上 下
12 / 55

12話 断罪の現場

しおりを挟む
「子猫ちゃんは古かったかな~」
「少し軽薄ですね」
「そう言わないでよ」

 楽しそうに笑う小説の主要人物たち。
 死亡フラグが目の前にいる。イグニスってば私に殺された一回目の恨みでも晴らそうというの?
 笑ってない笑顔いらないから! 怖いよ!

「そんな顔青くしないで。ほら」

 大人二人に道を譲られ扉も開けてもらっているとなると、もう中に入るしか選択肢がない。最後の抵抗とばかりにその場に立ち尽くしていると手を引かれた。

「フィクタ嬢、騙すような真似をして申し訳ありません」
「マーロン侯爵令息」

 やっぱりマーロン弟とは関わるんじゃなかった! 避けに避けていればよかったんだわ。社交辞令な当たり障りない付き合いすらタブーだったし!

「決して罰することはありません。お願いします」

 もう諦めるしかなかった。明るい光の元へ出る。中には最低限の面子だけだった。
 イグニス、マーロン兄弟、第三皇子側付の執事ストリクテ、二つの学院理事長。
 ああ、理事長いる時点で罰はなくても職は失いそうね。やっぱり終わってる。

「エクス、手紙の主はこの子なの?」
「はい」

 手近な席に座らされたのはいいけど、完全に断罪の現場だ。もうやだ、裁判は懲り懲りなのに。

「何故か応えますね」

 マーロン弟は私に憐れみともとれる視線を寄越した。これから死刑か収容所インな私への手向けかな。それならやめてよ。

「手紙の羊皮紙の種類が合致しました」

 やっぱりいくらか変わりものの羊皮紙を使っていたのがよくなかった。私が双子に渡した手紙をきちんと把握していたマーロン弟は数日後届く手紙との照合をしていたと。

「フィクタ嬢のご親族も尾行させて頂きました」

 かなり慎重にやってくれてた双子はなかなか尻尾を掴ませてくれなかったらしい。二年かけて数える程だったけど、商人伝えに渡すのを見れたと言う。

「うちと最近商談するようになったとこも君の手紙のおかげでとか言っててね~」

 やっぱり!
 あんまり付き合いの浅い人間を巻き込むものじゃなかった。
 小説のフィクタが集落の人間で側付を固めた理由はここにある。フィクタは用心深く、またこの大陸の人間を信頼してなかった。事実今それが証明されている。
 たぶんイグニスは相当な圧力をかけて吐かせたところだと思うけど、それにしたって双子を見習ってほしい。そうだ……双子だけでも守らないと。

「双子は悪くありません」
「え?」

 逃げられないなら被害は最小にしないと。

「手紙を運んでいた双子は私に唆されてやっていたことです。全部私がやりました。だから二人は罰しないで下さい」

 収容所で双子には会えなかった。どうなったかまでは分からないけど、フィクタと同じ処罰を受けたはず。収容所なんていいものじゃない。避けて通るよう便宜を図ってもらおう。

「お願いします」

 頭を下げるしかなかった。優秀な面子を二年も騙せてるだけすごかったのだから仕方ない。死にたくはないし収容所もこないでほしいけど、その覚悟が片隅にあったのは事実だ。責任を取ろう。

「へえ。本当にエクス並に子供らしくないね~」

 軽い口調なのはイグニスだ。他は黙っている。

「僕達はフィクタちゃんをいじめようってわけじゃないんだよ」

 顔あげてと言われ渋々あげた。あまり顔を合わせたくないのに。
 というか、フィクタちゃんってなんだ。

「認めてくれたから話早いんだけど、この手紙の主が誰か知りたかったわけ」
「……」
「二つの学院をどの国にも属さない中立な立場に置いて身分関係なく学べる場所にって、これを考えるだけでもすごいと思うよ。それをここまでして望んだ目的……うーん理由? も知りたいなあ」

 訊かれるだろうことは分かっていた。
 学園二つの中立性は国家連合を設立のヒントにすぎない。国家連合の設立は推しカプの幸せの第一歩。けどそんなこと話すわけにも行かないし、国家連合は自然な流れでそうなってほしい。
 よし、いつもの半分嘘半分本当でいこう。

「手紙にある通り……誰でも勉強ができる場所が欲しかったんです」
「うん」

 このかつての殺害対象相手に嘘を貫けるか微妙ね。

「……私の故郷にいる子供が教育を受けられる場が欲しかった」
「故郷?」
「イルミナルクス王国の先の東の山を越えた小さな集落です。争いばかりで集落はなくなりました。今は子供しかいません。あの子達が自分の力で生きていく為に教育が必要だと思いました」

 嘘じゃない。小説では自分の為と言いながら集落の人間で側付を固めた。職がなかったからフィクタ自身の側付として斡旋したのもある。皇子妃の側付を経験すれば後々買い手がつくし。

「騎士になりたければ騎士に、文字を学んで知識を得れば文官にもなれます。このままだと奴隷になるか飢えで死ぬかだから食べる為の手段が必要だと思いました」 

 成程、とイグニスがわざとらしく頷く。
 殺すなら早く殺してよ。死亡フラグめ。

「学院に誰でも入れればいいって?」
「はい」
「なら学院の管轄にまで言及したのはなんで?」

 やっぱりそこついてくるかあ。

「故郷もこちらも争いばかりだったので……戦争に影響されずに学べればと思っただけです。路頭に迷わないように……それに」

 イグニスは変わらず微笑んでいるだけだった。

「戦争なんてもう嫌です。終わってほしい」

 争いの中でフィクタは欲にかられた。第一皇子と結託して帝国を戦争で大きくしようとした。戦争を起こそうとした人間が戦争を止めようなんておかしな話ね。
 けど自身がおかしくなる影響の高いものはなくなってほしい。私がぶれずに立っていられる自信はまだないもの。

「ふむ……そこは大人として申し訳ないところではあるねえ」

 戦争は大人の問題だと言う。小説本編でも大人になったフィクタが色々やらかしてたわね。

「フィクタちゃんは国家連合を作れって言ってる自覚あった?」
「……」

 ほのめかしすぎただろうか。
 公平な立場で複数の国々からの管轄を望む、とぐらいは書いていた。そうしないとただの中立の学院ができるだけだ。連合ができて戦争が終わらないと推しカプが幸せになれない。

「僕はフィクタちゃんにこの会議に参加してほしいと思ってるんだよねえ」
「え?」

 なんてことない風に言ってるけど子供を大人の会議に? いやまあ小説本編のヒーロー・サクは神童で六歳から政治参加していたけど、それとこれとは別問題だし。というか関わりたくないのにどうしてそんな密に私と接触しようとするの?

「発案者にいてほしいよね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢でした、急いで逃げだしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 もっと早く記憶を取り戻させてくれてもいいじゃない!

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

処理中です...