追放済み聖女の願う事

文字の大きさ
上 下
50 / 64

50話 大聖女、エスターテ

しおりを挟む
「最初のギフトは転移の力が確かにあった。だからこそ、あちらとこちらを行き来できたのさ。妹が絡んだように見えて、真実はギフト自身の魔法によって戻ってきたにすぎない」
「御先祖様の世界には、この世界がゲームの世界として存在してました」
「ギフトがこの世界があると認識している結果だね」

 でた、認識問答。
 この話を御先祖様がしていた時、哲学な難しさに困ってたな。

「それにありえたあちらの世界に行ったのはギフトだけではない」
「他の人も?」
「尤も、戻れたのはギフトだけだがね。それこそがギフトとしての条件だ」

 あちらに行ったきりは非該当。
 あっち行って戻ってこれて、初めてギフトとしての成功例になる。
 行ったきりの人達がゲーム作ってましたって、それかなりこちらの世界が愛されてるんじゃない?
 しかも滅びの道を辿る前に戻ってこれているなら、それこそ未来すら変えられたのではと思わなくもない。
 そんな可能性のある未来予想を脳内で展開しても、おばあちゃんは無視してきた。
 なんだ、あくまで御先祖様が唯一ギフトの成功例の話しかしないのか。

「私は向こうの世界に行ってませんよ」
「過去の意識の集合であるお前の存在が既に次元を繋げている。道を広げる力もある。問題は何もないな」
「ちぇー」

 つまるとこ、御先祖様がギフトとして成功してしまうと、それ以降は皆ギフト的な。
 それってもう誰でもいいやつじゃん。いいの、それで。

「それでも転移の魔法が使えるのは、ギフト以降お前だけだったよ」
「そっちの条件をクリアしないとダメなんですもんね」

 この際だから、御先祖様、実は貴方転移できるんですよ、なんて会話したい。
 ヒャッハーして色んなとこ転移しそう。好きだもの、そういう話。

「お前の転移で、この大陸が東から西に直線に繋がった。これなら簡単に次元を割れる。後は鍵だけでも役割は果たせるさ」
「サリュが死んでしまうのに?」
「あの精霊も覚悟の上ではないか」
「それを止める為に来たんですよ」

 そもそも私がやっても、転移の魔法で八割大陸の人々が死ぬ。
 サリュだけがやれば、九割以上にあがるだろう。
 それ以前に、サリュ自身に転移の魔法の反動が返ってくる。
 この転移の魔法は、私にしか出来ない。
 他がやれば、失敗するのは確定事項。
 例え、転移の魔法に耐性のある精霊でも、この次元繋ぎの魔法は特別だ。
 私と二人でやれば、サリュは無事。
 サリュ一人でやれば、サリュの身が危ない。
 失敗した魔法の反動は、御先祖様の記憶でもよく見ている通りだ。
 もっとも、サリュは跳ね返りというよりも、一緒に転移する気ではと思ってる。
 自分が次元繋ぎの媒体になって。
 転移の道に、力のある者が守りながら先導したら、恐らく転移の圧力は少なからず和らぐはず。
 そうすることで、八割の犠牲を少しでも軽くする気なのではと思う。
 そうなると反動がある時と同じように、身をちぎられながら転移する。
 そんな自殺志願、許せるわけがない。

「やはり予想外に備えてよかったよ」
「予想外?」
「ああ、お前がギフトであろうがなかろうが変わらない。結界を二重にして、正解だよ」
「てことは、みえてるんですね?」

 この長い復讐劇の終着点を。
 なら、教えてくれてもいいのに。

「お前達が決めることだろう」
「役割を押し付けといて、何を言ってるんですか」

 考えれば、私とサリュはとばっちりも甚だしい。
 なのに自分で決めろとかなくない?

「起こるべくして起こることがある、そう言ったのはお前だよ。確かに次元に裂け目を作る為に、魔を寄越した事には責任を感じているさ」
「げ、あれ大聖女様達がやったんですか」

 お咎めのあたりで違和感もあったし、統率のとれないはずの魔が、あんなに大量にやってきたのは疑問だったけど、まさかそれが大聖女の仕業とは。
 そこはさすがに怒るとこだよ。

「鍵に目覚めてもらう為さ。死にはしなかったよ」
「サリュがあんな目に遭ったのに? よく平気でそんなこと言えますね?」
「お前達の個はそこで消えて、完全な集合意識になるはずだったんだよ」

 新しい言葉出てきちゃった。
 そんな言葉、王族側にもないし、御先祖様の記憶にもない。
 どちらにしろ、役割としての目覚めがあっても、私達は個のままだった。
 そこはこの時限式の魔法を仕掛けた聖女達ですら、考えもしなかった事だろう。

「集合意識、ねえ」
「だからこそ、お前達の意志を尊重する為に、ここでの時間をとったのだよ」
「サリュのとこに行かせてもくれないのに?」
「お前よりも鍵の方が問題なのさ」

 だから時間が必要だったと?

「てか、これで私の認識のどこに影響があるんです?」

 知っていることしか話してない。
 どこの認識を変えれば、現実が変わるのか。

「お前達が個として存在している事さ」
「当たり前じゃないですか」
「それを疑いもしない所がギフトらしいねえ」
「どーも」
「簡潔に言おう。選択肢が二つしかなかったのが、今私とお前の会話で五つぐらいに増やす事が出来た」
「例えば?」
「言うわけがないだろう」
「え、勿体ぶるだけ?」

 ひどい、と訴えると、大聖女はさして気にも留めた様子を見せずに、まあそろそろいいか、と囁いた。
 そしてあっさり道を開ける。
 なんだ、これで終わりなの。
 やっぱり、いつ話したって訳の分からない人だな。

「そういえば」
「どうした」
「おばあちゃん、名前はなんて言うんです?」

 御先祖様の頃から知らなかったなと思い、きいてみると驚いて目を開いた。

「名か?」
「せっかくですし」

 笑う。
 面白いこと言ってないのに。

「エスターテ」
「ええと、夏?」
「ああ」
「一緒に水浴びすれば良かったですね」
「はは、遠慮しよう」
「そうですか、残念です」

 そういえば、プリマヴェーラは春だったか。

「大聖女は季節を冠っているものでね」
「ますます戦いたくない系ですわ」
「はは、お前らしい」

 そうして私は奥へ進む。
 体力も温存できたことだし、存分に励むとしよう。
 殴り合いはすぐそこだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...