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39話 最推しカプにアシスト

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 エールに散々怒られたその後、私は足繫く最推しカプの元へ通い続けている。

「サクたん、クラスん。結婚式には参列したいので、その時は呼んでくださいね」
「え? 誰のですか?」
「御二人の」
「えっと、サクは弟みたいな感じなので」
「え……」

 クラスから衝撃的な言葉が出た。本編で結ばれるというのにヒーロー・サクだけが一方通行で好きだと?

「フィクタ、アチェンディーテ公爵令息は三歳ですよ」

 恋愛感情ありきで見るのは難しいでしょうとエールが溜め息まじりでクラスをフォローする。苦く笑うヒロインと無言のまま不満をあらわにするヒーローにふと小説の流れを思い出した。
 帝都デートでも姉弟扱いされてサクが不機嫌になったり、いつまでたっても子供扱いに不貞腐れたり。意識されてないって外伝ヒロイン・ソミアに恋愛相談すらしていた。
 ああ忘れていたわ! 尊い!

「ちょっとイグニス様んとこいってきます!」
「余計なことすんな」
「大丈夫! 華麗なアシスト決めるから!」
「おま」
「アチェンディーテ公爵令息、ここは私が」
「おう、任せた」

 イグニスは隣の部屋で仕事をしているのですぐだ。
 勢いよく開けても特段驚かないので、ぐいぐいいくことにした。

「イグニス様! 今すぐ! 息子さんとステラモリス公爵令嬢連れてステラモリス公国に行ってください!」
「急にどうしたの。面白いからいいけど」

 エールがさっきの推しカプとの会話を伝えて、イグニスは得たりと大きく頷いた。

「息子から聞いてるよ~。ステラモリス公爵令嬢をかなり気に入ってるみたいで、公国に結婚の打診もしたいって言ってるね」
「さすがサクたん」
「たん?」
「んんんん、なら急ぎましょう」

 善は急げ。早く社会的に正式にくっついてしまえば私も自分の生存ルートが高まるってものよ。
 なにより小説本編のヒーロー・ヒロインへの思い入れは特別だから、くっついてもらうと私も幸せになれる。

「家族旅行とか」
「それもいいね」

 あ、でも長期滞在してほしいところ。ならどうしようか……ステラモリス公国には留学できるような教育機関はない。政に関して言えば帝国が群を抜いているからステラモリスに行く必要がない。となると、政治的な派遣だ。戦争以外で理由になりそうで、イグニス一家が出張名目でやれそうな……あ、小説で確かクラスの予言扱いで温泉が沸いたわね。あの地域の温度や地震の記録は現時点でもそこそこあった。これを使おう。

「ステラモリス公国の山の一つに異常値を示す記録がありました」
「知ってるよ。現在小康状態で即時の調査は必要ないやつだね」
「いいえ、今やるべきです」

 概ね十三年後に温泉どーんとわくけど、今調べたってわかることだ。サクもいるし、私の中身をみたなら小説本来の世界線もみている。つまり温泉はサクがすぐに発見するよ的な。

「状態を把握されてるなら、あの場所に温泉の可能性もあるって分かってますよね? 温泉使ってステラモリス公国を観光業で潤す時が来たんですよ! これからのことを考えるなら他国同士で経済基盤の立て直しとか運用とか実績作っとくべきです!」
「推してくるね~!」

 嬉しそうだ。この人は私がその手の意見をいうと喜ぶ。

「あ、まさか……イグニス様、あの二人の婚姻に反対だとか……?」
「息子が望むなら否定しないよ。向こう次第だね」

 なにせ三年経ってもサクは六歳。けど、クラスは十六歳でデビュタントを迎えてしまう。十年という歳の差をステラモリス公爵夫妻がどう考えるかだ。そのあたりの貴族なら反対するだろう。

「そのへんはもう息子さんとステラモリス公爵令嬢に任せればいいじゃないですか。息子の望みを応援するなら、チャンスの場を与えるのも大人の役目では?!」
「フィクタ、落ち着いて下さい」

 サクとクラス絡みだといつも落ち着けって言われてる気がする。別にいいと思うんだけど。

「そうだね、まあ理由付けはさっきのフィクタちゃんので通るだろうからやってみようか」
「よっし」
「フィクタ」

 ステラモリス公国に打診して許可をもらい次第、アチェンディーテ公爵一家にクラスを連れていく。
 ステラモリス公国内でサクとクラスの密月……これで小説第二部を模すことができた。成功率はあがるはず。
 それにステラモリス公爵夫妻にアピール、婚姻の了承なんてヒーローであるサクなら颯爽とできる。なんてたって本編ヒーロー、かつ聖人。愛するクラスがいれば変態でストーカーのツンデレショタっ子なんだから! 設定が渋滞してるけど、ようはサクという存在はなんでもありってことだ。

「勝利の美酒に酔いしれる勢い」
「お酒は飲める年齢ですが、今から飲むのですか?」
「例えだって。でもお茶は飲もうか」
「はい」

 というわけで、広い城の庭の一部を借りてお茶タイムだ。シレとソミアみたいで和む。あの二人はなんだかんだ順調だと聞いた。秘密の庭でいちゃついてんのかな。ああ見たいけど、さすがに二人の庭に侵入するのはできない。

「フラルはこれでよかったのですか?」
「よかったもなにも私から提案してるし」
「フラルはアチェンディーテ公爵令息を一際気に入っているようでしたし、今まで見た中で一番心許して話しているようでしたので」

 そりゃ小説の世界線がどうとか、推しカプが物語的に結ばれるから全力を尽くしてもいいよねとか、そういうことって本人目の前にして話せないからね。話せるサクに話をするから気に入ってるように見えるだけだ。

「なに? 焼きもち?」
「はい」

 潔いくらいはっきり応えた。否定すると思っていたから肩透かしくらう。

「なので今回アチェンディーテ公爵令息が城を離れてくれるのは正直助かります」
「三歳児に焼きもち?」
「ええ。第一皇子もしばらく帝国には戻りませんし、第二皇子と第三皇子はそこまで交流深くありません」

 にこやかに語るエール。

「国家連合設立も見通しが立ちました」
「そうだね」

 そろそろ帝国去ってもいいかも。

「学院の卒業も迫ってきましたし」
「そうね」

 ますます帝国を出る用意しなきゃだわ。
 ついに死亡フラグと別れてひっそり隠居生活。最高だわ。

「なので今、フラルには私だけに集中してもらえるかなと」
「ん?」
「婚約しているなら当然次は婚姻です。フラルは仕方なく契約上私と婚約してるのかもしれませんが、フラルが明確な気持ちで私を選んでもらえるようもっと行動に出てもいい時期になったかなと」
「はい?」

 なんだかとんでもない方向にいってない?
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