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12話 私がミナと一緒にいたい
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「あわわわわわ」
デート! ではない!
これは治療の一環で、そう特にそういう雰囲気でもなんでもない!
私、勘違いしちゃだめよ!
「団長、その」
「団長はやめだ」
「え?」
目元を緩ませ、穏やかに微笑んでいる。
普段の騎士団長として引き締まった、真面目でキリっとした顔はどこにもない。
この甘い顔の破壊力といったら! すごすぎ!
「今は団長ではない。名前で呼んでほしい」
「なまえ!」
「ああ、オレンと」
名前知ってます大丈夫ですと思いつつも、世のご令嬢たちが悲鳴を上げそうな展開に目が回る。
団長を名前呼び! 無理!
「代わりに君のことを名前で呼んでも?」
「なまえ」
「ミナ」
あああああああどうしてこうなったのおおおおお?!
二人で私服で休憩時間に買い出しに出かけただけでこんな急展開ある? おかしくない?
「あ、えっとだんちょ」
「名前」
「……」
「……」
「……オレン、さん」
「ああ」
笑顔で圧かけないでほしい。
さすがそこは騎士団長、無言の圧が人より強い気がする。
「急に、なんで」
「いや、ずっと団長では堅苦しいなと思っただけだ」
少し淋しそうに遠くを見つめる。
もしかして団長は団長で責任とか立場とかそういったものに悩んでいるのだろうか。
常に気を張って休める時がないなら、今私と過ごす時間がなにものでもない自由な時間ってこと? 団長という肩書が外れる貴重な時間ってこと?
休憩時間なんて多くても一時間なのに、団長が団長でないこの時間が肩の荷が下りる唯一の時間だとしたら貴重すぎる。
「その、少しでも落ち着ける時間になるよう頑張りますね!」
「え?」
「私なんかのためにだんちょ、んん、オレンさんの貴重な時間を使ってもらうなんて申し訳ないんですけど」
というかやっぱりやめるべき?
筋肉は見たい。けど団長の時間を私が拘束してしまっては自由な時間を私が奪っている。
「いや、私がミナと一緒にいたい」
「ひっ、えええ」
「ちなみに、さん付けもしなくていい」
「そっち?!」
というか、そういう言葉はおいそれと言うものじゃないんですよ! 破壊力がすごいので!
もしかして団長ってば素で女性を落とすタイプ?
侯爵令息、騎士団長、完璧な筋肉、大人の男性、未婚、イケメンだなんて思いつく限りでも令嬢たちがきゃっきゃする特徴ばかりだ。黄色い声しかあがらないでしょ。
「申し訳ないなんて思わないでくれ。私は今、久しぶりに楽しい」
「ふおぉおおおおお!」
連撃できた! 末恐ろしい!
「むしろ申し訳ないのは私の方だ」
「え……どういうことですか?」
「ミナは絵を描いていたのだろう?」
確信している声音だった。
視線を上げると見降ろしている団長は眉を八の字に下げている。
「強引だっただろうか」
「え?」
「絵を描くことを知られたくないようだった」
ハマライネン医師とのやり取りでそこまで察せただなんて団長はやっぱり有能だ。
けどここまできたなら、もう描くしかない。
筋肉が優先された。
つまり私が意固地に諦めた絵描きはもうとっくに筋肉を見るに負けている。
「うちって弟妹多くて」
「?」
努めて明るく話した。
「爵位はあるとはいえ末端の男爵なんで、あまり裕福じゃないんです。だから私、出稼ぎにこっちに来たんですけど、王都に来るタイミングで絵は諦めました。絵の学校ってすごく高いですし、下の弟妹たちに苦労させたくないし」
「そうか……」
「なので今絵描いたらヘロヘロな気がします」
描いた絵見て笑ってくださいと誤魔化してみる。団長のこと、私の家庭環境や過去を話したら真面目に受け止めそうだもの。明るく誤魔化そう。
事実、絵は諦めたけど不幸ではなかった。今の職場は上質な筋肉が見れて最高だし、なにより団長がいる。
貴族院だって途中でやめて仕事を得るのも大変だったところを拾ってもらった。運がよかったと思う。
「ミナが描くものを笑うわけがない。時間があいて腕が鈍っていても、それこそ初心者で初めて筆をとるとなっても、君の描くものは笑わない」
真剣に応えてくれた。
真面目で優しい。だから私は団長の下で働こうと思ったんだ。
王都に来たばかりの時助けてくれた。きっと団長は覚えてないだろう。
一目見ただけで優しい人だと分かった。私も彼のように誰かを助けられる人になりたくて、憧れて王城での仕事に申し込んだ。
最初は騎士団の雑務から始まり、副団長に声をかけてもらって団長の面接を経て兼事務員になれた。
「ありがとうございます」
覚えてなくていい。今こうして隣にいられるだけで充分だもの。
部下として見ているだけでも、話せる距離にまで縮んだ。今もデートできてるだけで幸せだ。一生分の運を使った気がする。
「ああ。ミナ、着いたようだ」
「はい」
私が団長に片想いしてるのはずっと秘密で誰にも話してない。
憧れが恋心に変わるなんてよくある話だし、この気持ちを抱えているだけで充分だった。
デート! ではない!
これは治療の一環で、そう特にそういう雰囲気でもなんでもない!
私、勘違いしちゃだめよ!
「団長、その」
「団長はやめだ」
「え?」
目元を緩ませ、穏やかに微笑んでいる。
普段の騎士団長として引き締まった、真面目でキリっとした顔はどこにもない。
この甘い顔の破壊力といったら! すごすぎ!
「今は団長ではない。名前で呼んでほしい」
「なまえ!」
「ああ、オレンと」
名前知ってます大丈夫ですと思いつつも、世のご令嬢たちが悲鳴を上げそうな展開に目が回る。
団長を名前呼び! 無理!
「代わりに君のことを名前で呼んでも?」
「なまえ」
「ミナ」
あああああああどうしてこうなったのおおおおお?!
二人で私服で休憩時間に買い出しに出かけただけでこんな急展開ある? おかしくない?
「あ、えっとだんちょ」
「名前」
「……」
「……」
「……オレン、さん」
「ああ」
笑顔で圧かけないでほしい。
さすがそこは騎士団長、無言の圧が人より強い気がする。
「急に、なんで」
「いや、ずっと団長では堅苦しいなと思っただけだ」
少し淋しそうに遠くを見つめる。
もしかして団長は団長で責任とか立場とかそういったものに悩んでいるのだろうか。
常に気を張って休める時がないなら、今私と過ごす時間がなにものでもない自由な時間ってこと? 団長という肩書が外れる貴重な時間ってこと?
休憩時間なんて多くても一時間なのに、団長が団長でないこの時間が肩の荷が下りる唯一の時間だとしたら貴重すぎる。
「その、少しでも落ち着ける時間になるよう頑張りますね!」
「え?」
「私なんかのためにだんちょ、んん、オレンさんの貴重な時間を使ってもらうなんて申し訳ないんですけど」
というかやっぱりやめるべき?
筋肉は見たい。けど団長の時間を私が拘束してしまっては自由な時間を私が奪っている。
「いや、私がミナと一緒にいたい」
「ひっ、えええ」
「ちなみに、さん付けもしなくていい」
「そっち?!」
というか、そういう言葉はおいそれと言うものじゃないんですよ! 破壊力がすごいので!
もしかして団長ってば素で女性を落とすタイプ?
侯爵令息、騎士団長、完璧な筋肉、大人の男性、未婚、イケメンだなんて思いつく限りでも令嬢たちがきゃっきゃする特徴ばかりだ。黄色い声しかあがらないでしょ。
「申し訳ないなんて思わないでくれ。私は今、久しぶりに楽しい」
「ふおぉおおおおお!」
連撃できた! 末恐ろしい!
「むしろ申し訳ないのは私の方だ」
「え……どういうことですか?」
「ミナは絵を描いていたのだろう?」
確信している声音だった。
視線を上げると見降ろしている団長は眉を八の字に下げている。
「強引だっただろうか」
「え?」
「絵を描くことを知られたくないようだった」
ハマライネン医師とのやり取りでそこまで察せただなんて団長はやっぱり有能だ。
けどここまできたなら、もう描くしかない。
筋肉が優先された。
つまり私が意固地に諦めた絵描きはもうとっくに筋肉を見るに負けている。
「うちって弟妹多くて」
「?」
努めて明るく話した。
「爵位はあるとはいえ末端の男爵なんで、あまり裕福じゃないんです。だから私、出稼ぎにこっちに来たんですけど、王都に来るタイミングで絵は諦めました。絵の学校ってすごく高いですし、下の弟妹たちに苦労させたくないし」
「そうか……」
「なので今絵描いたらヘロヘロな気がします」
描いた絵見て笑ってくださいと誤魔化してみる。団長のこと、私の家庭環境や過去を話したら真面目に受け止めそうだもの。明るく誤魔化そう。
事実、絵は諦めたけど不幸ではなかった。今の職場は上質な筋肉が見れて最高だし、なにより団長がいる。
貴族院だって途中でやめて仕事を得るのも大変だったところを拾ってもらった。運がよかったと思う。
「ミナが描くものを笑うわけがない。時間があいて腕が鈍っていても、それこそ初心者で初めて筆をとるとなっても、君の描くものは笑わない」
真剣に応えてくれた。
真面目で優しい。だから私は団長の下で働こうと思ったんだ。
王都に来たばかりの時助けてくれた。きっと団長は覚えてないだろう。
一目見ただけで優しい人だと分かった。私も彼のように誰かを助けられる人になりたくて、憧れて王城での仕事に申し込んだ。
最初は騎士団の雑務から始まり、副団長に声をかけてもらって団長の面接を経て兼事務員になれた。
「ありがとうございます」
覚えてなくていい。今こうして隣にいられるだけで充分だもの。
部下として見ているだけでも、話せる距離にまで縮んだ。今もデートできてるだけで幸せだ。一生分の運を使った気がする。
「ああ。ミナ、着いたようだ」
「はい」
私が団長に片想いしてるのはずっと秘密で誰にも話してない。
憧れが恋心に変わるなんてよくある話だし、この気持ちを抱えているだけで充分だった。
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