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38話後編 囮作戦、王都でデート(L)
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「よし、じゃあデートといこうか」
ダーレがやたら意気揚々としている。
フィーとアンも特段何も言わなかった。いつもなら小言の一つでもありそうなのに。
「王女様、あんなですけど一応腕は立ちます。なるたけ離れないで下さい」
「あんなってなんだ。一応ってなんだ」
心配されている事がわかる。それでもやりたいと思ったから、私はただ頷いて応える事しかしなかった。
「いってきます」
* * *
王都は活気がある。人も多い。
「すごいわ」
「ここは人が多いから、あまり長くはいないよ」
「すぐに移動しないの?」
「うん、なるたけ自然にデートするには、あちこち気ままに回る方がいいでしょ」
確かに。
私達は囮だけど、あからさまに来て下さいというのは相手も警戒する。あくまで自然体ということ。
「だからダーレはそんなに嬉しそうなのね」
「んん?」
「大切な任務なのにって思ってたけど、ダーレの方が自然なんだわ。私も見習わないと」
「あー……いや、ラウラはそのままでいいよ?」
勿論喜んでくれるのは嬉しいけど、わざとやらなくていいと。
私らしくと急に言われると難しいものね。
「私、でーとというものが初めてで」
「知ってる」
ダーレはいつものお手伝いと同じだと思ってくれればと言ってくれた。囮のこととか忘れてていいと。
私はそれに頷いて、囮であることをなるたけ考えないよう、でーとに集中することにした。
「ダーレこれは?」
「んー、ああ輸入品だね。桃の一種」
「へえ」
「甘くて美味しいよ。買う?」
「いえ、だ」
「一個頂戴」
「はいよ」
断る前に買われてしまった。しかもその場で食べやすく切って器にまで入れてくれる。
「はい」
「あ、ありがと」
恐る恐る食べてみると、とても瑞々しくて甘い。酸味は少なめ、平べったくて潰れたような見た目だけど、すごく美味しい。
隣からふふっと鼻にかかる笑い声が聞こえた。
ダーレが微笑んでこちらを見ている。
「ダーレ、美味しいわ」
「良かった」
この国から西南方向の国の名産らしい。
「ラウラ一口頂戴」
「ええ」
いけない、うっかり全部食べてしまう所だったわ。ダーレが買ってくれたんだもの、大半は彼が食べる権利があるわね。
「ん」
「? どうしたの」
「ラウラが食べさせて」
「え?!」
戸惑っている間にダーレが口を開ける。
周囲は特段私達を気にも留めず過ごしている。
もしかして、こういう風に食べるのが普通なの?
「ラウラ、疲れちゃうから早く」
「あ、ごめんなさい」
慌てて口の中に入れてあげれば、もぐもぐしながら嬉しそうに食べている。
好物なのかしら。
「いいねえ、役得」
「ダーレ?」
「ねえ、ラウラ。あれ見た事ある?」
「どれ?」
ここ、王都の市場には見た事ない物がたくさんあった。
ダーレは私の知らない物を分かっていて、一つずつ説明してくれるし、買って一緒に食べもした。
なんだかこの時間が領地でのんびりお手伝いをしていた時間と似てる気がして、とても心地良くて楽しいものに感じる。
こうした時間から離れていた気がするぐらい懐かしさすら感じた。
「ラウラ、何か飲む? それか休む?」
活気のある市場と大通りを抜けると、人通りはあるものの落ち着きを見せる店舗並びに辿り着いた。
食べ物から、衣服や雑貨といった日用品に変化する。
このあたりから食べる飲む場所が減るらしい。だからダーレはきいてくれたのか。
「そうね。少し休みたい、かも」
「分かった、ちょっと待ってて」
手近なお店の扉を開けて確認をとってくれている。ダーレってでーとというものに慣れているのね。すごいわ。
「ねえねえお姉さん」
「?」
「そうそう、お姉さん。ちょっと」
手招きをされる。
ダーレを見るとまだ店員と話していた。
声をかけてきた人物は商人で、路上にたくさんの商品を並べていた。
「異国の物?」
「お、わかる? 全部そうなんだよ」
「沢山あるんですね」
「まあな。あ、そうだ。飛び切りいいものあるんだよ」
「?」
こっちと指さされたのは少し広めの路地だ。
そこにも商品を並べていて、同じ商人仲間と思われる人が数人待機していた。
さすがにダーレが見えなくなるのは良くないと思って、路地には足を踏み入れずにいると、後ろからぐいっと最初の商人に押されて、路地に入ってしまった。
これはいけないわ。
「ね、お姉さん、これ買わない?」
「値打ち物なんだよね」
「いえ、私は」
「ほら、こっちも。そう手に入らないんだぜ」
ぐいぐいくる彼等は仕入れた商品がいいものだと主張するけど、そこまで値が張るものとは思えなかった。
それに私はお金を持っていない。うっかりそのままダーレの元へ飛んできたから、何も持ってなかった。
「私、お金持ってないんです」
「またまた~嘘はよくないよー」
「いえ、本当に」
「ふん? そしたら別のもので払う?」
「いえ、買いませんので」
失礼しますと去ろうとするも手首を捕まれてしまう。どうしようか、時間を少し戻せばいいかしら。でも逆行は使えない気がした。なぜだかわからなかったけど。
「ここまで来たんだから付き合ってよ」
「いえ、結構で」
「待った」
目の前に別の手が伸びてきて目の前の商人の手を掴んだ。
力を入れたのだろう、相手が小さく呻いて手を離す。私が自由になると同時に間に大きな背中が割って入ってきた。
「僕の連れが何か用?」
ダーレがやたら意気揚々としている。
フィーとアンも特段何も言わなかった。いつもなら小言の一つでもありそうなのに。
「王女様、あんなですけど一応腕は立ちます。なるたけ離れないで下さい」
「あんなってなんだ。一応ってなんだ」
心配されている事がわかる。それでもやりたいと思ったから、私はただ頷いて応える事しかしなかった。
「いってきます」
* * *
王都は活気がある。人も多い。
「すごいわ」
「ここは人が多いから、あまり長くはいないよ」
「すぐに移動しないの?」
「うん、なるたけ自然にデートするには、あちこち気ままに回る方がいいでしょ」
確かに。
私達は囮だけど、あからさまに来て下さいというのは相手も警戒する。あくまで自然体ということ。
「だからダーレはそんなに嬉しそうなのね」
「んん?」
「大切な任務なのにって思ってたけど、ダーレの方が自然なんだわ。私も見習わないと」
「あー……いや、ラウラはそのままでいいよ?」
勿論喜んでくれるのは嬉しいけど、わざとやらなくていいと。
私らしくと急に言われると難しいものね。
「私、でーとというものが初めてで」
「知ってる」
ダーレはいつものお手伝いと同じだと思ってくれればと言ってくれた。囮のこととか忘れてていいと。
私はそれに頷いて、囮であることをなるたけ考えないよう、でーとに集中することにした。
「ダーレこれは?」
「んー、ああ輸入品だね。桃の一種」
「へえ」
「甘くて美味しいよ。買う?」
「いえ、だ」
「一個頂戴」
「はいよ」
断る前に買われてしまった。しかもその場で食べやすく切って器にまで入れてくれる。
「はい」
「あ、ありがと」
恐る恐る食べてみると、とても瑞々しくて甘い。酸味は少なめ、平べったくて潰れたような見た目だけど、すごく美味しい。
隣からふふっと鼻にかかる笑い声が聞こえた。
ダーレが微笑んでこちらを見ている。
「ダーレ、美味しいわ」
「良かった」
この国から西南方向の国の名産らしい。
「ラウラ一口頂戴」
「ええ」
いけない、うっかり全部食べてしまう所だったわ。ダーレが買ってくれたんだもの、大半は彼が食べる権利があるわね。
「ん」
「? どうしたの」
「ラウラが食べさせて」
「え?!」
戸惑っている間にダーレが口を開ける。
周囲は特段私達を気にも留めず過ごしている。
もしかして、こういう風に食べるのが普通なの?
「ラウラ、疲れちゃうから早く」
「あ、ごめんなさい」
慌てて口の中に入れてあげれば、もぐもぐしながら嬉しそうに食べている。
好物なのかしら。
「いいねえ、役得」
「ダーレ?」
「ねえ、ラウラ。あれ見た事ある?」
「どれ?」
ここ、王都の市場には見た事ない物がたくさんあった。
ダーレは私の知らない物を分かっていて、一つずつ説明してくれるし、買って一緒に食べもした。
なんだかこの時間が領地でのんびりお手伝いをしていた時間と似てる気がして、とても心地良くて楽しいものに感じる。
こうした時間から離れていた気がするぐらい懐かしさすら感じた。
「ラウラ、何か飲む? それか休む?」
活気のある市場と大通りを抜けると、人通りはあるものの落ち着きを見せる店舗並びに辿り着いた。
食べ物から、衣服や雑貨といった日用品に変化する。
このあたりから食べる飲む場所が減るらしい。だからダーレはきいてくれたのか。
「そうね。少し休みたい、かも」
「分かった、ちょっと待ってて」
手近なお店の扉を開けて確認をとってくれている。ダーレってでーとというものに慣れているのね。すごいわ。
「ねえねえお姉さん」
「?」
「そうそう、お姉さん。ちょっと」
手招きをされる。
ダーレを見るとまだ店員と話していた。
声をかけてきた人物は商人で、路上にたくさんの商品を並べていた。
「異国の物?」
「お、わかる? 全部そうなんだよ」
「沢山あるんですね」
「まあな。あ、そうだ。飛び切りいいものあるんだよ」
「?」
こっちと指さされたのは少し広めの路地だ。
そこにも商品を並べていて、同じ商人仲間と思われる人が数人待機していた。
さすがにダーレが見えなくなるのは良くないと思って、路地には足を踏み入れずにいると、後ろからぐいっと最初の商人に押されて、路地に入ってしまった。
これはいけないわ。
「ね、お姉さん、これ買わない?」
「値打ち物なんだよね」
「いえ、私は」
「ほら、こっちも。そう手に入らないんだぜ」
ぐいぐいくる彼等は仕入れた商品がいいものだと主張するけど、そこまで値が張るものとは思えなかった。
それに私はお金を持っていない。うっかりそのままダーレの元へ飛んできたから、何も持ってなかった。
「私、お金持ってないんです」
「またまた~嘘はよくないよー」
「いえ、本当に」
「ふん? そしたら別のもので払う?」
「いえ、買いませんので」
失礼しますと去ろうとするも手首を捕まれてしまう。どうしようか、時間を少し戻せばいいかしら。でも逆行は使えない気がした。なぜだかわからなかったけど。
「ここまで来たんだから付き合ってよ」
「いえ、結構で」
「待った」
目の前に別の手が伸びてきて目の前の商人の手を掴んだ。
力を入れたのだろう、相手が小さく呻いて手を離す。私が自由になると同時に間に大きな背中が割って入ってきた。
「僕の連れが何か用?」
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