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35話 他の人間に構っていると嫉妬してしまう

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「ああ、そうでした。ヘイアストイン男爵令嬢」
「はい」
「事務室にあった貴方の風景画に買い手が現れました」
「はひ?」

 衝撃的な一言に変な声でた。

「ですから貴方の絵に、むぐ」
「ちょ! ま!」

 コルホネン公爵令嬢の口を両手で抑えて、そのままぐいぐい押して中庭に出た。
 中庭、会場の人間には聞こえない距離であることを確認して手を離すとコルホネン公爵令嬢は頬を赤らめていた。会場からの明かりで逆に赤いのが目立ってるけど、今はそれどころじゃない。

「なんて乱暴な!」
「ちょおおおおそれどころじゃないですよおぉおおお! 絵? 買い手? ええ?」
「あら、事務室の物置に置かれていた絵は貴方の描いたものじゃなくて?」
「ええ、私が描きましたけど……なんで?!」

 右下に自分の名前のサインをしていたのと、私が絵を描いていることを知っているから、すぐに分かったらしい。事務室に置いていたから尚更だろう。

「売れると思ったからに決まっているでしょう」

 端的かつ自信に溢れた回答をありがとう。て、違う!

「私、そんなつもりで描いてたんじゃなくて」
「あら、そうだったの? 貴方のことだから三つ目の仕事にするのかと思ってましたけど」

 騎士団雑務、騎士団事務、そして絵描き。
 いやいやいやもともと魔眼対策だから!
 でも魔眼の話は迂闊に出来ない……困った。
 稼ぐためじゃないってとこだけ伝えるしかない。

「一枚ぐらいくれてやりなさい」
「え、と……」

 私がやたら言い淀んでいると「驚いたわ」とコルホネン公爵令嬢が意外そうな顔をした。

「普段あれだけがつがつ働いているのだから二つ返事で承諾すると思ってましたわ」
「がつがつ」
「ええ」

 実際評価されて買われていくならいいことだとコルホネン公爵令嬢は言うけど、どうしても踏ん切りがつかなかった。描いてて楽しかったけど、目標は肖像画でワンクッション置いた作品が風景画二つだ。お金になることも魅力的だけど、正直買うと言ってもらえるぐらい自分の絵が評価されたことの方が嬉しい。けど、どうしてもよぎってしまう。、と。

「ミナ、ここにいたのか……と、コルホネン公爵令嬢?」

 オレンが戻ってきた。
 コルホネン公爵令嬢と一緒だったのが意外だったのか眦を少しあげ、すぐに探る瞳になる。以前の表彰式の時の言い争いが思い出されたのかもしれない。
 コルホネン公爵令嬢は綺麗な一例をし貴族特有の挨拶をこなした。

「ヴィエレラシ侯爵令息につきましては、先の戦いのご活躍伺っておりますわ。その手腕により死亡者を一人も出さなかったと」
「周囲の者が優秀だったからです。私は助けられてばかりでした」
「ご謙遜を」

 仰々しい言葉、すごい。貴族の人たちって毎回こんな会話なの?
 のほほんとしていると「ところで」とオレンが切り出した。瞳に力が入っている。

「ここで彼女と何の話を?」

 いじめられてないことは伝えておかないと。
 オレンは勘違いしている。

「団長、さっきコルホネン公爵令嬢に助けてもらったんです」
「ああ、ライネ公爵令嬢との間に入ってくれたのは見えた」

 ならそんな目力込める必要ないよね?
 コルホネン公爵令嬢は助けてくれる前も私を認めてくれているような言葉をくれた。ちょっとツンとしてるけど、なんだかんだもう嫌味を言われることもなさそう。あ、絵の管理方法はちょっと口うるさいかな?
 と、オレンが真っ直ぐコルホネン公爵令嬢を見据えて続けた。

「私は存外器量に乏しいようでな。婚約者が他の人間に構っていると嫉妬してしまうらしい」

 そこ?!
 いやでも婚約者をここで敢えて押し出さなくてもよくない?
 コルホネン公爵令嬢もあらまあなんて笑ってる場合じゃないから!

「これは失礼を。婚約者であるヴィエレラシ侯爵令息にも許可をとるべきでした」
「いやいやいいですって」

 にっこり笑顔でコルホネン公爵令嬢は言い放つ。

「ヘイアストイン男爵令嬢の絵に買い手がつきました。本契約を交わし売りに出したいのですがよろしいでしょうか?」
「それ言っちゃう?!」
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