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3話 フィクタ、決める

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まじない師に渡すのか?」
「いいえ。ってことは、そちらの呪い師生きてるんですか?」

 双子が頷くので会いに行ったら半壊した小屋の中に老婆が座っていた。よく殺されずに生き残ったものね。

「こんにちは」
「おや、起きたかい」
「ええまあ」
「また沢山の石を拾ってきたね」

 やっぱり魔石の価値はこの国ではないに等しいかな。

「それを元に諍いが起きるのはまだ先だよ」
「そうですか」

 呪い師やっぱり未来見えてる。こういうのいいよね。好き。

「そういえばお前は自分が何者か覚えているかい?」
「ええと?」

 事情を知っているのかな、この人。転生、いやちがう? んん?

「あれ、なんか大事なことが抜けてる気がする」
「お前の魂のことかい?」
「えっと、本来のフィクタは死にましたよね? 私は転生を果たしたしがない異世界の人間でして」
「この世界のことをどうして知っている?」
「小説の世界なので」

 ほうと興味深そうに頷く呪い師に首を傾げる。なにかおかしなことを言っただろうか。

「戻る時に歪んだようだ」
「はい?」
「その内思い出すよ。で、どうしたいんだい?」
「……!」

 そうだった。まあこれといった用事はないんだけど。

「いえ、生存者がいたと聞いて伺いました」
「生き残ったのは子供ばかりだよ」

 あまり小さいと拉致されないし、放っておいても亡くなる確率が高いから殺されない。だから子供は襲撃直後、生き残っていることが多い。

「大人たちも戻らないでしょうし」
「そうだね」

 生き残った大人は元の場所に戻ることもあるけど、このあたりは集落を作れる場所が他にもいくらかある。襲われた直後に戻ってやり直す選択はあまりないだろう。

「お前が動くなら、私はある程度ここで出来る事を手伝うよ」
「……ありがとうございます」
「決まったら、またおいで」

 呪い師と別れる。
 どうしたら今後食べていけるか。小説でフィクタはすぐに双子を伴って西に出た。運が良いのか感がいいのか、マジア侯爵家の侍女として職を得る。その間双子は双子でうまいこと稼いでて、欲張ったフィクタは成り上がろうとした。貴族になり国を統べる城へ入るために侯爵夫妻を亡き者にして侯爵令嬢と偽って第一皇子と接触し結婚まで至る。

「西に出るのはなあ……」

 迂闊に死亡ルート入らない為にあまり知ってるキャラとは関わりたくない。私が動かなければ私も周囲も死ぬことはないだろうけど、たとえ小説通りではなくても死ぬ可能性が出てきたら困る。
 そう。この六歳から同じような悲惨なルートは辿らない。凄惨な死は回避したいし、長生きを目標としたいところだ。

「……少し整理しようかな」

 小説の話を始めからフィクタ中心に思い出してみよう。
 ここには文字を書く媒体がないから脳内でやるか。

 フィクタ、悪役である。ちなみにフィクタは偽名。
 今この六歳の頃にあった集落襲撃に伴い母親を亡くし、住む場所も失うことで一念発起し山を越えて西の大陸南側に位置するウニバーシタス帝国へ出る。
 帝国では運良くマジア侯爵家の侍女になった。お人好しのマジア侯爵夫妻に取り入り側付に昇格し、侯爵家を自分の物にする為に夫妻を殺害、侯爵家で働くものを排除してこの山にいた生き残りを呼び寄せて自分の下働きとして雇う。
 侯爵令嬢として帝国ポステーロス城へ入り、第一皇子と初対面、そのまま取り入り婚約を取り付ける。魔石で魔術を使い、聖女として帝国内で認知を計った。
 フィクタが帝国民の一部に聖女として崇められるようになった頃、現皇帝がステラモリス公国の治癒魔法を欲しがる。フィクタはステラモリス公国の人間が聖女と呼ばれ、自身の立場が危うくなると考えた。そして現皇帝を亡きものにする。この段階になるとフィクタは気に入らない相手を毒殺したり暴行したりすることが極端に増えた。
 一度目の終わりはフィクタが亡きものした公爵の子供によってだった。真なる聖女もとい聖人である六歳のアチェンディーテ公爵の息子とそのお相手ステラモリス公爵の生き残りの娘に手を出して返り討ちにあう。結果は第一皇子との婚姻の解消と後宮への軟禁だった。この時魔石を回収されないよう粉にして体内に取り込んだ。
 その十年後、再び奮起したフィクタだったが再び公爵二人に返り討ちにされ、初の国際裁判にかけられる。国家転覆を目論んだことによる国家反逆罪によって、国家連合加盟国の一つ、南の国のコロルベーマの厳しいリーゾス収容所に入り、過酷な環境と労働によって死亡。死に際に放った魔術が作動し、中身が私として甦ると。
 
 やっぱり帝国には行きたくないな。どこかしらと関わると死にそうだよ。欲を出そうが出すまいが、こういったやり直す過程で修正力が働くのはセオリーだ。
 正直死ぬにしても凄惨な死に方はしたくない。

「西に行かなければいいんじゃ?」
「?」
「あ、ごめん独り言」

 双子が訝しんでるけど仕方ない。この双子だってフィクタの巻き添えくらって大変な目にあっている。巻き込むわけにはいかない。
 行動しない方がいいかなあ。

「……あ、まった」

 このままだとどうなる?
 現皇帝が現役すぎて武力侵攻が進むのは目に見えてる。となると外伝ヒロインのユースティーツィアの母国レースノワレ王国はおろか、本編ヒロイン・クラスの母国ステラモリス公国もあっさり侵略される恐れがある。それも描かれているものより凄惨さが増す可能性もあった。
 ステラモリス公国の公爵一家、というかヒロイン・クラスの扱いなんて、無理に結婚させられて子供作らされる恐ろしいルートになる可能性すらあるんじゃ? 現皇帝は治癒魔法使いを増やしたがっていた。胸糞悪い展開だ。
 最悪第一皇子と結婚させられるかも?
 いやそれはだめだろ。クラスにはサクだろ。サクしかいない。

「私の推しカプ、サクとクラスだからなあ……」

 ヴォックスとユツィもシレとソミアも推しだ。
 正直、死にたくない。
 けれど私が動かないことで物語のヒーロー、ヒロインが幸せになれないのはもっと嫌だ。
 そしたらもうやることが決まってしまう。

「……よし」
「?」
「西に出よう」

 私が死なない、けど物語の推しカプたちがハッピーエンドを迎えられるルート。これを模索しながら不幸が訪れない内容に変え、私は早死にしないように極力フラグを折っていこう。
 私のやるべきこと、やりたいことが決まった。
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