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12話 断罪の現場

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「子猫ちゃんは古かったかな~」
「少し軽薄ですね」
「そう言わないでよ」

 楽しそうに笑う小説の主要人物たち。
 死亡フラグが目の前にいる。イグニスってば私に殺された一回目の恨みでも晴らそうというの?
 笑ってない笑顔いらないから! 怖いよ!

「そんな顔青くしないで。ほら」

 大人二人に道を譲られ扉も開けてもらっているとなると、もう中に入るしか選択肢がない。最後の抵抗とばかりにその場に立ち尽くしていると手を引かれた。

「フィクタ嬢、騙すような真似をして申し訳ありません」
「マーロン侯爵令息」

 やっぱりマーロン弟とは関わるんじゃなかった! 避けに避けていればよかったんだわ。社交辞令な当たり障りない付き合いすらタブーだったし!

「決して罰することはありません。お願いします」

 もう諦めるしかなかった。明るい光の元へ出る。中には最低限の面子だけだった。
 イグニス、マーロン兄弟、第三皇子側付の執事ストリクテ、二つの学院理事長。
 ああ、理事長いる時点で罰はなくても職は失いそうね。やっぱり終わってる。

「エクス、手紙の主はこの子なの?」
「はい」

 手近な席に座らされたのはいいけど、完全に断罪の現場だ。もうやだ、裁判は懲り懲りなのに。

「何故か応えますね」

 マーロン弟は私に憐れみともとれる視線を寄越した。これから死刑か収容所インな私への手向けかな。それならやめてよ。

「手紙の羊皮紙の種類が合致しました」

 やっぱりいくらか変わりものの羊皮紙を使っていたのがよくなかった。私が双子に渡した手紙をきちんと把握していたマーロン弟は数日後届く手紙との照合をしていたと。

「フィクタ嬢のご親族も尾行させて頂きました」

 かなり慎重にやってくれてた双子はなかなか尻尾を掴ませてくれなかったらしい。二年かけて数える程だったけど、商人伝えに渡すのを見れたと言う。

「うちと最近商談するようになったとこも君の手紙のおかげでとか言っててね~」

 やっぱり!
 あんまり付き合いの浅い人間を巻き込むものじゃなかった。
 小説のフィクタが集落の人間で側付を固めた理由はここにある。フィクタは用心深く、またこの大陸の人間を信頼してなかった。事実今それが証明されている。
 たぶんイグニスは相当な圧力をかけて吐かせたところだと思うけど、それにしたって双子を見習ってほしい。そうだ……双子だけでも守らないと。

「双子は悪くありません」
「え?」

 逃げられないなら被害は最小にしないと。

「手紙を運んでいた双子は私に唆されてやっていたことです。全部私がやりました。だから二人は罰しないで下さい」

 収容所で双子には会えなかった。どうなったかまでは分からないけど、フィクタと同じ処罰を受けたはず。収容所なんていいものじゃない。避けて通るよう便宜を図ってもらおう。

「お願いします」

 頭を下げるしかなかった。優秀な面子を二年も騙せてるだけすごかったのだから仕方ない。死にたくはないし収容所もこないでほしいけど、その覚悟が片隅にあったのは事実だ。責任を取ろう。

「へえ。本当にエクス並に子供らしくないね~」

 軽い口調なのはイグニスだ。他は黙っている。

「僕達はフィクタちゃんをいじめようってわけじゃないんだよ」

 顔あげてと言われ渋々あげた。あまり顔を合わせたくないのに。
 というか、フィクタちゃんってなんだ。

「認めてくれたから話早いんだけど、この手紙の主が誰か知りたかったわけ」
「……」
「二つの学院をどの国にも属さない中立な立場に置いて身分関係なく学べる場所にって、これを考えるだけでもすごいと思うよ。それをここまでして望んだ目的……うーん理由? も知りたいなあ」

 訊かれるだろうことは分かっていた。
 学園二つの中立性は国家連合を設立のヒントにすぎない。国家連合の設立は推しカプの幸せの第一歩。けどそんなこと話すわけにも行かないし、国家連合は自然な流れでそうなってほしい。
 よし、いつもの半分嘘半分本当でいこう。

「手紙にある通り……誰でも勉強ができる場所が欲しかったんです」
「うん」

 このかつての殺害対象相手に嘘を貫けるか微妙ね。

「……私の故郷にいる子供が教育を受けられる場が欲しかった」
「故郷?」
「イルミナルクス王国の先の東の山を越えた小さな集落です。争いばかりで集落はなくなりました。今は子供しかいません。あの子達が自分の力で生きていく為に教育が必要だと思いました」

 嘘じゃない。小説では自分の為と言いながら集落の人間で側付を固めた。職がなかったからフィクタ自身の側付として斡旋したのもある。皇子妃の側付を経験すれば後々買い手がつくし。

「騎士になりたければ騎士に、文字を学んで知識を得れば文官にもなれます。このままだと奴隷になるか飢えで死ぬかだから食べる為の手段が必要だと思いました」 

 成程、とイグニスがわざとらしく頷く。
 殺すなら早く殺してよ。死亡フラグめ。

「学院に誰でも入れればいいって?」
「はい」
「なら学院の管轄にまで言及したのはなんで?」

 やっぱりそこついてくるかあ。

「故郷もこちらも争いばかりだったので……戦争に影響されずに学べればと思っただけです。路頭に迷わないように……それに」

 イグニスは変わらず微笑んでいるだけだった。

「戦争なんてもう嫌です。終わってほしい」

 争いの中でフィクタは欲にかられた。第一皇子と結託して帝国を戦争で大きくしようとした。戦争を起こそうとした人間が戦争を止めようなんておかしな話ね。
 けど自身がおかしくなる影響の高いものはなくなってほしい。私がぶれずに立っていられる自信はまだないもの。

「ふむ……そこは大人として申し訳ないところではあるねえ」

 戦争は大人の問題だと言う。小説本編でも大人になったフィクタが色々やらかしてたわね。

「フィクタちゃんは国家連合を作れって言ってる自覚あった?」
「……」

 ほのめかしすぎただろうか。
 公平な立場で複数の国々からの管轄を望む、とぐらいは書いていた。そうしないとただの中立の学院ができるだけだ。連合ができて戦争が終わらないと推しカプが幸せになれない。

「僕はフィクタちゃんにこの会議に参加してほしいと思ってるんだよねえ」
「え?」

 なんてことない風に言ってるけど子供を大人の会議に? いやまあ小説本編のヒーロー・サクは神童で六歳から政治参加していたけど、それとこれとは別問題だし。というか関わりたくないのにどうしてそんな密に私と接触しようとするの?

「発案者にいてほしいよね」
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