23 / 79
19話前編 割と命狙われやすくて(D)
しおりを挟む
「まさか」
「静かに」
最悪のタイミングで現れた。
折角いい雰囲気だったのにとかそういうとこも踏まえて、本当最悪。祭は確かに騒がしくてチャンスだけどさ。喧騒に乗じて撃っても、その音は掻き消される。聞こえてもそこまで気にする者もいないだろう。
「まあ人混みの中で撃ってこないだけマシか」
「ダーレ」
僕の胸で囁く小さな彼女は震えていた。銃に怯えるのは当然のことだ。彼女は過去撃たれている。なにより、翼をもつ一族にとっては天敵だろう。
「大丈夫」
「……」
「舌噛まないようにね」
「え」
次の発砲音に、なるたけ木々の入り組んでる場所を彼女を抱えて転がりこむ。枝を削る音がした。こちらの場所は知られているか。
「ダーレ」
「うん、大丈夫だよ」
近くの枝が削られていく音を聞きながら、ラウラを抱え込むと申し訳なさそうに、こちらを見上げた。
「違うの」
「え?」
「……は、羽狩り、私を置いて」
以前ラウラの首にむごい跡をつけた賊の事が羽狩りという存在である事は既に教えてもらっている。だから今回もそれだとラウラは思ったのだろう。
まったく、この状況で自分を置いて逃げろ?
声まで震えてるくせに置いてけなんて、何を言ってる。
「ラウラ、違う」
「い、いいから」
本当この子は僕を頼ってくれない。たとえ羽狩りであっても、僕に助けを求めてもいいと思うけど。
けど今回はその誤解だけは解いておかないといけない。
「ラウラ、奴らは羽狩りじゃない」
「え? でも」
「奴らの狙いは僕だ」
本当領地戻った途端、出てくるんだから困ったものだ。
「何故……」
「んー、僕割と命狙われやすくて」
ボリュームを落とした状態で驚きの声をあげる。ラウラ意外と器用だな、可愛い。
「後で話すよ」
そう、今はラウラの安全を確保するためにも、どうにかこの場を離れないといけない。そんなに数はいないだろうけど、回り込まれて距離を詰められたら危険だ。
まだ震えるラウラを引き寄せ、再度大丈夫だと囁く。少しでも安心してくれるように。
「ダーレ」
「うん、大丈夫」
震える手で僕の服を掴む彼女の可愛さったら。
そんなこと考えてるって言ったら、ラウラ怒るだろうな。フィーとアンには殴られそう。
銃弾を避け逃げていると、より広場から離されているのが分かった。近ければ領民が危険に晒されるけど、離れるのも囲まれる危険性が増す。
逃げる方向を変えて、なるたけ屋敷に近づくように移動した。たぶん耳のいい者なら喧騒の中でも気づいてるはずだ。
「……ラウラ」
「?」
遠くない先で光の点滅を見た。いいタイミングだ。
「少し走れる?」
「……」
真剣な瞳のまま、こくりと頷いた。銃声に耳を澄まし、間のあく瞬間を狙ってラウラをかばう形で走り出した。木々の合間を抜け、当たることをなるたけ防ぎながら。
「主人」
「フィー」
「王女様」
「アン」
光の点滅は彼彼女が送った知らせだ。これでラウラの安全が確保される。
「別の者を向かわせてます」
「分かった」
ラウラに聞こえないよう耳元で報告を受け、そのまま人のいる場所に走り戻った。
ちょうど広場で例のものを燃やしている時で、少し遠くに見える所では周りは酒も入り盛り上がりをみせている。さっきと雲泥の差に、ラウラは肩で息をしながら、その場に留まり立ち尽くしてしまう。現実に追いついてないようだった。
「ラウラ」
「……」
放心状態の彼女を抱き抱え、用意してもらった馬に乗せて、そのまま屋敷に向けて走らせた。傍には同じ馬に乗り警戒を怠らないフィーとアンを共にして。ラウラはまだ震えていた。
「ラウラ」
「……」
屋敷についても放心状態なラウラを抱き抱えて、彼女の為に用意した部屋へ連れ、ゆっくりソファにおろす。事情を察したラウラ付の侍女は、温かい飲み物を用意すると言って部屋を一旦出て行った。
「……ラウラ、ごめんね」
そこでやっとラウラは顔を上げて僕を見留めた。
「ダーレが謝ることではないわ」
折角の楽しい祭りが台無しだ。領民を巻き込むことはなかったけど、それでもラウラにとってここでの思い出がよくないものになるのは嫌だった。
「…………て」
「ん、何?」
「どうして?」
「静かに」
最悪のタイミングで現れた。
折角いい雰囲気だったのにとかそういうとこも踏まえて、本当最悪。祭は確かに騒がしくてチャンスだけどさ。喧騒に乗じて撃っても、その音は掻き消される。聞こえてもそこまで気にする者もいないだろう。
「まあ人混みの中で撃ってこないだけマシか」
「ダーレ」
僕の胸で囁く小さな彼女は震えていた。銃に怯えるのは当然のことだ。彼女は過去撃たれている。なにより、翼をもつ一族にとっては天敵だろう。
「大丈夫」
「……」
「舌噛まないようにね」
「え」
次の発砲音に、なるたけ木々の入り組んでる場所を彼女を抱えて転がりこむ。枝を削る音がした。こちらの場所は知られているか。
「ダーレ」
「うん、大丈夫だよ」
近くの枝が削られていく音を聞きながら、ラウラを抱え込むと申し訳なさそうに、こちらを見上げた。
「違うの」
「え?」
「……は、羽狩り、私を置いて」
以前ラウラの首にむごい跡をつけた賊の事が羽狩りという存在である事は既に教えてもらっている。だから今回もそれだとラウラは思ったのだろう。
まったく、この状況で自分を置いて逃げろ?
声まで震えてるくせに置いてけなんて、何を言ってる。
「ラウラ、違う」
「い、いいから」
本当この子は僕を頼ってくれない。たとえ羽狩りであっても、僕に助けを求めてもいいと思うけど。
けど今回はその誤解だけは解いておかないといけない。
「ラウラ、奴らは羽狩りじゃない」
「え? でも」
「奴らの狙いは僕だ」
本当領地戻った途端、出てくるんだから困ったものだ。
「何故……」
「んー、僕割と命狙われやすくて」
ボリュームを落とした状態で驚きの声をあげる。ラウラ意外と器用だな、可愛い。
「後で話すよ」
そう、今はラウラの安全を確保するためにも、どうにかこの場を離れないといけない。そんなに数はいないだろうけど、回り込まれて距離を詰められたら危険だ。
まだ震えるラウラを引き寄せ、再度大丈夫だと囁く。少しでも安心してくれるように。
「ダーレ」
「うん、大丈夫」
震える手で僕の服を掴む彼女の可愛さったら。
そんなこと考えてるって言ったら、ラウラ怒るだろうな。フィーとアンには殴られそう。
銃弾を避け逃げていると、より広場から離されているのが分かった。近ければ領民が危険に晒されるけど、離れるのも囲まれる危険性が増す。
逃げる方向を変えて、なるたけ屋敷に近づくように移動した。たぶん耳のいい者なら喧騒の中でも気づいてるはずだ。
「……ラウラ」
「?」
遠くない先で光の点滅を見た。いいタイミングだ。
「少し走れる?」
「……」
真剣な瞳のまま、こくりと頷いた。銃声に耳を澄まし、間のあく瞬間を狙ってラウラをかばう形で走り出した。木々の合間を抜け、当たることをなるたけ防ぎながら。
「主人」
「フィー」
「王女様」
「アン」
光の点滅は彼彼女が送った知らせだ。これでラウラの安全が確保される。
「別の者を向かわせてます」
「分かった」
ラウラに聞こえないよう耳元で報告を受け、そのまま人のいる場所に走り戻った。
ちょうど広場で例のものを燃やしている時で、少し遠くに見える所では周りは酒も入り盛り上がりをみせている。さっきと雲泥の差に、ラウラは肩で息をしながら、その場に留まり立ち尽くしてしまう。現実に追いついてないようだった。
「ラウラ」
「……」
放心状態の彼女を抱き抱え、用意してもらった馬に乗せて、そのまま屋敷に向けて走らせた。傍には同じ馬に乗り警戒を怠らないフィーとアンを共にして。ラウラはまだ震えていた。
「ラウラ」
「……」
屋敷についても放心状態なラウラを抱き抱えて、彼女の為に用意した部屋へ連れ、ゆっくりソファにおろす。事情を察したラウラ付の侍女は、温かい飲み物を用意すると言って部屋を一旦出て行った。
「……ラウラ、ごめんね」
そこでやっとラウラは顔を上げて僕を見留めた。
「ダーレが謝ることではないわ」
折角の楽しい祭りが台無しだ。領民を巻き込むことはなかったけど、それでもラウラにとってここでの思い出がよくないものになるのは嫌だった。
「…………て」
「ん、何?」
「どうして?」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
私はヒロインを辞められなかった……。
くーねるでぶる(戒め)
恋愛
私、砂川明は乙女ゲームのヒロインに転生した。どうせなら、逆ハーレムルートを攻略してやろうとするものの、この世界の常識を知れば知る程……これ、無理じゃない?
でもでも、そうも言ってられない事情もあって…。ああ、私はいったいどうすればいいの?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる