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7話 貴族院潜入からの初会合開催
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「どこ行くの」
「ん? 手紙を読んで動くかどうかを水面下で確かめる準備」
「?」
訪れたのは新聞屋。中には入らず出入りしている内の一人に目をつける。あまり身綺麗ではなくていい。靴は動くのだから当然すり減っていること、周囲への目配せ、行動範囲はさすがにこの瞬間だけでは分からないけれど持ち物から推察する。
「すみません」
後はネタに対して貪欲かどうか。
子供だと見下されるのは当たり前だから多少気張らないとね。
「皇帝の代替わりについて情報提供したいのですが」
当然あちらは現皇帝の戦争派と皇弟の宥和派について把握はしている。大人の話を聞いたのかと笑われたら、次は連合の話をちらつかせた。変わった話だし、理解している様子に少し警戒心を出せばこちらのもの。
レースノワレ王国への武力介入、ステラモリス公国の価値、海の向こうの南の国コロルベーマヌの台頭、今の段階ではその見込みをたてられる大人は少ない。けど目の前の新聞屋の念頭にはあったらしく食いつきがよかった。
「十年です。十年以内に代替わりがあります」
でないと、私の推しカプが全滅する。推しカプが全滅した世界に用はない。私にとっての限界が十年後というわけだ。
「……どうしてほしい?」
話し合いの末、少しは鑑みてくれることとなった。今後の新聞屋とのやり取りをすることに加え、レクツィオ宛の手紙を出してもらえることになった。新聞屋から送られるとなると最初は警戒されるだろうけど、今日混ぜた手紙に今後の宛先が新聞屋からになったら手紙の主からだと思ってほしいとも書いたからいけるはず。まあ伝手を確保していない中、四面楚歌でよくやれたものよ。
「……危なくなったら降りるからな」
「構いません」
その時はたぶん推しカプ全滅してるだろうし。
私の生きがいの推しカプが全滅したら、それ即ち私の死だ。
「あー、直近は騎士学院と貴族院からか?」
「はい。ここは早ければすぐに変化が見られますよ」
「で、俺からお嬢ちゃんへの手紙は貴族院宛にすればいいな?」
「はい、お願いします」
またまた背水の陣だ。
新聞屋と別れ、私は再び貴族院へ向かった。
双子も黙ってついてくる。
「さて、うまくいくかな」
貴族院は基本厳密な審査の末雇われる。けどそれは教諭陣に限ったことで、清掃や食堂の調理に関する下働きは割とゆるめだ。
私は一つ紹介状を持っていた。馬車の乗り継ぎで知り合った商人から買ったもの。偽物である率が高いけどやるしかない。
「手紙を読んで信じてくれるなら集合場所は貴族院」
だから私は貴族院にいないと。
「フィクタ、できるの?」
「できるできないの問題じゃなくて、やるかやらないかの問題ですよ」
首を傾げられた。四面楚歌、背水の陣。やらないとゲームオーバーなんだからやるしかない。できなければ別の案をまた考える。
双子は送ってくれた商人に一時的に預けた。私の商戦が終わり次第ということにしたけど、当然嘘。まあある種商戦だけど。
「いってくる」
「うん」
「気をつけて」
厳重な門を潜り、それらしい事務員に案内されたのは理事長室だった。
幸いなことに紹介状は通り、無事住み込みの下働きとして働けることになる。いいペースだ。そしたら次は第二段階へ進まないとね。
* * *
第一段階も第二段階も地味だけど新天地での生活はなかなか刺激が多い。
「フリーゴス、これを届けてくれる」
「分かった」
「カロルはこっち」
「分かった」
双子には再び郵便を頼んだ。イルミナルクス王国と騎士学院。貴族院は私が郵便担当と仲良くなって話している間に紛れ込ませる。
これで十通目だ。なんとか会議ぐらいはやってほしいところだけど。ストーカーというか怪文書送付でいつか捕まりそうだからなんとかこのへんで成果がほしい。
「フィクタ、新聞屋から」
「ありがとう」
双子と別れ、広い敷地の木陰で手紙を開封する。
朗報だった。
「アチェンディーテ公爵が帝国入り。で、その前に一度貴族院を視察……やった!」
ついにきた。
空振りになる可能性があるけど、この目で様子を見られるのは大きい。仮に今までの手紙が届いてなかったらやり方を変えるだけだ。方法はまだあるもの。
それに最初は騎士学院と貴族院の入学要件の緩和と、ハードルを低くした。彼らでもやれなくはないはず。
* * *
運命の日と言っても過言ではない本日。
物語の人物を視界に入れられるなんて眼福すぎる。
「おお!」
その日は率先して外の掃除をさせてもらい、早々に終わらせ主要人物を待った。会合する場所は分かっている。前日丁寧に掃除の指示が入った会議室の一つだ。
「よし」
アチェンディーテ公爵
マーロン侯爵
騎士服から判断するに騎士学院の関係者
そして貴族院理事長
帝国からは第三皇子の執事
この時になってやっと執事の名前がストリクテだと思い出す。遅すぎてごめんね。
彼が来たということは、レクツィオ宛ての手紙は無事届いていたことを証明している。侍女長をしているから城の侍女歴は長いと思っていたけど、その予想が当たっててよかったわ。
「入ったわね」
会議室に入ったのを見計らって場所を変えた。昨日の掃除の時にあらかじめ窓を開けている。あちらが気づいて閉めない限りは聞き放題だ。後はそれらしく掃除をしてればいい。魔石を持てば探知魔法にもかからないだろうし完璧でしょう。ドヤ顔したい。
「では会議を始めましょう」
どうやら手紙は全ての人物に届いていたらしい。当然のごとくハードルの低い貴族院と騎士学院の入学要件である身分の撤廃の話から始まった。
第三皇子の執事ストリクテは皇弟の代替が第三皇子とした為の代理出席だという。なんでもいい、最初の難関をクリアして、国家連合設立から代替わりまでこなして推しカプの結婚まで辿り着いてくれればなんでもいい。
「何をしているのですか」
「!」
絶妙なタイミングで声がかかった。
「ん? 手紙を読んで動くかどうかを水面下で確かめる準備」
「?」
訪れたのは新聞屋。中には入らず出入りしている内の一人に目をつける。あまり身綺麗ではなくていい。靴は動くのだから当然すり減っていること、周囲への目配せ、行動範囲はさすがにこの瞬間だけでは分からないけれど持ち物から推察する。
「すみません」
後はネタに対して貪欲かどうか。
子供だと見下されるのは当たり前だから多少気張らないとね。
「皇帝の代替わりについて情報提供したいのですが」
当然あちらは現皇帝の戦争派と皇弟の宥和派について把握はしている。大人の話を聞いたのかと笑われたら、次は連合の話をちらつかせた。変わった話だし、理解している様子に少し警戒心を出せばこちらのもの。
レースノワレ王国への武力介入、ステラモリス公国の価値、海の向こうの南の国コロルベーマヌの台頭、今の段階ではその見込みをたてられる大人は少ない。けど目の前の新聞屋の念頭にはあったらしく食いつきがよかった。
「十年です。十年以内に代替わりがあります」
でないと、私の推しカプが全滅する。推しカプが全滅した世界に用はない。私にとっての限界が十年後というわけだ。
「……どうしてほしい?」
話し合いの末、少しは鑑みてくれることとなった。今後の新聞屋とのやり取りをすることに加え、レクツィオ宛の手紙を出してもらえることになった。新聞屋から送られるとなると最初は警戒されるだろうけど、今日混ぜた手紙に今後の宛先が新聞屋からになったら手紙の主からだと思ってほしいとも書いたからいけるはず。まあ伝手を確保していない中、四面楚歌でよくやれたものよ。
「……危なくなったら降りるからな」
「構いません」
その時はたぶん推しカプ全滅してるだろうし。
私の生きがいの推しカプが全滅したら、それ即ち私の死だ。
「あー、直近は騎士学院と貴族院からか?」
「はい。ここは早ければすぐに変化が見られますよ」
「で、俺からお嬢ちゃんへの手紙は貴族院宛にすればいいな?」
「はい、お願いします」
またまた背水の陣だ。
新聞屋と別れ、私は再び貴族院へ向かった。
双子も黙ってついてくる。
「さて、うまくいくかな」
貴族院は基本厳密な審査の末雇われる。けどそれは教諭陣に限ったことで、清掃や食堂の調理に関する下働きは割とゆるめだ。
私は一つ紹介状を持っていた。馬車の乗り継ぎで知り合った商人から買ったもの。偽物である率が高いけどやるしかない。
「手紙を読んで信じてくれるなら集合場所は貴族院」
だから私は貴族院にいないと。
「フィクタ、できるの?」
「できるできないの問題じゃなくて、やるかやらないかの問題ですよ」
首を傾げられた。四面楚歌、背水の陣。やらないとゲームオーバーなんだからやるしかない。できなければ別の案をまた考える。
双子は送ってくれた商人に一時的に預けた。私の商戦が終わり次第ということにしたけど、当然嘘。まあある種商戦だけど。
「いってくる」
「うん」
「気をつけて」
厳重な門を潜り、それらしい事務員に案内されたのは理事長室だった。
幸いなことに紹介状は通り、無事住み込みの下働きとして働けることになる。いいペースだ。そしたら次は第二段階へ進まないとね。
* * *
第一段階も第二段階も地味だけど新天地での生活はなかなか刺激が多い。
「フリーゴス、これを届けてくれる」
「分かった」
「カロルはこっち」
「分かった」
双子には再び郵便を頼んだ。イルミナルクス王国と騎士学院。貴族院は私が郵便担当と仲良くなって話している間に紛れ込ませる。
これで十通目だ。なんとか会議ぐらいはやってほしいところだけど。ストーカーというか怪文書送付でいつか捕まりそうだからなんとかこのへんで成果がほしい。
「フィクタ、新聞屋から」
「ありがとう」
双子と別れ、広い敷地の木陰で手紙を開封する。
朗報だった。
「アチェンディーテ公爵が帝国入り。で、その前に一度貴族院を視察……やった!」
ついにきた。
空振りになる可能性があるけど、この目で様子を見られるのは大きい。仮に今までの手紙が届いてなかったらやり方を変えるだけだ。方法はまだあるもの。
それに最初は騎士学院と貴族院の入学要件の緩和と、ハードルを低くした。彼らでもやれなくはないはず。
* * *
運命の日と言っても過言ではない本日。
物語の人物を視界に入れられるなんて眼福すぎる。
「おお!」
その日は率先して外の掃除をさせてもらい、早々に終わらせ主要人物を待った。会合する場所は分かっている。前日丁寧に掃除の指示が入った会議室の一つだ。
「よし」
アチェンディーテ公爵
マーロン侯爵
騎士服から判断するに騎士学院の関係者
そして貴族院理事長
帝国からは第三皇子の執事
この時になってやっと執事の名前がストリクテだと思い出す。遅すぎてごめんね。
彼が来たということは、レクツィオ宛ての手紙は無事届いていたことを証明している。侍女長をしているから城の侍女歴は長いと思っていたけど、その予想が当たっててよかったわ。
「入ったわね」
会議室に入ったのを見計らって場所を変えた。昨日の掃除の時にあらかじめ窓を開けている。あちらが気づいて閉めない限りは聞き放題だ。後はそれらしく掃除をしてればいい。魔石を持てば探知魔法にもかからないだろうし完璧でしょう。ドヤ顔したい。
「では会議を始めましょう」
どうやら手紙は全ての人物に届いていたらしい。当然のごとくハードルの低い貴族院と騎士学院の入学要件である身分の撤廃の話から始まった。
第三皇子の執事ストリクテは皇弟の代替が第三皇子とした為の代理出席だという。なんでもいい、最初の難関をクリアして、国家連合設立から代替わりまでこなして推しカプの結婚まで辿り着いてくれればなんでもいい。
「何をしているのですか」
「!」
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