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20話 やっぱり婚約破棄しかない(L)
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「ごめん、今日はついてこないで」
祭りの日から幾ばかりか過ぎ、ダーレの言う領地の案内も済ませ、やりたいとお願いしたお手伝いもダーレが一緒ならやらしてもらえるに至ったある日、彼は目をそらしながら私に告げた。
「何故?」
「うっ……それは、ちょっと、ね」
その態度が些か気に食わなかった。なにか隠してるのは明らか。今まできけば割と答えてくれていたから、今日の応えてくれない態度は頂けない。
しかもついてこないでとはどういうことかしら。ついてきてるのはダーレの方じゃない。
「やましいことでもあるの」
「そっ! そんなこと!」
「なら言えるでしょ」
「うん、と、ラウ、ラ」
彼が二人の侍従に視線を送るけど、特段声を上げないあたり、ダーレを助ける為に何もしないということだろう。こちらには好都合だわ。
「ごめん、ラウラ。今日は本当に無理なんだ」
「お仕事じゃないんでしょ?」
「うん」
「言えない個人的な用事?」
「まあ、ね……」
彼の執務室には私とダーレと侍従が二人。話してくれても問題ない面子だと思ったのに。
「フィーとアンは知ってるの?」
と振り向くと、背中から慌てた声が飛んだ。
「あ、言うなよ!」
「そう、知ってるのね」
「ああ!」
やれやれといった具合に肩を落とす二人。ダーレの言葉は私以外のここにいる三人が知ってると言ったも同然だから。
「主人馬鹿ですね」
「ぐっ……」
「王女様にきちんと説明すればよいのでは」
「そ、それはさ!」
「ダーレ、言えないの?」
少しごねてみたけど、やっぱり教えてはくれなかった。あまり個人的なものをきいても仕方ないと思って、いいわとそこできった。するとダーレはそれはそれで何故か慌て出した。
「ち、ちがうんだ、ラウラ。なんていうか、その」
「何を否定しているの」
「ひえ」
もうだめだと思ったのだろう。謝りながら執務室から飛び出して行った。フィーとアンが溜息をついている。
「王女様申し訳ありません。不出来な主で」
「いえ、そんな。私もしつこかったわ。個人的なことなのに」
「いいえ、王女様は悪くありません」
「お気遣いありがとう」
「主人、王女様のことになると馬鹿なんですよ」
「ええと……」
フィーはダーレと一緒に行って、アンはここに残ってくれるらしい。見送りだけして戻ると言い、執務室から出て行った。
なんとなく見送るのが癪で残ってしまったけど、彼の仕事をする場所で私が一人いるのもよくない。私も出ようと思ったところで、執務机に目が行ってしまった。
「手紙……」
だめだとは分かっていたけど読んでしまった。見える部分だけ。綺麗な女性の筆跡で、そろそろ会いたいと描かれていた。
「ふうん……」
つまり、今日はこの手紙の主にでも会いに行くということかしら。
仕事ではなく個人的にこの方と会うと。
「ううん?」
なにかしら、納得できないのは。確かに見た目は軽薄だけど、彼の言う私への求婚は本物だと思っていたのに。
いえ、なんで私こんなに傷ついてるの。そもそも私は彼の求婚を受けないし、婚約だって破棄するつもりなのに。
むしろ好都合な展開、ダーレに別に望む相手が出来たのなら私との婚約も破棄しやすい。
「王女様、こちらで?」
「ひっ!」
ノックの音に気付かなかった。いけない、手紙を盗み見てたなんてよくないわ。急いで開いた扉の方、アンの元へ向かった。
「ごめんなさい、気付かなくて」
「……いいえ。それで王女様、今日も領民宅を回りますか?」
「え、あ、でも」
「主人の代わりに私がおりますので」
「え、もしかしてそのためだけに?」
「はい」
* * *
結局、今日はお手伝いをやめてしまった。
元々ダーレが出かけることを知っていた領民は私が来ないと思ってたらしい。最初のお家で、ダーレがいないしだの顔がひどいだのなんだの言われ返されてしまった。
今、私はヤナの入れるお茶を飲みながら、屋敷の庭で穏やかな時間をすごしている。アンも見える所に控えてくれている。
「ひどい顔、ね……」
相変わらず振り回されてる。
なによ、そもそもずっと一緒にいたがって引っ付いてきて、周りへのお手伝いだって自分がいないとだめとか言って、あんなに抱きしめて触れ合い過剰なくせに。
いえ、確かにそういう触れ合いは割としてておかしくないということはダーレを歓迎する為のお酒の場で知ったけど、でもだからって、あれだけ私のこと好きと言っておきながら……。
「ああもう」
「姫様、いかがされました?」
「いえ、大丈夫。なんでもないの」
このもやもやしてるのは絶対ダーレのせい。せめてはっきりと手紙の主に会いに行くって言ってくれれば、私だって納得した……たぶん。
「……決めた」
「姫様?」
「帰るわ」
「は?」
ちょうどいい時だったのよ。これ以上、馴れ合いを続けてたらダーレに情がわいてしまう。だから今この時でいい。
「やっぱり婚約破棄しかないわ」
「え?」
「いますぐドゥファーツへ帰りましょう。姉様に破棄を認めてもらうの」
「え、しかし姫様」
思い立ったら動くしかない。急いで部屋に戻って荷造りをすることにした。
祭りの日から幾ばかりか過ぎ、ダーレの言う領地の案内も済ませ、やりたいとお願いしたお手伝いもダーレが一緒ならやらしてもらえるに至ったある日、彼は目をそらしながら私に告げた。
「何故?」
「うっ……それは、ちょっと、ね」
その態度が些か気に食わなかった。なにか隠してるのは明らか。今まできけば割と答えてくれていたから、今日の応えてくれない態度は頂けない。
しかもついてこないでとはどういうことかしら。ついてきてるのはダーレの方じゃない。
「やましいことでもあるの」
「そっ! そんなこと!」
「なら言えるでしょ」
「うん、と、ラウ、ラ」
彼が二人の侍従に視線を送るけど、特段声を上げないあたり、ダーレを助ける為に何もしないということだろう。こちらには好都合だわ。
「ごめん、ラウラ。今日は本当に無理なんだ」
「お仕事じゃないんでしょ?」
「うん」
「言えない個人的な用事?」
「まあ、ね……」
彼の執務室には私とダーレと侍従が二人。話してくれても問題ない面子だと思ったのに。
「フィーとアンは知ってるの?」
と振り向くと、背中から慌てた声が飛んだ。
「あ、言うなよ!」
「そう、知ってるのね」
「ああ!」
やれやれといった具合に肩を落とす二人。ダーレの言葉は私以外のここにいる三人が知ってると言ったも同然だから。
「主人馬鹿ですね」
「ぐっ……」
「王女様にきちんと説明すればよいのでは」
「そ、それはさ!」
「ダーレ、言えないの?」
少しごねてみたけど、やっぱり教えてはくれなかった。あまり個人的なものをきいても仕方ないと思って、いいわとそこできった。するとダーレはそれはそれで何故か慌て出した。
「ち、ちがうんだ、ラウラ。なんていうか、その」
「何を否定しているの」
「ひえ」
もうだめだと思ったのだろう。謝りながら執務室から飛び出して行った。フィーとアンが溜息をついている。
「王女様申し訳ありません。不出来な主で」
「いえ、そんな。私もしつこかったわ。個人的なことなのに」
「いいえ、王女様は悪くありません」
「お気遣いありがとう」
「主人、王女様のことになると馬鹿なんですよ」
「ええと……」
フィーはダーレと一緒に行って、アンはここに残ってくれるらしい。見送りだけして戻ると言い、執務室から出て行った。
なんとなく見送るのが癪で残ってしまったけど、彼の仕事をする場所で私が一人いるのもよくない。私も出ようと思ったところで、執務机に目が行ってしまった。
「手紙……」
だめだとは分かっていたけど読んでしまった。見える部分だけ。綺麗な女性の筆跡で、そろそろ会いたいと描かれていた。
「ふうん……」
つまり、今日はこの手紙の主にでも会いに行くということかしら。
仕事ではなく個人的にこの方と会うと。
「ううん?」
なにかしら、納得できないのは。確かに見た目は軽薄だけど、彼の言う私への求婚は本物だと思っていたのに。
いえ、なんで私こんなに傷ついてるの。そもそも私は彼の求婚を受けないし、婚約だって破棄するつもりなのに。
むしろ好都合な展開、ダーレに別に望む相手が出来たのなら私との婚約も破棄しやすい。
「王女様、こちらで?」
「ひっ!」
ノックの音に気付かなかった。いけない、手紙を盗み見てたなんてよくないわ。急いで開いた扉の方、アンの元へ向かった。
「ごめんなさい、気付かなくて」
「……いいえ。それで王女様、今日も領民宅を回りますか?」
「え、あ、でも」
「主人の代わりに私がおりますので」
「え、もしかしてそのためだけに?」
「はい」
* * *
結局、今日はお手伝いをやめてしまった。
元々ダーレが出かけることを知っていた領民は私が来ないと思ってたらしい。最初のお家で、ダーレがいないしだの顔がひどいだのなんだの言われ返されてしまった。
今、私はヤナの入れるお茶を飲みながら、屋敷の庭で穏やかな時間をすごしている。アンも見える所に控えてくれている。
「ひどい顔、ね……」
相変わらず振り回されてる。
なによ、そもそもずっと一緒にいたがって引っ付いてきて、周りへのお手伝いだって自分がいないとだめとか言って、あんなに抱きしめて触れ合い過剰なくせに。
いえ、確かにそういう触れ合いは割としてておかしくないということはダーレを歓迎する為のお酒の場で知ったけど、でもだからって、あれだけ私のこと好きと言っておきながら……。
「ああもう」
「姫様、いかがされました?」
「いえ、大丈夫。なんでもないの」
このもやもやしてるのは絶対ダーレのせい。せめてはっきりと手紙の主に会いに行くって言ってくれれば、私だって納得した……たぶん。
「……決めた」
「姫様?」
「帰るわ」
「は?」
ちょうどいい時だったのよ。これ以上、馴れ合いを続けてたらダーレに情がわいてしまう。だから今この時でいい。
「やっぱり婚約破棄しかないわ」
「え?」
「いますぐドゥファーツへ帰りましょう。姉様に破棄を認めてもらうの」
「え、しかし姫様」
思い立ったら動くしかない。急いで部屋に戻って荷造りをすることにした。
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