけがない」

 意志強く、はっきり投降を拒否するオスクロに対し、旦那様は何故このようなことをするのか疑問を呈した。それもそうね。悪の統治者オスクロの目的は国を意のままにすること。わざわざここで表に出てきて、それを宣言する必要なく、むしろオスクロはこれを秘密裏に進めたかったはず。
 わざわざ出てきた理由は確かに不明確。けど、クライマックス編では出て来ざるを得ない。幹部クラスは消えた後、テレビの向こうのオスクロは、ここまできたら私自ら出るしかあるまいと言いきっていたはずだ。

「ん、やっぱやめだな」
「ん?」
「それっぽくしてもなー、あーあ、もー、本っ当最悪」
「え?」
「てかさー、俺、ティアちゃん推しなんだけど、どうしてお前達だけなわけ?」

 目の前のオスクロは大きく溜息を吐いて、後頭部を乱雑に掻き、今まで見た事のない表情で悪態を吐いたのだった。

「え? 俺?」

 旦那様が戸惑っている。それは周囲も同じだった。

「せめてティアちゃん出せよ。主人公だろ?!」
「魔術師長?!」

 突如、オスクロの態度が豹変し、その場に一種の静寂が訪れた。
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