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18話前編 祭りの理由(L)
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「これがお祭り……」
「ラウラのとこはなかったの?」
「あるにはあったけど……」
こんなに華やかなものじゃない。
精々以前のように皆でお酒を飲むとか、祭事は大婆様や姉様が祈りを捧げる厳格なものしか私の国にはなかった。
「大伯父の命日なんだ」
「その日に祭りを?」
「大伯父の希望もあってね。あの派手好き、命日に夜まで騒ぎ立てろってさ」
遺言の一つにそんなことを残していたらしいけど、命日に祭りをひらくなんて聞いたことがない。私の国ではそれこそ死者を弔う事は数年に一度しても、皆が楽しむ祭りではなかった。
ダーレの話だと、うるさくしていれば好きな人に気づいてもらえるからと言われたらしい。それを律儀にしてるなんて、この地の人々は本当に優しいのね。
「ひどいよね。気づいてほしいなら自分からやれって話だよ。領民巻き込むとかタチ悪い」
「なにもそこまで言わなくても」
「えー、死んでも好きな人に気づいてほしいとか怖くない?」
好きな人に自分はここにいると伝えるために祭りを行うとダーレは言う。血筋ねと思ってしまったけど、そこは言わないでおいた。
事実その話を振ると、フィーとアンに人の事言えないでしょうと窘められるんだと、ダーレは納得のいかない顔をしている。実に的を得ているわ、二人とも。
「大伯父様は、そのご結婚は、」
「うん? してないよ。ずっとその人だけ好きで、こじらせて終わり」
「こじらせ……」
大伯父様は生涯お相手の方がいなかったそう。好きな方はいて、けど一緒にはならなかったとか。
にしても、さっきからダーレの言い方が辛辣すぎる。
「そういえば、僕が留学に行く六歳までは、割とその意中の人のとこに通ってた気がする」
「意中の方を覚えているの?」
「ぼんやりだけど……なんか強くて綺麗な女性だったと思う」
強くて綺麗な女性。マドライナ姉様みたいな感じかしら。マドライナ姉様は自身に強化の魔法をかけては、近衛隊を率いて侵入者と戦っていたし。
「あ、あと大人の余裕みたいなのがあってクールな感じもしたな」
「大人の余裕……」
そしたらレナ姉様にも似てる。姉様達を足して二で割る感じかしら。なかなか想像するのって難しい。
「なんか毎日のようにその人のとこに一緒に連れていかれてた気がする」
「そうなの?」
「で、毎日振られてるのを見てた」
「それは……」
お気の毒にとは言えなかった。色んな推測が出来るけど、意中の方が本当にその気がなかったら、大伯父様が苦しいだけで。
「でもなー、なんとなくしか覚えてないけど、相手もそんな悪い感じじゃなかったんだよ」
「意中の方も大伯父様が好きだったってこと?」
「傍から見てそんな感じだったんだけどねー」
子供ながらにそう思えるぐらい仲睦まじい姿を見せていたのに、結ばれることはないというのはどういうことだろう。
「だから留学から帰って、その人にもう会わないって言われた時、どうしてってきいた記憶がある」
「なんて仰ったの?」
「仕様のない事もあるって」
それがどういう意味なのかはもうわからないけど、それでいて命日に自分がここにいることを気づいてほしくて祭りを開くということは、大伯父様にとってまだ希望があるということなのだろうか。
もしかしたら、好き合ってる上で別れてしまったのか。
「お相手の方に来てほしいのかしら?」
「え?」
「お相手の方が亡くなったら、自分のとこに来てほしいのかなって」
「なにそれ」
女々しいなと笑う。それでもダーレが大伯父様を慕っているのが良く分かった。二人の関係がいいものだったのだとわかる。
「ラウラのとこはなかったの?」
「あるにはあったけど……」
こんなに華やかなものじゃない。
精々以前のように皆でお酒を飲むとか、祭事は大婆様や姉様が祈りを捧げる厳格なものしか私の国にはなかった。
「大伯父の命日なんだ」
「その日に祭りを?」
「大伯父の希望もあってね。あの派手好き、命日に夜まで騒ぎ立てろってさ」
遺言の一つにそんなことを残していたらしいけど、命日に祭りをひらくなんて聞いたことがない。私の国ではそれこそ死者を弔う事は数年に一度しても、皆が楽しむ祭りではなかった。
ダーレの話だと、うるさくしていれば好きな人に気づいてもらえるからと言われたらしい。それを律儀にしてるなんて、この地の人々は本当に優しいのね。
「ひどいよね。気づいてほしいなら自分からやれって話だよ。領民巻き込むとかタチ悪い」
「なにもそこまで言わなくても」
「えー、死んでも好きな人に気づいてほしいとか怖くない?」
好きな人に自分はここにいると伝えるために祭りを行うとダーレは言う。血筋ねと思ってしまったけど、そこは言わないでおいた。
事実その話を振ると、フィーとアンに人の事言えないでしょうと窘められるんだと、ダーレは納得のいかない顔をしている。実に的を得ているわ、二人とも。
「大伯父様は、そのご結婚は、」
「うん? してないよ。ずっとその人だけ好きで、こじらせて終わり」
「こじらせ……」
大伯父様は生涯お相手の方がいなかったそう。好きな方はいて、けど一緒にはならなかったとか。
にしても、さっきからダーレの言い方が辛辣すぎる。
「そういえば、僕が留学に行く六歳までは、割とその意中の人のとこに通ってた気がする」
「意中の方を覚えているの?」
「ぼんやりだけど……なんか強くて綺麗な女性だったと思う」
強くて綺麗な女性。マドライナ姉様みたいな感じかしら。マドライナ姉様は自身に強化の魔法をかけては、近衛隊を率いて侵入者と戦っていたし。
「あ、あと大人の余裕みたいなのがあってクールな感じもしたな」
「大人の余裕……」
そしたらレナ姉様にも似てる。姉様達を足して二で割る感じかしら。なかなか想像するのって難しい。
「なんか毎日のようにその人のとこに一緒に連れていかれてた気がする」
「そうなの?」
「で、毎日振られてるのを見てた」
「それは……」
お気の毒にとは言えなかった。色んな推測が出来るけど、意中の方が本当にその気がなかったら、大伯父様が苦しいだけで。
「でもなー、なんとなくしか覚えてないけど、相手もそんな悪い感じじゃなかったんだよ」
「意中の方も大伯父様が好きだったってこと?」
「傍から見てそんな感じだったんだけどねー」
子供ながらにそう思えるぐらい仲睦まじい姿を見せていたのに、結ばれることはないというのはどういうことだろう。
「だから留学から帰って、その人にもう会わないって言われた時、どうしてってきいた記憶がある」
「なんて仰ったの?」
「仕様のない事もあるって」
それがどういう意味なのかはもうわからないけど、それでいて命日に自分がここにいることを気づいてほしくて祭りを開くということは、大伯父様にとってまだ希望があるということなのだろうか。
もしかしたら、好き合ってる上で別れてしまったのか。
「お相手の方に来てほしいのかしら?」
「え?」
「お相手の方が亡くなったら、自分のとこに来てほしいのかなって」
「なにそれ」
女々しいなと笑う。それでもダーレが大伯父様を慕っているのが良く分かった。二人の関係がいいものだったのだとわかる。
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