追放済み聖女の願う事

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46話 晩酌(スタンプラリー一回目)

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「お待たせしました」
「ん、大丈夫」

 晩酌。
 魔討伐スタンプラリー十回記念の幕開けだぜ、といえば相変わらず冷静な反応で返される。
 知ってる。
 ついでに言うなら、とっくに十回超えてたしね。

「この酒は?」
「日本酒と焼酎持ってきたよ。勿論ワインもある」

 場所に合わせた酒を用意するのは雰囲気的にやりたいよね。
 幸い日本酒や焼酎用の食器は蔵から見つかった。前任者に感謝だわ、ありがたく使ってる。

「はい」

 ついであげて渡す。
 それを一口飲むとはっとして目を見張る。その姿を見てにんまりする。

「おいしいでしょ?」
「はい」

 うん、素直!
 お酒は素晴らしい。デレという本音を引き出してくれる。
 しばらくは日本酒を楽しんで、次に焼酎、ワインも入れば、持ってきたお酒はほぼ制覇した。
 追加あってもいいな。
 もう少しなくなったら持ってこよう。

「そうだ」
「どうしました」
「今日は存分に甘えたまえよ」
「どういうことですか」
「んー、そうだね」

 ちょいちょいと手招きして少し距離を詰めてくる。
 頭を下げてと言うと素直に下げてきた。
 素直だなと思いつつ、その頭をぐぐっと押した。

「え?」
「よしよし、そのまま」
「主、やめ」
「甘えたまえと言った」

 起き上がろうとする頭を押さえつける。
 対して拒否の姿勢を示すサリュは、手を縁側について、力の限りこの体勢から脱しようとしていた。

「いいじゃん、膝枕ぐらい」
「何を、突然……」
「討伐の御褒美だよ」
「晩酌だけで結構です」
「ひどい」

 残念ながら譲らないぞとぐいぐいしてたら、ついにサリュが折れた。
 そのまま私の太腿にダイブだ。
 庭の方を向いて、心底長い溜息を吐いた。心外だな。

「私の膝枕、割と評判いいのに」
「これを他の者にもしてるのですか……」

 不機嫌な語調に笑う。
 また品性がとかしとやかさがどうとうか言うのかな?
 残念ながら、ここで私のやる膝枕は通過儀礼だよ、なんて返したいけど、怒りそうだから言わないでおいとこうっと。

「耳掃除のオプションはどう?」
「結構です」
「つれないよねえ」

 髪を梳いてみたら、抵抗も非難もなかった。
 なので思う存分指を通す事にした。
 あの日、肩ズンから出来た時と同じ、滑らかで指通りのいい髪質。
 ああいいねえ、お酒入って素直になってるから、こう言う事も出来るなんて。最高かよ。

「話を、しても?」
「ん?」

 大事な話です、と。
 いいよと返せば、ゆっくりと話し始める。

「この地に来てから、ずっと考えてました」
「ん?」
「私は幾度となく、エクラに助けてもらった」

 それは前の屋敷に残っていたのを引き上げたことかな?
 でもそれはサリュが私の手をとってくれたから出来た話だ。
 サリュが自分で選んだこと。
 それは助けたと同義にはならないと思っていたけど。

「そうだっけ?」
「貴方は自覚がないのでしょう」

 さりげなくディスられてる気がする。
 細やかな精神は持ち合わせておりませんことよ。
 あ、でも助けているなら結果オーライ?

「私はその分違う形で返せないものかと考えていました」
「気にしなくていいのに」

 そう言うでしょうなとサリュが小さく笑う。
 私にとって、サリュがどうあれ、こうして一緒にいられるなら、充分返してくれている。
 生きているだけでというやつ。

「やっと見つかりました」
「何が」
「恩義に報いる事です」

 サリュが出来る恩返し。
 あまり聞きたくないなと思ってしまう。
 この真面目の未来の発言を予想するには充分フラグ立てたもの。
 ゆっくり頭を上げて太腿から離れていくのを戻す事はしなかった。
 起き上がって、隣に座る彼が顔をこちらを向いて、しっかりと告げた。

「お別れをしたいと思います」
「お別れ」

 そんなの嫌に決まってるでしょ、という私の囁きはきちんと彼に届いていた。
 眉を寄せて交わっていた瞳を逸らすように閉じられる。
 それは応えだ。
 私の言葉に返せない、こればかりは譲れないと語っている。

「幸せでした」
「サリュ」

 勝手に完結しないでよ、と言いたいところ。
 真面目こじらせると本当面倒だなと思う。

「エクラ」
「なに」
「幸せとは何ですか?」
「え? 待って、なにその問答?」

 一休さんのとんち的な?!
 そう応えてしまうから、私はサリュに残念な顔をされてしまうんだろうなと、ふと思った。
 いやでもウィットにとんだ返しを求められても、哲学入った問答は難易度高くない?
 そんな私の発言に冷えた視線を寄越してきて、冗談は通じない事を軽く悟った。
 こういう時に通常運行塩対応はいらない。
 もっとこう明るくいきたい。

「真面目な話です」
「えー……」

 いや、真面目だと尚更きついよ。
 とんち的回答を求められても辛いけど。

「確かに幸せだと分かるのに、見えないのです。傍に置いておきたいのに、留めてもおけない」

 あ、だめだ。
 サリュってば、真面目スイッチ入ってる。
 こうなると、私の心内もこれからのやり取りも全て退けられる可能性が。

「ここでの日々は、くだらない事ばかりでした。なのに、くだらなければくだらない程、それを好ましく思いました」

 褒めているのだろうと信じたい。
 けど、念のため謝るべき?
 くだらない事ばかりしていたのは認める。
 聖女の役割から離れていたのも。
 でもそのくだらなくて楽しいだけのものは私が求めていたものだ。

「幸せ、ね」
「ええ」
「自分で決めなよ」

 仕様がないから応えておこう。
 とんちは無理だから、面白みのない個人的見解の話になる。
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