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6話 最初の旦那様との戦い
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学園から王城はすぐだ。
ここ数年は単独で、ここに来たことはなかった。
だから迎えたカミラの侍女達は少し驚いていたけれど、すぐに居直り、通常通りの対応にうつる。
カミラは手早く手配をしてくれ、かなりスムーズに案内された。
「やはり訓練場にいるようよ」
移動しながら様子を把握するに、今日の旦那様は訓練場で直接団員の指導をしているらしい。
珍しいようだ。
余程身体を動かしたい理由でもあったのかしら。
そして慌ただしく、訓練場関係者が動き回っている。
王女殿下が急遽訪れるというところで、確認しなければならない事もあるのだろう。
「こちらに」
案内されたのは訓練場に入る前に用意されている、団員や担当用の部屋。
その中でも応接用の部屋に案内された。
あまり使われないはずの場所だけれど、とても綺麗に維持されている。
「そうだわ、クラシオン。その姿ではさすがに戦えないわね」
「ええ、けれど服はまだ……」
ラングの衣装は出来てない。
学園に行く前に、ソフィアを通して注文は入れたけど、この世界にない質感や形の衣装だから時間がかりそう。
「……そうだわ」
カミラが対応していた者に、騎士団の服をと指示を出した。
素っ頓狂な声を上げて見るからに狼狽している。
私達の護衛騎士も驚いていた。
「彼女の夫は騎士団長のクラメント公爵、夫の仕事をより知る為です」
「し、しかし」
「騎士団には女性もいますし、女性用の騎士服も当然ありますね?」
「は、はい、ありますが」
持ってくるよう再度伝えると、動揺そのまま部屋を退出。
すぐに騎士団の服を持ってきてくれた。
「騎士団長が人払いをされたいとの事ですが、よろしいでしょうか?」
「丁度いいわ、そのようにして」
「はい」
旦那様が、団員を訓練場から城内へ戻らせたらしい。
気を遣ってくれたのだろうか。
そもそも、旦那様は私がここにくることを拒んでいる。
いつだったか、仕事に集中したいから王城にはみだりにこないこと、と伝えられていた。
それを破って来てしまっているから、旦那様もお怒りかもしれない。
けれど、洗脳をとくのが先だわ。
「クラシオン、着替えましょう」
「ええ」
護衛騎士までも一旦退出させて着替える事になった。
幸い、騎士服は一人でも着られる簡素な作りだ。
学園の制服も脱ぎ着は本来、自分で出来る。
普段ソフィアとナタリアに手伝ってもらってるけど、私としては自分で着替える方が気が楽だ。
「あら、クラシオン。よく似合ってる」
「いいわね~貴方、足綺麗」
「ありがとう」
誰もいなくなった訓練場、本当に人払いが済んでいる。
大きな扉の前、緊張で少し身体が固くなっているのがわかった。
「いいかしら?」
「……ええ」
「扉だけど、少し開けておくわよ」
「ええ」
私達のやり取りは基本見ないようにすると言う。
別に私は構わなかったけど、旦那様の為らしかった。
旦那様が見られて困るものはないと思うけど。
「アンヘリカ、最後お願い。合図するわ」
「オッケー」
足を踏み入れる。
大きな扉が少しだけ開いた状態で閉められた。
「旦那様」
訓練場はとても広い。
その真ん中に見慣れた後ろ姿をすぐに見留め、そちらにゆっくり歩みを進めた。
まだ緊張で、心臓の音が一際大きく聞こえる。
「旦那様」
「クラシオン、急に何、故……」
私に呼ばれ、振り返った旦那様は、言葉を途切れさせ、最後には言葉を失った。
誰もいない訓練場、その造りも外側からは見られないようにできている。
久しぶりに誰の監視もない二人きりだ。
「旦那様、急にご連絡もなく失礼致しました」
「そ、その、格好……」
「え? ああ、僭越ながらお借りしましたの」
騎士団の女性服を指差している。
旦那様にして珍しい。
指差しなんて行為は、普段の旦那様ならしないのに。
ああでも旦那様からしたら、勝手に使われていると思ったかしら。
私は敵だもの。捉え方に偏りがあるはずだわ。
「パンツスタイルというのも、新鮮ですね」
「……」
笑って誤魔化してみたけど、旦那様の眉間に皺が寄った。
やはりだめね。
なら、さっさと先に進めましょう。
「旦那様、私は私の使命を果たしに参りました」
「使命?」
「旦那様の洗脳を解けるのは私だけ」
朝の話の続き。
旦那様の表情は残念なものを見ているといった感じかしら。
仕方ないこと、本来の脚本から考えれば、月日が経ちすぎている。
旦那様の洗脳もより深く、そう簡単に私の言葉が届く様な状態でないに違いない。
「一度で成し遂げるとは思っておりません。私の声が届くまで、この拳を振るい続けますわ」
「……拳?」
「はい」
自身に強化の魔法をかけた。
旦那様は訝しんだ様子で、こちらを見ている。
剣は腰にさしたまま、表情はかたいけど、警戒心はなかった。
「剣を構えて下さいな」
「何を」
丸腰の相手を殴るというシーンがないから、ここはやはり旦那様にも戦う意思が見られる方が、やりやすいのだけど。
旦那様が素振りも見せないのを確認。仕方なく走り出した。
「いきます!」
想像以上の速さ。
ああ、これがラングの力。
魔法戦士として目覚めた力なのね。
距離を詰めて、右腕を振り切った。
ここ数年は単独で、ここに来たことはなかった。
だから迎えたカミラの侍女達は少し驚いていたけれど、すぐに居直り、通常通りの対応にうつる。
カミラは手早く手配をしてくれ、かなりスムーズに案内された。
「やはり訓練場にいるようよ」
移動しながら様子を把握するに、今日の旦那様は訓練場で直接団員の指導をしているらしい。
珍しいようだ。
余程身体を動かしたい理由でもあったのかしら。
そして慌ただしく、訓練場関係者が動き回っている。
王女殿下が急遽訪れるというところで、確認しなければならない事もあるのだろう。
「こちらに」
案内されたのは訓練場に入る前に用意されている、団員や担当用の部屋。
その中でも応接用の部屋に案内された。
あまり使われないはずの場所だけれど、とても綺麗に維持されている。
「そうだわ、クラシオン。その姿ではさすがに戦えないわね」
「ええ、けれど服はまだ……」
ラングの衣装は出来てない。
学園に行く前に、ソフィアを通して注文は入れたけど、この世界にない質感や形の衣装だから時間がかりそう。
「……そうだわ」
カミラが対応していた者に、騎士団の服をと指示を出した。
素っ頓狂な声を上げて見るからに狼狽している。
私達の護衛騎士も驚いていた。
「彼女の夫は騎士団長のクラメント公爵、夫の仕事をより知る為です」
「し、しかし」
「騎士団には女性もいますし、女性用の騎士服も当然ありますね?」
「は、はい、ありますが」
持ってくるよう再度伝えると、動揺そのまま部屋を退出。
すぐに騎士団の服を持ってきてくれた。
「騎士団長が人払いをされたいとの事ですが、よろしいでしょうか?」
「丁度いいわ、そのようにして」
「はい」
旦那様が、団員を訓練場から城内へ戻らせたらしい。
気を遣ってくれたのだろうか。
そもそも、旦那様は私がここにくることを拒んでいる。
いつだったか、仕事に集中したいから王城にはみだりにこないこと、と伝えられていた。
それを破って来てしまっているから、旦那様もお怒りかもしれない。
けれど、洗脳をとくのが先だわ。
「クラシオン、着替えましょう」
「ええ」
護衛騎士までも一旦退出させて着替える事になった。
幸い、騎士服は一人でも着られる簡素な作りだ。
学園の制服も脱ぎ着は本来、自分で出来る。
普段ソフィアとナタリアに手伝ってもらってるけど、私としては自分で着替える方が気が楽だ。
「あら、クラシオン。よく似合ってる」
「いいわね~貴方、足綺麗」
「ありがとう」
誰もいなくなった訓練場、本当に人払いが済んでいる。
大きな扉の前、緊張で少し身体が固くなっているのがわかった。
「いいかしら?」
「……ええ」
「扉だけど、少し開けておくわよ」
「ええ」
私達のやり取りは基本見ないようにすると言う。
別に私は構わなかったけど、旦那様の為らしかった。
旦那様が見られて困るものはないと思うけど。
「アンヘリカ、最後お願い。合図するわ」
「オッケー」
足を踏み入れる。
大きな扉が少しだけ開いた状態で閉められた。
「旦那様」
訓練場はとても広い。
その真ん中に見慣れた後ろ姿をすぐに見留め、そちらにゆっくり歩みを進めた。
まだ緊張で、心臓の音が一際大きく聞こえる。
「旦那様」
「クラシオン、急に何、故……」
私に呼ばれ、振り返った旦那様は、言葉を途切れさせ、最後には言葉を失った。
誰もいない訓練場、その造りも外側からは見られないようにできている。
久しぶりに誰の監視もない二人きりだ。
「旦那様、急にご連絡もなく失礼致しました」
「そ、その、格好……」
「え? ああ、僭越ながらお借りしましたの」
騎士団の女性服を指差している。
旦那様にして珍しい。
指差しなんて行為は、普段の旦那様ならしないのに。
ああでも旦那様からしたら、勝手に使われていると思ったかしら。
私は敵だもの。捉え方に偏りがあるはずだわ。
「パンツスタイルというのも、新鮮ですね」
「……」
笑って誤魔化してみたけど、旦那様の眉間に皺が寄った。
やはりだめね。
なら、さっさと先に進めましょう。
「旦那様、私は私の使命を果たしに参りました」
「使命?」
「旦那様の洗脳を解けるのは私だけ」
朝の話の続き。
旦那様の表情は残念なものを見ているといった感じかしら。
仕方ないこと、本来の脚本から考えれば、月日が経ちすぎている。
旦那様の洗脳もより深く、そう簡単に私の言葉が届く様な状態でないに違いない。
「一度で成し遂げるとは思っておりません。私の声が届くまで、この拳を振るい続けますわ」
「……拳?」
「はい」
自身に強化の魔法をかけた。
旦那様は訝しんだ様子で、こちらを見ている。
剣は腰にさしたまま、表情はかたいけど、警戒心はなかった。
「剣を構えて下さいな」
「何を」
丸腰の相手を殴るというシーンがないから、ここはやはり旦那様にも戦う意思が見られる方が、やりやすいのだけど。
旦那様が素振りも見せないのを確認。仕方なく走り出した。
「いきます!」
想像以上の速さ。
ああ、これがラングの力。
魔法戦士として目覚めた力なのね。
距離を詰めて、右腕を振り切った。
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