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12話 事故ちゅー(D)
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「じゃ、適当に」
「え、僕を歓迎するんじゃなくて?」
「なんでもいい。早く酒が飲みたい」
「それはあまりにもひどすぎますよ」
ラウラと一緒に手伝い回りに付き合っていたからか、今になって歓迎会を開いてもらっている。
もうここに暮らすほぼ全ての人間の手伝いをこなしているからか、城にいる人以外は集まった。もちろんラウラも一緒。というか、ラウラいなかったら困る。
「じゃ、ようこそこれからもよろしく?」
「適当すぎです」
ぐだぐだのまま乾杯が終わって、やったとばかりに飲み始める。存外皆自由に生きてるな。
ラウラが言うから喜んできたのに、内容は酒が飲みたいだけの集まりにすぎない。ラウラがすぐ近くにいるわけでもないし。
「なんで今更?」
「まあそう言うなって。姫様がな」
「ラウラがどうかしたんですか」
「あ、いや」
言葉を濁される。気になるとこだったのに、するっとかわされてしまった。
人が次から次へと入れかわっていく。軽く一杯飲んで帰る様を見ていると、どこかの店のようで不思議な心地だった。いや、これだとますます僕関係ないんじゃないか?
「姫様の翼のことを話してもなんともなかったしな」
「フルリンさん」
「女王も許したし、大婆様も何も言わないしな」
その言葉から様子見期間をクリアしたということが分かる。この国の人々は存外慎重なんだろう、ラウラの様子から考えても、いつ自分達が襲われてもおかしくないという日常がある事がわかるし。
「ん?」
「どうした?」
「あれ、誰ですか?」
「ああ近衛兵のルカとニノだな」
「近衛兵……」
ラウラの傍には同じ年頃の男が二人。
きけば、王族側付の近衛兵ということだ。彼女は姉二人と違って供をつけない。一人でいるか、ここ一ヶ月は僕が傍にいるから、僕が側付みたいになってるけど。
彼女は側付を辞退していて、本来は今一緒にいる二人がその位置におさまるはずだったらしい。ああよかった。事情はどうあれ、いつも僕以外の男が傍にいるとか耐えられないし。
「主人、また仕様もないこと考えてますね」
いつもの小うるさい側近達が両側を埋めた。
「そんなことないさ」
「大方、王女様の周りに、同じ年頃の男がいる事に納得してないのでしょう」
「そしていつも彼らが近くにいなくて良かったとも考えていますね」
「うわ、エスパー?」
いいえ、と綺麗に二人の声がハモる。フルリンさんはエスパーって何だと首を傾げていた。
説明しようかと思ったその時、ラウラと目が合った。僕にとってそれだけでやったと思える事、しかも今日はすごいことに、彼女は今傍にいる二人に何か一言二言言った上で、僕のところへ小走りにやって来た。
ラウラからやってくるなんて。このまま倒れても本望だよ。
「主人」
「わかってる」
両脇の二人の冷たい視線を浴びながら、なんてことない風にラウラが到着するのを待った。
「ダーレ」
「何?」
「大丈夫? 疲れてない?」
「全然」
「そう、よかった」
ラウラが心配してくれてるなんて感動だね。たぶん自分が言ってここに連れてきたから、多少なりとも責任を感じているのだろう。だから僕が楽しいか気になるようだ。なので、とても楽しいと返してみる。すると彼女は安心したように息を吐いた。
「なら、私行くわ」
「え、待って」
「どうして? 折角貴方の為に時間をとったのだから、皆とたくさんお話していいのよ?」
「ラウラが傍にいないと嫌」
「ダーレ……」
子供じゃないんだからと窘められる。もう一度行こうとするのを手をとって止めた。そうなると、彼女はどぎまぎしながらも、傍にいる事を選んでくれた。うん、今日も可愛い。
「ダーレったら」
* * *
夕暮れから始まり、すっかり夜が訪れた頃、やっと終わりを迎える事が出来た。
フィーとアンが部屋の支度を整えると言って先に城に戻っていった。去り際に、くれぐれもお間違えの無いようにと念を押された。間違いってなんだ。
「ダーレ、最後までありがとう」
「楽しかったよ」
「そう」
「まあ皆すごく元気で驚いたけど」
ラウラが笑う。お酒の影響も多少あるのか、随分今日は柔らかい。微笑んでくれるなんてそうなかったから、今日は本当飛び切り幸運だな。
ただなんてことない会話しながら一緒に歩くなんて、ここに滞在し始めた時と比べれば雲泥の差。ここまでよく頑張った自分。
「あ」
「おっと、危ない」
やっぱり多少酔っていたのか、ラウラが躓いて転びそうになるのを防ぐ。形が多少不格好とはいえ、抱きしめる形になってしまった。さすがにこれは不可抗力だから許される、はず。
「!」
「ラウラ、大丈夫?」
身を固くして何も言わないラウラを不思議に思って、身体を折って前屈みに様子を伺おうとする。すると、急に起き上がってくるものだから、一瞬動作が遅れた。格好良く避ける事が出来ず、顎にラウラの頭が当たり、痛みが響く。
「あつ」
「え、ご、ごめんなさい」
ラウラに痛みはないようだった。それなら何も問題ないからいいけど。
動かない方がいいのかと思って、きちんと起き上がるのを中途半端で止めたものの、半端な体勢のところに、彼女が勢いよく僕を見上げようとした。
さすがに顔はぶつかったら、ラウラが痛いだろうと思って、避けようとのけぞる形をとらざるを得なかった。
「ダー、ん」
「ん?」
ふにゅりと柔らかい感触が下顎にかかって、すぐに離された。
「あ、うそ」
「え?」
「え、僕を歓迎するんじゃなくて?」
「なんでもいい。早く酒が飲みたい」
「それはあまりにもひどすぎますよ」
ラウラと一緒に手伝い回りに付き合っていたからか、今になって歓迎会を開いてもらっている。
もうここに暮らすほぼ全ての人間の手伝いをこなしているからか、城にいる人以外は集まった。もちろんラウラも一緒。というか、ラウラいなかったら困る。
「じゃ、ようこそこれからもよろしく?」
「適当すぎです」
ぐだぐだのまま乾杯が終わって、やったとばかりに飲み始める。存外皆自由に生きてるな。
ラウラが言うから喜んできたのに、内容は酒が飲みたいだけの集まりにすぎない。ラウラがすぐ近くにいるわけでもないし。
「なんで今更?」
「まあそう言うなって。姫様がな」
「ラウラがどうかしたんですか」
「あ、いや」
言葉を濁される。気になるとこだったのに、するっとかわされてしまった。
人が次から次へと入れかわっていく。軽く一杯飲んで帰る様を見ていると、どこかの店のようで不思議な心地だった。いや、これだとますます僕関係ないんじゃないか?
「姫様の翼のことを話してもなんともなかったしな」
「フルリンさん」
「女王も許したし、大婆様も何も言わないしな」
その言葉から様子見期間をクリアしたということが分かる。この国の人々は存外慎重なんだろう、ラウラの様子から考えても、いつ自分達が襲われてもおかしくないという日常がある事がわかるし。
「ん?」
「どうした?」
「あれ、誰ですか?」
「ああ近衛兵のルカとニノだな」
「近衛兵……」
ラウラの傍には同じ年頃の男が二人。
きけば、王族側付の近衛兵ということだ。彼女は姉二人と違って供をつけない。一人でいるか、ここ一ヶ月は僕が傍にいるから、僕が側付みたいになってるけど。
彼女は側付を辞退していて、本来は今一緒にいる二人がその位置におさまるはずだったらしい。ああよかった。事情はどうあれ、いつも僕以外の男が傍にいるとか耐えられないし。
「主人、また仕様もないこと考えてますね」
いつもの小うるさい側近達が両側を埋めた。
「そんなことないさ」
「大方、王女様の周りに、同じ年頃の男がいる事に納得してないのでしょう」
「そしていつも彼らが近くにいなくて良かったとも考えていますね」
「うわ、エスパー?」
いいえ、と綺麗に二人の声がハモる。フルリンさんはエスパーって何だと首を傾げていた。
説明しようかと思ったその時、ラウラと目が合った。僕にとってそれだけでやったと思える事、しかも今日はすごいことに、彼女は今傍にいる二人に何か一言二言言った上で、僕のところへ小走りにやって来た。
ラウラからやってくるなんて。このまま倒れても本望だよ。
「主人」
「わかってる」
両脇の二人の冷たい視線を浴びながら、なんてことない風にラウラが到着するのを待った。
「ダーレ」
「何?」
「大丈夫? 疲れてない?」
「全然」
「そう、よかった」
ラウラが心配してくれてるなんて感動だね。たぶん自分が言ってここに連れてきたから、多少なりとも責任を感じているのだろう。だから僕が楽しいか気になるようだ。なので、とても楽しいと返してみる。すると彼女は安心したように息を吐いた。
「なら、私行くわ」
「え、待って」
「どうして? 折角貴方の為に時間をとったのだから、皆とたくさんお話していいのよ?」
「ラウラが傍にいないと嫌」
「ダーレ……」
子供じゃないんだからと窘められる。もう一度行こうとするのを手をとって止めた。そうなると、彼女はどぎまぎしながらも、傍にいる事を選んでくれた。うん、今日も可愛い。
「ダーレったら」
* * *
夕暮れから始まり、すっかり夜が訪れた頃、やっと終わりを迎える事が出来た。
フィーとアンが部屋の支度を整えると言って先に城に戻っていった。去り際に、くれぐれもお間違えの無いようにと念を押された。間違いってなんだ。
「ダーレ、最後までありがとう」
「楽しかったよ」
「そう」
「まあ皆すごく元気で驚いたけど」
ラウラが笑う。お酒の影響も多少あるのか、随分今日は柔らかい。微笑んでくれるなんてそうなかったから、今日は本当飛び切り幸運だな。
ただなんてことない会話しながら一緒に歩くなんて、ここに滞在し始めた時と比べれば雲泥の差。ここまでよく頑張った自分。
「あ」
「おっと、危ない」
やっぱり多少酔っていたのか、ラウラが躓いて転びそうになるのを防ぐ。形が多少不格好とはいえ、抱きしめる形になってしまった。さすがにこれは不可抗力だから許される、はず。
「!」
「ラウラ、大丈夫?」
身を固くして何も言わないラウラを不思議に思って、身体を折って前屈みに様子を伺おうとする。すると、急に起き上がってくるものだから、一瞬動作が遅れた。格好良く避ける事が出来ず、顎にラウラの頭が当たり、痛みが響く。
「あつ」
「え、ご、ごめんなさい」
ラウラに痛みはないようだった。それなら何も問題ないからいいけど。
動かない方がいいのかと思って、きちんと起き上がるのを中途半端で止めたものの、半端な体勢のところに、彼女が勢いよく僕を見上げようとした。
さすがに顔はぶつかったら、ラウラが痛いだろうと思って、避けようとのけぞる形をとらざるを得なかった。
「ダー、ん」
「ん?」
ふにゅりと柔らかい感触が下顎にかかって、すぐに離された。
「あ、うそ」
「え?」
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