死亡フラグと修正力に抗う一周目悪役令嬢な私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝3】

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23話 シレとソミア

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 魔石とは、魔法が使えない人間がもれなく魔法を使えるようになる素晴らしいアイテムだ。
 あの集落、というより私の国にある山でよくとれるものだった。西の大陸ではイルミナルクスの西側大陸北側に位置する原生林の奥にしかない。けど外伝ではシレは魔石の存在を知っていた。フィクタがけしかけたモブ男を制した王道回で好き……じゃなくて。

「へえ、僕も初めて見ます。あ、書類ありがとうございました」
「すごいね~! 拝める日くるとは思わなかった~」
「ふむ、成程」
「……どうぞ一人一つずつお持ちください……」

 断罪が始まる?
 けどソミアを害したわけでもないから大丈夫なはず。

「まあ探知しようにもできなかったから、魔石だろうと踏んでいたけど」
「イグニス様もマーロン侯爵も当時どうしてフィクタ嬢に聞かなかったんです?」
「んー、誰がっていうのが分かれば問題なかったし、フィクタちゃんから殺意もなかったし」
「些事な問題として留保されただけです」

 後回しでいいよ、なにかしてきても対応できるから、というところだろう。

「シレも知ってるでしょ。東の大きな山で魔石がとれる噂」
「まさか本当だとは思いませんでした」

 魔石話で盛り上がってる。魔石渡したんだから会議室から出てもよくない? ソミアのお茶飲めると思ってたのに場所変わったから飲めなかったし。

「で、フィクタ嬢はなにをそんなに急いでたんですか?」
「あ、ああ、ちょっと法律を」

 なになにとイグニスとマーロン侯爵がこちらを見る。無駄に首突っ込まないでよ。

「身分に関する法律の緩和をしてほしいんですけど」
「緩和?」
「一部改正とか、付則追加とか?」

 イグニスとマーロン侯爵はいまいちピンときてないようだったけど、シレは僅かに手元が震えた。この年でソミアとのことを考えている証拠ね。これはいける。

「どの部分をどのように?」
「ええと、爵位のある者ない者、高爵位低爵位に関わらず政・社交・商い・婚姻含め全てを自由とし多くの交流を推奨する、みたいな内容でお願いします」
「へえ」

 外伝でシレがソミアに説明していた台詞そのまま使ってみた。
 シレの重ねられた両手の指先に力が入るのが見えたので意図は伝わったかな?

「国家連合設立に先駆けてってやつ?」
「まあそんなところで」

 ありだね~とイグニスは笑う。国際法という大きな法律でくくるなら必要だろう。各国に存在する身分制度も多様で一定の基準を設けるのは難しい。なら先に国が違ってもうまくやれるよう今の内からフラグをたてておく。まあシレとソミアの為だけどね!

「フィクタ嬢」
「はい」
「本音は?」

 シレが明らかに不審だと言っている。目が怖い。さすがに踏み込みすぎただろうか。
 死亡フラグは回避したい。魔石の件もあるから、ここは素直になる? シレは頭がいい。サク程ではないにしろ、充分神童と謳われるレベルのはずだ。

「簡単に言うと貴族と平民が結婚しやすくしてほしいです」
「……何故ですか?」
「第三皇子殿下とソミアた……んん、ソミアさんが結婚しやすいように」
「え?」
「え?」

 イグニスとエールが驚いた。気に入ってても結婚を視野にしてるとは思ってなかったようだ。
 対してシレは一瞬眦をあげるもすぐに営業用笑顔に戻った。

「僕とソミア?」
「ええ、好き合ってるでしょう?」
「何を根拠に?」
「女の感です」

 小説にあるんでとは言えない。後はもう適当に誤魔化すしかなかった。私、行き当たりばったりすぎるわね。もう少し考えてからにすればよかった。焦るのよくない。

「あの若さで側付きにしていますし、どこ行くにも一緒ですし……その、一緒にいる時の殿下、甘い顔してますし」

 私の欲目だと思う。二人の想いを知っていると、やっぱり雰囲気や表情がちょっと違う気がした。

「僕らを応援するため?」
「まあ他にって言うなら、学院に通う私の友人たちの卒業後うまくいくように、ですかねえ」

 爵位のない人間しかいないから。
 もしかしたらこのままこちら側に居を構えるかもしれない。そうしたとき少しでも生きやすければいいと思った。フィクタが雇うしかない道ではなくて、自分で選べる未来がいいに決まってる。

「フィクタちゃん優しいねえ」
「はあ」
「確かに国際法だけでは国家連合設立には弱い。加盟国がそれぞれ利を得るためにはある程度の平等は必要だからね」
「ならお願いできますか?」
「……僕がやります」

 シレが手を上げた。
 よし、外伝通りやっちゃってくれ!

「なら草案を後で頂戴」
「分かりました」

 シレが手を上げたお陰で会議室から解放された。
 ほっと一息つく。本当死亡フラグに囲まれる会議とかないわ。早く推しカプに幸せになってもらってこの国出よ。

「フィクタ嬢」
「はい」

 会議が終わって外に出てすぐ呼ばれシレの元へ駆け寄る。

「……ありがとうございました」

 伏し目がちに感謝された。その表情がソミアに向けたものだと分かり脳内歓喜する。二つ目の推しカプもクリアできそう!

「ソミアが僕のこと好きだって思ってなかったから」

 貴方が倒れてくれないとソミア告白しないからねとは言えない。

「ああ、大丈夫です。そこは自信持ってグイグイいってください。あと妃としてやれる自信を与えて上げてください」
「ああ、うんわかった。頑張ってみるよ」
「……というかやらかしてみます?」
「ん?」

 ユースティーツィアの時みたく発破かけてみる?
 ソミアにはあまり有効ではなさそうだけど試してみる価値はあると思う。だって外伝で二人はそこを乗り越えて結ばれるんだから。しかも今とは違ってシレは皇太子になっていたし。

「いや、まあそこは」
「やりましょう」
「え、いや」
「ソミアさんに会わせてください」
「話きかないってどうなの」
「殿下申し訳ありません。たまにこのようなことがございます」
「ああ……大変ですね……」
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