22 / 54
22話 共闘回でやる合わせ技
しおりを挟む
「へー! すご!」
「感心してる場合ではないぞ、マヌエル」
「いや、社交界じゃ聞き取りずらくてさー、気になってたんだよね~」
対して、目の前のアルコとフレチャは口元が引き攣っている。
「マジだったんかよ、アルコ」
「言ったじゃん」
「長すぎだろ……」
固まる二人に警戒をしつつも、旦那様が溜息をついて、私の隣に立った。
指示出しが済んだのか、いくらかの騎士が持ち場に着こうとし、一部は民の避難に走り去っていった。
「エスパダ?」
「……今日は私の回ではないのだろう」
「はい、ですので、」
「だからといって、何もしないわけにはいかない」
「ですが、」
君と争う必要がなければ、私は騎士として奴らを捕らえなければならないと旦那様は言う。
これは私と二人の戦いに乗じて逃がす気なのかしら。
「クラシオン」
「はい」
「あー……今、私は一時的に洗脳が解けている」
「え?!」
「僅かな時間だけになるかもしれないが、君の力になろう」
「まあ!」
素晴らしいことだわ!
徐々に解けてきていると思ったら、今、この場で洗脳が一時的に解けているなんて!
「共闘ということですね!」
「ああ、そうだな……」
ふと旦那様の先を見ると、ライムンダ侯爵が口元に手を置いて震えていた。
ブフッという音が聞こえる。感動に震えているのね。
「くるぞ!」
「はい!」
スプレでは一時的に洗脳が解けるということはなかった。
やはりここにもずれがあるわね。
それでも旦那様との共闘はスプリミであったことを考えると、修正力も上手に絡んできている。
「大人しく投降して下さい!」
「するかよ!」
「てか長い語りを聞いてやっただけ、ありがたく思えて!」
二人とも魔力量に対して強化が合っていない。
アルコはまだ瞳に強力な魔法をかけられている。
先日血を流していたのに、まだ酷使するというの。
「貴方方、このまま続けてると取り返しのつかないことになります!」
「ふざけた格好してる奴に言われる覚えねえわ」
「アルコは前に血を吐いたでしょう?!」
「吐いてねえ、よ!」
私と同じ戦い方をしても、その強さが以前より増しているのがわかる。
このまま強化を続けていれば、より危険なのに。
アルコとフレチャの向こう側にいる騎士は、劇場で使われた爆弾の魔法によって先に進めていない。
二人でここまでの人数を相手にできるなんて。
「よそ見してると当たるぜ、お嬢さん」
「っ!」
「クラシオン!」
件の爆弾の魔法は、どこからでも出せるし投擲できる。どこからくるかわからない。
複数同時にこなすには、ここをどうにかしないと。
「クラシオン!」
「エスパダ」
剣を天高く掲げる旦那様を見て魔法を使う攻撃だと悟る。
素早く避ければ、旦那様の攻撃が展開していた爆弾を一部分一気に破壊した。
「これだわ!」
旦那様の側に戻る。
旦那様が不思議そうにこちらを見たところに、耳に唇を寄せて一つお願いをしてみた。
「……わかった」
「お願いします!」
旦那様が再び剣を掲げる。
その剣に魔法は宿っていない。
アルコとフレチャが一瞬訝しんだ視線をよこすが、他の騎士が剣を振るい、その相手に視線が逸れた時。
「引け!」
旦那様の声に、素早く騎士がアルコとフレチャから離れた。
同時、私の出番。
「リミテ!」
ピシャーン
「スプレンダー・トラタミエント!」
ドーン
私の必殺技を旦那様の剣へ。
魔法を纏った剣は輝きを増し、旦那様はそれを振りきった。
「スプリミの共闘回でやった合わせ技です!」
「なんのこっちゃ!?」
振り切られた必殺技は旦那様の魔法と合わさり、四方に展開していた件の魔法を全て壊した。
さすが旦那様、そして合わせ技だわ。
「げえ」
「ふざけてると思ったら、えぐっ」
アルコとフレチャが背中合わせにして、こちらを凝視していた。
あの量の魔法陣をもう一度展開するのは魔力量を考えると難しいはず。
「くそ、もう一度、っ!」
「ぐ」
二人が急に膝を折った。
何かと思えば、フレチャは頭をおさえ苦しみだし、アルコは片手で顔の下半分を押さえているが、その隙間から血が滴り落ちている。
「反動だわ……」
やはり取り返しがつかない所に。
「今だ、捕らえろ!」
旦那様の声に騎士が走り出す。
その豪勢の中、とんと細い何かで地をつく音がした。
「杖?」
杖がつく音がしたと同時、アルコとフレチャの周囲が爆発し、煙が上がった。
足を止める騎士。
旦那様が私の前に立ち、剣を持つ手に力が入った。
「……くそっ」
旦那様の先、アルコとフレチャがいただろう場所に、二人はいなかった。
「逃げられた」
戸惑う騎士に旦那様が指示を出し、地上から屋根の上まで騎士が散らばり、二人を追跡した。
けれど二人が見つかることはなかった。
明らかに痕跡が消されていたのもある。
「やはり裏にいるな」
「ああ、予想通りだ」
ライムンダ侯爵と旦那様が話している。
変身を解いて、カミラとアンヘリカと合流した私は、あの時聞こえた杖の音が気になって仕方なかった。
聞いたことがある音だったからだ。
「まさか」
「感心してる場合ではないぞ、マヌエル」
「いや、社交界じゃ聞き取りずらくてさー、気になってたんだよね~」
対して、目の前のアルコとフレチャは口元が引き攣っている。
「マジだったんかよ、アルコ」
「言ったじゃん」
「長すぎだろ……」
固まる二人に警戒をしつつも、旦那様が溜息をついて、私の隣に立った。
指示出しが済んだのか、いくらかの騎士が持ち場に着こうとし、一部は民の避難に走り去っていった。
「エスパダ?」
「……今日は私の回ではないのだろう」
「はい、ですので、」
「だからといって、何もしないわけにはいかない」
「ですが、」
君と争う必要がなければ、私は騎士として奴らを捕らえなければならないと旦那様は言う。
これは私と二人の戦いに乗じて逃がす気なのかしら。
「クラシオン」
「はい」
「あー……今、私は一時的に洗脳が解けている」
「え?!」
「僅かな時間だけになるかもしれないが、君の力になろう」
「まあ!」
素晴らしいことだわ!
徐々に解けてきていると思ったら、今、この場で洗脳が一時的に解けているなんて!
「共闘ということですね!」
「ああ、そうだな……」
ふと旦那様の先を見ると、ライムンダ侯爵が口元に手を置いて震えていた。
ブフッという音が聞こえる。感動に震えているのね。
「くるぞ!」
「はい!」
スプレでは一時的に洗脳が解けるということはなかった。
やはりここにもずれがあるわね。
それでも旦那様との共闘はスプリミであったことを考えると、修正力も上手に絡んできている。
「大人しく投降して下さい!」
「するかよ!」
「てか長い語りを聞いてやっただけ、ありがたく思えて!」
二人とも魔力量に対して強化が合っていない。
アルコはまだ瞳に強力な魔法をかけられている。
先日血を流していたのに、まだ酷使するというの。
「貴方方、このまま続けてると取り返しのつかないことになります!」
「ふざけた格好してる奴に言われる覚えねえわ」
「アルコは前に血を吐いたでしょう?!」
「吐いてねえ、よ!」
私と同じ戦い方をしても、その強さが以前より増しているのがわかる。
このまま強化を続けていれば、より危険なのに。
アルコとフレチャの向こう側にいる騎士は、劇場で使われた爆弾の魔法によって先に進めていない。
二人でここまでの人数を相手にできるなんて。
「よそ見してると当たるぜ、お嬢さん」
「っ!」
「クラシオン!」
件の爆弾の魔法は、どこからでも出せるし投擲できる。どこからくるかわからない。
複数同時にこなすには、ここをどうにかしないと。
「クラシオン!」
「エスパダ」
剣を天高く掲げる旦那様を見て魔法を使う攻撃だと悟る。
素早く避ければ、旦那様の攻撃が展開していた爆弾を一部分一気に破壊した。
「これだわ!」
旦那様の側に戻る。
旦那様が不思議そうにこちらを見たところに、耳に唇を寄せて一つお願いをしてみた。
「……わかった」
「お願いします!」
旦那様が再び剣を掲げる。
その剣に魔法は宿っていない。
アルコとフレチャが一瞬訝しんだ視線をよこすが、他の騎士が剣を振るい、その相手に視線が逸れた時。
「引け!」
旦那様の声に、素早く騎士がアルコとフレチャから離れた。
同時、私の出番。
「リミテ!」
ピシャーン
「スプレンダー・トラタミエント!」
ドーン
私の必殺技を旦那様の剣へ。
魔法を纏った剣は輝きを増し、旦那様はそれを振りきった。
「スプリミの共闘回でやった合わせ技です!」
「なんのこっちゃ!?」
振り切られた必殺技は旦那様の魔法と合わさり、四方に展開していた件の魔法を全て壊した。
さすが旦那様、そして合わせ技だわ。
「げえ」
「ふざけてると思ったら、えぐっ」
アルコとフレチャが背中合わせにして、こちらを凝視していた。
あの量の魔法陣をもう一度展開するのは魔力量を考えると難しいはず。
「くそ、もう一度、っ!」
「ぐ」
二人が急に膝を折った。
何かと思えば、フレチャは頭をおさえ苦しみだし、アルコは片手で顔の下半分を押さえているが、その隙間から血が滴り落ちている。
「反動だわ……」
やはり取り返しがつかない所に。
「今だ、捕らえろ!」
旦那様の声に騎士が走り出す。
その豪勢の中、とんと細い何かで地をつく音がした。
「杖?」
杖がつく音がしたと同時、アルコとフレチャの周囲が爆発し、煙が上がった。
足を止める騎士。
旦那様が私の前に立ち、剣を持つ手に力が入った。
「……くそっ」
旦那様の先、アルコとフレチャがいただろう場所に、二人はいなかった。
「逃げられた」
戸惑う騎士に旦那様が指示を出し、地上から屋根の上まで騎士が散らばり、二人を追跡した。
けれど二人が見つかることはなかった。
明らかに痕跡が消されていたのもある。
「やはり裏にいるな」
「ああ、予想通りだ」
ライムンダ侯爵と旦那様が話している。
変身を解いて、カミラとアンヘリカと合流した私は、あの時聞こえた杖の音が気になって仕方なかった。
聞いたことがある音だったからだ。
「まさか」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!
水鳥楓椛
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!?
「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」
天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!!
「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」
~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~
すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。
そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・!
赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。
「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」
そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!?
「一生大事にする。だから俺と・・・・」
※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。
※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。)
※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。
ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~
木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。
少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。
二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。
お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。
仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。
それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。
こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。
幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。
※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。)
※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる