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50話 大聖女、エスターテ
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「最初のギフトは転移の力が確かにあった。だからこそ、あちらとこちらを行き来できたのさ。妹が絡んだように見えて、真実はギフト自身の魔法によって戻ってきたにすぎない」
「御先祖様の世界には、この世界がゲームの世界として存在してました」
「ギフトがこの世界があると認識している結果だね」
でた、認識問答。
この話を御先祖様がしていた時、哲学な難しさに困ってたな。
「それにありえたあちらの世界に行ったのはギフトだけではない」
「他の人も?」
「尤も、戻れたのはギフトだけだがね。それこそがギフトとしての条件だ」
あちらに行ったきりは非該当。
あっち行って戻ってこれて、初めてギフトとしての成功例になる。
行ったきりの人達がゲーム作ってましたって、それかなりこちらの世界が愛されてるんじゃない?
しかも滅びの道を辿る前に戻ってこれているなら、それこそ未来すら変えられたのではと思わなくもない。
そんな可能性のある未来予想を脳内で展開しても、おばあちゃんは無視してきた。
なんだ、あくまで御先祖様が唯一ギフトの成功例の話しかしないのか。
「私は向こうの世界に行ってませんよ」
「過去の意識の集合であるお前の存在が既に次元を繋げている。道を広げる力もある。問題は何もないな」
「ちぇー」
つまるとこ、御先祖様がギフトとして成功してしまうと、それ以降は皆ギフト的な。
それってもう誰でもいいやつじゃん。いいの、それで。
「それでも転移の魔法が使えるのは、ギフト以降お前だけだったよ」
「そっちの条件をクリアしないとダメなんですもんね」
この際だから、御先祖様、実は貴方転移できるんですよ、なんて会話したい。
ヒャッハーして色んなとこ転移しそう。好きだもの、そういう話。
「お前の転移で、この大陸が東から西に直線に繋がった。これなら簡単に次元を割れる。後は鍵だけでも役割は果たせるさ」
「サリュが死んでしまうのに?」
「あの精霊も覚悟の上ではないか」
「それを止める為に来たんですよ」
そもそも私がやっても、転移の魔法で八割大陸の人々が死ぬ。
サリュだけがやれば、九割以上にあがるだろう。
それ以前に、サリュ自身に転移の魔法の反動が返ってくる。
この転移の魔法は、私にしか出来ない。
他がやれば、失敗するのは確定事項。
例え、転移の魔法に耐性のある精霊でも、この次元繋ぎの魔法は特別だ。
私と二人でやれば、サリュは無事。
サリュ一人でやれば、サリュの身が危ない。
失敗した魔法の反動は、御先祖様の記憶でもよく見ている通りだ。
もっとも、サリュは跳ね返りというよりも、一緒に転移する気ではと思ってる。
自分が次元繋ぎの媒体になって。
転移の道に、力のある者が守りながら先導したら、恐らく転移の圧力は少なからず和らぐはず。
そうすることで、八割の犠牲を少しでも軽くする気なのではと思う。
そうなると反動がある時と同じように、身をちぎられながら転移する。
そんな自殺志願、許せるわけがない。
「やはり予想外に備えてよかったよ」
「予想外?」
「ああ、お前がギフトであろうがなかろうが変わらない。結界を二重にして、正解だよ」
「てことは、みえてるんですね?」
この長い復讐劇の終着点を。
なら、教えてくれてもいいのに。
「お前達が決めることだろう」
「役割を押し付けといて、何を言ってるんですか」
考えれば、私とサリュはとばっちりも甚だしい。
なのに自分で決めろとかなくない?
「起こるべくして起こることがある、そう言ったのはお前だよ。確かに次元に裂け目を作る為に、魔を寄越した事には責任を感じているさ」
「げ、あれ大聖女様達がやったんですか」
お咎めのあたりで違和感もあったし、統率のとれないはずの魔が、あんなに大量にやってきたのは疑問だったけど、まさかそれが大聖女の仕業とは。
そこはさすがに怒るとこだよ。
「鍵に目覚めてもらう為さ。死にはしなかったよ」
「サリュがあんな目に遭ったのに? よく平気でそんなこと言えますね?」
「お前達の個はそこで消えて、完全な集合意識になるはずだったんだよ」
新しい言葉出てきちゃった。
そんな言葉、王族側にもないし、御先祖様の記憶にもない。
どちらにしろ、役割としての目覚めがあっても、私達は個のままだった。
そこはこの時限式の魔法を仕掛けた聖女達ですら、考えもしなかった事だろう。
「集合意識、ねえ」
「だからこそ、お前達の意志を尊重する為に、ここでの時間をとったのだよ」
「サリュのとこに行かせてもくれないのに?」
「お前よりも鍵の方が問題なのさ」
だから時間が必要だったと?
「てか、これで私の認識のどこに影響があるんです?」
知っていることしか話してない。
どこの認識を変えれば、現実が変わるのか。
「お前達が個として存在している事さ」
「当たり前じゃないですか」
「それを疑いもしない所がギフトらしいねえ」
「どーも」
「簡潔に言おう。選択肢が二つしかなかったのが、今私とお前の会話で五つぐらいに増やす事が出来た」
「例えば?」
「言うわけがないだろう」
「え、勿体ぶるだけ?」
ひどい、と訴えると、大聖女はさして気にも留めた様子を見せずに、まあそろそろいいか、と囁いた。
そしてあっさり道を開ける。
なんだ、これで終わりなの。
やっぱり、いつ話したって訳の分からない人だな。
「そういえば」
「どうした」
「おばあちゃん、名前はなんて言うんです?」
御先祖様の頃から知らなかったなと思い、きいてみると驚いて目を開いた。
「名か?」
「せっかくですし」
笑う。
面白いこと言ってないのに。
「エスターテ」
「ええと、夏?」
「ああ」
「一緒に水浴びすれば良かったですね」
「はは、遠慮しよう」
「そうですか、残念です」
そういえば、プリマヴェーラは春だったか。
「大聖女は季節を冠っているものでね」
「ますます戦いたくない系ですわ」
「はは、お前らしい」
そうして私は奥へ進む。
体力も温存できたことだし、存分に励むとしよう。
殴り合いはすぐそこだ。
「御先祖様の世界には、この世界がゲームの世界として存在してました」
「ギフトがこの世界があると認識している結果だね」
でた、認識問答。
この話を御先祖様がしていた時、哲学な難しさに困ってたな。
「それにありえたあちらの世界に行ったのはギフトだけではない」
「他の人も?」
「尤も、戻れたのはギフトだけだがね。それこそがギフトとしての条件だ」
あちらに行ったきりは非該当。
あっち行って戻ってこれて、初めてギフトとしての成功例になる。
行ったきりの人達がゲーム作ってましたって、それかなりこちらの世界が愛されてるんじゃない?
しかも滅びの道を辿る前に戻ってこれているなら、それこそ未来すら変えられたのではと思わなくもない。
そんな可能性のある未来予想を脳内で展開しても、おばあちゃんは無視してきた。
なんだ、あくまで御先祖様が唯一ギフトの成功例の話しかしないのか。
「私は向こうの世界に行ってませんよ」
「過去の意識の集合であるお前の存在が既に次元を繋げている。道を広げる力もある。問題は何もないな」
「ちぇー」
つまるとこ、御先祖様がギフトとして成功してしまうと、それ以降は皆ギフト的な。
それってもう誰でもいいやつじゃん。いいの、それで。
「それでも転移の魔法が使えるのは、ギフト以降お前だけだったよ」
「そっちの条件をクリアしないとダメなんですもんね」
この際だから、御先祖様、実は貴方転移できるんですよ、なんて会話したい。
ヒャッハーして色んなとこ転移しそう。好きだもの、そういう話。
「お前の転移で、この大陸が東から西に直線に繋がった。これなら簡単に次元を割れる。後は鍵だけでも役割は果たせるさ」
「サリュが死んでしまうのに?」
「あの精霊も覚悟の上ではないか」
「それを止める為に来たんですよ」
そもそも私がやっても、転移の魔法で八割大陸の人々が死ぬ。
サリュだけがやれば、九割以上にあがるだろう。
それ以前に、サリュ自身に転移の魔法の反動が返ってくる。
この転移の魔法は、私にしか出来ない。
他がやれば、失敗するのは確定事項。
例え、転移の魔法に耐性のある精霊でも、この次元繋ぎの魔法は特別だ。
私と二人でやれば、サリュは無事。
サリュ一人でやれば、サリュの身が危ない。
失敗した魔法の反動は、御先祖様の記憶でもよく見ている通りだ。
もっとも、サリュは跳ね返りというよりも、一緒に転移する気ではと思ってる。
自分が次元繋ぎの媒体になって。
転移の道に、力のある者が守りながら先導したら、恐らく転移の圧力は少なからず和らぐはず。
そうすることで、八割の犠牲を少しでも軽くする気なのではと思う。
そうなると反動がある時と同じように、身をちぎられながら転移する。
そんな自殺志願、許せるわけがない。
「やはり予想外に備えてよかったよ」
「予想外?」
「ああ、お前がギフトであろうがなかろうが変わらない。結界を二重にして、正解だよ」
「てことは、みえてるんですね?」
この長い復讐劇の終着点を。
なら、教えてくれてもいいのに。
「お前達が決めることだろう」
「役割を押し付けといて、何を言ってるんですか」
考えれば、私とサリュはとばっちりも甚だしい。
なのに自分で決めろとかなくない?
「起こるべくして起こることがある、そう言ったのはお前だよ。確かに次元に裂け目を作る為に、魔を寄越した事には責任を感じているさ」
「げ、あれ大聖女様達がやったんですか」
お咎めのあたりで違和感もあったし、統率のとれないはずの魔が、あんなに大量にやってきたのは疑問だったけど、まさかそれが大聖女の仕業とは。
そこはさすがに怒るとこだよ。
「鍵に目覚めてもらう為さ。死にはしなかったよ」
「サリュがあんな目に遭ったのに? よく平気でそんなこと言えますね?」
「お前達の個はそこで消えて、完全な集合意識になるはずだったんだよ」
新しい言葉出てきちゃった。
そんな言葉、王族側にもないし、御先祖様の記憶にもない。
どちらにしろ、役割としての目覚めがあっても、私達は個のままだった。
そこはこの時限式の魔法を仕掛けた聖女達ですら、考えもしなかった事だろう。
「集合意識、ねえ」
「だからこそ、お前達の意志を尊重する為に、ここでの時間をとったのだよ」
「サリュのとこに行かせてもくれないのに?」
「お前よりも鍵の方が問題なのさ」
だから時間が必要だったと?
「てか、これで私の認識のどこに影響があるんです?」
知っていることしか話してない。
どこの認識を変えれば、現実が変わるのか。
「お前達が個として存在している事さ」
「当たり前じゃないですか」
「それを疑いもしない所がギフトらしいねえ」
「どーも」
「簡潔に言おう。選択肢が二つしかなかったのが、今私とお前の会話で五つぐらいに増やす事が出来た」
「例えば?」
「言うわけがないだろう」
「え、勿体ぶるだけ?」
ひどい、と訴えると、大聖女はさして気にも留めた様子を見せずに、まあそろそろいいか、と囁いた。
そしてあっさり道を開ける。
なんだ、これで終わりなの。
やっぱり、いつ話したって訳の分からない人だな。
「そういえば」
「どうした」
「おばあちゃん、名前はなんて言うんです?」
御先祖様の頃から知らなかったなと思い、きいてみると驚いて目を開いた。
「名か?」
「せっかくですし」
笑う。
面白いこと言ってないのに。
「エスターテ」
「ええと、夏?」
「ああ」
「一緒に水浴びすれば良かったですね」
「はは、遠慮しよう」
「そうですか、残念です」
そういえば、プリマヴェーラは春だったか。
「大聖女は季節を冠っているものでね」
「ますます戦いたくない系ですわ」
「はは、お前らしい」
そうして私は奥へ進む。
体力も温存できたことだし、存分に励むとしよう。
殴り合いはすぐそこだ。
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