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10話 二十四時間監視宣言

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「本日はどのような御用件でお越しでしょうか?」
「グレース騎士学院を視察し、その足でこちらに伺いました」

 へたに近くに建っているのは問題ね。双子とやり取りしやすいところは重宝してるけど、ことマーロン弟に関してはリスクがあがる。

「では理事長をお呼びします」
「結構ですよ。貴方に会いに来たので」
「……」

 世の貴族令嬢ならきゃーきゃー喜んだり赤面したりする場面だろうなあ。私には死亡フラグが近づいてるようにしか見えない。
 この人は関わりたくないのに何故かぐいぐいくる。やっぱり私を疑っているのだろうか。

「僭越ながら仕事がありますので」
「先程の双子は?」

 去ろうとすると止められた。なんなんなの。
 あ、待って。ここで疑いの目を私からさらに双子まで拡大されても困る。双子には私から離れて自由に長生きしてもらおうと思ってるのに。やっぱり早く解放してあげないと。そして今はマーロン弟の疑いを晴らしておこう。

「親族です。グレース騎士学院で下働きをしていたのですが、この度入学することになりましたので、その報告を受けました」
「成程、親族」

 似てないから誤魔化せない? 見た目は西側だし髪の色合い的にもそこまで離れていないからいけると思ったけど。

「私たちのように身分の低い人間が学院に入れるようになったので助かりました」

 ではこれでと離れようとするとそのままついてきた。
 実はマーロン弟、こうした訪問は初めてじゃない。この人はたまに用もなく来ては私にちょっかいだして去っていく。
 やっぱり怪しまれているんだろうなあ。
 あれかな? 会議じゃない日に初めて来た時、視線をあからさまに逸らして逃げようとしたのが原因かな?
 あ、もしかしてあまりに距離近い日に植物用の水ぶっかけたこととか? 貴族に対して無礼にも程があるものね。
 無礼っていう点なら食堂メニューの試作品デザートの味見させたこともあるし、どうしても終わらないからって草むしり一緒にやらせたこともあった。あれ、私やらかしすぎてる?
 怪しまれている以前に憎まれてるんじゃないの? どうしたら払拭できる? もう二年も疑われているし、証拠とられたら憎しみも相まって即アウトだよ。
 むしろ二年もヘマしなかった私を褒めて。胃が痛い私を労って。死亡フラグという恐怖から解放して。

「そういえば手紙はどちらに?」
「え?」

 温室に入り水あげをしていると花を見ながらマーロン弟が何気なく話しかけてきた。どういうこと。手紙?

「双子に渡していたでしょう?」
「!」

 怪しまれている。というよりも初めから見ていたの? これはやばい。騎士学院という近さにいて直に会える双子に手紙出してますでは言い訳としては弱いだろう。
 どうするか。余裕で嘘をつくしかない。

「恩人に定期的に手紙を出しております」
「恩人?」
「ええ。私が今日生き長らえてるのは恩人のおかげですので」

 微妙に嘘ではない。
 イグニスもマーロン兄も帝国もこのまま宥和と和平へ動いてくれるならフィクタが悪役として死なない未来が待っている。推しカプも幸せに暮らし、私も生きていれば大団円だ。その時はこの会議に出て話を進めてくれている人間は恩人になる。ほら、間違いではないぞ。

「恩人ですか」
「はい」
「あの羊皮紙……あまり市場で見ませんね」

 確実に疑ってるね! もうやだ、帰りたい!

「懇意にしている商人から譲り受けまして」

 事実だ。
 あの羊皮紙は私たちの国側、山を越えた東側で作っていて、帝国には基本売っていない。西側でならイルミナルクス王国が取り扱っているぐらいで、双子が郵便の兼ね合いでやり取りしている商人が好意でくれたものになる。双子のおかげでイルミナルクス王国とのパイプができ商売が上向きになったからだ。一人の商人を救ったという点では中々良いことしてるんじゃない? 悪役じゃないよね?
 けど、今この瞬間は裏目に出てる。やっぱり多くを流通している大手の紙を使うべきだった。もう出してしまったから遅いけど、今回の羊皮紙はイルミナルクス王国で流行りの兆しを見せているから流行に敏感な貴族の若手が使ったと勘違いしてくれると思う、というかそう期待してる。

「貴方も学院に入るのですか?」

 深追いしてこなかった!
 安心するもよく分からない質問に首を傾げる。

「そもそも年齢達してないですし、できるとしても入りたいとは思いません」
「何故です? この二年話して分かりましたけど、フィクタ嬢は非常に聡明です。私はてっきり勉学に励みたく、早い内からテンプスモーベリ総合学院にいらしていたのかと思ってましたが」

 聡明なのはそっちでしょう。
 マーロン弟は私と同い年だ。名前をきかれた次に会った時に年齢を聞かれた。偽っているかもしれないが見た目もフィクタと同じぐらい若いし近い年齢なのは間違いないはずだ。

「お褒め頂き光栄ですが、あー……興味がないんです。私は世界が平和で日々静かにすごせればいいんで」

 そう静かに日々慎ましやかに。
 お金はあるだけあるといいけど、一番は心豊かに過ごせるかだ。
 だから私は推しカプの幸せを、私の心の安寧の為に推し続けるし、私が死なない為の行動を惜しまない。

「……そうですか」

 残念です、と少し眉を下げる。

「マーロン侯爵令息?」
「フィクタ嬢みたいな方と学友になれたら楽しいだろうなと思ってましたので」

 こやつは素でくどくタイプなのかな? まあ友達になりたいってことだろうけど、それはない。それに学院に入れば彼のこと、友達なんてすぐできるだろう。今は私しか似た年齢の子供がいないから、そう思うだけ。

「勿体無い御言葉、」
「畏まらないで下さい」
「……すみません」

 二年も言われ続けているから耳にタコだ。結構崩して話してるつもりだけど、それでも言われる。うーん、へたに友達になりたいって言ってくるあたり、少し懐かれたかもしれない。それはよくない。やっぱりあまり関わるものではないわね。死亡フラグがくるもの。

「言い方が遠回しでしたね」
「はい?」
「学友とは建前で、私が今よりもフィクタ嬢の側にいられるならなんでもいい、というところでしょうか」

 二十四時間監視宣言が入った。恐怖、恐怖以外のなにものでもないぞ!

「すみません、温室の手入れが終わったので私はこれで」
「ああ……はい。またきますね」

 来ないで!
 とは言えないので、適当に笑顔作って会釈して去った。この男は危険だ。私を疑っているし、かなり探りをいれられている。早く連合設立してもらってお別れしたい。
 平和が訪れ推しカプが結ばれれば帝国にいる理由もないもの。
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