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42話 その魔眼、治らないよ
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「もしかしてお見合いがあるから緊張してるんですか?」
「ブフッ」
おっと単刀直入すぎたかしら。
こんなに動揺するオレンは珍しい。
「すみません。朝、騎士の方々が話していたのを聞きまして」
「そうか……」
口元を上品に拭いて、落ち着きを見せてオレンは続けた。
「見合いは事実無根だ」
「そうですか」
あれ、少しむっとした。
じとっとした視線を浴びる。私、ただ相槌うっただけなのに。
「私にはミナがいるのに、どうして見合いをしなければならない?」
「国と国や貴族間ではよくある話ですし」
今回は魔法大国ネカルタスが相手だから、より信憑性が増す。
前例にソレペナ王国とネカルタス王女の婚姻があった。あの鎖国を続けてきたネカルタスとのパイプができるなら、国を挙げて取り組むだろう。婚姻なら高爵位で功績もあるオレンは最適だ。ネカルタスも納得する人物で王陛下からの命で婚姻しますって言われても不思議には思わない。
私のような爵位の低い人間には縁がないけど、名だたる侯爵家のオレンは立場が根本的に違う。
「ミナはなんとも思わない?」
「……身を引けと言われれば、そうするしかないかな、って」
周囲が婚約からお付き合いという表現に変わったことでしっかりと自覚した。
オレンとお茶を飲めてる時点で奇跡だ。そのぐらい住む世界が違う人。
騎士たちの言う見合いからの結婚が実現する可能性は高い。
そう思っての返事だったけど、オレンは変わらずムッとしていた。
「私はミナが婚約者で、変えるつもりはない」
「でも国と国とだから問題があるんじゃ?」
「話があったとしても断る。それにそもそも今ミナが話してる内容は事実無根だと言ってるだろう」
「えっと、お見合いが?」
「見合いの話もミナ以外の女性との婚約の話もない。ネカルタス王国から来る特使は男性だ」
男性。
お見合いの話もなし。
たったこれだけ聞いただけで、ずぐずぐしていたお腹が軽くなる。
「そう、なんですか」
なんだ、よかった。
「……ん?」
よかったって?
いやいや私ずっと身を引く覚悟を持ってやってたのに今更じゃない?
けど今の私はかなりほっとしている。実際身を引く覚悟ができなかったの?
夢のような時間だの、奇跡だの分かっているのに、どうして。
「ミナ?」
「あ、そ、それなら団長はどうしてあんな空気を?」
緊張というよりは不機嫌に近い張り詰めた空気だった。
それを「態度に出るなんて大人気なかった」と眉を寄せて謝りつつも続ける。
「私は特使が男だったから心配になっただけだ」
ふむ?
オレンの言葉を咀嚼する。
敢えて何も言わずに濁している、不機嫌を隠せない、となると考えられる可能性が私の自惚れともとれるものになった。直近、特使が男性だった時の話が思い出される。
否定されるのを覚悟で言ってみた。
「私がその人のこと好きになっちゃうかもー的な?」
その逆、ネカルタスの特使の男性が私を好きになるかも、も含む。
私の言葉に低く唸ったオレンは苦々しく肯定した。
「……そうだ」
つまり、オレンはまだ見ぬ男性に嫉妬しているというわけだ。
私を思って、不機嫌になるぐらい嫉妬する。
「わ……」
オレンの言わんとすることを落とし込んだら一気に顔が熱くなった。直近の男性だったら~の話を話半分に受けていたのが悔やまれる。まさかここまで態度に出るほど気にしてたなんて思わなかった。
ああ、もう言ってもいいんじゃない?
オレンが名のある爵位の令嬢とお見合いしないと分かった途端、あれだけ婚約を拒否してたのに安心して絆されてしまった卑怯な私をまだ好きでいてくれるなら。
今の私は、オレンの想いに応えられるだろうか。
「私がその特使の方を好きになることはないと思いますけど」
「だが」
「だってオレンほど魅力的な男性はいないでしょ?」
「だが……え?」
思いがけない言葉だったのだろう。大きく目を開いて驚いたオレンの視線が刺さる。
「それは、」
「戻りましたー!」
ノックもなしに外回りに行っていた面子が戻ってきた。
ノックなしを注意されながら最初に入ってきたカルフさんに内心感謝する。
これ以上オレンから追及があったら言ってしまいそうだった。そう思う時点でまだ私は応えられない。私ってばいくじなしね。
「皆さんのお茶もいれますね」
自然に席を立ち、オレンとの話も打ち切る。
そしてひそりとヤニスさんにオレンの雰囲気がよくなったことを感謝され、その日はつつがなく終えた。
* * *
そんな翌日。
魔法大国ネカルタスから来た特使の男性は良い人だけど全く私の好みではなく、危惧していたような一目見て気に入るなんて展開もなくてオレンも安心していた。
けど、次に私を絶望に追い込んだ。
「ああ。その魔眼、治らないよ」
「はい?」
「ブフッ」
おっと単刀直入すぎたかしら。
こんなに動揺するオレンは珍しい。
「すみません。朝、騎士の方々が話していたのを聞きまして」
「そうか……」
口元を上品に拭いて、落ち着きを見せてオレンは続けた。
「見合いは事実無根だ」
「そうですか」
あれ、少しむっとした。
じとっとした視線を浴びる。私、ただ相槌うっただけなのに。
「私にはミナがいるのに、どうして見合いをしなければならない?」
「国と国や貴族間ではよくある話ですし」
今回は魔法大国ネカルタスが相手だから、より信憑性が増す。
前例にソレペナ王国とネカルタス王女の婚姻があった。あの鎖国を続けてきたネカルタスとのパイプができるなら、国を挙げて取り組むだろう。婚姻なら高爵位で功績もあるオレンは最適だ。ネカルタスも納得する人物で王陛下からの命で婚姻しますって言われても不思議には思わない。
私のような爵位の低い人間には縁がないけど、名だたる侯爵家のオレンは立場が根本的に違う。
「ミナはなんとも思わない?」
「……身を引けと言われれば、そうするしかないかな、って」
周囲が婚約からお付き合いという表現に変わったことでしっかりと自覚した。
オレンとお茶を飲めてる時点で奇跡だ。そのぐらい住む世界が違う人。
騎士たちの言う見合いからの結婚が実現する可能性は高い。
そう思っての返事だったけど、オレンは変わらずムッとしていた。
「私はミナが婚約者で、変えるつもりはない」
「でも国と国とだから問題があるんじゃ?」
「話があったとしても断る。それにそもそも今ミナが話してる内容は事実無根だと言ってるだろう」
「えっと、お見合いが?」
「見合いの話もミナ以外の女性との婚約の話もない。ネカルタス王国から来る特使は男性だ」
男性。
お見合いの話もなし。
たったこれだけ聞いただけで、ずぐずぐしていたお腹が軽くなる。
「そう、なんですか」
なんだ、よかった。
「……ん?」
よかったって?
いやいや私ずっと身を引く覚悟を持ってやってたのに今更じゃない?
けど今の私はかなりほっとしている。実際身を引く覚悟ができなかったの?
夢のような時間だの、奇跡だの分かっているのに、どうして。
「ミナ?」
「あ、そ、それなら団長はどうしてあんな空気を?」
緊張というよりは不機嫌に近い張り詰めた空気だった。
それを「態度に出るなんて大人気なかった」と眉を寄せて謝りつつも続ける。
「私は特使が男だったから心配になっただけだ」
ふむ?
オレンの言葉を咀嚼する。
敢えて何も言わずに濁している、不機嫌を隠せない、となると考えられる可能性が私の自惚れともとれるものになった。直近、特使が男性だった時の話が思い出される。
否定されるのを覚悟で言ってみた。
「私がその人のこと好きになっちゃうかもー的な?」
その逆、ネカルタスの特使の男性が私を好きになるかも、も含む。
私の言葉に低く唸ったオレンは苦々しく肯定した。
「……そうだ」
つまり、オレンはまだ見ぬ男性に嫉妬しているというわけだ。
私を思って、不機嫌になるぐらい嫉妬する。
「わ……」
オレンの言わんとすることを落とし込んだら一気に顔が熱くなった。直近の男性だったら~の話を話半分に受けていたのが悔やまれる。まさかここまで態度に出るほど気にしてたなんて思わなかった。
ああ、もう言ってもいいんじゃない?
オレンが名のある爵位の令嬢とお見合いしないと分かった途端、あれだけ婚約を拒否してたのに安心して絆されてしまった卑怯な私をまだ好きでいてくれるなら。
今の私は、オレンの想いに応えられるだろうか。
「私がその特使の方を好きになることはないと思いますけど」
「だが」
「だってオレンほど魅力的な男性はいないでしょ?」
「だが……え?」
思いがけない言葉だったのだろう。大きく目を開いて驚いたオレンの視線が刺さる。
「それは、」
「戻りましたー!」
ノックもなしに外回りに行っていた面子が戻ってきた。
ノックなしを注意されながら最初に入ってきたカルフさんに内心感謝する。
これ以上オレンから追及があったら言ってしまいそうだった。そう思う時点でまだ私は応えられない。私ってばいくじなしね。
「皆さんのお茶もいれますね」
自然に席を立ち、オレンとの話も打ち切る。
そしてひそりとヤニスさんにオレンの雰囲気がよくなったことを感謝され、その日はつつがなく終えた。
* * *
そんな翌日。
魔法大国ネカルタスから来た特使の男性は良い人だけど全く私の好みではなく、危惧していたような一目見て気に入るなんて展開もなくてオレンも安心していた。
けど、次に私を絶望に追い込んだ。
「ああ。その魔眼、治らないよ」
「はい?」
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