上 下
33 / 79

25話前編 うわ、ヘタレ。ドン引きです、主人(D)

しおりを挟む
「気を付けてね?」
「ええ、大丈夫よ」

 早朝、ラウラはドゥファーツに飛べた事を報告する為、一時的に領地を離れる事になった。

「破棄は駄目だからね」
「分かっているわ」

 苦笑するラウラに念を押しておく。昨日は姉さんの手紙を勘違いしたラウラが婚約破棄すると譲らなくて大変だったわけで。
 たぶん誤解は解けていると思う。だからこそ飛べるに至った。あの時、いつものように恥ずかしがって嫌がる素振りもなく抱き返してくれたってことは、たぶんラウラなりの返事の仕方なんだと思う。
 全部、思うっていう推測だけど。

「やっぱり僕も一緒に」
「駄目よ、お仕事残ってるんでしょう」
「いいよ、少しくらい放っておいても大丈夫だし」
「すぐに戻るから」

 僕の背後をちらっと見て、やっぱり苦笑。離れて控えているフィーとアンが目配せでもしたのか。この二人がそもそも僕がラウラと一緒に行くって言うのを止めなければ、こんなことにならなかったのに。

「明日には帰って来てよ?」
「ええ、約束するわ」

 両手を離す。細くて小さい手が僕から離れる。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 背を向けて走り出す。そこから昨日見た大きな翼が広がって、そのまま瞬時に空へ飛び立った。
 ひらりと僕の手元に一枚の羽が降りてきて。それを手にとり、朝日に翳すと白く光る。

「あーもう本当……」
「凄いですね」
「天使だって言ったし」

 そう言えば冷えた視線が返ってくる。

「はいはい。せめてもう少しスマートに見送りされてはいかがです」
「無理だよ、離れたくない」
「王女様からお返事もらえたのでしょう? もうそこまで必死にならなくても」
「……」
「主人?」
「……も、もらってない」
「はあ?!」

 当然の如く、両側から驚きの声が上がった。

「その、そんな雰囲気にはなったけど、婚約の話を受けるとか、好きだとか、そういう言葉はもらって、ない」
「うわ、ヘタレ」
「ドン引きです、主人」
「言うな」

 もうさ、飛べたうえーいってノリだったから、僕の事好きなのなんてきけるわけなかった。
 二人から盛大な溜息をもらう。溜息吐きたいのはこっちだって。

「まあ、それは置いといて」
「現実逃避ですか」
「うるさいぞ」
「やれやれですね。では主人、手筈通りにしていますが」
「オーケー」
「それこそ、この事を王女様にお話しされていれば、多少なりとも好感度が上がるのでは?」
「いいんだよ。今はきっと飛べる事が嬉しくて仕方ないだろうから」

 それだけに集中できてればいいと、そう思ったから。

「今、格好つけても誰も得をしませんよ」
「ひどい」

 肩を落としながら、二人から進捗を確認する。
 今、僕が出来る事はラウラが無事に国へ戻れるよう手筈を整えること。
 追手もなく目撃もないよう、領地外の人の出入りを制限して、賊の有無もチェック。
 二度と同じ事は起こさせない。その為なら僕はなんだってやるさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

私はヒロインを辞められなかった……。

くーねるでぶる(戒め)
恋愛
 私、砂川明は乙女ゲームのヒロインに転生した。どうせなら、逆ハーレムルートを攻略してやろうとするものの、この世界の常識を知れば知る程……これ、無理じゃない?  でもでも、そうも言ってられない事情もあって…。ああ、私はいったいどうすればいいの?!

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ

読み方は自由
ファンタジー
 辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

処理中です...