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47話 伯爵の魔の手
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旦那様と同等の力で相対している伯爵。おそらく強化しているのだろう。旦那様を見据えたまま、私に語りかける。
「貴方のかけている認知のずれの魔法は解除してあります」
「え……」
変身と同時にかけられる、認識の魔法。私が戦士と知られない為の魔法を、解除されている?
私はね、と伯爵が言葉を続けた。
「宮廷音楽師ではないんですよ」
「どういうことだ」
「私、向こうでは魔術師長なんですよ。魔法使いとしては、そこそこの自負がありまして」
「だから、私の魔法を?」
ええ、と頷く伯爵。
元々伯爵には私の魔法はきいていなかった。今ここで再度魔法を使っても、伯爵に相殺されてしまうだろう。
つまり、今私が変身すれば、周囲に正体が知られてしまうということだ。
「私はこの状況をいつでも元に戻せます。貴方が変身すると同時に解けば、この場にいる全員が貴方の正体を知るでしょう」
正体が知られることは戦士としてタブーというわけではない。ペナルティーがあるのはシリーズの中でも一つだけ、スプレもスプリミもそこは寛容だ。
でも、この場では些か問題がある。分かりますかと伯爵が楽しそうに頷いた。
「さすがですねえ。王陛下に知られるのは勿論ですが、私が貴方より先に認知のずれを起こさせると分かっていますね?」
加えて、周囲を巻き込んで戦えない。戦闘すら縁のない者も多い。社交界のバルコニーのように騎士と私と敵だけでもなく、劇場や街中のように避難もすんでいない。
そして一番懸念されるのが、伯爵の言う通り、伯爵のかけた魔法によって私が敵とみなされることだ。私だけならまだしも、私の正体を認識した上で敵と認知した場合、カミラや旦那様に被害が及ぶ。旦那様やカミラが伯爵の魔法にかからなかったとしても、周囲の動揺は避けられない。騎士達の統率に乱れも入るなら、なおさら伯爵の思う通りになってしまう。
「私は混乱を招く分には構いませんよ」
「私は……」
「クラシオン!」
旦那様が大きな声をあげた。私を呼ぶためだけに、その声の量は珍しかった。
「変身していい!」
その言葉に一番驚いたのは伯爵だった。驚きに目を開いて、鍔迫り合いを続ける旦那様に視線を戻した。
「けど、旦那様!」
「私の事なら気にするな! 騎士達に私に何が起きても観客は守れと伝えてもいる。王陛下の側付は下手な魔法使いより優秀だから問題ない」
「旦那様、でも」
「ここまで変身され続けてれば、もう慣れた!」
何おかしな事をと伯爵が初めて不快感を顕わにした。旦那様に対してだ。
「やれ! 不本意ながら、戦士である時の君が一番輝いている!」
「旦那様!」
「それに、君は私が守る! だから安心して戦ってくれていい!」
旦那様が応援して下さった。私を、戦士としての私を!
そう言われたら、迷うことはないのだわ。
「私、やります!」
変身する。そうだ、私には悪を討つという使命がある。こんなところで変身をやめるわけにはいかないのだわ。
「貴方、奥方が戦士とやらをするのに反対してたのでは」
「ここまで変身され続けてれば受け入れる事が出来たさ。それに、ことこの部分に関して理屈は通用しない」
「はあ。私、騎士団長はもっと思慮深い方だと思っていました」
「まあまだ、口を出してしまうがな」
旦那様と伯爵のその会話の最中、真上から伯爵目掛けて拳を振りきった。
伯爵はそれを避けるために飛び去る。
周囲は洗脳がとけるわけではなく、逆により深い眠りについていた。
「やはり、はったりだったか」
「旦那様?」
「わざわざ洗脳しかけてるのに解く必要はないだろう。洗脳を完了させたいから、わざと時間稼ぎをした。違うか?」
「さすがですね、騎士団長殿」
思惑が知られても伯爵は余裕だった。
舞台の上に立ち、さながら役者のごとく大振りの動きで語りかけてくる。
「貴方の必殺技は私にはききませんよ?」
「わかっています」
それでもやらなければならない。それが戦士なのだわ。
「クラシオン、二人がかりでいこう」
「旦那様?」
「君の魔法がきかないなら、私が力になればいいだろう?」
「……はい!」
まさかここにきて共闘回が再びくるなんて素晴らしいわ。
「共闘?」
そこにきて、共闘の文字が私の頭をしめる。
「……そうだわ、合わせ技を」
「どうした?」
「以前やった合わせ技をするのです!」
洗脳の中にあった時にしたことだったけど、旦那様は覚えていた。なるほどと頷いてやることを了承してくれる。
「行きましょう!」
「ああ」
あくまで最初の動きは陽動。私と旦那様がほぼ同時に伯爵に肉薄して交互に攻撃を行う。
勿論伯爵は避けるけど、そこは織り込み済み。そして、私は必殺技を放ち、伯爵が避けた先の旦那様の剣に必殺技が宿る。そこから旦那様が剣士として振り切れば、魔法剣士の力も相まって倍になった力が伯爵を襲う。
「やはり素晴らしいですねえ」
余裕の体の伯爵はまともにそれをくらった。煙が上がる中、伯爵を挟むように立ったところに、旦那様側の方に動きがあった。
「旦那様!」
「大丈夫だ」
伯爵の魔法は旦那様にはきかず、凪ぎ払われた魔法は地に沈んだ。
すると目の前の僅かな煙のから掌がぬっと出てきた。思わず後ろに引くが、旦那様に気を取られ、気づくのが遅れた為に逃げきれなかった。
「貴方のかけている認知のずれの魔法は解除してあります」
「え……」
変身と同時にかけられる、認識の魔法。私が戦士と知られない為の魔法を、解除されている?
私はね、と伯爵が言葉を続けた。
「宮廷音楽師ではないんですよ」
「どういうことだ」
「私、向こうでは魔術師長なんですよ。魔法使いとしては、そこそこの自負がありまして」
「だから、私の魔法を?」
ええ、と頷く伯爵。
元々伯爵には私の魔法はきいていなかった。今ここで再度魔法を使っても、伯爵に相殺されてしまうだろう。
つまり、今私が変身すれば、周囲に正体が知られてしまうということだ。
「私はこの状況をいつでも元に戻せます。貴方が変身すると同時に解けば、この場にいる全員が貴方の正体を知るでしょう」
正体が知られることは戦士としてタブーというわけではない。ペナルティーがあるのはシリーズの中でも一つだけ、スプレもスプリミもそこは寛容だ。
でも、この場では些か問題がある。分かりますかと伯爵が楽しそうに頷いた。
「さすがですねえ。王陛下に知られるのは勿論ですが、私が貴方より先に認知のずれを起こさせると分かっていますね?」
加えて、周囲を巻き込んで戦えない。戦闘すら縁のない者も多い。社交界のバルコニーのように騎士と私と敵だけでもなく、劇場や街中のように避難もすんでいない。
そして一番懸念されるのが、伯爵の言う通り、伯爵のかけた魔法によって私が敵とみなされることだ。私だけならまだしも、私の正体を認識した上で敵と認知した場合、カミラや旦那様に被害が及ぶ。旦那様やカミラが伯爵の魔法にかからなかったとしても、周囲の動揺は避けられない。騎士達の統率に乱れも入るなら、なおさら伯爵の思う通りになってしまう。
「私は混乱を招く分には構いませんよ」
「私は……」
「クラシオン!」
旦那様が大きな声をあげた。私を呼ぶためだけに、その声の量は珍しかった。
「変身していい!」
その言葉に一番驚いたのは伯爵だった。驚きに目を開いて、鍔迫り合いを続ける旦那様に視線を戻した。
「けど、旦那様!」
「私の事なら気にするな! 騎士達に私に何が起きても観客は守れと伝えてもいる。王陛下の側付は下手な魔法使いより優秀だから問題ない」
「旦那様、でも」
「ここまで変身され続けてれば、もう慣れた!」
何おかしな事をと伯爵が初めて不快感を顕わにした。旦那様に対してだ。
「やれ! 不本意ながら、戦士である時の君が一番輝いている!」
「旦那様!」
「それに、君は私が守る! だから安心して戦ってくれていい!」
旦那様が応援して下さった。私を、戦士としての私を!
そう言われたら、迷うことはないのだわ。
「私、やります!」
変身する。そうだ、私には悪を討つという使命がある。こんなところで変身をやめるわけにはいかないのだわ。
「貴方、奥方が戦士とやらをするのに反対してたのでは」
「ここまで変身され続けてれば受け入れる事が出来たさ。それに、ことこの部分に関して理屈は通用しない」
「はあ。私、騎士団長はもっと思慮深い方だと思っていました」
「まあまだ、口を出してしまうがな」
旦那様と伯爵のその会話の最中、真上から伯爵目掛けて拳を振りきった。
伯爵はそれを避けるために飛び去る。
周囲は洗脳がとけるわけではなく、逆により深い眠りについていた。
「やはり、はったりだったか」
「旦那様?」
「わざわざ洗脳しかけてるのに解く必要はないだろう。洗脳を完了させたいから、わざと時間稼ぎをした。違うか?」
「さすがですね、騎士団長殿」
思惑が知られても伯爵は余裕だった。
舞台の上に立ち、さながら役者のごとく大振りの動きで語りかけてくる。
「貴方の必殺技は私にはききませんよ?」
「わかっています」
それでもやらなければならない。それが戦士なのだわ。
「クラシオン、二人がかりでいこう」
「旦那様?」
「君の魔法がきかないなら、私が力になればいいだろう?」
「……はい!」
まさかここにきて共闘回が再びくるなんて素晴らしいわ。
「共闘?」
そこにきて、共闘の文字が私の頭をしめる。
「……そうだわ、合わせ技を」
「どうした?」
「以前やった合わせ技をするのです!」
洗脳の中にあった時にしたことだったけど、旦那様は覚えていた。なるほどと頷いてやることを了承してくれる。
「行きましょう!」
「ああ」
あくまで最初の動きは陽動。私と旦那様がほぼ同時に伯爵に肉薄して交互に攻撃を行う。
勿論伯爵は避けるけど、そこは織り込み済み。そして、私は必殺技を放ち、伯爵が避けた先の旦那様の剣に必殺技が宿る。そこから旦那様が剣士として振り切れば、魔法剣士の力も相まって倍になった力が伯爵を襲う。
「やはり素晴らしいですねえ」
余裕の体の伯爵はまともにそれをくらった。煙が上がる中、伯爵を挟むように立ったところに、旦那様側の方に動きがあった。
「旦那様!」
「大丈夫だ」
伯爵の魔法は旦那様にはきかず、凪ぎ払われた魔法は地に沈んだ。
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