77 / 79
49話前編 これが幸せなのかなって(D)
しおりを挟む
「……ラウラ?」
目が覚めて、ベッドの中には僕だけだった。
あれ、ラウラと一緒に寝たはず。
ラウラってばエミリア姉さんの縁談を僕の縁談と勘違いして、二人目の奥さんやめてって訴えにわざわざ僕を探しにやって来た。
ラウラが焼餅を焼くなんて最高すぎて、もうその日は記念日にしたい勢いだったよ。
「……夢?」
いや、あれは現実だったはずだ。
あの後フィーとアンに見つかって、手紙だしてなかったことを散々怒られたけど(ラウラが勘違いしちゃったし、失念してたとはいえ申し訳ないと僕も反省したけど)、ラウラが納得してくれたから許してもらえた。
というか、僕がラウラ以外を好きになるとかないんだけど。やっぱりもっとラウラへの愛を出してもいいな。これからは嫌という程、愛を囁こう。
「主人、起きられました?」
長年一緒だと僕が起きるのもわかるみたいで凄いなとしみじみ思う。
「ラウラは?」
「お早う御座います。朝、開口一番がそれですか」
「はいはい、おはよ。僕にとって一番大事なとこだろ」
「ええ、存じております」
「で、どこ?」
「階下に。庭の薔薇の手入れをされています」
相変わらずだな。
庭師と一緒にやってる姿が想像できる。
「てか、そんな遅くないのに? むしろ早いというか」
「ええ、いつもの時間より早いですね。王女様もかなり早く起きられていました。庭を散策され、再お披露目の場を確認されて、その上で薔薇園にいらっしゃいます」
「朝餉は?」
「主人と一緒にと仰っているので、まだですね」
「なにそれ、可愛い」
貴方が食べないからですよと言われたけど無視した。
僕のために待ってるってとこがいいんだよ。
勿体無いとかそういう話はなかったことにした。
「なら、さっさと準備していくか」
「はいはい」
朝が早すぎても周囲は優秀で、朝食はいつもでいいとばかりの準備の良さだった。
朝食の匂いが美味しそうって感じるようになったのは、やっぱりここ最近だな。
「ドゥファーツへ行く準備は?」
「問題ありません。いつでも」
「手紙は?」
「昨日返事がありました。いつでも問題ないそうです」
「ありがと。じゃ、あとはラウラ次第かな」
ラウラは勘違いして怒っていたけど、あちらは問題なかったらしい。
リラもいるから全部分かった上で、ラウラに何も言わずに行かせた可能性があるな。いやすごく貴重なもの見られたからいいんだけど。
「ラウラ」
階下、薔薇園によれば、朝の光を浴びた薔薇の中に彼女がいた。
精霊と会話でもしているのだろうか、時折笑いながら剪定している。
最初の僕の声は届いてなかったけど、程なくして気づいたラウラと目が合った。
「ラウラ」
「ダーレ」
微笑む。
そしてこちらに駆けよってくる彼女を見て、なんだかもう胸がいっぱいになった。
「お早う」
「あ、ああ、うん。おはよ」
「ダーレ?」
挙動不審になった僕に小首を傾げ見上げてくる。
ゆっくりした動作で髪を撫でるとされるがまま受け入れて、どうしたのと小さく囁いた。
「ラウラ、ちゃんといるなって」
「何言ってるの?」
僅かに笑う。
触り心地のいい髪はさらりと指の間をすり抜けていく。
指の背で頬を撫でると目元を赤くした。
「たぶん、うん、これが幸せなのかなって」
「ダーレ?」
寝ぼけているのと問われた。
失礼な。
「ラウラも大概フィーとアンに似てきた……」
「そんなことないわ」
「目が覚めてラウラがいるんだっていうのが最高だっただけだよ」
「そう」
視線を逸らすとこを見るからに、恥ずかしいのかな。まだ目元は赤いままだし。
「でも出来れば目覚めたら僕の腕の中にいる方がいいな」
「え?」
「ううん、なんでもないよ」
同じベッドで目が覚めたらラウラがいないっていうのは、少し淋しいものがあった。
ラウラの寝顔を見て、起きる彼女を待つのが性に合ってるのかも。
ずっと追いかけていたのに不思議なものだな。
「そうだ、ダーレ。ドゥファーツに行くのはまだ先よね?」
「うん」
僕が朝食を食べているのを見て、周囲は納得の表情になる。なんで僕が食べない事がそんなに罪なのか。料理長だけじゃないの。
「仕事は?」
「片したから余裕があるけど」
ラウラは相変わらず背筋良く、フォークとナイフを置いてから話しかけてくる。
僕が適当に応えていた事に、ぱっと明るい顔をして。うん、可愛いな。
「なら、お手伝いに出ましょう」
「はい?」
予期せぬ提案に驚く。
お手伝いってあのお手伝い? 領民の仕事の?
言えば、そうだと頷いてくる。
まあ昼過ぎに出たって、ドゥファーツへは余裕だけど。
なんだか肩透かしをくらった気分だ。
「それ、やるの変わらないの」
「勿論よ」
当たり前と言わんばかりの様子に、思わず笑いが漏れた。
よりにもよって、その部分がぶれないなんて。
「大丈夫よ。もう贖罪でやろうとは思ってないから」
何気なく呟かれたラウラの言葉に安心する。彼女はもう僕と会った頃の彼女ではなくて、きちんと進んでいけているんだと気づいた。
まあそれにしてもほかの連中に愛想振り撒くのはなんともなあ。
領主の妻としては型破りながら良い姿とも言えるんだけど。
「フィー」
「問題ありません。連絡はこちらが手配しましょう」
「オッケー」
じゃあラウラ。
手を差し出せば、するりと添えられる。
「行こうか」
「ええ」
目が覚めて、ベッドの中には僕だけだった。
あれ、ラウラと一緒に寝たはず。
ラウラってばエミリア姉さんの縁談を僕の縁談と勘違いして、二人目の奥さんやめてって訴えにわざわざ僕を探しにやって来た。
ラウラが焼餅を焼くなんて最高すぎて、もうその日は記念日にしたい勢いだったよ。
「……夢?」
いや、あれは現実だったはずだ。
あの後フィーとアンに見つかって、手紙だしてなかったことを散々怒られたけど(ラウラが勘違いしちゃったし、失念してたとはいえ申し訳ないと僕も反省したけど)、ラウラが納得してくれたから許してもらえた。
というか、僕がラウラ以外を好きになるとかないんだけど。やっぱりもっとラウラへの愛を出してもいいな。これからは嫌という程、愛を囁こう。
「主人、起きられました?」
長年一緒だと僕が起きるのもわかるみたいで凄いなとしみじみ思う。
「ラウラは?」
「お早う御座います。朝、開口一番がそれですか」
「はいはい、おはよ。僕にとって一番大事なとこだろ」
「ええ、存じております」
「で、どこ?」
「階下に。庭の薔薇の手入れをされています」
相変わらずだな。
庭師と一緒にやってる姿が想像できる。
「てか、そんな遅くないのに? むしろ早いというか」
「ええ、いつもの時間より早いですね。王女様もかなり早く起きられていました。庭を散策され、再お披露目の場を確認されて、その上で薔薇園にいらっしゃいます」
「朝餉は?」
「主人と一緒にと仰っているので、まだですね」
「なにそれ、可愛い」
貴方が食べないからですよと言われたけど無視した。
僕のために待ってるってとこがいいんだよ。
勿体無いとかそういう話はなかったことにした。
「なら、さっさと準備していくか」
「はいはい」
朝が早すぎても周囲は優秀で、朝食はいつもでいいとばかりの準備の良さだった。
朝食の匂いが美味しそうって感じるようになったのは、やっぱりここ最近だな。
「ドゥファーツへ行く準備は?」
「問題ありません。いつでも」
「手紙は?」
「昨日返事がありました。いつでも問題ないそうです」
「ありがと。じゃ、あとはラウラ次第かな」
ラウラは勘違いして怒っていたけど、あちらは問題なかったらしい。
リラもいるから全部分かった上で、ラウラに何も言わずに行かせた可能性があるな。いやすごく貴重なもの見られたからいいんだけど。
「ラウラ」
階下、薔薇園によれば、朝の光を浴びた薔薇の中に彼女がいた。
精霊と会話でもしているのだろうか、時折笑いながら剪定している。
最初の僕の声は届いてなかったけど、程なくして気づいたラウラと目が合った。
「ラウラ」
「ダーレ」
微笑む。
そしてこちらに駆けよってくる彼女を見て、なんだかもう胸がいっぱいになった。
「お早う」
「あ、ああ、うん。おはよ」
「ダーレ?」
挙動不審になった僕に小首を傾げ見上げてくる。
ゆっくりした動作で髪を撫でるとされるがまま受け入れて、どうしたのと小さく囁いた。
「ラウラ、ちゃんといるなって」
「何言ってるの?」
僅かに笑う。
触り心地のいい髪はさらりと指の間をすり抜けていく。
指の背で頬を撫でると目元を赤くした。
「たぶん、うん、これが幸せなのかなって」
「ダーレ?」
寝ぼけているのと問われた。
失礼な。
「ラウラも大概フィーとアンに似てきた……」
「そんなことないわ」
「目が覚めてラウラがいるんだっていうのが最高だっただけだよ」
「そう」
視線を逸らすとこを見るからに、恥ずかしいのかな。まだ目元は赤いままだし。
「でも出来れば目覚めたら僕の腕の中にいる方がいいな」
「え?」
「ううん、なんでもないよ」
同じベッドで目が覚めたらラウラがいないっていうのは、少し淋しいものがあった。
ラウラの寝顔を見て、起きる彼女を待つのが性に合ってるのかも。
ずっと追いかけていたのに不思議なものだな。
「そうだ、ダーレ。ドゥファーツに行くのはまだ先よね?」
「うん」
僕が朝食を食べているのを見て、周囲は納得の表情になる。なんで僕が食べない事がそんなに罪なのか。料理長だけじゃないの。
「仕事は?」
「片したから余裕があるけど」
ラウラは相変わらず背筋良く、フォークとナイフを置いてから話しかけてくる。
僕が適当に応えていた事に、ぱっと明るい顔をして。うん、可愛いな。
「なら、お手伝いに出ましょう」
「はい?」
予期せぬ提案に驚く。
お手伝いってあのお手伝い? 領民の仕事の?
言えば、そうだと頷いてくる。
まあ昼過ぎに出たって、ドゥファーツへは余裕だけど。
なんだか肩透かしをくらった気分だ。
「それ、やるの変わらないの」
「勿論よ」
当たり前と言わんばかりの様子に、思わず笑いが漏れた。
よりにもよって、その部分がぶれないなんて。
「大丈夫よ。もう贖罪でやろうとは思ってないから」
何気なく呟かれたラウラの言葉に安心する。彼女はもう僕と会った頃の彼女ではなくて、きちんと進んでいけているんだと気づいた。
まあそれにしてもほかの連中に愛想振り撒くのはなんともなあ。
領主の妻としては型破りながら良い姿とも言えるんだけど。
「フィー」
「問題ありません。連絡はこちらが手配しましょう」
「オッケー」
じゃあラウラ。
手を差し出せば、するりと添えられる。
「行こうか」
「ええ」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
私はヒロインを辞められなかった……。
くーねるでぶる(戒め)
恋愛
私、砂川明は乙女ゲームのヒロインに転生した。どうせなら、逆ハーレムルートを攻略してやろうとするものの、この世界の常識を知れば知る程……これ、無理じゃない?
でもでも、そうも言ってられない事情もあって…。ああ、私はいったいどうすればいいの?!
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ
読み方は自由
ファンタジー
辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる