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51話 香料という毒薬を広めたスパイたち
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見慣れない天井が最初だった。
「う……」
魔法陣による転移。
南端ラヤラ領でソレペナ王国の騎士団と関わった時にループト公爵令嬢が巻き込まれたのと同じだ。
「なんで」
手足は縛られていない。ベッドの上ではなくて床の上に放置だった。連れ去りにしてはまだ優しい扱いだろう。
窓はない。扉は一つで施錠済み。周囲に箱詰めの商品とおぼしきものが多く積み上げられ、造りとしては一階だて倉庫といったところ。
王都ならこの手の倉庫はいくらでもあるけど、この規模なら王都の外ではあまり見ない。私はまだ王都内にいる可能性がある。
「もしかしてオレン狙いだった?」
あの店には私とオレンしか客がいなかった。私を狙うなら手足は縛るはずだし、監禁場所はもっと考えるはずだ。となるとオレンの拉致が目当てで失敗して私が転移した、とか?
「……」
倉庫内には魔法がかかってる様子はどこにもない。
けどあちらは魔法陣を使った。セモツ国が先の戦いで使っていた手法と同じだ。セモツ国は魔法薬だけでなく魔法陣を紙や布に記して使って体調不良にさせたり転移させたりして、こちらの戦力を削いでいた。
「!」
がちゃりと鍵が動く音に緊張が走る。
私を転送させた犯人である可能性が高い。
「……え?」
「……なんだ。目、覚めたのか」
扉が開いて二人の男性が入ってきた。
「ヨハンネス……と、」
ヨハンネスがいるのは分かる。さっき揉めたもの。オレンが忠告したのに、すぐにこんなことするなんて浅はかだとは思うけどやりかねない。
けど一緒にいる彼は考えてなかった。
騎士がいるなんて思わない。
「ペッタ・ヴィルタネン騎士」
「お、覚えててくれてたんすか」
爽やかに笑う。場違いにも程があった。
「なんでニ人が」
「お前は本当低能だな。だから調子にのるなと言ってるんだ」
騎士ペッタ・ヴィルタネンとヨハンネスの空気から察するに二人は初対面ではない。
私がここにいることも疑問の思っていない様子とこのタイミングで現れるということは、今回の私の転移は二人が犯人というころだろう。
「まあ敗戦しましたしね~」
ヨハンネスには世話になったから最後の頼みぐらい聞くかなって、とヴィルタネン騎士がからから笑う。人を拐っておいて笑ってるなんておかしい。
「こっちはルーラが色々やってくれてたから仕事楽だったのに負けただけで一変しました。最後にと貴方にちょっかい出してみたけど全然靡いてくれないんですもん。まあ団長と繋がりがあればあるだけ今回は助かりますしね」
敗戦、ルーラという言葉。
ルーラ嬢は西の隣国ソッケの第二王子の新しい婚約者で、我が国キルカスの南端ラヤラにおける魔法大国ネカルタス王女拉致監禁事件に関わっていた重要人物だ。彼女はセモツ国からのスパイで、国を傾かせ侵略できやすいよう動いていた。
私でも分かる。繋がってくる。
「貴方、セモツ国のスパイ?」
「そっす」
「王城内で香料を広めたのも貴方?」
「自分っす」
でも運んでくれたのは彼だとヴィルタネン騎士は言う。
「ほら、ここにあるの薬っすよ」
まだ残っていた。しかもここに置いてるということは魔法薬物流にヨハンネスが加担していたという証拠だ。
ヨハンネスの家業、物流で王都の端に持っているこの倉庫に置いている時点で言い逃れができない。
「ヨハンネス、あなた何をしたか分かってるの?」
仕事どころか家ごとなくなる。王に、国に背く行為だからだ。
「そんなん鼻から分かってる。俺はこの国が潰れてくれていい。こんな生活真っ平だからな」
男爵位で平民のように泥にまみれて仕事をして、やりたいこともできない。社交界も出られず高爵位のいるようなサロンも無理。
そこから逃れたかった。
「ヨハンネス」
「キルカス王国が落ちたらセモツは褒美に公爵位をくれるつーんだ。どっちにつくかなんて決まってるだろ」
こちらを見下し笑うヨハンネスに対し、全然違う笑顔を持つヴィルタネン騎士が口を開く。
「まあ団長のスパイ残党狩りをかわしながら、もう少し稼げるかなって思ってたんすけど、ヘイアストインさんがヴァレデラを捕まえちゃったから潮時かなって」
「ヴァレデラ?」
王都で複数の女性が被害にあっていた詐欺、犯人のヴァレデラを逮捕して終わりじゃなかった。この二人と関わっていたの?
「運びはヨハンネスで、王城は自分、王都はヴァレデラで薬撒いて、お嬢さんたちから小金稼いでいい感じだったんす」
詐欺師のヴァレデラもセモツ国のスパイだった。
ヨハンネスが魔法薬を国の中に運び込む。
王城ではペッタ・ヴィルタネン騎士が、王都では詐欺師ヴァレデラが香料と称して広め、誤った口コミから多くが服用して体調不良になった。
同時に起きていた詐欺の被害も二人が加担していた。
「自分セモツに戻れないし、金かかえて高飛びするんすよ」
変わらずにこにこしたまま「ヘイアストインさんがいれば団長からお金稼げそうですし」恐ろしいことを言う。
ヨハンネスが続けた。
「金はあの団長から搾り取るだけとったら解放してやる。まあタダで放してはやらんがな」
ねっとりした視線を浴びる。
「う……」
魔法陣による転移。
南端ラヤラ領でソレペナ王国の騎士団と関わった時にループト公爵令嬢が巻き込まれたのと同じだ。
「なんで」
手足は縛られていない。ベッドの上ではなくて床の上に放置だった。連れ去りにしてはまだ優しい扱いだろう。
窓はない。扉は一つで施錠済み。周囲に箱詰めの商品とおぼしきものが多く積み上げられ、造りとしては一階だて倉庫といったところ。
王都ならこの手の倉庫はいくらでもあるけど、この規模なら王都の外ではあまり見ない。私はまだ王都内にいる可能性がある。
「もしかしてオレン狙いだった?」
あの店には私とオレンしか客がいなかった。私を狙うなら手足は縛るはずだし、監禁場所はもっと考えるはずだ。となるとオレンの拉致が目当てで失敗して私が転移した、とか?
「……」
倉庫内には魔法がかかってる様子はどこにもない。
けどあちらは魔法陣を使った。セモツ国が先の戦いで使っていた手法と同じだ。セモツ国は魔法薬だけでなく魔法陣を紙や布に記して使って体調不良にさせたり転移させたりして、こちらの戦力を削いでいた。
「!」
がちゃりと鍵が動く音に緊張が走る。
私を転送させた犯人である可能性が高い。
「……え?」
「……なんだ。目、覚めたのか」
扉が開いて二人の男性が入ってきた。
「ヨハンネス……と、」
ヨハンネスがいるのは分かる。さっき揉めたもの。オレンが忠告したのに、すぐにこんなことするなんて浅はかだとは思うけどやりかねない。
けど一緒にいる彼は考えてなかった。
騎士がいるなんて思わない。
「ペッタ・ヴィルタネン騎士」
「お、覚えててくれてたんすか」
爽やかに笑う。場違いにも程があった。
「なんでニ人が」
「お前は本当低能だな。だから調子にのるなと言ってるんだ」
騎士ペッタ・ヴィルタネンとヨハンネスの空気から察するに二人は初対面ではない。
私がここにいることも疑問の思っていない様子とこのタイミングで現れるということは、今回の私の転移は二人が犯人というころだろう。
「まあ敗戦しましたしね~」
ヨハンネスには世話になったから最後の頼みぐらい聞くかなって、とヴィルタネン騎士がからから笑う。人を拐っておいて笑ってるなんておかしい。
「こっちはルーラが色々やってくれてたから仕事楽だったのに負けただけで一変しました。最後にと貴方にちょっかい出してみたけど全然靡いてくれないんですもん。まあ団長と繋がりがあればあるだけ今回は助かりますしね」
敗戦、ルーラという言葉。
ルーラ嬢は西の隣国ソッケの第二王子の新しい婚約者で、我が国キルカスの南端ラヤラにおける魔法大国ネカルタス王女拉致監禁事件に関わっていた重要人物だ。彼女はセモツ国からのスパイで、国を傾かせ侵略できやすいよう動いていた。
私でも分かる。繋がってくる。
「貴方、セモツ国のスパイ?」
「そっす」
「王城内で香料を広めたのも貴方?」
「自分っす」
でも運んでくれたのは彼だとヴィルタネン騎士は言う。
「ほら、ここにあるの薬っすよ」
まだ残っていた。しかもここに置いてるということは魔法薬物流にヨハンネスが加担していたという証拠だ。
ヨハンネスの家業、物流で王都の端に持っているこの倉庫に置いている時点で言い逃れができない。
「ヨハンネス、あなた何をしたか分かってるの?」
仕事どころか家ごとなくなる。王に、国に背く行為だからだ。
「そんなん鼻から分かってる。俺はこの国が潰れてくれていい。こんな生活真っ平だからな」
男爵位で平民のように泥にまみれて仕事をして、やりたいこともできない。社交界も出られず高爵位のいるようなサロンも無理。
そこから逃れたかった。
「ヨハンネス」
「キルカス王国が落ちたらセモツは褒美に公爵位をくれるつーんだ。どっちにつくかなんて決まってるだろ」
こちらを見下し笑うヨハンネスに対し、全然違う笑顔を持つヴィルタネン騎士が口を開く。
「まあ団長のスパイ残党狩りをかわしながら、もう少し稼げるかなって思ってたんすけど、ヘイアストインさんがヴァレデラを捕まえちゃったから潮時かなって」
「ヴァレデラ?」
王都で複数の女性が被害にあっていた詐欺、犯人のヴァレデラを逮捕して終わりじゃなかった。この二人と関わっていたの?
「運びはヨハンネスで、王城は自分、王都はヴァレデラで薬撒いて、お嬢さんたちから小金稼いでいい感じだったんす」
詐欺師のヴァレデラもセモツ国のスパイだった。
ヨハンネスが魔法薬を国の中に運び込む。
王城ではペッタ・ヴィルタネン騎士が、王都では詐欺師ヴァレデラが香料と称して広め、誤った口コミから多くが服用して体調不良になった。
同時に起きていた詐欺の被害も二人が加担していた。
「自分セモツに戻れないし、金かかえて高飛びするんすよ」
変わらずにこにこしたまま「ヘイアストインさんがいれば団長からお金稼げそうですし」恐ろしいことを言う。
ヨハンネスが続けた。
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ねっとりした視線を浴びる。
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