追放済み聖女の願う事

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57話 新しい選択

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「ねえ、そろそろ離して」
「いえ、しかし」
「ええ加減にせえよ」
「いえ、その、」

 心音も通常に戻り、口調も落ち着き、もういいだろうと思うのに、中々腕の中から解放してくれない。
 何故だ、いい加減もういいじゃん。

「あんな啖呵切った手前、今更気まずいとか?」
「ええ、そう、ですね……」

 このモジモジくん、本当なんなの。
 まだ全部終わってないのに。
 まさか。

「今更、恥ずかしいとか?」
「……」

 肯定を意味する沈黙。
 そもそも抱きしめてきたのは、そっちなのに?
 うん、君の格好つけに付き合ってらんないわけよ、こっちは。
 格好つけたいにしたって、今抵抗したところで遅すぎだし。
 ということで。

「おらあああああ」
「!」

 ばりばりっと勢いよく剥がれる。
 多少の抵抗はあったものの、初めから諦めていたのか、軽い力で離れてくれた。
 まだ囲われてるけど、顔を見るぐらいまで離れたか、よし。
 目元に赤みを少し残したまま、揺れる瞳をとらえる。
 なんだ、この反応……女子か。

「ここで終わりじゃないのは、重々分かってんでしょーが!」
「時間、を、頂きたい、だけ、です」
「充分やったわ!」

 拳を一つお見舞いすると、ぱしっと止められる。
 なんだ、やっぱり拳は入らないのか。

「ふーん」

 こっちはどうかなと、両手でサリュの頬を挟んだ。
 パンと小気味いい音がした。
 こっちが通るのどうして。
 ぐぐいと顔を近づけて、メンチ切ってやったわ。

「大事な事なので二回言うよ?」
「……はい」
「ええ加減にせえよ」

 そしたら完全に力を抜いた。
 やっと完全に解放される。
 申し訳御座いません、と小さく言ってるのを、聞き逃しはしなかった。

「ここまでこれたから、よしとする」
「はい」
「行くよ」

 立ち上がり、そのまま大広間を後にする。
 当たり前のように後ろからついてきたので少し安心。
 こじらせくんは解消したのか。

「どこに」
「どーせ、隣にいるよ」
「はい?」

 大きな扉を越えた先、大広間手前のバルコニーつき待機の間。
 どこから用意したのか、上等な椅子とテーブルを使って、ティータイムをすごす二人の女性が待っていた。
 さっきいなくなります的な雰囲気出してたくせに。
 そういうと、そんなこと言ってないとか言いそう。
 いや言ってたけどね?
 本当やれやれだよ。

「大聖女様、全部みえてましたね?」
「さてね」

 サリュとの殴り合いの最中に決め直した、新しい私の選択までみえている。
 その上で、用意していたな。
 本当、回りくどいこと止めて、さっさとこの選択をしてしまえばよかったのに。
 というか、私が聖女になる時点で、教えてくれればよかったんだよ。

「下手に介入するものじゃあなかったね」
「そうだねえ」

 女子トークで盛り上がってる。
 平和だな。

「じゃあ、きちんと言いますよ。きいてくれます?」
「ああ、かまわんさ」
「大聖女様、力を貸して下さい」

 サリュだけが不思議そうに小首を傾けた。
 対して嬉しそうにする目の前の大聖女二人。

「件の次元転移をします。でも、犠牲は出したくないんです。大聖女様の力を使って、次元繋ぎをしてもらえますか?」
「エクラ、それは」

 黙ってとサリュの言葉を遮った。
 見上げたサリュの瞳に戸惑いが走る。
 取っ組み合いをしてまで止めたサリュのやろうとしたことを、別のルートでやろうとしてるのだから、驚くのも無理はない。
 そもそも私はサリュにギフトの役割を果たす気はないと言っていたのだから、次元転移をする選択は思いも寄らない所だろう。

「そもそもね、魔という概念が出てきたの、どうしてだと思う?」
「え……」
「ギフトと鍵の出現を待てない御先祖様達の意識ですね?」

 応えを大聖女に向かって伝えれば、二人は面白いとばかりに笑う。
 この人たち、私で笑ってばかりだけど、もう少し違う楽しみで笑った方がいいと思うよ。
 これがコメディーなら、笑うポイントはたくさん出てくるのだろうけど。

「良く分かってるね」
「魔をそのままにしていれば、この大陸は魔に食い潰され、私達聖女と精霊以外は、残らず死滅するんじゃないんですか?」

 聖女と精霊は魔を退く事が出来る。
 取り込まれるということは、自らが望まない限りか、サリュの時みたく魔総動員でこない限りは、そう起きない。
 サリュの時は大聖女が絡んできた。だから統率とって私と皆を狙ってきたわけで、本来はあんなに明確に精霊と聖女を取り込もうと動いて来ない。
 遠くで周囲を破壊するのが、最初の動きのはずで、私達はその初動で気づくことができていた。
 そういうシステムだった。

「それを王族との約束だからと、わざわざ聖女を外周に配置して、魔を通らせないなんて、おかしい話ですよ」

 滅んでほしい一族を守る必要はない。
 それに後にも先にも、拘束力のある誓いは、私達側が王族側に手出しできない件の誓約だけ。
 守るという形をとっていたとしても、現在の聖女制度は拘束力がないはずだ。
 ここで魔によって、王族達を亡き者にすることで、ある種復讐が成り立つのに、それをせずにギフトと鍵を待つ選択をした。
 それはたぶん今の私の選択が現実としてやってくる未来が有力で、今この瞬間がくるのを待つことを選んだから。
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