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39話後編 ああもうタイミング悪い。最悪!(D)

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「ラウラそのまま」
「え?」
「出てきた」

 場所が少し狭いか。遮蔽物はある方だけど、この狭さは弾道に限りが出て当たりやすくなる危険もあるか。
 そう思ってラウラの肩を抱いて移動する。
 感じる足音も気配もそのままだ。
 フィーとアンもきちんと控えているから作戦は順調。
 後は誘導するだけ。

「ん?」

 急に気配を消してきた。
 気づかれてる?

「ダーレ?」
「通りに一旦出ようか」

 デートを考えるなら妥当な行動だろう。そこからまた尾行してくるか様子を見ないとかな。

「よし、ひとまずデート再開だね」
「ええ」

 休むのは止めにして、適当に飲み物買ってラウラに渡す。
 まあその売り手もフィー達が用意した騎士の内の一人だけど。暗号混ぜて尾行の有無を確認したけど、一旦引いたきりのようだ。

「ダーレ、どうするの?」
「そうだな、仕立て屋行く?」
「ドレスはお姉さん達と行くんじゃ……」
「げ、ラウラ行く気なの?」
「え、てっきりそうなのかと」

 尾行云々より困ったこと言ってきた。そしたらますます仕立て屋行かないと。

「じゃ、ドレスは姉さん達と見ていいから」
「ええ」
「でも仕立て屋に行く」
「え?」

 初めて踏み入れる仕立て屋は領地内とは全く違う。広さも置く物も、雰囲気も。
 戸惑って手を引かれて入ったラウラは、店に入った途端、きらびやかな内装に目を瞬かせて夢中になり、戸惑いなんてどこかへいってしまう。うん、可愛い。

「奥様にドレスでしょうか?」
「いや、今回は小物買うよ。暫く見させて」
「畏まりました」

 ラウラが楽しんでいるから、ちょっとこのままにしておこう。
 ここでも店員はこちら側だから、何か動きがあればすぐに分かる。

「ラウラ?」

 ふと、ラウラがじっと何かを見つめているから気になって覗いて見る。
 成程、刺繍の入ったリボンか。

「リボンでも買う?」
「え、いえ」
「いや、僕が買いたい」
「でも……あ、もしかして」
「ん?」
「これからの囮の何かで使うのね」

 んー、そういうことにしておこう。
 ただプレゼントしたいんだけど、それだけだとこの後ラウラに何か言われそうだしな。

「ん、そうだね。どれがいい?」
「ええと」

 作戦の為だと思い込んでいる割に、真剣に選んでくれている。 本当純粋にあげたいだけなんだけどなあ。
 まあ最初に僕が言った自然にってとこ気にしてるから、きっと遠慮なく自分の好みを選ぶだろう。それが彼女にとっての自然なデートのようだから。

「これにするわ」
「オッケー」

 青地に金の刺繍か。さすがラウラ、センスがいい。

「これ頂戴」
「畏まりました」

 店を出てラウラを連れていく。
 店通りを抜けた小さな噴水のある広場。
 元々このあたりの住民ぐらいしか行き来がないから人が少ない。
 というよりも、ほぼいなかった。
 奴等、人払いしているな。

「ラウラ、座って」
「ええ」

 買ったリボンをつけてあげると言うと、目元を赤くして大丈夫と断られる。
 そんなの始めから織り込み済みだから、やや強引に僕に背を向ける形に座り直させて、髪の毛をいじることにした。
 今日はきっちり結い上げてなくて、そのまま流しているから、思う存分ラウラの髪の毛をいじれる。最高だよ。

「いいのに」
「まあまあ」

 さて、いい具合に気配が見える。

「ラウラ、見せて」

 リボンをつけたラウラを正面から拝むなんて贅沢だよね。

「うん、可愛い」

 今度は耳を赤くする。
 そしてラウラってばすごいこと投下してきた。

「その、ダーレの色を」
「ん?」
「リボン、ダーレの瞳の色に、したの」
「う、わ」

 ちょっと待って、すっごいこと言ってくれて嬉しすぎてどうしようかというとこなんだけど、いかんせん奴らが出てきた。
 ああもうタイミング悪い。最悪!

「ラウラ」
「え」

 抱きしめる。もう仕方ない。余韻ないけど、後でもう一回堪能しよう。
 その為に今ここで片づける。

「ちょっとそのまま僕の胸に。少しうるさくなるから」
「わ、分かったわ」

 事情を察してくれて助かる。
 右手から光の点滅を見た。フィーの合図だ、間違いない。

「じゃ、とっとと終わらせますか」

 僕がするりと銃を出したところで、見える範囲の刺客達が銃をあげる。
 もうそのタイミングでは遅いのに。早打ち得意だって兄さんに伝えたんだけどな。末端まで伝わってないわけ?

「ラウラ」

 彼女を抱えて噴水を回り込む。
 こちらの援護射撃のおかげで大して銃弾を浴びずにあちらの拳銃が落とされていく。
 その間に兄を探せば、予想通り。ベゼッセンハイト公爵家御用達の店にいた。
 顔をそんなに出して丸見えだよ。

「まったく」

 当然避けられると思いながら撃ってみれば、兄は避けつつも割れた窓ガラスを浴びて腕を切ったようだ。そんな風に腕を窓から見えるように出して、何のつもりなんだか。
 呆れて息をついている所にまた合図。
 ラウラをより強く抱えて丸くなれば、次に轟音。
 割れた窓からは黒煙が見える。

「おお」

 思っていた以上に威力が強かった。
 旧迎賓館で兄がやったように、弾丸の中身、火薬をあの店に仕掛けていた。
 あっさり仕掛ける事が出来たのにも驚きだけど、こうも簡単にあの店に兄が潜んで、予想通り爆発の中から広場に出てきてしまうのも逆に驚きだよ。

「くそ、なんだ?!」

 側付と共に出てくるいい的に何発か放って銃を落とし、そこにフィーとアンが両側から挟むように出てきて、側付を昏倒させる。
 走って逃げようとする兄を追おうとして構えたフィーとアンに手を挙げて制止した。
 そう、そのままこっちに走ってくるがいいさ。

「このおおおお」

 気づいた兄が、拳を構えて突っ込んでくる。
 抱きしめていたラウラに、笑顔を添えてちょっとだけ離れててと言えば、小さく頷いた。
 同時、兄が肉薄。

「はいはい」

 殴りかかる拳をぱしっと片手で止めて、そのまま引っ繰り返した。
 半回転して、そのまま広場のかたい地に叩きつける。

「ちょろい」
「ぐっ」
「本当しつこいし、タイミング悪いよ」

 けど、もう逃がさない。
 覚悟しろよと、ラウラに聞こえないよう小さく囁いた。
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