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10話 我慢の反動でビリビリになる服

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 パアアァン!!

「え……あー、これが噂の?」
「タピオさん大丈夫です?」
「あー……ペッタ、おれ着替えてくるわ」
「はい」
「また服補充してもらわないとか」
「ひええ……」

 経過観察がひどい。
 私は直で筋肉がみられて幸せだけど、騎士たちの間で服が破れる奇怪な現象は認知されつつある。
 せめて自分の意志で破くことができればいいのに!

『全体バランス8! いい感じです!』

 本当に。
 このぐらいのバランスまでいくと中々鍛えられていて筋肉の締まりもいい。
 けどここから次のレベルに至るまで大きな壁があるようで、9と10は今も見なかった。

「すみません、シャツもらえます?」
「は、はい!」
「どーも」
「いいえ」

 団長ほどではないけど、このぐらいでもいい筋肉。
 服を着るなんてもったいない。
 そのまま筋肉を見続けられたら幸せだなあ。

「素敵ですう」
「ん? なにか?」
「はっ! い、いいえ!」
「あ、ヘイアストインさん。自分は破れてないんすけど、一枚シャツもらうことってできます?」
「はい、大丈夫です」

 服が破れなかった騎士に話しかけられる。

『全体バランス5! ただし下半身は鍛えられています』

 珍しいタイプだ。足が速いのかな?

「ヘイアストインさん?」
「はっ!」

 人様の下半身を凝視してたらセクハラになる。
 だめだ、私ってば誘惑に弱すぎ。

「ペッタ、お前シャツなら充分持ってなかったか?」
「えへへ! 今度自分、とあるご令嬢とお茶するんす」
「なんだよ。当てつけか?」
「違いますよ~!」

 下半身だけのバランスは7か。他が低すぎで全体バランスが5になるのね。
 鍛え上げられた下半身を上手に使うには上半身の棘腕筋から腹直筋まで一緒に鍛えた方がいい。肩甲骨も柔らかくなるとなお良し。
 はっ! いけない! あんまり筋肉について考えてたらまた破れる!

「で、は、私はこれで!」

 着替えた瞬間にまた破いたらバレそう。物品は補充したから事務室へ戻った方がいいかな。

「ふう……」

 事務室はもぬけの殻だった。
 そういえば今日は外出予定が多い。事務員という割に現場主義なのは筋肉主義体育会系のキルカス王国ならではという感じだ。
 机にあるメモを見つつ、書類を整える。

「あ、団長」

 窓の外では団長が副団長と話をしていた。
 種類を片手に庁舎へ戻ろうとしている。
 ああ、全体バランス満点の筋肉はやっぱり最高。

『服を破くスキルが7.7にあがりました! 射程範囲が10メートルへ拡大!』

 ちょっとおおおおお!?
 窓に映った自分のステータスを見たら微妙にレベルが上がった!
 さっき服破いたから? にしたって射程圏内広がらないで制御できるようなレベルアップしてよ!

「にしても良い筋肉……じゃない!」

 団長を視界にいれてしまった。
 いけない。二階と一階なら十メートル範囲内じゃない?
 見たいって思ったらだめ! あ、でも本当団長の筋肉は最高なんだけど!
 全体バランスマックスは次元が違う! 芸術そのもの! 見たい!

「だめ! 我慢しないと!」

 何度も団長の服を破くわけにはいかない。
 こうなったら見ない、想像しない、望まない、これに尽きる。
 けど、いい筋肉目の前にしたら想像だけはどうしても避けられない。
 へたに二度も見てるから尚更だった。

「が、我慢……いい筋肉、我慢」

 ちらりと窓の外を見てしまう。
 団長が完全に見えなくなった。助かったわ。
 と、思ったら今度はなぜか身体がざわざわし始める。鳥肌が立つような感覚だ。
 なにこれ?
 風邪ひく前の背筋のぞわぞわ感に似ているけど、頭痛も眩暈もないし熱もなさそう。
 ただ止められないことだけは感覚で分かった。
 床にへたり込んで、両腕で自分を抱える。抑えられない。

「だ、だめ……」

 嫌な予感しかしなかった。
 我慢して抑え込まないと取り返しのつかない予感がする。

「が、がんばれ私……!」

 抵抗むなしく。
 ざわざわ感が頂点に達した時だった。

「っ!」

 パアアァン!!

「……う、うそ」

 服が破けた。
 私の服がすべてびりびりになってひらひら舞う。
 今までシャツ一枚が破けるなんて比じゃない。
 シャツから上着まで全てが散った。

「せ、制服が!」

 事務員用の制服高いのに! あ、いや、そうじゃない! 今私真っ裸!
 私を含め、騎士団の事務をしている人間は制服が支給される。今の季節だとシャツの上に指定の上着を着ていることが多い。
 厚着をしてるのに全部飛び散ったわけだ。

「なんで?」

 団長の筋肉を見たいと思っても対象は一人だから破けるのもシャツだけじゃないの?
 よりにもよって全身すべての服が破けるとかおかしいでしょ!

「き、着替え」

 予備の制服一式があったはずだ。
 かなり前に雇用予定だったのを急遽取りやめた女性用の制服がある。
 直近、団長のシャツを取り出した時に目に入ったから確かだ。
 なのに最悪のタイミングで最悪の事態が訪れた。

「……」

 ガチャリと開けられた扉。
 へたり込んだまま後ろを見る。団長が書類を持って入ってくるところで目が合った。

「あ……」

 眦があがるもすっと落ちる空気の温度。
 すぐさま扉は閉じられ鍵をかける音がした。

「だんちょ、」

 バサリと私の肩にかけられたのは団長が普段着る騎士団長の上着だ。
 すっぽり覆われ、大きさと重さに驚く。

「あ、団長」

 見上げた先の団長は無表情だった。
 すぐ視線を逸らし、黙って部屋の窓のカーテンを閉め始める。
 すべての窓をカーテンで隠した後、団長の上着にくるまった私に跪いて静かに告げた。

「責任を取る。結婚しよう」
「はい?!」

 ま、また?!
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