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25話 新手の男は隣国の宮廷音楽師
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「相変わらず、良い音色ね」
「ありがとう」
アンヘリカは家の都合で来ていない。
今、私は王城でカミラと共に用意された練習用の部屋で、ひたすらヴァイオリンを弾いている。
今は個人で練習が主だ。
その内、他の出演者共々、集まって合わせていくことになる。
「全然衰えていないようで安心したわ」
私としても、思っていた以上に弾けていてよかったと思う。
久しく出していなかったヴァイオリンも軽く調整するだけで済んだ。
「王女殿下、王陛下がお呼びです」
「あら、お父様が」
時間はもうすぐ退城の時間だった。
カミラにしろ、アンヘリカにしろ、旦那様が迎えに来るまでは一緒にいてくれる。
王城に多くの人が出入りしているのもあり、護衛騎士のアドルフォや侍女を伴っていない場合、基本誰かと一緒にいることと、カミラが念を押していた。
外ではアルコとフレチャの件があるから警戒するのは分かるけど、王城の中でそこまでと疑問ではある。
「カミラ、行って」
「でも、クラシオン」
「旦那様がもうすぐいらっしゃるし、大丈夫よ」
今日はアドルフォがいない。
別件で警備隊として駆り出されているからだ。
行きはカミラと一緒で、カミラの護衛騎士がいるから良しとされたけど、今この場で私が一人になることに、カミラはいい顔をしなかった。
「王陛下からよ? さあ早く」
「クラシオン……」
部屋から出ないよう念を押して、カミラは護衛騎士を連れて出て行った。
まだ少し時間があるから、もう一曲弾いていこうかしら。
旦那様もいらっしゃるから、短いものがいいわね。
そうして一曲弾き終わると、予想だにしない声がかかった。
「素晴らしい」
「!」
特段、弾くことに夢中になっていたわけではない。
なのに、気づかない内にするりと部屋に入って来ていた。
「これは失礼」
「どなた?」
気配がなかった。
というよりは、足音がしなかった。
見知らぬ足音なら、すぐにわかる。
特に王城は材質と構造の都合上、靴音はよく響くはずなのに。
目の前の青年は、身なりも良く、物腰も柔らかい。
敵意のない笑顔を向けられているけれど、何故か警戒は解けなかった。
「僕は招待を受け隣国グラン・シャリオから、宮廷音楽師として、こちらに滞在させて頂いています。フォーレ伯爵家の者です。ヴォルフガング・フォルトゥニーノ・フォーレと申します」
「!」
その名は。
ここで、この名が出るとは。
私は驚きを隠して、努めて社交の笑顔を向けた。
「まあ、そうでしたの」
「失礼、あまりにも美しい音色だったので、勝手に入ってしまい」
「いいえ、お気になさらず」
「それにしても本当に美しい、貴方は」
手が伸びてくる。
私に触れようとしている?
まさか私の正体に気付いた上で近づいてきた?
だから今、何かを仕掛けてきている?
反射的に後ろへ身体を引くと、素早く私と目の前の青年の間に誰かが割って入った。
「おっと」
「私の妻に何か用が?」
「旦那様!」
「ありがとう」
アンヘリカは家の都合で来ていない。
今、私は王城でカミラと共に用意された練習用の部屋で、ひたすらヴァイオリンを弾いている。
今は個人で練習が主だ。
その内、他の出演者共々、集まって合わせていくことになる。
「全然衰えていないようで安心したわ」
私としても、思っていた以上に弾けていてよかったと思う。
久しく出していなかったヴァイオリンも軽く調整するだけで済んだ。
「王女殿下、王陛下がお呼びです」
「あら、お父様が」
時間はもうすぐ退城の時間だった。
カミラにしろ、アンヘリカにしろ、旦那様が迎えに来るまでは一緒にいてくれる。
王城に多くの人が出入りしているのもあり、護衛騎士のアドルフォや侍女を伴っていない場合、基本誰かと一緒にいることと、カミラが念を押していた。
外ではアルコとフレチャの件があるから警戒するのは分かるけど、王城の中でそこまでと疑問ではある。
「カミラ、行って」
「でも、クラシオン」
「旦那様がもうすぐいらっしゃるし、大丈夫よ」
今日はアドルフォがいない。
別件で警備隊として駆り出されているからだ。
行きはカミラと一緒で、カミラの護衛騎士がいるから良しとされたけど、今この場で私が一人になることに、カミラはいい顔をしなかった。
「王陛下からよ? さあ早く」
「クラシオン……」
部屋から出ないよう念を押して、カミラは護衛騎士を連れて出て行った。
まだ少し時間があるから、もう一曲弾いていこうかしら。
旦那様もいらっしゃるから、短いものがいいわね。
そうして一曲弾き終わると、予想だにしない声がかかった。
「素晴らしい」
「!」
特段、弾くことに夢中になっていたわけではない。
なのに、気づかない内にするりと部屋に入って来ていた。
「これは失礼」
「どなた?」
気配がなかった。
というよりは、足音がしなかった。
見知らぬ足音なら、すぐにわかる。
特に王城は材質と構造の都合上、靴音はよく響くはずなのに。
目の前の青年は、身なりも良く、物腰も柔らかい。
敵意のない笑顔を向けられているけれど、何故か警戒は解けなかった。
「僕は招待を受け隣国グラン・シャリオから、宮廷音楽師として、こちらに滞在させて頂いています。フォーレ伯爵家の者です。ヴォルフガング・フォルトゥニーノ・フォーレと申します」
「!」
その名は。
ここで、この名が出るとは。
私は驚きを隠して、努めて社交の笑顔を向けた。
「まあ、そうでしたの」
「失礼、あまりにも美しい音色だったので、勝手に入ってしまい」
「いいえ、お気になさらず」
「それにしても本当に美しい、貴方は」
手が伸びてくる。
私に触れようとしている?
まさか私の正体に気付いた上で近づいてきた?
だから今、何かを仕掛けてきている?
反射的に後ろへ身体を引くと、素早く私と目の前の青年の間に誰かが割って入った。
「おっと」
「私の妻に何か用が?」
「旦那様!」
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