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49話後編 破棄の次は離縁(L)
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「やっとだよ……」
「ダーレったらどうしたの」
ドゥファーツ、ノッチュ城大広間。
かなり感慨深い思いに駆られているらしいダーレは、涙こそ流さないまでも、感動しているとばかりの表情で前を見据えている。
「結婚式」
「全部合わせて三回目よ」
充分すぎるぐらいやったと思うのだけど。
領地と王都だけで充分だった思うのだけど、それも領地は再度やるという話だし、もう終わりを見せてもいいというのが私の正直な思い。
なのにダーレときたら、ドゥファーツの結婚式が何回延期になったと思うんだと言ってくる。
確かに延期にはなったけど、そこまで気にする事なのかしら。
「ラウラひどいよ……結婚式だよ?!」
「え、ええ、ごめんなさい。でももう少し静かにね?」
「なにこの温度差……」
ダーレが一人で嘆いている。
なんとか目の前のドゥファーツ式の結婚式をこなしてくれたので、そこは心底安心した。
ドゥファーツは領地と王都に比べると、厳かな印象が強い。普段の祭事と同じで格式ばったところがある。
それさえ終われば、国を見渡せるバルコニーに出て、集まってくれた民に対して挨拶をすれば、それで終了。後はいくらでも砕けていいお酒を飲むだけの集まりになる。
「ダーレ?」
「ラウラ結婚式嬉しい?」
「ええ勿論よ」
「ならいいんだけど」
指の腹で頬を撫でる。
くすぐったさに頬が熱くなった。
すぐにこうして触れてくるのだから。
「姫様」
城を出れば、国の民が全員集まっている。
前にダーレを迎え入れた時と同じようにお酒を飲んで騒ぐだけ。
勿論今回は姉様達もいるし、まあ前よりは大人しめだと思う。
「ひめさま」
子供達も大人も祝福の言葉をくれる。
領地にいた時もそうだった。王都ではダーレの御家族が祝福してくれた。
レナ姉様の言う通り、私はたくさんの人に恵まれているのね。
* * *
「ラウラ、これいつまで続くの」
「たぶん日が明けるまでは」
「うそ……」
祝い事に関しては時間を結構とって行う事を伝えると、ダーレが驚いた挙句、祭事はあんなに厳かにやるくせに、最後の締めがたいくかいけいかよと囁いた。
また不思議な言葉を使っているわね。
「先に部屋に戻って寝ても問題ないわよ?」
「ラウラいるでしょ」
「ええ」
「なら、僕もいる」
憮然とした様子で言うものだから、何か気分でも害したのかと再度きいてみるけど、他の男がいるのに離れるとか嫌とも主張する。
そりゃ国民全員いれば男性もいるわけなのだけど。
「あ、なんかプロレスみたいなの始めてる」
「ぷろれす?」
掴みあいの仕合のことかしら。
酔っぱらってるから、互いにおぼつかない足だし、そもそもうまく相手を掴めてない時点で相当ね。
「ダーレ、まだ飲む?」
「いや、もうお酒はいいや」
「そう。なら、水でいい?」
「ん、ありがと」
暫く時間も過ぎれば、ちらほらとお酒に飲まれた順に地に沈んでいく。
久しくここまで飲むという事をしていなかったから、きちんと家に帰れる人も少ないかしら。
その中でもお酒に強い人がきちんと抱えて家に送り届けているから、この国の民は本当に優しいと思う。
「姫様、もうこれで終いですかね」
「ええそうね」
最期の一集団が潰れたのを抱えて最後だった。
それを見送ってすぐにダーレが一息ついた。
「先に戻っててよかったのに」
「ラウラと一緒にいたんだよ」
さらっといつもの調子で言ってくる。
「戻りましょう」
「うん」
二人城に戻る。
昨日の今日だから、守りの衛兵もいない。
とても静かな城を私とダーレの足音だけが響いていた。
「あ、そうだ。ダーレ」
「どうしたの」
「こっち」
この時間なら見られそう。
ダーレの手を引いて、バルコニーに出る。
「丁度良かった」
「え?」
「日の出、折角だから見ていきましょう?」
夜明け。
地平線から徐々に陽が登る。
空が白んでいく。白に染まっていく。
「綺麗ね」
「ああ」
握る手に力が入って顔を向けるとダーレがこちらを見つめていた。
その瞳の色が深みを帯びて色を変えていた。空と同じ色の瞳。
「ラウラ」
片方の手が私の頬を包み、そのまま傾けられる。
ゆっくり近づいて来て、鼻先が触れ合ったところで、私は瞳を閉じた。
「……」
唇を重ね、その温度を知る。
とても緊張して恥ずかしいのに、仕様もない満たされた何かが身体中を巡った。
「ダーレ」
「ん、行こう」
日の出を後にして、城の中へ戻る。
相変わらず静かな中、何気ない話を続けた。
まさか今日お手伝いしないよねから始まって、領地ではどういう事しようかとか。
私の声を一つ一つ汲み取ってくれるんだと分かって、それだけで嬉しい気持ちが溢れてくる。
不思議ね、今まで軽い調子でなんて言っていたのに。
「あ、そうだ」
「どうかしたの」
「あれだ、破棄はもうないけど、離縁はダメだからね?」
「離縁?」
「そう!」
こんなに祝福されて、私はこんなにダーレの事が好きなのに、離縁ですって?
そりゃ出会って随分と婚約破棄だと言っていたけど、今を見て何を言っているのかしら?
「……ふふ」
「ラウラ?」
面白い事を言うのね。
今まで散々私の事が好きだと言って揺るがなかったのに。
「さあどうかしら」
「え?!」
「ふふふ」
「ラウラ、そんな!」
今まで散々からかわれてたから、このぐらいいいわよね。
「からかってる?!」
「ふふ……」
私はダーレと一緒だから幸せなのよ。
この言葉は当分お預けでいいわね。
今度は私がダーレを振り回してやるんだから。
「ダーレったらどうしたの」
ドゥファーツ、ノッチュ城大広間。
かなり感慨深い思いに駆られているらしいダーレは、涙こそ流さないまでも、感動しているとばかりの表情で前を見据えている。
「結婚式」
「全部合わせて三回目よ」
充分すぎるぐらいやったと思うのだけど。
領地と王都だけで充分だった思うのだけど、それも領地は再度やるという話だし、もう終わりを見せてもいいというのが私の正直な思い。
なのにダーレときたら、ドゥファーツの結婚式が何回延期になったと思うんだと言ってくる。
確かに延期にはなったけど、そこまで気にする事なのかしら。
「ラウラひどいよ……結婚式だよ?!」
「え、ええ、ごめんなさい。でももう少し静かにね?」
「なにこの温度差……」
ダーレが一人で嘆いている。
なんとか目の前のドゥファーツ式の結婚式をこなしてくれたので、そこは心底安心した。
ドゥファーツは領地と王都に比べると、厳かな印象が強い。普段の祭事と同じで格式ばったところがある。
それさえ終われば、国を見渡せるバルコニーに出て、集まってくれた民に対して挨拶をすれば、それで終了。後はいくらでも砕けていいお酒を飲むだけの集まりになる。
「ダーレ?」
「ラウラ結婚式嬉しい?」
「ええ勿論よ」
「ならいいんだけど」
指の腹で頬を撫でる。
くすぐったさに頬が熱くなった。
すぐにこうして触れてくるのだから。
「姫様」
城を出れば、国の民が全員集まっている。
前にダーレを迎え入れた時と同じようにお酒を飲んで騒ぐだけ。
勿論今回は姉様達もいるし、まあ前よりは大人しめだと思う。
「ひめさま」
子供達も大人も祝福の言葉をくれる。
領地にいた時もそうだった。王都ではダーレの御家族が祝福してくれた。
レナ姉様の言う通り、私はたくさんの人に恵まれているのね。
* * *
「ラウラ、これいつまで続くの」
「たぶん日が明けるまでは」
「うそ……」
祝い事に関しては時間を結構とって行う事を伝えると、ダーレが驚いた挙句、祭事はあんなに厳かにやるくせに、最後の締めがたいくかいけいかよと囁いた。
また不思議な言葉を使っているわね。
「先に部屋に戻って寝ても問題ないわよ?」
「ラウラいるでしょ」
「ええ」
「なら、僕もいる」
憮然とした様子で言うものだから、何か気分でも害したのかと再度きいてみるけど、他の男がいるのに離れるとか嫌とも主張する。
そりゃ国民全員いれば男性もいるわけなのだけど。
「あ、なんかプロレスみたいなの始めてる」
「ぷろれす?」
掴みあいの仕合のことかしら。
酔っぱらってるから、互いにおぼつかない足だし、そもそもうまく相手を掴めてない時点で相当ね。
「ダーレ、まだ飲む?」
「いや、もうお酒はいいや」
「そう。なら、水でいい?」
「ん、ありがと」
暫く時間も過ぎれば、ちらほらとお酒に飲まれた順に地に沈んでいく。
久しくここまで飲むという事をしていなかったから、きちんと家に帰れる人も少ないかしら。
その中でもお酒に強い人がきちんと抱えて家に送り届けているから、この国の民は本当に優しいと思う。
「姫様、もうこれで終いですかね」
「ええそうね」
最期の一集団が潰れたのを抱えて最後だった。
それを見送ってすぐにダーレが一息ついた。
「先に戻っててよかったのに」
「ラウラと一緒にいたんだよ」
さらっといつもの調子で言ってくる。
「戻りましょう」
「うん」
二人城に戻る。
昨日の今日だから、守りの衛兵もいない。
とても静かな城を私とダーレの足音だけが響いていた。
「あ、そうだ。ダーレ」
「どうしたの」
「こっち」
この時間なら見られそう。
ダーレの手を引いて、バルコニーに出る。
「丁度良かった」
「え?」
「日の出、折角だから見ていきましょう?」
夜明け。
地平線から徐々に陽が登る。
空が白んでいく。白に染まっていく。
「綺麗ね」
「ああ」
握る手に力が入って顔を向けるとダーレがこちらを見つめていた。
その瞳の色が深みを帯びて色を変えていた。空と同じ色の瞳。
「ラウラ」
片方の手が私の頬を包み、そのまま傾けられる。
ゆっくり近づいて来て、鼻先が触れ合ったところで、私は瞳を閉じた。
「……」
唇を重ね、その温度を知る。
とても緊張して恥ずかしいのに、仕様もない満たされた何かが身体中を巡った。
「ダーレ」
「ん、行こう」
日の出を後にして、城の中へ戻る。
相変わらず静かな中、何気ない話を続けた。
まさか今日お手伝いしないよねから始まって、領地ではどういう事しようかとか。
私の声を一つ一つ汲み取ってくれるんだと分かって、それだけで嬉しい気持ちが溢れてくる。
不思議ね、今まで軽い調子でなんて言っていたのに。
「あ、そうだ」
「どうかしたの」
「あれだ、破棄はもうないけど、離縁はダメだからね?」
「離縁?」
「そう!」
こんなに祝福されて、私はこんなにダーレの事が好きなのに、離縁ですって?
そりゃ出会って随分と婚約破棄だと言っていたけど、今を見て何を言っているのかしら?
「……ふふ」
「ラウラ?」
面白い事を言うのね。
今まで散々私の事が好きだと言って揺るがなかったのに。
「さあどうかしら」
「え?!」
「ふふふ」
「ラウラ、そんな!」
今まで散々からかわれてたから、このぐらいいいわよね。
「からかってる?!」
「ふふ……」
私はダーレと一緒だから幸せなのよ。
この言葉は当分お預けでいいわね。
今度は私がダーレを振り回してやるんだから。
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