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41話後編 受諾後、王都版結婚式(D)

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 僕と同じく、兄が瞳を瞬かせて驚いている。
 王陛下が直接、しかも公爵の振りをして。
 姉も宰相も立ち会いだからと共にして。
 全部僕が王位を継ぐと言うのを分かっててやったってこと?
 僕の意図を察したのか、姉さんが違う違うと軽い口調で割って入ってきた。

「あんたの継ぐ継がないはついでよ、ついで」
「え、ひどい」
「これを確実に捕らえる為にやったの」
「あ、そう……」

 指さされている兄は不服そうに姉を睨みあげている。

「それに、あんたラウラちゃんの為に王位もやぶさかじゃないって思ってる節あったでしょ」
「そんなこと」
「返上を受理してないって知った時点で、お父様に受理させようとしなかったのがいい証拠よ」
「ぐっ……」

 そこを突かれると痛いんだけど。
 王位がないと、兄を捕縛したところで、その先については僕は何もできない。
 逃げられてまた命を狙われるとなっても何も出来ない。精々現行犯で捕縛するぐらいだ。
 何も出来ないのなら、いっそ王位を利用して兄を本当の意味で罰する事が出来るのでは、それが平穏につながるのではと頭をよぎった。
 だから継承権返上の受理を急かす事はしなかった。きっとその足元を見られていたんだろう。

「まったく、全部掌の上ってこと?」
「はは、まあいいじゃないか。リーベは継承すると言ったろう?」
「ただし、条件があるんだけど」

 なんだか素直に認めるだけだと、それはそれで不服なので交渉を持ち出す事にした。

「何だ」
「僕以外にエミリア姉さんとクララ姉さんも王位を継ぐこと」
「問題ない。二人とも王位継承を認容している」
「レオドラード辺境伯としてあの領地をおさめ続けるのを認めること」
「構わんさ。書面に文言を差し入れれば問題ない」
「悪いけど、僕、権力使うよ? 僕がラウラと幸せになる事だけに王の力を使うから」
「そこはエミリアとクララとどうにかやってくれ」
「あと、王位継承に伴う本来の歴史の閲覧はしない」

 その発言には姉さん含め、王は驚いたようだった。
 知りたくないのか、と小さく言われたけど、逆にはっきり断った。

「僕はラウラとの今と未来を作るだけだから」

 というよりも、正直本来の歴史についてなら予想ができている。
 その確認をするなら、王城の書斎室の奥ではなく、別の方法で確かめてみたいと思った。

「後は、兄さんの処遇は僕が決める」
「ああ、お前が一番適任だろう」

 そうして場所は噴水の前という、本来の手続きではありえない場所で僕は継承権の申請にサインをした。
 同時、王陛下が受諾し、僕の正式な立場が確立された。

「そういえば、本物の侯爵は?」
「ん? ああ、彼なら第一王太子殿下誘拐監禁の罪で王城の地下牢へ運ばれてる途中だな」
「へえ」

 ちゃっかりやることやってるあたり、仕事出来る父親だよ。

「じゃ、そこの愚兄も同じ場所へ」

 叫び抵抗する兄を、騎士に再度拘束させて連れて行かせた。
 処遇については城に戻ってからだろう。ここで息の根を止めるという選択肢もあったけど、そんな簡単に死なれてもどうかと思ってしまった。ラウラにそういう凄惨な場面を見せたくないしね。

「ダーレ」

 ラウラがひどく穏やかな顔でこちらを見つめる。
 それだけで僕の頬が緩んでしまう事を知っているのかな。

「ありがと、ラウラ」

 おかげでどうにかなった。
 もっと格好よくスマートにできたかもしれないけど。

「あ」
「どうしたの?」
「そうだ」

 折角王位継承権が得られたんだ。

「結婚式をあげようか」

 王都式で。

「え?」
「殿下……」
「折角のいい雰囲気が台無しです」
「え?!」

 なんで?
 見ればラウラは困り顔、父は笑い、姉はやれやれと首を振っている。
 フィーとアンは相変わらず冷たい視線。

「いや、そんな引くこと言った? まあ、どう反対があってもやるけど?」
「殿下言葉を慎んで下さい」
「なんで?! ラウラ駄目なの?!」

 顔を少し赤くして、駄目ではないけど、と訴えるラウラの声は小さかった。

「この場で言う話ではない気がするわ」
「え……」

 凄くいい案だと思ったのに、いまいち皆の反応が悪いのはどうしてなのか。
 まあ結局、城に戻って日も浅い内に結婚式できたんだけど。

* * *

「いいね」

 急ごしらえの割にはよくやった方だと思う。
 というか、なんだかんだ皆初めから結婚式許してくれてて、場所だって衣装だって問題なく決まった。

「うん。ラウラ綺麗」
「でも、いいの? 王陛下ですらいらっしゃらないなんて」
「うん、いいのいいの。後でここにくるから」
「それならお待ちした方が」
「気にしないで。先進めよう」

 王城に用意された広間は普段王が使う。けど人を払った。祭事用の礼服に身を包んだフィーとアンが書類を一枚持ってきていた、
 それに互いにサインをする。

「これでやっと正式な夫婦かあ」
「確かに受理しました」
「じゃ、でてって」
「え?」
「はいはい」

 呆れた様子で出ていく二人。

「どうして?」
「え?」

 だって誓いのキスは二人きりのがいいでしょと言って笑うとラウラは顔を赤くした。

「そ、その為に人払いを?」
「うん」

 だってさ。

「ここにキスするの、初めてでしょ?」
「そ、そうだけど」

 王陛下まで人払いの対象だったことが、ラウラとしては気にかかることだったらしい。

「ラウラ」
「う……」

 いいよね、という意味も込めて名を呼ぶと、目元を赤くしたラウラが僕を見上げる。
 公然とした場所、公然とした理由できちんとキスするんだから。

「ラウラ、一緒に幸せになろう」
「!」

 僕の言葉に目を丸くして、次にそれはもうとびきりの可愛さで微笑んで頷いた。
 待ちわびて堪えられなくなった姉達筆頭に皆がなだれ込んで来るまで、僕とラウラは離れることはなかった。
 というか、外野はもう少し空気読んでくれてもいいと思う。
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