上 下
34 / 55

34話 決闘の結果

しおりを挟む
 さて、やらかした。
 
「な、るほど。私が勝てば殿下は皇太子になることはない。その地位から降りてもらうということですね」

 驚きつつも感心しないで。そこは止めてよ、エール!

「では、殿下。よろしいですか?」

 おめおめ逃げる選択肢はない。プライドの高い男は決闘を行う選択肢しかないはずだ。

「ふん、愚か者が」

 あっれ、受けるのは分かってたけど、日を改めてとかじゃないの? 今やるの?
 ヴォックスが出てきて事情を把握すると眉根を寄せて兄である第一皇子を見た。挙げ句剣でやるらしい。ギャラリーも見やすく丸く囲んでやる気満々だ。

「ちょ、本気でやるわけ?」
「ええ。すぐ終わらせますね」

 笑顔で返すとこじゃないんだって。

「エクス、頑張ってね」
「イグニス様!」
「終わるまで我々は彼女の側にいましょう」
「はい。よろしくお願いします」

 いやいやあれ真剣だし、記念すべきデビュタントを飾る若人の会が台無しになっている。これでいいはずがない。一歩間違えれば流血沙汰になるやつよ?

「御二人ともなんで止めてくれなかったんですか」
「面白そうだったし」
「マーロン侯爵家まで軽く見られている以上、私はエクスの行動に賛成します」

 大人が子供を止めなくてどうするのよ。穏便におさめる方法なんていくらでも知ってるでしょ。
 というか我々側は国家連合設立を考える穏健派! やってることが過激派じゃない!

「んー? 婚約者殿が心配?」
「からかわないでください」
「大丈夫だよ。エクス強いから」

 話聞いてないし。そもそも婚約者にしたのってそっちの都合で私の意思は関係ない。

「……帰りたい」
「にしてもフィクタちゃん思いきったよね~! この場で継承権を天秤にかけてくるとは思わなかったよ」
「イグニス」
「分かってるって」

 周囲はどちらが勝つかで賭けが始まった。今日は十六歳の男女が大人になったおめでとう会なのに、賭博場になるとは何事だ。誰か止めてよ。

「おや始まるかな」

 立ち会いは第一皇子派一人とエールには第二皇子がつく。指揮はユースティーツィアだった。

「こうなったらユツィたやとヴィーてや見て癒されるか」

 麗しい二人の騎士服いいなあと思っていたら、始まって本当すぐに終わってしまった。
 見えなかったよ? 人ってあんなに速く動けるの?
 気づいたら第一皇子の剣は吹っ飛んでいて、エールの剣が第一皇子の首筋にあてられていた。

「はっや」
「言ったじゃ~ん。エクス、君のとこの双子騎士を意識してこっそり剣の稽古してたんだよ」

 双子に剣でも勝つ為に鍛えていた? もう私じゃなくて双子に気があるんじゃないのって話よ。意識しすぎ。

「貴方も多少は御存知でしょうが、魔法の腕も中々ですよ」

 確かにシレのトラップにかかった時も意識あった。あれは気絶ものらしいからエールなりに耐性があったのかもしれない。
 と、終わった試合に第一皇子の声が響いた。

「認めない!」
「おや、命尽きるまでやりますか?」

 終わり方は良心的だった。だって首切ってないし。あんな速さで振り回されたら私の首もすぐ飛ぶなあ。やっぱりエールは死亡フラグだ。
 そして、なおも駄々をこねる第一皇子にイグニスが口を開いた。

「殿下、多くの人間が証人になっている以上、決闘は有効です」
「そんなわけが」
「あるな」

 会場にいる全ての人間が声のする方を振り向いた。

「父上!」

 全員が礼をとる。まさか見ていたの?

「マーロン侯爵、マジア侯爵令嬢、愚息が大変失礼した」
「無礼なのは奴らです、父上!」

 口を慎めと一喝される。可哀想に、この二人の関係は小説通りになるのだろうか。

「レックス、お前が決闘を申し込む所から見聞きしていた。決闘は有効なものとする」
「そんな!」
「お前は少し世界を見て学べ」

 コロルベーマヌを初め各国を周り勉強と福祉活動に従事するという。すごい。まさか小説通りに進むとは思わなかった。これも修正力なのだろうか。

「お前がしたのは国に宣戦布告するのと同義だ。おいそれと簡単にできるものではない」
「父上っ」
「これは学び直す時間だと思うことだ。帝国と言う狭い場所だけに固執するのはやめなさい」

 確かにその通りだ。私だけならまだしもエールにもちょっかい出す形になったのは国同士の問題になりかねない。まあそこまであの男は考えてないだろうし、戦争になった方がいいんだろうけど。それにエール自ら絡みにいってたしね。

「フィクタ」
「あ、お帰り……随分嬉しそうね」
「ええ。懸念してた件を一つ解決できましたので」
「そう」
「それに交えることなく剣の腕を見せることもできました」
「ん?」

 エールが視線をずらした。追って見ると庭の双子がこちらを眼光強く見据えている。

「双子に見せつけたかったの」
「はい。双子より強ければ護衛は必要ないでしょう」

 双子すっごい嫌そう。
 それもそうね。一見すると文系なタイプが剣の腕めっちゃいいとか、ありなしで問われるならなしだもの。

「あんまり煽らないでよ。面倒なことになったらどうするの」
「フィクタの特別で一番がもらえるよう努力しているだけです」

 譲らない気だ。意外と頑固ね。

「マーロン侯爵、マジア侯爵令嬢」
「陛下」

 第一皇子を配備した騎士に連れていかせたところで現皇帝に話しかけられた。礼をとって、陛下の言葉がかかって顔を上げると小説の中でのやつれた姿はどこにもなかった。思えばこの人も死亡フラグなのよね。滅多に会えないからノーマークだった。なにより陛下には生きて平和な大陸にしてもらわないと推しカプが幸せになれない。

「先程の息子の非礼、代わってお詫びする」
「滅相も御座いません、陛下」
「いや、君達二人はとても優秀だと聞いている。学院卒業後は是非帝国に来てほしいぐらいだ」

 成程、友好関係をアピールね。
 コロルベーマヌ王国とウニバーシタス帝国はとても仲良しです。争いなんて起きませんよ? 国のトップが自ら話しかけちゃうぐらい仲が良いんでね! みたいな感じだろう。

「私は個人的に、君達二人の仲を応援している」
「ん?」
「有難き御言葉大変光栄に存じます」
「結婚式は是非この城でも行ってほしい」
「はい、陛下」
「んん?」

 いやいやいやいやちょっと待って。
 そんなのいいから! その前に出ていくから! 友好関係は違う形でアピールしようよ!

「おめでとう、皇帝陛下から君たちの仲が公認されたね」

 陛下が去った後のイグニスの言葉に顔を青くしたのは言うまでもない。
 なんてことしてくれるの!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。 銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。 そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。 両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。 一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。 そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。 そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。 その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。 ※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。 ※ギリギリR15を攻めます。 ※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。 ※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。 ※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。 ※他転生者も登場します。 ※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。 皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。 ※なろう小説でも掲載しています☆

悪女の騎士

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
孤児のギルバートは美しい令嬢レティシアに拾われて彼女の騎士になる。 誰もが振り返る美貌の令嬢に類を漏れず懸想したが、彼女は社交界では名高い悪女と名高い令嬢であった。 彼女を最も近くで見ているギルバートはその憂いを帯びた表情や時折みせる少女らしい顔を知っている。 だから地獄から救ってくれた彼女を女神だとは思っても悪女だなんて思えなかった。 だが知ってしまった。 レティシアが騎士を側において育てたのは、ギルバートに自分を殺させるためだった。 「苦しませずに殺してね」 最愛の人をこの手で殺さない未来のためにギルバートは奮闘する。 強制力に縛られたループ令嬢とその忠犬騎士の物語。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

処理中です...