死亡フラグと修正力に抗う一周目悪役令嬢な私【元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女 外伝3】

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5話 山を下る

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 どこかで聞いた気がする。思い出せないなあ。本編だったか外伝だったか……。
 そこはおいとこ。今はすぐにでも西に出る。ここを最優先だ。

「御言葉に甘えます」
「ああ。さて、この地を出ていくなら最低限学ばなければいけないことがある」
「何ですか」

 呪い師は二つの魔石を取り出した。

「魔石には完全なものと不完全なものがある。お前は全て完全なものを持っていこうとしているが、悪しき者の手に渡らないよう魔術を施すのさ」
「トラップみたいなやつですか?」
「そうだね。その魔術を施せばいざという時に守ってくれるお守りみたいなものになる。不当に魔石を使い殺戮を繰り返すことも防げるわけさ」
「成程……そしたら集落の子たちがここを出る時にお守りとして持たせてもいいですか?」

 当然渡すのは呪い師になるから、さらに面倒を見ることを増やしてしまう。なのに呪い師はお安い御用さと笑った。

「あと、壊し方も覚えておきなさい」
「魔石を?」
「そうさ。いくら魔術で使用範囲に制限をかけていても使いこなしてしまう者もいるかもしれないからね。あと不完全なものなら取りやすい場所に転がっているから使い捨てで持つ輩もいるかもしれない」
「そういう未来が見えたんですか?」
「さあどうだろうね」

 ありえる世界線の一つにそういう未来があるのかもしれない。まあこれから西に出るにあたって、平和な世の中を目指すから魔石大戦争みたいなことは起きないと思うけど。

「そしたら使用範囲制限、お守り機能、壊し方の魔術を学ぶ感じですか」
「ああ。お前は魔術に長けているからすぐさ」
「ええ……あれ?」
「どうした」
「いえ……」

 そうだ。
 フィクタは魔術に精通していた。それはきちんと記憶にある。なのに肝心の魔術自体が全く残っていない。小説に記載なかったっけ? お花出すような簡単なやつは書いてあった気がしたし、物語に主要なものを思い浮かばないってある? 小説なら詠唱から魔法陣まで細かく書かれているものだってあるから、さすがに一つも思い出せないのは致命的だ。
 このオタク脳、こと小説やゲームに関しての記憶力は半端ないと思っていたけど、存外抜けてるものね。

「大丈夫です。時間が惜しいので始めましょう」
「ああ……なあにお前の心配は後々解決するから気にしなくていい」
「はあ」

 呪い師は思わせぶりだ。それもオタク的にはとてもおいしいのだけど!
 さておき、私は急ピッチで呪い師から魔術を学んだ。これから西へ出てくるかもしれない子たちへのお守り作り、あるか分からない魔石を壊す魔術の習得。不完全品なら回路を繋げれば簡単に壊せるけど完成品は難しい。これに関しては成長と共にできるようになるだろうと呪い師は笑った。
 一段落して出発の時となる。忙しないなと内心思った。

「ありがとうございました」
「ああ。ついでなんだが、西に行ってドラゴンとフェンリルに会えたら伝えておくれ。ガルーダは健在だとね」
「分かりました」

 素直に受け取って呪い師の小屋を出てふと気づいた。

「ドラゴンとフェンリルって!」

 本編でヒロイン・クラスに付き添っていた聖女あるところに現れる魔物、いや魔物だったっけ? そのへんはもういいや。ということはあの呪い師は聖女? そういう話は外伝にすらなかった。そもそもこっちの国の話なんて露ほどもでなかったのだから。

「ええいこういうのは後にして、荷造りしてさっさとでよ」

 荷造りするほどの荷物ないけどね!
 すると双子がすでに荷物を用意してくれていた。できる子たちね。

「じゃあいくわ」

 と双子たちの装備が私とほぼ同じだった。
 え、これはまさか。
 少し歩くとついてくる。やっぱり!

「貴方たちは残って」
「一緒に行く」
「いや私は貴方たちに仕送り輸送をお願いしようと思って……ここに残ってほしいんだけど。多少西と行き来することになるかもだけど」
「嫌だ」

 固辞された。待ってよもう、西側に出たら双子死亡率あがりそうだし、なるたけフィクタに関わらないようにした方がいいんだって。手遅れかもしれないんだけど。

「手紙、南の国に送る方法知ってる」
「え?」
「イルミナルクスにも送れる方法知ってる」
「え?」
「帝国の城にも、うまくすれば送れる」
「なんで?!」

 どうやらあの商人の伝があるらしい。それは魅力的だ。確かにフィクタは小説の中でこの双子を重宝していた。片方を護衛にし、もう片方を泳がせて帝国に毒を撒いたり、魔石を取り寄せたりと色々してもらっている。つまり今回の手紙送付には非常に有効な手段だ。
 けど関わりはこのへんまでにしたかった。私も双子も修正力によって悲惨な結末を迎えても困るもの。

「役に立ちたい」
「けどさあ」
「手伝いたい」
「ええ……」
「助けてくれたから」
 
 元々双子がフィクタに従順なのはここだ。助けてしまった恩がある。挙げ句フィクタを主人と見なしている節があった。前の商人な主人がいなくなった代わりなのだろうけど、二人にはフィクタによって犠牲にならない未来を歩んでほしいんだよ。

「手紙送らないと」
「そうなんだけど」 
「なら連れていって」

 くそう、魅力的な内容に加えて可愛いショタっ子にねだられたら無理だよ。

「……わかった、手紙送るまでね」

 双子が喜ぶ。うるさくしないけど微笑む程度には。くっ、フィクタ罪深い女だわ。
 こうして私たちは西に出る。なんとしてでもハッピーエンドを築くために。
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