溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

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30話 できることをしたい

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「ミナ、ラヤラに行く事になった」
「セモツとの戦争ですね」
「ああ」

 南の海を渡った大陸の真ん中にセモツという国がある。セモツの北の隣国ファンティヴェウメシイ王国と戦争の末敗北し大人しくなったと思いきや、海賊やあの香料を使い大陸北側に位置する国々と海を渡った我が国キルカスを含めた三国を滅ぼそうとしていた。ドゥエツ王国のループト公爵令嬢によって暴かれ、秘密裏に行動していたセモツが大きく動く。それが今回のセモツ国から各国への宣戦布告と多くの海賊の出現だ。

「大きな戦争になる。ミナは王都にいてほしい」
「一緒には行けないんですか?」
「今までが異例だった」

 今回は規模が違う。いくら命の危険が今まであったとしても、最初のラヤラ領遠征はメネテッタバ辺境伯が持つ私兵の数も少ないことから、大きな争いになる想定はなく実際なにも起きなかった。
 二回目のラヤラ遠征はソレペナ王国との緊張はあったもののループト公爵令嬢もいたことで大事にはならない予測が立った。魔眼対策とはいえ、この二回の遠征に私を連れていかない選択が本来は望ましかった。けど今思えば間違いだったとオレンは苦い顔をする。

「私利私欲を優先しすぎた。本来なら罰を受けてもおかしくない選択だったと思っている」
「そんなことありません」
「ミナ」
「私、今回のラヤラ遠征に行きます」
「駄目だ!」

 椅子に座ってモデルになってたオレンが立ち上がる。
 筆を置いて私も立ち上がり、窓際にいる彼に近づいた。背の高いオレンを見上げる。悲しそうに見えた。

「役に立つかは分かりません。でもできることをしたいんです。香料がセモツ国のやったことなら、この魔眼が役に立つかもしれません。魔眼が役に立たなくても現地の雑用ならなにかやれると思ってます」
「だが」
「行かせてください」

 ぐぐっと唸るオレンは視線を左右に彷徨わせ、最後に伏し目がちに下げて片手で口元を覆い息を吐いた。落ち着かせるような仕草だった。

「……私が止めてもミナは来るだろう?」
「はい」

 君は決めたら貫くタイプだからと囁いた。

「……そんな時ありましたっけ?」
「入りたての頃に騎士服の洗濯を終わらせると夕方まで頑張っていたり、初めて任された事務仕事を最後まで自分でやってみたいと言ってやりきっていた」
「あー……でもあれ手伝ってもらってます」
「けどやろうという意志は貫いていた」

 新人時代まで見てくれてたんだ。嬉しいかも、なんて思ってる場面ではないわね。

「それにミナは優しいから」
「優しいのはオレンさんです」

 私のために自分の時間を費やしてでも私の絵を描く時間に使ってくれたり、毎日騎士団員に気を配り、他国の方々との調整までこなせる。

「……私がミナに優しいのは私利私欲だ」
「え?」
「いやいい。これは落ち着いてからがいいだろう……ミナが来ると言うなら私は全力で君を守る」

 そう言われたらそのへんの女性はみんな落ちる。
 当然勘違いはだめだと心の中で言い聞かせた。

「それなら私はオレンさんの服破らないようにしますね!」
「……そうか」

 シリアスな場でビリビリにするわけにはいかないからね!

* * *

 オレンと別れ、絵を自室にしまいに行く道で再び声をかけられた。

「ヘイアストイン男爵令嬢」
「コルホネン公爵令嬢」
「貴方、また絵をそのままで保管するのかしら?」

 見えましたけど、と顔を顰めて指摘するコルホネン公爵令嬢。相変わらず絵の管理に厳しい。

「大体貴方は」
「コルホネン公爵令嬢」
「私の話を最後まで聞かないなんて……」
「セモツ国とのことは御存知ですか」

 ぴくりと反応する。

「公爵家として当然把握してますわ」

 話が早い。
 曰く、キルカス王国に長年寄与してきた名だたる公爵家として当然各国の情勢と関係は把握している。有事の際は公爵家は国にいくらでも援助できるとも。
 やっぱり住む世界が違うんだ。

「私、セモツとの衝突を想定してラヤラ領に行くんです」
「貴方に何ができるというの?」
「そうなんですよね~。でもできることしに行こうと思って。医師団も人手不足なので怪我人の看護とか雑用とか、まあ色々やってみようと思ってます」

 貴方に勤まるのかしらと言われる。
 分からない。なにもできないかもしれない。
 けど今回は今まで連れていってもらったのとは違う。危険を承知で行くと決めた。

「汚れたものを掃除したり洗濯したりはできますし」
「貴方は本当爵位のある人間としての自覚が足りませんわね」
「あはは……それで折り入ってコルホネン公爵令嬢にお願いがありまして」

 首を傾げ不可解な顔をするも断られなかったので言葉を続けた。

「私が戻らなかったら騎士団事務の仕事をお願いしたいんです」
「私に?」
「ヤルヴィネンさんとヤニスさんはそろそろ引退ですし、カルフさんとティアッカさんはまだ慣れてないこともありますし、人手が圧倒的に足りなくなります」
「……」
「今回は今までとは違う。戦争が起きるなら万が一を考えておきたくて」
「……お断りね」

 いつも通りツンとした回答だった。やっぱりだめか。

「貴方、死にに行くのではないのでしょう?」
「ええ、なるたけ生きて帰ってくるつもりで」
「なるたけでなく、必ず生きて帰りなさい」

 それが貴方の爵位ある者としての務めであり義務だと言われる。

「貴方の言動や振る舞いは目に余るものがありますが、それが貴方の死の義務に繋がるものではありません」
「ええと?」

 どういうことだろう。生きて帰ればいいの?
 へらっと笑って誤魔化したらコルホネン公爵令嬢の眉間に皺がよった。

「ああもうっ……貴方がいないと張り合いがありませんの。必ず帰ってきなさい!!」
「は、はいっ!」

 ふんっと一息してコルホネン公爵令嬢が無言で背を向け去る。耳が赤いところを見ると照れ隠しであってる?

「……もしかして良い人なの?」

 そんなことも考える余裕なく、ラヤラ海岸線での対海賊戦が始まった。
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