上 下
21 / 79

18話前編 祭りの理由(L)

しおりを挟む
「これがお祭り……」
「ラウラのとこはなかったの?」
「あるにはあったけど……」

 こんなに華やかなものじゃない。
 精々以前のように皆でお酒を飲むとか、祭事は大婆様や姉様が祈りを捧げる厳格なものしか私の国にはなかった。
 
「大伯父の命日なんだ」
「その日に祭りを?」
「大伯父の希望もあってね。あの派手好き、命日に夜まで騒ぎ立てろってさ」

 遺言の一つにそんなことを残していたらしいけど、命日に祭りをひらくなんて聞いたことがない。私の国ではそれこそ死者を弔う事は数年に一度しても、皆が楽しむ祭りではなかった。
 ダーレの話だと、うるさくしていれば好きな人に気づいてもらえるからと言われたらしい。それを律儀にしてるなんて、この地の人々は本当に優しいのね。

「ひどいよね。気づいてほしいなら自分からやれって話だよ。領民巻き込むとかタチ悪い」
「なにもそこまで言わなくても」
「えー、死んでも好きな人に気づいてほしいとか怖くない?」

 好きな人に自分はここにいると伝えるために祭りを行うとダーレは言う。血筋ねと思ってしまったけど、そこは言わないでおいた。
 事実その話を振ると、フィーとアンに人の事言えないでしょうと窘められるんだと、ダーレは納得のいかない顔をしている。実に的を得ているわ、二人とも。

「大伯父様は、そのご結婚は、」
「うん? してないよ。ずっとその人だけ好きで、こじらせて終わり」
「こじらせ……」

 大伯父様は生涯お相手の方がいなかったそう。好きな方はいて、けど一緒にはならなかったとか。
 にしても、さっきからダーレの言い方が辛辣すぎる。

「そういえば、僕が留学に行く六歳までは、割とその意中の人のとこに通ってた気がする」
「意中の方を覚えているの?」
「ぼんやりだけど……なんか強くて綺麗な女性だったと思う」

 強くて綺麗な女性。マドライナ姉様みたいな感じかしら。マドライナ姉様は自身に強化の魔法をかけては、近衛隊を率いて侵入者と戦っていたし。

「あ、あと大人の余裕みたいなのがあってクールな感じもしたな」
「大人の余裕……」

 そしたらレナ姉様にも似てる。姉様達を足して二で割る感じかしら。なかなか想像するのって難しい。

「なんか毎日のようにその人のとこに一緒に連れていかれてた気がする」
「そうなの?」
「で、毎日振られてるのを見てた」
「それは……」

 お気の毒にとは言えなかった。色んな推測が出来るけど、意中の方が本当にその気がなかったら、大伯父様が苦しいだけで。

「でもなー、なんとなくしか覚えてないけど、相手もそんな悪い感じじゃなかったんだよ」
「意中の方も大伯父様が好きだったってこと?」
「傍から見てそんな感じだったんだけどねー」

 子供ながらにそう思えるぐらい仲睦まじい姿を見せていたのに、結ばれることはないというのはどういうことだろう。

「だから留学から帰って、その人にもう会わないって言われた時、どうしてってきいた記憶がある」
「なんて仰ったの?」
「仕様のない事もあるって」

 それがどういう意味なのかはもうわからないけど、それでいて命日に自分がここにいることを気づいてほしくて祭りを開くということは、大伯父様にとってまだ希望があるということなのだろうか。
 もしかしたら、好き合ってる上で別れてしまったのか。

「お相手の方に来てほしいのかしら?」
「え?」
「お相手の方が亡くなったら、自分のとこに来てほしいのかなって」
「なにそれ」

 女々しいなと笑う。それでもダーレが大伯父様を慕っているのが良く分かった。二人の関係がいいものだったのだとわかる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

処理中です...